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キイロブッシュバック

2025年あけましておめでとうございます

今年も宜しくお願いします

お正月ですので7話投稿を始めちゃいます

 ネンバース村にフォレストウルフ討伐で訪れ、キイロブッシュバックの群れの調査で始まった森の探索は、思わぬ事態で止まっている。


 一体何があったのか。

 俺は降りて周囲を見た。


 半径20数メートルに渡って地面の土が露出している上に、そこには森の木は全くない。

 並んで進んでいたはずのクレアとメグが、タクシーのやや後ろに倒れていた。


 そして、あれほど(ひし)めいていたキイロブッシュバックの動く姿も、1頭の影すら見えなかった。


 俺はクレアとメグをなんとか後部座席に引き上げて、リクライニングさせたシートに寝かせる。

 年寄りには重労働だった。


 それからボンネットを開け冷たい水のペットボトル、500入りを2本持って戻ろうとして、MS容器の上に蓋をするように乗る緑の魔石に気が付いた。

 他にもトレイ部分にザラザラと魔石粒が溢れている。


 袋に魔石をザッと取り出して、ボトルと一緒に持って娘たちのところへ行く。

 2人はまだ意識がないように見えた。


 さてどうしたものか。


 俺は魔石の袋とペットボトルをクレアの足元に置くと、スライドドアを閉めた。

 運転席でカーナビの索敵を試すと、多くの赤丸が同じ方向に移動している。


 どうやらヤイズル街道を越えて行っているようで、流れの中に青丸が立ち往生していた。

 拡大して見るとトカゲ馬車らしい。

 被害はないようだ。


 なんだかなし崩しに依頼達成に向かってないか?

 まあ俺たちにとって都合がいいのは確かか。


 後ろを見るが2人が起き出す様子はない。

 こうしてじっとしてるのもなんだが、俺1人で見て回る訳にもいかない。

 何せ戦闘力は自分でも期待などしていない。


 少し考えてなるべくゆっくり、タクシーで見て回ることにした。


 土が剥き出しの円形の空き地には本当に何もない。あの爆発で何もかもが吹き飛んだかのように。


 取り囲む森の木々は近づくと枝の折れたものがある。

 あの高さを何が薙いで行ったのか。


 木の間は相変わらず暗い。陽光の下で覗いても見通せない程に。


 タクシーは静かに木陰へと踏み込んだ。


 10数メートルは何も居なかった。


 いや、先の方に何か見える。あれは……


 黒っぽい塊から生える曲がった枝?なんだ?


 それは横たわるキイロブッシュバックの腹側だった。

 特に傷などは見えない。足を縮めるように倒れている。

 窓越しに横を見るともう1体。


 その先にもう1体見つけたが、無数の足跡で荒らされた地面以外は静かな森のように見えた。


 カーナビを見ると赤丸の群れは全て街道を越えていて、青丸も移動を始めている。


 後席から衣擦れの音がして、ルームミラーにクレアの焦った様な顔が現れる。


 俺が何かいう前に周囲を見てとったのか、表情が緩んだ。


「どうなったの!?」


「よくは分からんが、あの花みたいなでかいのが爆発した。

 俺が目を開けたら周りには何もなくなっていて、今はキイロ……長えな。

野牛(のうし)でいいか。街道を超えて移動して行ってる」


「うう……」


「お、メグも起きたか。

 おまえたち痛いとことかないか?

 そこに水があるから飲んでおけ」


「水?水っていつから自分で立ってるようになったの?」


「あれ?ペットボトル見せたことなかったか?」


「ぺっとぼ……」


「まあいい、貸してみろ」


 クレアが恐る恐る足元から拾い渡すペットボトルのキャップをパキッと捻って

「ほれ水だ。飲んでみろ」と返す。

 

 二日酔いみたいな症状が出たメグ以外、皆無事だった訳だが、調子を取り戻したメグの推測では、フラウレシアという植物系魔物がアレに該当するらしい。

 甘い匂いの催眠、幻影の攻撃で近付くものを捕食する肉食魔物だと言う。


「俺たちは昼飯の時間にお邪魔したってことか」


「せやな。

 キイロブッシュバックの死骸の場所を見てくと、残っとるんはウチらが最初に防御結界で跳ね飛ばしたヤツやな。

 他のんは(みいんな)、逃げよった言うとこや」


「アレはどうなったんだ?

