シーサウスト
人物紹介 (本編はこの下にあります)
クレア(ゼクレアスタ) 16歳
青い髪 青い瞳 彫りの深い顔立ち 身長170cm(推定) 土魔法使い
母はエルザ(エルザスターニャ) 故人
15歳の時母と共にヨクレールの街に流れてきた。
形見の銀のリングを持っている 酒が好きでよく飲みつぶれる
宿の亭主カッツェドス(引退冒険者)より槍と皮鎧を譲り受ける
祖母という人がラーライという土地に因縁があったらしい
シーサウストに来ている。
加工場と商業ギルドに寄って宿へとやって来た。
ここの看板ももちろん俺には読めない。
メグに改めて聞くと、シーサウスト宿場だそうで。
夕飯にはまだ早い。
クレアとメグは僅かな私物、着替えなどを下ろし今日こそ風呂に入れるとはしゃいでいた。
「風呂か。この間入ったのは……」
「もう忘れちゃったの、お爺ちゃん。
一昨日ヤイズルで入ったでしょ?」
全く、その演技っぽいセリフどこで覚えて来るんだか……
しかし、そうか、風呂は一昨日だったか。
「こっちに来て一月か?
なんか目まぐるしいんで、もっと経ったような気がする」
「あれ?あー、そうかも。
そっか、黒の森で会ってそのくらいになるんだ」
「ちなみにウチは10日とちょっとやで?」
「うん。22日目!
お風呂、一緒に入ろ」
メグに言ったのかと思ったらクレアが俺の腕を掴む。
「ば、バカなこと言ってるんじゃないよ。
さっさと部屋に行ってしまえ」
「あ、照れてるー。お爺ちゃん、可愛い!」
「年寄り揶揄うんじゃねえ!」
やっと行きやがった。ったく、何考えてやがんだか。
俺は頭を一つ振ってタクシーに向き直る。
「さて、と」
外板はメグにたまに、こっちも2、3日おきか? 洗車してもらってるから綺麗なものだ。
中はあの「クイツクシムシ」の魔石粒を詰めた持てる重さのビニル袋が8つ。
あの時は手近にあったクレアの薬草袋もいくつか使った。
ザッと数えると出ているビニル袋はちょうど1ダースか。
なんか引っかかるな、なんだ?
このゴミ袋だろうか。
確か町内だったか、協会だったかのゴミ拾いボランティアで用意したもので、間違えてゴミ袋にしちゃ厚手の物を買ってしまった。
んん?
俺は前に回ってボンネットを開け、左前側の引き出しを開けた。
筒状に丸めたゴミ袋の、透明な包装にはまだ何枚か入っている。
出してみると表示は20枚入り。
あ、これ漬物用って書いてあるじゃねえか、道理で厚いって、今はもうどうでも良いか。
問題はその束の厚みだ。ゴミ拾いで何枚か出してて、クレアにも8枚くらい渡した。
その8枚はマジックで草の名前を書いてるから、粒魔石で出したのは……4枚か。
20引く12引く3として、えーと。
5枚?
この厚みはどう見ても5枚ってことはねえな?
開いた穴から数えようと思ったが、つまんで一枚ずつ引き出せるように畳んであって、ぐるぐる重なりどこで数えたら良いのか分からない。
然りとて袋を破くと折角小さく纏まってるのにバラバラになっちまう。
包装の弛みを引っ張ってみると、余分なんかいくらもないところから、15枚以上は入ってるってことで結論にした。
納得はいかないがずいぶんと多いってことだな。
となると?
ここから出した消耗品は、他に水ペットボトルと袋菓子くらいか。
そっちも数が合わねえなんてことはねえよな?
ペットボトルは20だったか24入りだったか、箱買いして冷蔵庫に横積みに詰めた。
袋菓子は2、3種類7袋くらいあったと思うが定かじゃねえ。
まずは冷蔵庫。
孫に用意したジュース、コーラが数本混じってるが、水は21本あった。
こっちでなんやかや10本くらい飲んだか?
とは言え買う時もすっからかんにしてから買うわけじゃないから、数はわからないか。
袋菓子は……8つもある。一つは俺が破って、クレアに小袋をいくつか食わせたはずだ。
メグに持って行くんだと、あの時クレアが大袋を2つくらい持って行ったよな?
なんで8つも残ってる?
「タケオ、どうしたの?」
見るとクレアが濡れた青髪を拭きながら後ろに立っていた。服はラフな部屋着に着替えているが、ゴツい編み上げ靴がすごい違和感を醸し出している。
「菓子とかビニル袋の在庫がな、減ってないみたいなんだ。
何でだろうかと思ってな」
首を傾げるクレア。
ポケットからスマホを取り出し、カーナビメニューを立ち上げた。
「この間のクイツクシムシの時にね、なんか増えてたんで、何だろなとは思ってたんだよね。
ほら、ここ。
リペアの下にさ。オートサプライってあるでしょ?」
「いや、俺はこの字は読めねえよ。
オートサプライ、ねえ。そのせいなのか?」
「分かんないけど、増えてたのはこれだけだよ。レベルの数字は増えてたけど」
「ふうん。
じゃあ消耗品の数が勝手に戻るってことなのかな?
それは助かるが、どこから出てくるんだ?」
「イブちゃんの魔石じゃないの?」
この娘は魔法世界の住人だ。不思議現象はそのままに受け入れる。
「そうか。サプライは確か補給だったか、そうなるのか」
「この魔石、重いし嵩張るし、邪魔くさいよ、どうするの?」
「売るってもこの小粒じゃ、大した値段は付かないと思うんだ。
売るならエンスローまで行ってスイフナールに持ちこみたいよな」
「じゃあどこかに下ろしちゃわない?
