浮浪児メグ
重複投稿の報告を頂き差し替えました!
人物紹介 (本編はこの下にあります)
サナエ 年齢不詳 身長160cm(推定) 魔女(植物系を得意とする)
メグの師匠 育てた弟子の数は多いと言うがこれも不明
タイラルク北のトーヤマ村の山地に居を構える
また会うたなあ。
自分、ヤイズルは長いんか?
ウチはつい最近寄らせてもろとるんやで。
ここへはイブちゃんとタケオ、クレアと一緒に来とるんや。
まあ、言うたら旅の途中や。
仲良うしたってや。
今日はウチたちの冒険者稼業も行商人もお休みや。
午前中は機嫌よう、ヤイズルの街を3人で見て回っとったんよ。
ウチもなんかちゃうなあ、思たんやけど、クレアが
「なんか退屈!」なんて言い出しよるんや。
タケオがせっかく休みにしたんだからとか言って、宥めよるんやけど、てんで聞かへんねん。
ウチもそれ、しばらく見とったんやけど、ウチかて退屈なんは一緒やねん。
それが目の前で2人があーだこーだやってるやん?
ちょっと古い話思い出してもーたわ。
・ ・ ・
7つの時やった。
ウチはシーサウストの東にある山を超えた向こうの、海沿いの漁師町で生まれたんやけど、親がな、夫婦で舟に乗りよってん。
あの日も朝の早うから、5、6人やろか、舟で岩場へ行きよったん。
岩場は海藻がようさん取れよるのと、舟の上から魚が銛で突けるくらい澄んでるらしいてな。
いつもは昼前に戻って、加工場で選り分けよってな、大きい船使て、シーサウストまで午後イチで運ぶんや言うて。
それがな?
それが、帰って来いへんねん。
朝早よから漁に行ったきり帰って来いへんねん。
どないかしたんやろか、心配になるやんか。
そしたら近所の留守番のばあちゃんたちが、人が呼びに来たとか言うて大騒ぎになってなあ?
そいで急いで加工場に行ったら……
土間に筵敷いてな?
そこに3人や。筵で頭までスッポリ隠すみたいに覆われた人の形をしたもんがやで!
けどな?足だけ見えてんねん。
クルブシのポコポコから5本並んだ足の指。
それ見てな?
ウチの胸が跳ねよった。
女の人の足なんはすぐにわかった。
なんであれが、ウチのお母はんやなんて!
なんで分かってもうたんやろか。
加工場のおっちゃんがな?言いよるん。
「これ、おまんとこのお母はんや。
すまんけどなあ。
お父はんはまぁだ見つけられてないんや。
何があったんやろなあ?
仲間の舟が瀬を回ったら、おまんとこの舟がひっくり返っとったそうや」
この日のことで、ウチが覚えとるんはこんだけや。
そのあとはなんやボーっとしてしもてなあ。
お父はんのいとことか言う知らないおっちゃんが、近所の世話になってた家に来てな、言うんや。
「この子は魔力が人より多いて× × ×から聞いてました。
そやからワシが引き取ってタイラルクの街で、育てたい思います」
タイラルクってどんな街やろ?
ウチはその時それだけしか思わへんやった。
けどな?
悪い事の後に、まーた悪い事って、ようある話なんやなあ。
・ ・ ・
「メグ、お前はしばらくこの家で手伝いをしとれ」
入り口のドアの前でそう言い捨てて、クゼオと名乗った男は通りの方へ消えて行きよった。
置いてかれた、そう思たで?
心細いやん。
しゃあないから中に入ると、広い居間らしい部屋や。
家具は食器棚が一つ切り、あとはがらんとしとって、ウチと同じ年頃の子供が5人。
「お前、新入りか!新入りやろ!」
10才くらいやろか、見るからにひねた顔つきのアニいが挑むように言いよる。
「名前言うてみい!
あるんやろ、名前や!」
「あの…」
「なんや、お前!
あのってなんや。名前か、それ!」
いちいち物言いがキツいんよ。
「ウチはメグや」
やっと答えたんやけど
「ふん!メグか!
どっから来よった!」
「リョウシマチや」
「リョウシマチ!
ど田舎やな!
