パーティ再結成
3話目です
今日も俺たち3人はシーサウストの南側の海へやって来た。
道に「リペア」をかけながらだ。
2度通る予定にある道は直しておくに限る。次に通る時に楽ができるからだ。
昨日に続いて道案内だと言って助手席に座ったメグが、「リペア」を見て何やら考え込んでいたのが印象に残る。
そんな訳でもう昼に近いが、飯の前に1回くらいは貝の採取をしておきたい。
と言うのも2本の棒だけのルーフハンガーに、木箱を括って貝を乗せられるように簡単な改造をして来たんだ。
もう10袋分くらいは余計に貝を積めるはずだ。
腕のいい冒険者も、荷運びには皆苦労しているらしいが、俺たちも例外ではない。
砂浜を100m見当走って、魔石の搔き出しと貝の回収。
それから昼の焼き貝バーベキューだ。
今日は焼いて美味しい野菜、茄子やら芋やらも買って来ている。
串に刺してメグの出す炎で焼くんだが、鍛冶屋で焼き鉄板や焼き網を作って貰っても良いかも知れない。
本当ならメグは魔力温存で、飯のために魔法なんか使わないそうだ。
それがここでは焼き物担当だからな、それを腐りもせず嬉々としてやっている。
この娘っ子は面白い。
食後は砂の上にレジャーシートを敷いて3人で寝っ転がる。
乾いた砂地は柔らかで、陽を浴びた砂が暖かく寝心地は悪くない。
昼寝の時間だ。
小一時間も眠っただろうか、クレアがガバと上体を起こす。
こう言う時にパッと目が覚めるのが、年寄りの特性みたいなもんだ。
「なんかあったか?」
「ん。近くに何か寄って来てる。
なんだろう、そんなに大きいやつじゃない感じだけど」
この娘は気配に敏感だ。
そんな感覚などない俺は素直に感心するばかりだ。
クレアがスマホを取り出し索敵をかける。
「やっぱり。
向こうに小さいのが2ついるみたい」
「小さいって?」
「ウルフくらいのやつ。ウルフなら2頭ってのは珍しいよね」
そう言って槍をハンガーから取った。
ここまで動きがあるとメグも起き出した。目をこすり、あくびをひとつ。
「ウルフやって?」
「まだ分からん。
クレアが見に行った。
俺たちはこれを片付けて、タクシーのそばで待つ」
「大丈夫なん?」
「危なければ引き返してくるさ」
俺は運転席に着いてカーナビの索敵を呼び出した。
赤い丸が二つ表示されているのをどんどん拡大して行く。
ポリゴン表示は輪郭が荒いので、何かイノシシっぽいのだと言うところまでは分かった。「モリノボア」ってなんだ?
2頭がこちらに来る様子はないが、クレアに見逃すつもりはないだろうな。
案の定、クレアが前へ飛び出し1頭に突きかかったようだ。
敏健に穂先を避ける2頭の様子を見ていたが、同時はいかにも分が悪そうだ。
後で怒られるかもしれんが、加勢するとしよう。
クレーンをメニューから呼んで、離れた1頭の首に印を付けるとすぐに吊り上げた。
画面の中のクレアはすぐに反応して、もう1頭に集中したのが見て取れる。
お。倒したようだな。
俺は動かなくなった奴の足に追加の印を入れ、持ち上げると下ボタンを押して近くへ持って来る。
「クレアが戻って来よったで。
なんやあれ?なんか浮いとるなあ」
「イノシシっぽいのを狩ったんだよ。
浮かしてるのは俺だ」
「なんやて?アンタ、魔法使いなんか?」
「ん?
