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セトラーニャ

新春7話目!

 ここは無機質なグレーの壁に囲まれた一室。

 一部を棚が覆って、なにやら雑然と物が詰め込まれ、床や作業台にも何とはすぐに分からない物が積み上がっていた。


 シュッと空気の漏れるような音と共に、小窓のついたグレーの扉が右に引き込まれ、

「ナイケックト!あんたのオキニ、ピンチだよ!」


「なになにー、どーしたっていうのよ?カリカタル」


「なんか狩の最中に襲われたっぽいよ?

 年寄りだけ攫われて…んー、大丈夫なのかなあ?」


「何でそんなことになってんのよ?

 あのお爺ちゃん、あんたの失敗でこっちに来ちゃったのに!

 ちゃんとできるようになるまで見ててあげないと可哀想じゃないの」

 カリカタルが返すと。


「いや、そう言われてもなあ。周回衛星が少ないから常時監視は難しいんだよう。

 屋根の下に入られると位置がわからなくなるしなあ」


 とナイケックトが示した後、

「そうでなくっても膝が緩いって言ってたんだよう。

 O脚補正で踵に三角な中敷き入れたりさあ、頑張ってるんだよう」

 と続けた。


 何を言い出すものやら分からない。



 さて、テルクレフト山頂に近い溶岩洞窟に、1隻の黒い宇宙船が鎮座していた。

 少し西に回れば山裾のグレンズールーはおろか、ヤイズルの先の海まで見渡せるだろう。

 天候が良ければ、周囲に広がるアクトベル王国全域が、ほぼ目視可能な高さだ。


 この船はもうこの惑星の公転を147回観測して来た。


 その船内の1室にカチカチキィキィと耳障りな音が響く。

 それは彼ら、と言っていいのか性別があるのかも分からない異形の者たち、4体が使用する言語なのだが。


 彼らの外見を言うならそれはバッタ。

 強靭な外骨格を纏い、長く太い後肢を畳んで背に背負う。

 歩行はその先端で行うようだ。


 寸胴な体躯に2双の前肢、そして頭部をヘルメットのように覆う複眼。


 それぞれの名はナイケックト、カラギッティ、カリカタル、そして船長のセトラーニャと翻訳された。

 後頭部から背にかけてのそれぞれ異なる色の立髪で、個体識別ができそうだ。


 長期間航行しておらず定点観測が続くため、もう互いに遠慮のなくなった乗員同士の会話は、意訳するならば前述の如きだろうか。



 宇宙船ではあるが147年前にこの星系に迷い込み、呼吸だけでも確保すべく不時着同然にこの惑星へやって来た。


 それは系内に、濃淡はあれど青く霞むように円盤型をなす、青い微粒子帯を観測したからだ。

 もちろん外縁から慎重な分析をしながら進入したのだが、なんの成果も得られぬままこの星系の5番惑星まで入り込んだ。


 そこで超光速機関が咳き込み出した。

 ガクガクと揺れる船内に恐慌が吹き荒れる。

 乗員の動揺を船長格のセトラーニャが宥め、あるいは脅し4番惑星まで持って来た。


 この進入に際しては当然議論はあったが、どういう経路で調査するかが主であって、撤退を唱えたものはいなかった。


 彼らは根っからの探究者であったのだが、今日のような窮境を予想したわけではない。

 静止軌道から惑星の観測をしてダメなら次へ、そんな予定も軌道上で機関を止め点検を行ってみるまでだった。


 損傷は予想以上で、もはや系内航行すらままならない。

 姿勢制御噴射でスイングバイなど、大昔の軌道遷移を使えば計算上は可能だが、隣の惑星へは3年5年の年月が掛かる。

 それでは食料はおろか呼吸大気もままならない。


 やむなく4番惑星の探査に切り替えて、8基ある探査プローブの1基だけを地上探査へ、3基を惑星上を周回する軌道へ下ろした。


 呼吸に問題がないことは、軌道上からもスペクトル等の光学解析で分かっていた。

 次は食料だ。消化可能なタンパク質、その他レッグス種族に必須の栄養が得られるか。

 得られない場合は合成施設を作らなければならない。


 地上に降ろしたプローブからは2足歩行の動物が確認された。

