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ヤイズル昼食会

2話目でーす

 スイドス、ゲンジ、ヌキミミ。


 俺を攫った奴らの名だ。

 リーダーのナンブロはメグの電撃であっさり死んだらしい。


 縛られて目隠しまでされ、それで安心したのか、奴らデマホーの名を出していた。

 あの口ぶりだと依頼があったって訳じゃなさそうだが、あいつの恨みを買ったのは確からしい。


 本人が手出しして来たわけじゃなし、何をすると言うことでもない。


 しかし驚いたのはメグの「リペア」だ。あの朦朧とした状態の俺を叩き起こすとは。


 あの娘には何度も驚かされる。


 本人にはそんな自覚なんぞない様子で、至って能天気に振る舞っている。


 攫われてヤイズル街道の北の方まで来てしまったが、もう少し行けばエンスローから伸びる西街道があるらしい。


 行ってみたい気もするんだが。


「あかんでタケオ!

 ウチは欲しい杖がもうちょっとで分かりそうなんや!

 あちこちに貸しになってるおゼゼ、回収せんとあかんやろ!

 ヤイズル戻るで!」


 この剣幕でやられては従う他ない。


 てなわけで南に向かい、リペア三昧ののんびり旅をやっている。


「そう言えばこの鉄の棒は何だ?

 邪魔くさいんだが」


 貨物スペースでは収めきれなかったようで、後部座背の背もたれを超えて運転席横まで伸びて来ていて、車体が揺れると肩にぶつかる。


「これやったら戦利品言うやっちゃ。

 タケオはミノタウルス見とらんやったか。

 あの時、キバタイガーを襲っとたんよ」


「ほら、あたしが木の間から飛んできた枝で転んだじゃない。

 あの枝は2頭の争いで飛んできた、とばっちり」


「せや。

 ミノタウルスの大斧やで。

 ウチは全部鉄やないか思てるねん」


 全部鉄だって?

 重くて持つだけも、とんでもないだろ。


 俺は唖然としてしまって声も出せなかった。


「これ、ギルドで売ったらええカネになるんやないか思て、ごっつ楽しみなんや」


「その、ミノ……とやらはデカいんだろ?

 これがここにあるってことは倒したのか?」


「それがね、メグちゃんの…」

「クレアがな!

 タケオが攫われたって言いよるんや。

 それでもうウチは頭の中まで真っ赤になってもうて……」

「うん、そうだった。

 背の高い、それはもう、真っ黒な雲が出たんだよ?」

「せやねん。ものすごかったで、ドッカーン、バリバリーってなもんや」

「キバタイガーとミノタウルスがまとめて一発だからね!」


 興奮して先を争うようにやり合ってる2人の声を聴いて、俺の目は湿っぽい。

 どれだけ必死だったのかが伝わってくるんだ。


 職業運転手は泣いてちゃ商売にはならん。


 ミノタウルスの大きさを聞きたかったんだが、まああの斧を見ればデカいのは分かる。


「ねえタケオ。クレーンってね、走ってる時でも使えたよ」


「走ってる時?」


「そう!