これじゃ何も積めないもの」
「商業ギルドにでも預けるか」
3人で宿の夕飯を食った後、俺は運転席で寝ると言ったが、2人に借りた一部屋に放り込まれた。
金は払い済みだと言われると逃げるわけにもいかない。
ベッドがよく眠れるのは確かなんだが。
・ ・ ・
朝から出かけた市場で、生鮮野菜と日持ちする干物の魚、肉、あとは調味料を買い集める。
調味料棚の下段にある瓶が目についた。
「そこに並ぶ瓶は保存食か?」
「はい、10日ほどですが涼しい場所においていただければ大丈夫です」
味見もさせてもらったが、野菜と魚肉の漬け物っぽいやつ、良さそうだと思った。2つ買って800ギルは安いのか高いのか。
「果物も買うてこ。
オレンジがあるで、あれがええわ」
「あたしはこっちの赤い実が良いな」
2人は次々と買い込む。
ちょっと買い出しのつもりがずいぶん大荷物になった。小さい荷車まで貸してもらって、通りに停めたタクシーまで運んだ。
クレアがそれを返しに行く。
その間に炭焼きについてどう思うか聞くと、メグは割と乗り気な様子だった。
この世界にも弁当屋らしいものはあるようで、ウォルトの分も入れ6人前買って、商業ギルドへ。
魔石を預け、預かり証を貰ったら炭焼き場へ。
ウォルトはまだ寝てるかも知れない。
「ねえタケオ。なんで2袋残したの?
8つ全部預けたってあたしらならすぐ他のが手に入るでしょ?」
「ああ、まあそうなんだが試したい事があってな」
「でもさ、預かり料に手付で1000ギルなんて、ギルドもガメツイよね」
それぞれ車窓やスマホを見ながら道行は順調だ。
こっちへ戻る時に気になったカーブが数箇所ある。
ちょっと試してみたい。
俺はタクシーを停めた。
カーナビのマップを出して
「なあ、メグ。ここの曲がりなんだけどな?
これ、ここからこの辺りまで、こうスーッと伸ばせないかな?」
「なに、ウチに道を作りー言うん?
ウチが手伝とるんはリペアやで?
どないして新しいのん作るんや!」
「俺はメグならなんとかなると思うんだが。
ほら、見てみろ、ここなんかなんでこんなに曲げる必要がある?
ここから見たってあそこで曲がる意味が分からん。
こう言うのが何箇所かあって、直していけばだな……」
「ああもう!
分かったで、タケオが言いたいんは。
せやけど、ホンマ、でけるか分からへんで!」
そう言いながらもメグは、1m足らずの短い木の杖を持って後席から降りる。
なんだかんだ言うが律儀で一所懸命。
俺がボンネットのオープナーを引くと、バクンと前でロックが外れた。
特に説明もしていないが、リペアと聞いて察したクレアが降りてサッと前に回った。
メグもタクシーの前まで進み出て、道の全景を掴もうと見回す。
シートベルトを外し俺が外へ出ると、メグが呟くのが聞こえる。
もう詠唱を始めたのか?
見るとメグは杖を構えるのではなく、木杖の先で帽子の鍔の下、自分の額をコンコンと叩いている。
風の具合か、一部が聞き取れた。
「……なんぼウチがリペアにイメージ載せられるちゅうたかて、あのジジイ!
こないなもん、どないせえちゅうんや……」
違った。これは聞こえなかった事にしておこう。
俺は左手指に後席のガラスの感触を確かめつつ、窓一つ分退がった。
しばらくそうやってメグは体の向こうで杖を揺すっていたが、諦めたかのように杖を下げた。
だが一歩もその場を動かない。
こりゃ無理を言ったか。
そう思い直し前へ出ようと言うところ、メグが杖を挙げた。
小声で呟く詠唱が微かに流れて来る。
メグの詠唱ははっきり聞いたことはないが、いつも割と短いよなと見ているうちに、「リペア!」と聞こえた。
元の道とは別に草地、荒地の色が変わって行く。
小さな立木の向こうをゆるく曲がって、その先の現道へ繋がる太い一本の帯が浮き出る。
ボンネットの下でクレアがザラザラと、小粒魔石を袋から移す音が聞こえた。
起伏はあるが、高い所低い場所が無くなって、緩やかな下り勾配の道が出来上がっていった。
「ふう!」
「メグちゃん、すごいよ。新品の道路だよ!」
クレアが囃し立てた。
「思うたより、キツなかったわ。
中級魔法のちょい上やろか」
「でも魔石がごっそり行ったよ。
両手で掬って3回分がペロっと入ったもの!」
「そらすごいなあ。
アレかて1粒で、ウチの感じやってん、ゴブリンの半分くらいは居てるで?
両手で掬った言うたら何個あったんや、ものゴッツウ食いよったなあ」
「いいじゃない、軽くなったんだから。
それにさ、この新しい道!
走るの楽しみだよ!」
「それはそうやなあ。
タケオはん?
こんなんが後いくつある言うたかなあ?」
「あと3箇所くらいかな」
「それ終わらすよって、ウチにも運転させてえな」
「あたしも、あたしも!」
「分かったよ、あと3つ直したら一遍戻るから片道ずつだぞ」
こうして気持ちよく走れそうなお初の権利は、メグとクレアに持って行かれた。
また来週になります
お楽しみに