ワシはヒネタス言うんや、覚えとけ。
ええか?ここはワシが仕切っとるんや。
ワシの言う事よう聞いとけよ!
お前、掃除でけるんやろな、こっち来い!」
1人、ツンとした10くらいに見える少女の他は、男の子が2人女の子が1人。
3人は隅に固まって、こっちを見ないようにしとる。
「おい!お前ら、こっち来いや!
こいつがミント、ナベスにラヨワ、ナキムシや」
「その子はティア言うんよ。ナキムシはあんたがつけたあだ名やで」
「せやったか?あんまり泣くもんやからナキムシや思てたわ。
ワッハッハ」
むちゃくちゃな紹介やったわ。コイツ何なん?
それから3日、クゼオは戻って来よらんやった。
ヒネタスがあちらこちらの店の裏手でやる、小遣い程度の片付け仕事を見つけてきよって、その僅かなカネで野菜クズやら腐りかけの肉、カビで元の色が分からへんパンなんかをせしめて来よる。
けど、それで腹が膨れるはずもないんや。
この集団のおもな収入いうたら掻っ払いやった。
ヒネタスとミントのコンビで広いタイラルクの街を歩き回って、何かしらせしめて来る。
それを自慢げにウチたちに見せびらかし、またどこかへ行ってカネにして来よる、そんな生活やった。
そいでもその稼ぎ言うたかて、せいぜいが小銀貨1枚、安っすいパンの3つも買うたら無うなるやん。
でもなあ。その安っすいパンの美味いこと。
1人半分ずつやから直ぐ無うなるんやけどな。
2人は狩場も売り場もウチらには教えへん。
そんな生活やから3日でウチの服は汚れまくった。
それでも他の3人よりも穴が空いてないだけマシ。
ヒネタスとミントの服は体には合ってないけど小綺麗にしとる。
人混みに紛れるためらしいて、チビた石鹸で2日に一度は洗ろてる言うんはラヨワの情報やった。
3日目の夜中、べろべろに酔ったクゼオが帰って来よって、銀貨2枚床に放りよった。
ウチは何が起きたんか分からんで隅におったけど、そのまま潰れたクゼオに、ヒネタスとミントでボロ毛布なんぞ掛けてやった言う話や。
朝起きたらもうクゼオはおらんやった。
一体あの男は何の目的で子供ら集めよったんやら、今でもようは分かれへん。
そんでこんで1月くらい経ったんやろか。
その間のことはあんまり思い出したぁないよって、ここは飛ばしとくわ。
その夜はタイラルクの祭りやってんな、夕方になるとみーんな浮かれよって。
大通りはすごい人混みでなあ。
ウチたちみたいな汚い格好で見とってもだあれも気にせえへん。
明るいとこで見よったら、えらい騒ぎになるとこなんやろけど。
大通りの、ちょっと離れた台の上に何人かの人が立ちよって、両手を上に翳してるんや。
そしたらな?
大通りみなやで?
信じられへんような大っきなカーテン言うんか?
もう通りの長さ言うたら、どれだけあるんかウチらだあれも知らん言うんに、その見える限りやで?
上なんかどこから始まっとるんやら分かれへん。
でもな?曲がりくねったその裾ははっきり見えんねんで。
おっきなおっきな布を通りの上にぶら下げて、風でヒラヒラ舞うみたいに、けどえろうゆっくり動きよる。
ウチはビックリしたで。
光魔法言うんやて、初めて見た魔法やったしなあ。
何でか、高いとこから見たい思たんや。
ぐるっと見回したら後ろになんぼでも建物が立ってるやん、あの屋根にでも上がればもっとよう見えるんやないやろか。
物干し台の上にも人がようさんおったしな。
ウチは裏通りに回って登れそうなとこを探したんや。
見つけたんは何かの箱から窓の格子、屋根からぶら下げる鎖。
これやったら上まで行ける。
そう思たらもう登り始めとった。
出たんは傾斜のキツい屋根の上や、足元が落ち着かん。
転げてしまいそうやった。
ちょっと下がるけど、物干し台の上に平らに近い庇が出とった。
ウチはそこに陣取ることにしたんや。
空一面のカーテンは陣取ってすぐに仕舞いになりよった。
ちょっとは上から見られて満足やったんやけど、今度は光の玉や。
商家の店先でええべべ着はった嬢はんが、シャボン玉言うんをやってはるのを見たことあるけど、あれのものごっつう大っきなやつや。
それがな?
