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チョワード

本日ラスト3話目!

 チョワード村。


 ヤイズル街道の端の端、シーサウストとヤイズル湊の間の分岐より内陸へ2クレイル。

 戸数120ほど、約500人の川沿いにある林業を主体とした村、と言う謳い文句はギルドで聞いて来たものだ。


 川も含めここは高く頑丈そうな木柵が村と畑の周囲を巡っている。

 やはり、山からの闖入者を警戒してのことだろう。


 分岐してから既に索敵画面には、いくつも赤丸が表示されていた。

 だが大きいものはいないようだった。


 何をしているのか白い煙が2条、村の外れで上がっている。炭焼きだろうか。


 門番にヤイズルの冒険者ギルドから来たと伝えると、村長の家を教えられるのはどこも一緒だ。


 家に行くと猟師の家に案内された。

 交代でオーガの警戒をしているらしい。

 今向かっているのは夜番の男の家だと言う。


「おい、休んだばかりですまねえな。

 討伐の冒険者が来てるから話をしてやってくれ」


 村長の声に応じて寝間着姿の男が戸口に現れた。

 そう大柄でもないが腕が太い。


「あんたらがオーガを狩ってくれるのか。

 夜は警戒してるが姿は見てねえ。

 昨日の昼番は東の山辺りで2頭見たそうだ。

 足跡が結構あったって言うから、あの辺をウロウロしてるんじゃないかと言うんだが」


 俺が前に出ても舐められるだけだ。

 如何にも魔法使いって格好のメグが、ここでも丁寧に対応する。


「他には見てないんですか?

 足跡の話をされましたが、柵の周囲には近づいていない、で良いでしょうか?」


「ああ、俺も昨日明るいうちにひと回りしてるが足跡らしいものはなかった」


「分かりました。ありがとうございます」


 2頭だけなら良いが足跡が多いってのは気になるところだ。

 この村は木材を引き込むために、仮の門があちこちにある。


 目撃情報に近い場所からタクシーで出撃することにした。

 当然それぞれの門には、荷車なんかが通れるだけの道が山林に続いている。

 お誂え向きと言うやつだ。


 目的の門に近づくと

「おっきいのんが()るでえ。

 まあだ1つしか見えてへんけど」


 それがオーガと限ったものでもないが、目撃の場所に近い位置だ。


 門を開け山林へ進むと後ろで扉が閉まる。

 村としては当然の警戒だ。


 山へ分け入る林道なので、勾配を緩く取ろうと道は大きく左右に曲がる。

 3回目の曲がりまでに既に3頭の大きな反応を捉えていた。


 そろそろ近いと見て、クレアとメグが車外へ出るとそれぞれに武器を手に迎撃態勢に入った。

 クレアが左を、メグが運転席横を一緒に歩く。


 クレアは索敵をスマホに切り替えているが、気配読みも強いのであれは過剰だろう。


 開けた助手席の窓からクレアの声が

「この先左に何かいるよ」


 そのあたりは低い木が密集していて見通しが良くない。

 画面上でも見える動きがないので、まだこちらに気付いていないのだろう。


 ゆっくりと進む道は九十九折(つづらお)りに左に曲がっている。

 反応はそのさらに先だ。


 クレアがトトンと右手でフロントガラスを叩き、言った。

「なんだかおかしいよ?」


 俺はカーナビの画面をチラッと見た。

「赤丸は動いてないようだぞ?」

「そうなんだけど……」


 クレアの更に慎重になった歩みに合わせてタクシーを進めて、10数歩も行ったろうか。


「上」呟くようにクレアが言う。


 俺たちは足を止めた。

 クレアが索敵画面を拡大している。


「鳥?

 オーガじゃないみたい。

 警戒だけしてこのまま進もうか」


 遭遇一発目はハズレだったか。


 しかしこの付近は反応が多い。

 表示される丸が小さいから、そう脅威とは感じないが。


 この大きさだとイッカクネズミくらいだろうか?

