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タケオ奪還

土曜予約配信再開!

 今日も3話です

 日暮れの後のヤイズル街道はやっぱりボコボコだった。


 タケオなら直しながら行くんだろうけど、あたしたちにはそこまでの余裕がない。

 メグがカーナビのマップに張り付き、あたしはハンドルにしがみつくように、ライトに浮かぶ穴を警戒してる。


 イブちゃんのヘッドライトは格段に明るいんだけど、暗がりで穴を見つけて避けて走るのは案外大変だった。


 穴に落ちると壁に当たってる膝が擦れて痛い。

 この座席ってタケオのサイズだから、あたしにはかなりキツい。


 だからもう穴には落ちたくないんだ、でも進まないと、タケオの近くへ行かないと。


「クレア、なんや辛そうやな。

 どこぞ、痛いんか?」


「膝がね、当たってるんで揺れると擦れて痛いんだ」


「そら大変やな、運転替わったろか?」


「ああ。その手があった!」


「早よ言うたらええのんに。

 イブちゃん止めえや。交代やで」


 メグが運転席に乗ったはいいが、

「なんやこれ。アクセルが遠いで、どないなってんのや」


 メグは幾分かタケオより小さいのか。

 見た目あんまり変わらないと思ってたんだけど。

 でも本人に言ったら怒られそう。


「んーと。

 確かこの辺に……」


 メグが座席の前っ側、裏側に手を伸ばしてゴソゴソ探っている。

 何を始めたんだ?


「あ、これやろか?」


 カチャっという音がすると座席がズズっと後に移動した。


「後ろ行ってもうた。もう一回や。

 あれ?行きすぎやん。

 もうちょい後ろやで」


 カタカタと動く運転席。


「何よ。それ、動くんだったの?」


「せやなあ、今思い出してん」


 あたしがガックリ肩を落としていると、メグがアクセルを踏んで、いきなり穴を踏み越えた。

 その後もガクンドカンと遠慮なく穴を拾っていく。


「ちょっと!穴を避けなさいよ。

 痛いとこまたぶつけたじゃない!」


「ありゃ。えろうすんまへん。

 堪忍したってや。

 で、タケオの位置はどないや?」


「揺れ過ぎて画面なんか見えやしないわよ!」


「ほな、停めよか」


 メグの傍若無人振りは今始まった事じゃないけど……

 頭痛いわ。いや、ホントに痛いのは膝なんだけどさ。

 とにかくだ。


「えーと。だいぶ近いみたいよ。

 右の方に3クレイル(km)ってとこかなあ」


「なんや、街道沿いやないんか。

 ここから暗がり歩いて、夜襲言うんもキツいかあ?」


「イブちゃんで行けるんならいいけど、薮に入るのはちょっとね。こんなに暗いと尚更よね。

 朝になって動き出すのを待つ?」


「せやなあ。

 タケオはんには悪いけど、待っとってもらお」


 あたしたちは早めに寝て明け方から動くことにした。


   ・   ・   ・


 夜明け前。


「なんやコイツ。

 クレア、起きい!

 タケオが動いとる!」


 あたしはメグの叫びで起こされた。


 出発の支度をしながら画面で観察していると、あの人攫いどもは強行軍で北へ、しかも街道に出る気がないらしい。


 マップで見る限りヤイズル街道とは、付かず離れずの移動をしている。


「追われる思てるんやろな。

 街道は使わんと、朝の早よから動きよる」


「街道からそう離れないとすれば、この辺りで待ち伏せできるかも知れない。

 けどタケオを人質に使われると厄介だね」


「そんなん、水が近くにあったら、どうとでもなるんやけどなあ」


 メグの水魔法は移動も自在だから、確かに色々できそうだ。

 けど場所は山や林、水場といえば沢があればいい方……

 このマップじゃ水の在処(ありか)は分からないし……


「氷にして持っていくのは?」


「氷はええけどどうやって持っていくんや。

 ポリタンクなんか1個しかあらへん。

 屋根も後ろも満載やで?」


「あー。肉もどうにかしちゃわないとだった。

 まずさっきそばを通った村で肉を売っちゃおうか。それで水をもらう」


 あたしはハンドルを切ってUターンを始める。


「だからどないして運ぶんや。

 そら、貨物スペースを皆使えばそこそこは積めるで?」


「えっとね。クレーン使おうかと思うんだ」


「クレーン?