 周りにはまだ木があったように思うんだが」


「ウチかてそこまで分かれへんで。

 イブちゃんが上手いこと吹っ飛ばしたんちゃうか?」


「そうか。

 一番分かってないのは、タクシーのアブ…ブ……」

「アビリティでしょ?」

「…ああ。そうだな」


「それよりさ。

 この牛の肉、どうにかしないと!」


 いや確かに。戦後の食糧難で貧乏性をこれでもかと背負ったジジイには、あの量の肉を捨て置くなんてもったいないことはできんな。


「だがこの量だぞ?

 村に戻って荷車でも連れてくるよりないな」


「せやねえ。解体してもうたら運ぶのんが半分になるんやけど。

 ウチとイブちゃんでが血抜きと(わた)抜きしとくさかい、クレアが村に行ってんか?」


「うん。あるだけの荷車、連れてくるよ」


 クレーンは2頭まで吊り上げできた。

 メグは苦手だと言いながら、穴掘りくらいは初級魔法だからと内臓を埋めるための穴を掘って行く。


 そこへ両足をつった野牛2頭。

 これも初級の魔法(水刃)だと言って喉首をばっさり切る。

 クレアだとナイフを使うから血を浴びてしまうところだ。

 そうしておいて、背中に回るとツノを両手に持って根本から切り離す。それはそのまま後ろへコロンと転がし、残った頭は穴の中へ消える。


「跳ねると嫌やから、もう少し下ろしてんか」


 メグの手際にボーっと見ていた俺は慌ててクレーンの操作をした。


「この辺やろか?」

 穴のこちらに回ったメグの手刀が振り下ろされると、腹の皮が真っ直ぐ縦に切れて内臓が垂れ出て来る。

 それを上下に手を振って切断すると

「ここで洗車魔法や!」


 首の切断箇所から赤い水が勢いよく流れ出た。

 どうやら腹の内腔に高圧水洗浄をかけているらしい。


 こんなものを見せられては、俺も口出ししたくなるじゃないか。


「効果があるか分からんが、足の血管から水を入れたらどうかな?」


「血管?何しようって言うんや」


 俺はクルマから降りてまだ吊り上げていない1頭のそばへ行く。

 後ろの足首辺りを指して

「この辺に太い血管があるはずだからちょっと切ってみてくれ」


「ええよ」


 ばっさり切れる毛皮から血が滲む。

 それを軽く水洗いしてもらうと血の多く出る場所……よく分からんな?


「なんや。この辺をちょこんと切って、水を流し込んだったらええんやろ?

 やってみるわ」


そう言うなり吊ってあった足首あたりにサッと切れ目が入った。


 そこに人の頭ほどの水球が張り付く。

 毛皮で覆われた足が膨らんだように見えた。

 首からまた赤い水が流れ出る。


「なるほどなあ、こうなってるんや。

 これ、先やってもうた方が良さそうや。

 折角(あろ)たのに、まーた汚れてもうたわ」


 こうなるとメグの魔法は早い。

 チョンチョンブシャァーからのドボドボで一丁上がりだ。

 2頭まとめて2分ほどと言う勢いで、毛皮をまとった枝肉と化して行くキイロブッシュバック。


 なんか俺の方が忙しいぞ?


 ひっきりなしに吊って運んで積み上げてを繰り返す羽目になった。


 50を超えて処理した頃、クレアが荷車を引き連れ戻って来た。

 急なことだから3台しか集まらなかったと言う。

 いくらか軽くなったとは言え、1頭100kgくらいはある。

 2頭積んだらこの森のふかふか地盤では、2人3人寄っても重い荷車は動かせない。


「1台1頭か。

 これ、何回運べば片付くんだ?」


「せやなあ。さっき数えたら80いくつあったでえ?」


 そんなにあるのか?

 今日中に片付くんだろうか?


「まあ、今はこっちが先やで。

 なんとかなるやろ」


 メグの手際を見たクレアは荷車を手伝って押して行く。

 捌く方は慣れた爺さん婆さんが、何人か向こうに集められたらしい。


 次の荷車が来る頃には血抜き洗浄処理はほぼ終わっていた。

 旋回半径60メートル、遠いからと言って吊り上げられる重量は変わらない。

 大体だが400kgくらい行けるらしい。

 処理の終わったやつなら大きいのが3頭分だ。


 この辺りは俺の知ってる吊り下げ式のクレーンとはだいぶ違う。

 長いワイヤーで振り子みたいに吊ったものが揺れるもんだが、このクレーンはほとんど揺れない。

 3点で3頭吊っても、互いの間隔は変わらずにそのまま吊り上がるのもおかしい。

 全くどうなってるんだか。


「ほな、移動するで」


 俺は訳もわからずメグの言う通りにタクシーを走らせ、停めろと言われた場所に止まる。


「じゃあ、さっきの山から3頭、振ってんか?