虹の色言うんか?
クルクル色が変わりよる。
そんなに強い光やないんや、せやからじっと見とっても目が痛となるようなこともないんやけど、どないしても目が離せんやった。
最初はひとつやった。
色の変わるんが面白うて。
そしたら2個になったんよ。
色が変わるんは一緒やけど隣とは違う色やった。
色んな色が縞やら渦やら、ゆらゆらと大っきな珠の表面に流れるんや。
3個になった。
次は5個やった。
どんどん増えていきよる。
しまいにはあのカーテンと一緒で、見える限りの通りの向こうまで並んで見えたんやで。
ウチはポカンと口を開けたまま空を見上げるばかりやったんやろな。
「面白いかい?」
足元からそう聞かれた。
心臓が跳ね上がって開いた口から飛び出したんやないか、言うくらいのビックリやった。
物干し台にお婆はんがウチを見上げて、浮かぶシャボン玉の光を纏ってそこにおったんや。
悪い事の後を悪い事がようさん付いて来る。
でもな?
たまにはええ事もあるんやなあ。
「手貸すから降りといで。
一緒に果物食べまへんか?」
果物!?
そんなんあの時のウチにとっては魔法の言葉やで!
齧り掛けの、どっかのええべべ着よったボンボンが落とした、砂だらけのトマト。
あんなんでも、水で洗ってジャリジャリ言うんを夢中で食べたんは…10日も前やったか。
あれ、美味かったで。砂もいくらか飲み込んでしもたけど。
一も二も無い、ウチが返した返事は「ほんま?」やってん。
それ返事ちゃうやろってツッコミは、このお婆はんにもろたよって、放っといて。
手貸してもろて降りた物干し台やったけど、洗濯物を干す棒なんか掛かってへん。
代わりに小さなテーブルに華奢な感じの椅子が3つそこにおった。
「ちょっと待っとき、今持って来るさかい」
お婆はんは家の戸を開けて中に入って行きよった。
ウチはまーた空を飽きもせんと見上げとった。
シャボン玉はいつの間にか、泳ぎ回るおっきな魚に変わっていたんや。
これも色がシャボンと同じように変わる。
「色の変わるんがさっきと一緒やない、芸のないこっちゃ」
お婆はんが大きなトレイに、果物を切り分けたんを載せてそこに立っておった。
それをテーブルに置いて、布の畳んだんを持って「ちょっとゴメンするで?」
ウチの顔をその布でゴシゴシ、布は濡れとった。
ビックリしたけど、ウチには果物の魔法が掛かっとる、それはもうじっと、されるままになってたで。
世の中には悪い事もあるんやけど、ええ事もあるんや言うんをこの時にウチは知ったんや。
先に言うてまうと、お婆はんは魔女やってん。
「あら、キレイなお顔が出て来よった。
ワテはサナエ言いますねん。
自分、なんて言うん?」
「ウチはメグや。
元はリョウシマチの子やった」
「あら、リョウシマチ?
何でこないなとこで浮浪児やってはるん?」
浮浪児って!?
まあ、マトモな暮らしやないから、そう言われてもしゃあないかぁ。
「なんでやろなあ。
クゼオいうおっちゃんに連れて来られたんよ。
2月くらいやと思うんやけど親が2人とも死によって。
引き取る言うて」
「まあ!ご両親が?
それは大変やったやろ、あ、すんまへん、いらん事聞いてもうたな。
これ食べて、美味しいで?」
何そんな慌てとんのやろ。死んだ者は戻って来いへんのんや。
今更や。
果物はリンゴに桃、プラムもあった。
どれも甘くてすごく美味かったで。
みんなウチ一人で平らげてもうたけど、お婆はんはにこにこ、そんなウチを眺めとった。
「自分、うちの子になりい」
何言い出すんやろか?
戸惑ってるウチに被せるように
「あんたにはワテの弟子になれるだけの、素質がある。
一端にしたるよってワテと一緒に住みい」
魔女修行の始まりやった。