 林の中で水魔法を使いたかったから、メグが作った氷を吊ったまま走った!」


「吊ったままか。それだと荷台が塞がっていても運べるのか。

 重くなかったか?バランスがかなり悪くなると思うんだが」


「後にくっつけるみたい吊りよったけど、普通に走れてたで?」


「ふうん?今度やってみるか」


 そのあとはしゃぎ疲れたのか2人は寝てしまった。

 俺はタクシー単体でリペアを掛けながらネンバースまで下って、そのあとは束の間の静かな走行を楽しんだ。


 ヤイズルに着いたのは昼を回った頃だ。


「おい、ヤイズルに着いたぞ」


「もう着いたんかいな、朝が早かったさかい、ウチまだ眠いねん」


「昼飯はいいのか?」


「お昼!?」


 眠そうなメグとは対照的に、昼飯と聞いてがばっと起きるクレアだ。


「何を食いたい?」

「「お肉!」」


 そこは意見が合うんだな。

 ちょっと奮発して、貴族屋敷に近い高そうな店に入ってみるか。

 うるさいことは言われないって聞いてるし。


 店の名はシャル・ド・サロ。

 フランス語みたいな語感の店名だが、関係があるはずはない。


 重厚といった店構えから暗いかと思った店内は、凝った意匠の魔石灯がそこここにあって意外と明るい。

 4人から6人掛けのテーブルの間には全て衝立が立てられ、他の客の視線を直接浴びるようなことはない。

 別に個室もあるようだが、割り増し料金を払うこともないだろう。


 メニューを見るとブリガントビーフだの、マッシュリザードだのと聞いたこともない肉の名が並んでいた。


 これは余計なことを言わずに任せるのが吉だ。


「どれが食べたいんだ?」


 クレアは案の定メニューの端から順に6つ拾っていく。メグはそれを横目に次の3つだ。

 当たりを引いたらシェアしようと言うのか。


 俺?

 俺は別に拘りがあるわけじゃない。

 メグの選んだ中から一つ。

 シャイゼルのストラ煮とか言うのを頼んだよ。

 煮た肉なら噛みきれないなんてことはないだろう。


 なんだか闇鍋みたいになってないか?


 次いでクレアが大ジョッキでエールを注文した。

 メグもワインの小グラスを一緒に嗜もうと言う。

 が、俺はこれでも職業運転手だ。酒はやらん。

 医者に控えるように言われたしな。


「メグ、こんな店に入った時くらいは帽子を取ったらどうだ?」


「あれあれー?

 タケオ、メグの帽子取ったらびっくりするよ?」


「ええよ、クレア」


 黒い鍔広帽子を取ったメグは、確かに見たことがなかったな。クレアがああ言うって事は、部屋で一緒にいる時は取ってるってことか。


 メグの髪はオレンジがかった金髪で目が澄んだ緑色、魔石灯の光でそこだけパッと明るく見えるような気がした。

 18と聞いていたが、10と言われてもわからない幼い感じの容姿だった。


「ほう?

 良い色だな、すごく華やかだ」


「でしょでしょ?

 メグちゃん、すっごくキュートなんだから!」


 色の白いメグとは対照的に、日焼けしたクレアがそう言ってはしゃぐ。

 この二人、言動は年相応なんだな。


 料理が運ばれて来た。

 クレアがジョッキのエールを、待ちきれなかったかのようにあおる。

 メグもおつき合いにワインを一口、ちょっと豪華な昼飯の始まりだ。


 それぞれ前に並んだ皿に手を伸ばす。

 クレアは珍しく静かにフォークを進めているが、食べるペースは早い。

 2皿がその胃に消えるのはあっという間だった。

 3皿目も半ばまで片付けて、やっと俺とメグに目が戻る。


 思わず俺の頬が緩む。


 それを見てかクレアの頬が赤く染まる。


「これ美味しかったよ、食べてみる?」


「いいな。こっちの取り皿に少しくれ」

「ウチももらうわ。

 こっちのも美味しいで。

 食べよる?」


 料理の取り替えっこが始まって、和やかな食事が続く。


 メニューには色々書いてあったが、調理されてしまえばどれが何の肉かなんて分からないし、俺は美味ければなんでも構わない。


 メグはあれこれ区別して食べ比べているようだったが。


 衝立の向こうから(おとない)が入った。いわゆる咳払いと言うやつだ。


 音の方を見るとこちらを見ないように立つ、背の高い男と小太りの女がいた。


「何か用か?」


「タケオさんにクレアさん、メグさん。

 でよろしいですか?」


 俺たちがそれぞれ頷くと

「お食事中大変失礼かと思いますが、確認したいことがございます。

 私は商業ギルドの長を預かるハイタワーと言います」

「私は同じくこの街の冒険者ギルド長、ソロバーニ、元Aランクでした。よろしく」


 どちらも40代半ば、もう少し行ってるかもしれん。

 男の方は筋肉質で運動が得意そうに見えた。

 女の方は背はそれほどないがポチャッとした感じで、とても冒険者Aランクが務ったようには見えない。


 と言うか、逆ならしっくりくるんだが。


「先程クレイ村付近の道路で縛られた人相の悪い男3人が、商人の馬車に拾われ運び込まれています」


 何の話か分かって俺たちは一瞬に青ざめた。


「あれ確かクレーンで後ろに吊ってたんだよな?」

「せや。ウチがむさい男は見栄えが悪いよって氷で作った箱に入れたんや。

 外からは見えんようにって」

「あたし、4点で吊ったわよ?