正確には俺が操作して、このタクシーが魔石の力を使ってあれを浮かせている、と言うところだ?」
「なんや、よう分からん」
吊って運ぶ間に止めを刺したようで、見ると2頭とも死んでいる。
「フォレストボアの番みたいだね。
躱された時どうしようかと思ったけど、すぐ1頭、吊ってくれたから助かったよ。
逃げて誘導しても良かったけど、またイブちゃんに魔石を取られちゃうからね」
首で吊った方は足で吊り直しクレアの掘った穴へ血を落とす。
解体が済むまでは動けない。
メグも毛皮の剥ぎ取りを手伝い始めた。さすがは冒険者と言ったところ。
俺はブルーシートを敷いて肉の置き場を用意するくらい。
あ、そうだ。一度使ったものだが包むのに使う葉っぱを出してやろう。
もう一回くらいは使えるとクレアが言ってたからな。
この葉っぱもまた採取しておかないとなあ。この辺には生えている場所があるんだろうか。こうなると俺の役立たず感が半端ないな……
そうだ。3人に増えた事だし、客席を隔てるアクリルパーティションを外してしまおう。
もうタクシーとしての運用もしてないから、視界の邪魔になる賃走メーターも外したほうがいいかな?
2人が慣れた手つきで解体するので、そう時間はかからなかった。
丸々としたイノシシ2頭。肉は合わせて80kgってところか。
皮と牙を取ってあとは砂に埋めてしまう。肉は後ろに、皮は屋根に積む。
「あれ?なんや広なってない?」
メグが車内の変化に気づいて言った。
「ああ。後席とのやり取りができるようにな、アクリルは外した。賃走メーターもな」
肉を積み終わったクレアが叫ぶように
「次行ってみよう!」
クレアが元気だなあ。
「でもその前に。
メグ、あの辺に使えそうな草が見えてる。
ちょっと採取に付き合って!」
なんか知らんが、薬草の類はいくらでも売れるから、好きなようにしたらいいさ。
クレアの薬草採取は半ば趣味のようなものだと俺は思っている。
よく分からない葉っぱを一握り持って2人が帰ってくる。マメなことだ。
「じゃあやるか」
本日2回目の貝採取だ。
警告の赤文字が踊るまでの100mなんてほぼ一瞬だ。
魔石の搔き出しと、袋に集めてバックしながら回収していく方が大変だ。
それを2回繰り返したところでクレアがストップをかける。
まだ3袋の積み込みがあるが、タクシーの岸側に隠れるようにクレアがメグを引き込んだ。
海面が盛り上がる。何か海から来たってことか?
俺がカーナビ画面を見ると赤い丸が近寄って来る。
とにかく拡大だ。
相手が何か、水の中では全く分からない。
拡大が終わらないうちにタクシーが大きく揺れた。
同時に海水を上から浴びてドガッと大きな音がした。
何かがタクシーに飛びついて、防御結界に弾かれたんだと分かる。
同じことをオークやヌシハンザキで経験しているのだから。
「上よ!
落ちて来る!」
真上か?
ナビの赤丸が自車と同じ位置に見える。
俺はクレーンメニューから適当にフックを赤丸にかけた。
「タケオ、クレーン使ったの?
平たい魚が空に浮いてるよ?」
「間に合ったのか。いや、びっくりしたよな」
「あれ、死んどるみたいやなあ。
ピクッとも動かへんよ」
「そうか。こっちに下ろすぞ」
俺は上ボタンを押してみて、海に移動したので下ボタンに切り替えた。
タクシーから5mくらいの位置に下ろしていく。
「大っきいなあ、クロマンタやね。
コイツは凶暴で有名なんや。
傷なしやからきっと高こ売れるでえ」
見ると幅3m越え、長さも同じくらい、重さで100kgはありそうな大きなエイに似た魚、メグの言い方だと魔物らしい。
「解体できるか?」
「できんこと無いけど、このまま持って行ったほうが喜ばれるんちゃう?
屋根に乗らへんやろか?」
ルーフハンガーには箱を括ってある。
乗せてみて箱が潰れなければ行燈が壊れたりはしない……かな?
こんな大きいものは載せたこと無いからなあ。
ボアの毛皮を一旦下ろし、後ろの方から屋根に被せるようにクレーン操作で下ろしていく。
クレアが位置合わせに押したり引いたりで見てくれた。
背の足りない俺やメグには出来ないことだ。
尻尾と左右の鰭が車体を覆うがなんとか載せられた。
箱も潰れずに保っている。
貝の入った袋を運んで来て、運転席の後ろの窓を開け、クレアと2人掛かりで鰭を持ち上げた隙間から押し込んだ。
ボアの毛皮を掛けて紐でぐるぐると巻いてなんとか固定すると、鰭が覆って運転席のドアすら開けられない。
メグが助手席の窓から入り後ろの席へミミズのように這って移動する。
クレアもだろうが、俺も開いた窓から乗り込む羽目になろうとは、夢にも思わなかったよ。
タクシーは重心が高くなって砂地を不安定に揺れながら走り出した。
道に出ると、来る時に補修してあったことがものすごくありがたい。
元のように穴だらけだったら今ごろは……
「ね!