 様々な外皮を纏い原始的な道具を使う。

 互いに意思の疎通もできているらしいと分かった。何より集落を形成し、大型の外敵に備える様子が見られた。

 知的生命体と言っていいかも知れない。


 一方で、その者達を襲う大型捕食動物というのも多々観測された。


 だが自らの姿と、それら2足歩行の知的生命体を比較するときに、意思の疎通は難しそうだと思われた。


 結局、呼吸大気と食料確保の為、この惑星の造山運動の頂点とも言える、テルクレフト山の溶岩洞窟に宇宙船を下ろした。

 引き続き資材調達及び観測を続けることとなったのである。


 森林限界を超えた高山には害獣がいない他、地下には鉱物資源こそ豊富だったが、生鮮食料は手に入らない。

 合成施設で賄っているが、なんとも味気ないものだった。


「爺さんが攫われたって、なんとかならないのか?」


「プローブは修理中だしい。

 森の中を捕食動物を掻い潜って移動中だからなあ、衛星から光線兵器で攫った者を焼き殺すと後が大変だろう?」


 但し、そんな事をすれば再充電で、8公転の間その衛星が機能不全に陥る。


「位置情報だけでも送って現地人に期待するよりないのか!」


 幸いあの爺さんが持ち込んだ乗り物には手を加えてある。


 当直中のナイケックトが、上空から見通しの極めて悪い暗い森として注目していたものの一つ、現地人が「黒の森」と呼ぶ、その近くに特異点を発見した。


 そんな中、探査船を相互に結ぶ転送リンクに反応があり、母星系へ報告と救助要請ができるか試した結果が、爺さんを車両ごとこちらに招くことに繋がる。


 その後の解析で、プローブから出した観測波のエネルギーが高すぎたらしく、空間が捻じ曲がったと分かったが、その特異点から飛び出て来たという事。


 ここで爺さんと言ってはいるが、長命な彼ら、レッグスから見れば成人しているとは言え、タケオはまだまだ若い。

 話の整合を分かりやすくしたいが為の仮の呼び名、とでも受け取って頂こう。


 さて、そうして観測下に突如現れた爺さんの乗り物だが、一部に原始的な電子回路が組み込まれていた。

 探査船のライブラリを漁って、大昔に使われた近いものを探す手間は然程ない。

 勝手なことではあったが部分的に改装まで施したのだ。

 何よりマーカーを仕込んだので、後のアップグレードも可能となった。


 それがタケオ、クレア、メグから見ると、カーナビのレベルアップということになるだろうか。

 ともあれ、その機能の拡張としてタケオの現在位置、生体情報を簡略化して彼女らのスマホへ送信した。


 と言うのも、未だレッグスは地上への進出は果たしておらず、山頂から各種機器を介しての観測に留まっているからだ。

 物理的に介入するにはそれなりに準備が要る。

 出現地点でのこうした作業は、兼ねてから特異点観測のため配置していた機材があったから出来たこと。


 これらの機能で現地の仲間と目される者(クレアとメグ)がなんとかしてくれれば良いのだが。


 調査が遅れている理由。

 それは惑星の大気中、高層圏に広がる網目状のエネルギー帯反応だ。


 系内突入時に観測された、正体不明の薄く広がる青い物質らしきもの。

 それはある種のエネルギーらしいと言うのが、これまでの調査結果だった。


 それが惑星をすっぽり包むように、高空に存在している。

 一部は地表に向かって髭根のように垂れ下がる様子も観測されたが、反応が安定しない。


 その中でも安定を見せるのは南洋の孤島。

 爺さんの出現地点の森と比べ割りと安定が良い。

 

 島の方はプローブによる観測で知的2足歩行生物はおらず、これと言った特徴がないように見える島だ。


 周回軌道からのスペクトル解析でも、鉱物資源などの反応はない。


 故障した探査船の修理は資源次第。


 レッグスの4体は焦ることなく、惑星観測と調査を続けている。

次から土曜日投稿に戻ります

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