 あれ、走ってる時に使えるんかいな?」


「あたしは使えない理由はないと思う。

 やってみれば分かるよ」


 村の名はエスラ。

 門番さんに行商の商業ギルドカードを見せて、村長を捕まえた。


 荷台を空けるため肉を売りたいと言うと、そんな量は買えないと村長が渋ったが

「何言うてますのんや。格安やで。

 相場の3割引や。損なんかさせへんって。

 肉はな、キバタイガーやで。そんでミノタウルスや。

 どや、食うた事あるか?

 今ならブッシュボック30クロッツ(kg)もオマケに付けたる!」


 いや、ブッシュボックはあたしらが倒したんじゃない……

 ヒ! 睨まれたー。

 目が、余計なこと言いないな、とか言ってるし。


「しかしこの量はうちの村では食べきれな……」

「そんなん!」


 村長の言葉を遮ってメグの攻勢は続く。


「ええか?近所の町や村に使いを出すんや。

 あんた、ミノタウルス、食うたことあるか?」


 首を振る村長に畳み掛ける。


「他所の人らがこれ聞いてどう思うやろ。

 滅多なことじゃ口になんか入らへん、大物の肉やで?

 あとはもう分かるやろ!」


 キバタイガーもミノタウルスも相場なんか分からないから、高級肉と言われる値段よりやや低め、その3割引でメグは村長と握手を交わした。


 水をもらう話もその中でしっかり約束している。

 代金はひと月以内に商業ギルドへの振り込みと言うことで、書き付けをもらっている。

 〆て2万1千ギル、毎度ありい!


 さて、これでイブちゃんがだいぶ軽くなった。毛皮やキバ、ツノを屋根に移し、後ろに残ってるのはミノタウルスの大斧だけ。


 井戸の場所を聞いてポリタンクを満水にする。

 これは飲み水だからね。


 小川があると言うので、氷にする分はそっちで確保しよう。


 イブちゃんのクレーンは今では4〜500クロッツ(kg)は吊れるはず。

 メグの杖で、小川の流れからザワザワっと水が立ち上がる。

 流量が少ないのでまだ足りない。

 流れてくる水が浮いた水球に吸い上げられるように加わって行く。

 一緒に吸い上げられた気泡が中で渦を巻く。


 いつ見てもメグの水魔法はすごい!


「こんなもんやろか?

 凍らすで?」


 少し潰して楕円球にした水塊が芯の辺りから凍り始めた。

 透明の中の透明な球なのに、大きくなる境目が見えている不思議な光景。


 中の透き通った氷はドンドン大きくなってついに全部が凍る、その一瞬だけツルツルの楕円形の球がそこにあった。


 それが見ている僅かな時間で真っ白に変わる。

 目を瞬くあたしに

「周りの水気がくっついたんや。

 水のないとこじゃ、ウチはあれを集めて使(つこ)てるんやで」


 あたしはスマホのアプリで出来上がった氷塊にクレーンを4点吊りにかけ、イブちゃんの後ろに固定する。


「イブちゃんに持ってもろて楽になったで」


「でも凍らせたまんまにするの、大変じゃない?」


「たまあに、凍っとれ、言うて声かけるだけや、大変なんかあらへんで」


 そんなものなのかな?

 あたしはスマホでタケオの位置を確認する。

 準備はできたんだからすぐにでも出発したい。


「やっぱり北へ動いてる。

 あれ?青丸が薄くなってる?」


「なんや薄いて?」


「ほら、これ見てよ!」


「ホンマや、薄なってる。

 体調、悪なってるんやないやろな?