リペアかけといて良かったでしょう?
タケオのやることに間違いは無いのよ!」
クレアが俺を持ち上げる。
上げたら落とすのが世の常道だ。後が怖いと思う俺だった。
門番の男がクロマンタに覆われるクルマに目を丸くする前を、カードを見せて通過した。
町中でも通る人が指差して来る。
なんだか居た堪れない気分で辿り着いた加工場だが、先触れで走ってくれた者が居たようで、職人さんと力のありそうな男が2人お出迎えだ。
まず俺とクレアが窓から出るのを助けてもらう。
メグは中で待機だ。
紐を解いて毛皮を退けたら、置き台を用意してもらう。
そこへクロマンタを下ろすんだが、クレーンを見せて良いものだろうか?
そんなことを考えているうちに、クロマンタは台の上にあった。男たちがさっさと下ろしてしまったのだ。
メグが降りて来て貝の荷下ろしも始まる。
採取3回分だから昨日より少ないが400個は超えている。
加工場だけで売り上げ査定は1万5千ギルにもなった。
けれど、全額が手元には無いと3回払いと言われてしまった。
急いで金が必要なわけでもない。
約束の証明に書き付けをもらって置くことになった。
「大変だったけどメグの言う通り、そのまま持ち込んで正解だったみたいだな」
「おや。あんたがこのまま運べって言ってくれたのかい?
大手柄だよ。
素人に捌かれた日には半値になるところさ。
クロマンタには色々面倒な処理があるからねえ。
うちも売り上げが上がって万々歳さ」
「いや、そんな!
ウチは、そんな話があるって聞いてたから言うてみただけなんや。
お手柄やって、もうびっくりやがな」
「メグちゃん、照れるな照れるな!
まだフォレストボアもあるからね。
今日は宴会だよっ!」
「そう言えばなんとなくクレアが年上かと思ってたんだが、メグって幾つだ?」
「また、タケオ。女の子に歳を聞いちゃいけないってお母さんに言われなかったの?
失礼しちゃうわねー」
「おまえは普通に俺に教えてただろ。
まあ、そう言うことなら無理には聞かないが」
「ちなみにね、このお爺ちゃん、68歳なのよ」
「ええっ!68?
元気やねー。ウチ、60過ぎた人なんて外で見るんは初めてや。あ、師匠はもっと…」
メグが何かいいかけ両手で口を塞ぐ。
「あー。それね!」
クレアがそれに気付いた様子もなく言った。
話はそこで終わって冒険者ギルド。
メグの昇級点稼ぎにボアを持ち込んだ。
メグの単独討伐で俺たちは荷物持ちって設定だ。
2頭で2800ギル。
荷運びの日当を払う設定で言えば、やや赤字ってとこだな。
タクシーは海水を浴びたから、冒険者ギルドの裏で洗車大会だ。
メグが練りに練った洗車魔法を披露してくれる。
もちろん黒雲なんて呼ばない。
俺が教えた高圧水洗浄はほぼ完璧な出来だ。
この娘っ子が優秀だってのがよく分かるよ。
クレアが、パーティに入れて良かったね、と俺に耳打ちした。
これで始末はついたので、宿に戻って宴会料理の注文を入れ、俺たちはそれぞれ着替えをして食堂に集まった。
クレアが妙に萎らしいので聞いてみた。
メグの歳は18だったと言うんだ。
自分がお姉ちゃんだと思ってたのに、と落ち込んでいるらしい。
そんなわけで楽しい宴会だったが、その夜は飲み過ぎたクレアをメグと2人で部屋まで運ぶと言う、苦行が待っていた。
土曜に3話ペース
元日に7話予定してまーす。
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大体こんな感じでエンタメ性が低いまま物語は続いていきますので、また来週もよろしくー