 イッカクネズミなら、とっくに突っ込んで来ているから別のやつだろう。


 急な曲がりに差し掛かると木々がザワザワ騒ぎ出した。


「オーガっぽいのが動き出したよ」

 道の上に被さる枝葉の、その上を大小の鳥が一方へ逃れるように群れ飛ぶ。


 それはオーガらしい大きさの丸があった方向からだ。

 暴れているらしいバキバキと枝が折れる音。

 左手に向かって進む赤い丸。


 この先の道は見通しがいい、そこへ向かって出てくるようだった。

 メグが杖を振ると辺りの植物から霧が噴き出した。

 それが道の上にカーテンのように連なる。


「湿っぽい森はウチ、好っきやねん」


 キツネに似た小さな魔物が、藪の中からそこへ数匹飛び込んだ。


 水のカーテンは顔に張り付いたようで、皆道の上で転げ回る。

 呼吸ができないんだろう。


 俺を攫った3人も同じような目にあったとクレアが言っていた、それがコレか。

 動きが鈍って痙攣が始まる、そこへオーガが藪を蹴散らして道路へ飛び出した。


 顔に張り付いた水の膜を片手で掻き毟りながら、周囲を睥睨する。

 真っ赤な二つの目がこちらに据えられた。


 目が合った。そう思った時にはもうこちらへ走り出している。

 そこへ2重3重に水の膜が飛ぶ。

 が、あれでは足止めにならない、そう思ったがだんだんとオーガの足が鈍る。


 そこへ飛び出したクレアの槍が膝辺りを突き抜いた。

 それでもオーガは止まらず迫って、最後はタクシーの防御結界で弾かれた。


 フロントが沈んで後輪が一瞬浮くほどの衝撃だった。


 道の真ん中に転がるオーガをクレーンで脇に寄せ、キツネ風の魔物だけ回収し先へ進む。


 使い道のある魔石はMS容器の中だろうしな。

 オーバフローの赤い警告灯は出ていないが、見といたほうがいいだろう。

 この間のオーガの魔石はデカかったから。

 MS容器を見ると内径と変わらない魔石がはまりこんでいた。指どころかゴミハサミも隙間には入りそうもない。


 メグが水魔法で包むようにして取り出してくれた。

 討伐の証明に必要になりそうだったから回収したかったんだ。


「さっき飛んで行った鳥も魔物だったみたいだね。

 大きいのはまだ2ついるかな?」


 カーナビ画面を見るとクレア言う一匹は右のほうか。

 そちらは山なので真っ直ぐは行けない。


 これで1頭倒したわけだが俺たちはとにかく山道を移動して、誘き出して狩るだけだ。


 曲がり曲がり、登って行くがまだ距離がある。


「なんや居らへんなあ。

 どっちにおるん?」


 聞かれてクレアが右を指差した。


「ちょっと呼んでみたる」


 メグが杖を振り林から呼ばれた霧が幾つも拳大の水球となって浮かぶ。

 次の一振りで針のように細長く凍りついた。


「こっちでええか?」


「いいと思う」


 浮いていた針はもうそこにはなかった。

 クレアが指した先の葉叢が僅かに揺れた。


 ガアァー!!


 悲鳴なのか雄叫びなのか、周囲の森が震える。

 バキバキとそちらから派手に暴れるような音が、いや、近づいて来る?


 カーナビを見ると、右の画面に上隅にあった赤丸も動き出していた。


「メグ、続けて2つ来そうだよ?」

「さよか。これで反応が無いんやったら、自信()うなるとこやで」


 戦闘自体はさっきとほぼ一緒。

 水のカーテンは効率(コスパ)がいいとメグが言う。


 魔力は中級魔法程も必要ないんだとか。


「なあクレア。

 さっきからカーナビの画面がなんとなく赤っぽくないか?」

「そうお?