 落ちるかなあ?」


「あーっ!

 ウチが寝てもうたから、氷が溶けたんや!」


「そうですか、状況は何となく分かりました。

 口汚いですが3人は生きており、白い自走馬車の話が出たので、ここを探し当てて来た次第です」


「そらまたご苦労さんやなあ?」


「3人は色々言っておりましたが事情を伺っても?」


 説明は主にクレアとメグがした。

 俺は彼女らから聞いたことしか知らんからなあ。


「自白にデマホーの名が出ていましたが良い噂を聞かない男でした。

 しかし魔法指導講師に降格されたと聞いています。

 詳しいことは問い合わせてみないとわかりませんが」

 そう言うのはソロバーニ。

 冒険者ギルドマスターの方だが、ややこしい。


「事情は分かりました。いずれも少額ながら賞金首ですから、鉱山送りになるでしょう。

 それと用件はもう一つございます。

 先日オーガを倒された川の少し先、左への分岐がありまして、その先にチョワードという村がございます。

 そこでオーガが目撃されたというので、緊急で調査と討伐をお願いしたい。

 現在Bランクパーティ以上は皆、街の外に出払っておりますので受けてもらえると助かります」


「商業ギルドからはミノタウルス素材があるなら、売ってもらいたいと言うのが用件だ。

 エスラから知らせが来ていて、それを受け商人の馬車が2台買付けに向かっている。

 だがここに自走馬車があるならと、この騒ぎもあったんで見に来たんだ。

 見たところ屋根に積んでいるのが気になるんだが、このあとギルドに寄ってはくれないか?」


「分かりました。この食事の後伺います」


「食事中すまなかった。時間は気にしなくて良いのでゆっくりしてくれ」


 忙しいのだろう、二人のギルマスはそのまま店を出て行った。


 俺はなんとなく興を削がれたような気がしたが、クレアもメグも気にした様子もはなく、運ばれてくる残りの料理を平らげていく。


 俺はと言えば自分の注文のほかに、二人から取り皿にもらった分が明らかな食い過ぎだった。


 まだまだ行けそうなクレアの健啖ぶりを見ながら、この後の行動を考える。


 そうしているうちに食事は終わり、俺も水を1杯もらって飲む。


 ここの代金は俺の払いだ。5200ギルは高いんだろうな。


 車中でメグが言う。

「またオーガっておかしない?

 あれはこんな南におるもんちゃう思てたんやけどなあ?」


 クレアはオーガについて聞いたことないと言うし、俺が知るはずもない。

 話はそこで終わった。


 さて、商業ギルド。

 あのでかい斧と屋根に小山をなしている毛皮と、もろもろを下ろしてしまわないと。

 クソ重い斧はメグと2人で運ぶ。

 その間に屋根の上のものをクレアが地面に下ろす。


 そうやって運ぶ先は、すっかりお馴染みになった買取カウンターだ。


 高い値が付いたのはキバタイガーの毛皮だ。

 首から上は手付かずで積んであったから、剥製にできそうな逸品、もちろん背側に傷など一つもない。

 斧は鋳潰すので鉄屑扱い、装飾もなく刃こぼれがあって、どこかへ飾るようなものでもない。

 あとは大きなミノタウルスのツノに……

「またこれ取ったのか?」


「そうやでー。

 ミノタウルス、オスやったさかい、1式揃えたった」


 1式ってなあ……

 言っても無駄か。


 ここでの売り上げは3万4千ギル。


 次は冒険者ギルドに顔を出して、チョワードのオーガの依頼を確認しないと。


「ねえ、依頼確認したらそのまま出発?」


「まだこの時間だしな。

 村で被害があったりしたら寝覚めが悪いだろ」


「そうだけど、死にかけといてリペアで復活したばかりのタケオが、こんなに動いて大丈夫なの?」


 メグは何も言わないが、クレアの横に立った。


 その無言の圧に俺は折れておくことにした。

 冒険者ギルドに顔を出し、確認すると出発は明日の朝と言って宿に戻り、のんびり過ごすことになったんだ。

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