 人攫いみたいなことする碌でなしや、自分ら飲み食いしとってもタケオの世話なんかせえへんかもやん」


「それにさ、あの鳥のウマだってイブちゃんの椅子とは違うからね、きっと酷いことになってるんじゃ……」


 タケオが死んじゃったらどうしよう……


 俯くあたしをメグが必死で慰める。

 それであたしはなんとか気持ちを立て直した。


 ここで愚図愚図してても助けられない!


 あたしたちはヤイズル街道を北に向かった。

 でこぼことは言えこちらの方が移動速度は早い。

 昼頃に先回りに林へ入って待ち伏せするつもりだ。


「今追い抜いたで。3クレイル左や」


 良さそうな場所を探しながら北へ進む。


「あそこ。広なってるなあ。

 行ってみよ!」


 そのちょっとした広場は樹木伐採に使う用地(ヤード)のようで、西に向かって馬車道が伸びている。

 タケオを示す青丸はまだ2クレイルほど手前だ。


 マップを確認しながら通りそうな位置を探る。


「ここなら多少外れたかて捕まえられるやろ。

 氷を散らしとくで」


 散らしてどうするつもりなんだろうと思った。

 でもあたしも槍を片手にスマホのマップを見ていると。


 青丸はほとんど正面から近づいてくる。


 メグが氷を溶かし、水のカーテンを立ち上げた。

 少しして3頭のクズリがそこへ突っ込んだ。


 あたしの位置から見ても、背景が少し揺らぐ程度の薄い水の壁だ。見えるはずがない。

 そして薄いと言っても水はメグが自在に操る。


 目、鼻、口を覆われクズリと乗り手が勢いのままに馬車道へ転がる。

 その中にはグルグル巻きにされたタケオがいた。


 あたしは槍を放り出し、ナイフ片手にタケオに飛びついた。


 青い顔で身じろぎもしないタケオを抱え、傷付けないようにロープを切るのに苦労した。

 やっとタケオの戒めを解いて、息がある事を確かめホッとしたのも束の間。


 飛び上がるほどの殺気が辺りを覆う。


 顔を上げるとそこには声もあげず窮屈そうに身を縮める3人の男。

 その正面には杖を構えたメグがいて、最前の殺気はメグから、天を焦がさんばかりに立ち登っていた。

 よく見ると男たちの足、腕、首に透明な何かが巻き付き、締め上げている。


「タケオは息があるわ。でもだいぶ弱ってる」


 メグを宥めようとかけた言葉だったが、男たちが空中へ持ち上がる。


 足をバタつかせ抵抗するが叶わない。

 5メルキほども上がったところで、そのまま地面に叩きつけられた。


 手足を折ったのもいるかも知れない、が同情なんかできやしない。


 あたしはタケオをなるべく楽な姿勢になるように寝かせ、イブちゃんのボンネットの中からロープを取り出した。


 こいつらをこのままにしては、安心してタケオの治療にかかれない。


 一人ひとり手首と足を縛る。折れてて痛がるのも構わず縛り上げる。


 そこまでやって、やっとメグが杖を下げた。

 メグはふうふうと肩で息をしている。


 あたしは薬草から作り溜めた丸薬、水薬の棚卸しを始めた。

 今のタケオに効きそうな薬の組み合わせを考えていると、メグがタケオに向き直る。

 タケオの首に手を触れ、自分の首に触れる。


 それから自分の杖をじっと見て……

 何してるんだろ?


 やおらメグが立ち上がると杖を高く翳す。


「リペア!」


 え?なんでリペア?


 そうか、復元か!

 でも生き物に効くの?


 タケオの息が落ち着いている。

 顔色が戻っている。

 目を開けて軽く咳き込んだ。


 あたしはタケオに抱きついた。

 後ろから抱き付かれ、見ると顔をぐしゃぐしゃにしたメグがそこにいた。


 そうしてしばらく、あたしとメグはタケオにしがみつき泣いていた。

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