 画面の色なんじゃないの?」


 クレアは返しながらも画面の縮尺を変えている様子だ。

 俺もタクシーを停めやってみた。


 現在位置を含め、大きな薄い赤の迷彩模様っぽい範囲の中になっていた。


 小型の魔物を表す赤い丸が、その模様の外に出ようと逃げ回っているようにみえる。

「どっかでみたな、こんなの。

 小さい魔物が逃げてるみたいだ」


 俺の言葉にクレアが叫ぶ。

「スライム!」


「あ。そうだ、スライムに似てるんだ。

 色はちょっと薄いか?」


 運転席の開いた窓から上体ごと押し入ってメグが言う。

「ちょっと見せてえな」


 首を背け横目で見ると、メグは嵩張る帽子を杖で押さえていた。


「あんまり感じいひんのやけど、この辺もスッポリ入ってるんやな、何かおるんやろか?」


 目には何も見えていないように思う。

 思い浮かぶのは影の薄い幽霊みたいなやつ?


 色は東へ行くほど濃いな。

 なんでこんなグラデーションっぽい表示になるんだ?

 数か?


 タクシーのすぐ前方をどんどん拡大して行く。

 赤い点が一瞬見えたらすぐにいなくなる。

 画面をはみ出た?拡大し過ぎたか?


 縮尺を元に戻すと小さな点が幾つか見えた。

 間隔は数メートル。


 その点を画面の中央に据えて拡大して行く。

 大きさは4cmほど、虫か?

 瓢箪のように中央でくびれた形の4本足。

 先端には左右に開く小さなハサミのような形の、あれは口だろうか。

 俺は解体現場でコンクリートを挟んで壊す機械を思い出した。

 確かニブラとか言ったはず。


 窓から覗き込んでいたメグが頭を低くして地面を窺う。


「おったで。虫やな、こんなん見たことあらへん。

 すごく()っさい魔石を持ってるみたいやな」


 俺も降りてそれを見た。

 小さい魔石と聞くとやっぱりスライムを思い出す。タクシーの防御結界でないと回収困難なやつ。


 甲虫っぽい見た目で黒と黄色の縦縞、カミキリムシにこんなのがいたかな?


「まさかこれから逃げてきてたんじゃないよね?」

 クレアが言うのはオーガの事だ。

 こんな南まで来て、短期間に5体のオーガと遭遇している。

 その原因がこいつじゃないかと言うのだろう。


 そして今様々な魔物たちが逃げ出そうとしているのが、画面からは見て取れる。

 一体この小さな虫にどんな脅威があると言うのか?


「そう言えば向こうにもグンタイアリってのがいたな。大きな動物でも数で集って倒すらしい。

 色の濃いのは本隊か?」


「じゃあこいつは偵察かいな、えろう物騒な話やないかい」


「何言ってるのよ。

 イブちゃんは最強よ!

 ここになんとかして集めちゃおう。

 きっと魔石が溢れて大変なことになるわ!」


「ホンマかいな」


 メグが疑うのも無理はない。

 だがクレアはタクシーが、スライムをトンネル状に跳ね飛ばしながら走るのを見ている。

 アレをここで再現できると張り切っていた。


 作戦はこうだ。


 九十九(つづら)折りのこの辺りは長い直線に近い。その両端にオーガの死体を置く。

 これは撒き餌だ。

 そしてタクシーのヘッドライト、後ろは魔石灯を付け、クレーンを使ってお迎えのオーガ。

 これも餌だな。


 クレアが開けっ放しのボンネット下に座って魔石回収。

 後部座席に座るメグが水魔法カーテンで誘導担当だ。


 カーテンは道の左を全面封鎖。

 そしてカーブの前後に誘導のため漏斗のように、斜にカーテンを伸ばす。


 押し寄せる虫どもをこの直線部分に集め、タクシーが往復して轢き潰す。


 心配なのはメグの魔力切れか、俺たちの気力切れか。


「魔力は心配あらへんで!

 イブちゃんの魔石からなんぼか分けてもらえるんや!」


 ともあれ準備はできた。偵察らしいのがオーガの死体に集まって行く。


 先んじてメグの水カーテンが伸びて行く。高さは腰くらい。


 地べたを這う虫にはそのくらいあれば充分だろうと言う事だ。


 作戦は開始した。

ではまた来週!

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