 ウチは下ろし場で見てるさかい。

 あ。ガラケー、借りてくで」


 このタクシークレーンは、タマカケに行かなくても吊り上げできるってのがいいとこだよな。


 3頭吊ってメグの青丸までフックマークを移動させる。

 丁度荷車らしい青丸が近づいて来ていた。

 カーナビのくせに着信音がピロピロ鳴った。


 これ、電話を受けられるのか?

 相手は「タケオのガラケー」。

 俺がテキトーに名付けたヤツだ。


 受話器のマークを指で触ると、メグの声が一方的に喋りまくる。


「そのまま1頭だけ降ろすんやで。

 今荷車を下に入れとるからそこで止めときや。

 ええか?降ろすで?

 タケオ、ゆっくり下ろしてんか。

 おー、うまく降りたやんか。

 そのまま待っとき。

 次の荷車、下に入れるよって」


 こんな調子で積める時は積んで、荷車の来てない時は3頭ずつ振って積み上げる。

 荷車の往復距離が少しずつだが縮まって行く。

 2回、3回と振って村が近くなるとこの時間がバカにはできないと言うことだ。

 全くメグは頭が切れる。


「遅くなったけどお昼にしようよ。

 村の女衆がお弁当作ってくれたよ!」


 何か食うとなったら元気なクレアだ。

 荷車を積み場に放っぽって、タクシーのところまでメグとやって来た。


 弁当なんて久しぶりだな、何が入ってるんだ?


「えーとね、お芋の蒸したのと、干し魚の焼いたヤツ。

 あとは固めのパンだね。

 この赤い木の実は酸っぱくって美味しいって言ってたよ、ホントかなあ?」


 俺から見ても手抜き全開って感じだ。


「そうか。女衆も忙しいと見える」


 運び込まれるキイロブッシュバックの皮剥ぎから肉の切り分け、急遽集められたクサミケシの葉で包んで土倉に運ぶ。

 村の大騒ぎが目に浮かぶようだ。

 そんななか、俺たちを気遣って……

 ?なんかいい匂いがするな……


「だからね、うちの食糧出していいでしょ?」


「人が感慨に浸ってれば!

 あれ?その肉は今運んでるやつか?

 もう食えるのか?」


 見ればメグが魔法の炎で、薄く削り出した肉を串に刺して炙り焼きしていた。

 コンロにお湯も沸かし、インスタントなスープの素で具なしならすぐ飲める。


「何言うてますねん。せっかくの新鮮なお肉でっせ、今食わんでどないしますねん、ほらこの辺なんか食べごろや思うで」


「これも魔法か?」


「せやでー」


 メグは頭も切れるが(仕事)も早い。


 キイロブッシュバックは姿が牛に似た魔物だが、肉の味も牛の味がした。

 ただ結構硬い肉で、メグが薄く削ぎ切りにしたのは正解だった。

 何かの薬草を絡めたのか臭みも感じない。

 スープにパンを浸して食べる昼食は満足できるものになった。


 クレーンで4回振り終える頃には。野牛の数は50を切っていた。

 明らかに荷車も戻るペースが上がっている。

 商人の乗る馬車がやって来て3頭積んで行くのが混じっていたり、徐々に数を減らしている。


 北門は木の幹越しにもう見えていた。

 あと2回も振れば村の柵の中に入ってしまうだろう。

 他所へ出ていたのが戻ったのか、荷車に荷馬車も混じるようになって来た。


「いやあ、おらあ隣町から頼まれてた荷の配達に来たんだ。肉をやるから手伝えって言われてよ」


 馬車は3頭載せても動くからペースが上がる。

 木柵の中へ振り込む頃には20程に減っていた。


 あとは村でできると言うので俺たちも解体に移る。

 お目当てのフォレストウルフ3頭は、血抜き腸抜きだけ済ませて貨物スペースに転がしてある。

 これの毛皮と魔石、牙の回収をクレアがやっている間に、俺は野牛解体の補助だ。

 ちょっと吊ってやるだけで、爺さん婆さんの解体はグッと楽にできるようになるらしい。


 メグは高圧水の魔法を使って皮剥ぎだ。

 手刀で入れた切れ目の端を摘むと、その間に水流を噴き込んで見るみる剥がして行く。あっちじゃあレーザーメスってのがあったがこれは……


 すごいペースだが、1体1体丁寧に進めているのが分かる。


 あ。村の青年が手伝いに行った。

 うちの孫に手なんか出しやがったら……


 あれ?孫じゃない、メグだ。


 クレアがウルフを終わらせて、そいつは押し除けられていた。


 へへん!

6話分まで10分置き

7話目は13:00予定です

ズレたらごめんね

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