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魔法少女と海

人物紹介 (本編はこの下にあります)

 メグ(メグクワイア-ゼーゼル) 18歳

 オレンジブロンドの髪 緑の瞳 身長153cm(推定)

 東海岸 リョウシマチ出身 孤児

 魔法少女 水魔法使い(他に火と風) 短い木の杖を使用 B級ソロ冒険者

 自称叔父に飼われたあと 魔法の師匠(サナエ)の元で数年修行し独り立ち

 東海岸方言にコンプレックスを持っている

 魔力は強大

 南街道をどんつきまで下った町、シーサウスト。

 白い壁の建物が多いのは、食用にもなる貝の殻を砕いて練ったものが、風雨に強いからだと言う。


 尤もこの辺りでは南街道どころか、街道とすら呼ばれていない。


 何年整備していないのか荒れ放題の元街道は、ただ「道」とだけ呼び習わされている。


 冒険者ギルドでパーティに誘って来た少女、自称が魔法少女メグってのもすごいが、タクシーの洗車を即席魔法でやって見せた。


 日本の機械技術が聞いただけで再現できるはずもないんで、最後は俺が手洗いで落としたが、驚いたのはそこじゃ無い。


 なんでかつれない態度をとるクレアに、全く怯む様子もなくずっと付き纏って2日目だ。

 昨日は町を見て歩くのに1日潰したんだが、なんやかやと案内を買って出て、クレアは宿まで紹介してもらってたな。



「それで、わたしは今日はどこを案内すればいいのかしら?」


 宿の食堂にメグが現れて、開口一番に言ったセリフがこれだ。


「おはようが先じゃない?

 あたしはまだ食事中よ」


 そう。いつものように、俺の食い切れなかった分をクレアが片付けているところだった。


「今日は海を見に行こうと思ってる。

 せっかくここまで来たんだしな」


「いいわね、海。

 行きましょう」


「何か準備するものってあるか?」


「何を目的にするかによるんじゃないでしょうか?」


「目的と言われてもなあ。魔石は欲しいかな。

 まずは行ってみるか」


 そんな訳で助手席にはメグが道案内に収まった。


 クレアは順当に後ろの座席へ回ったんだが、少し不機嫌そうなのはなんでだ?


 海までは小高い山の間を抜ける道を通る。

 太い木々の間を縫うように道が続く。


 一本道なのだ、メグの仕事は全くない。


 この道も荒れ方が激しいので、帰りに備え「リペア」をかけたい所なんだが魔石の在庫が心許ない。


 できるだけ穴を拾わないように、ハンドルばかりがやけに忙しいドライブになった。

 なんでそんなに気を使うかと言うと、穴にタイヤを落とすと、助手席の小柄なメグが文字通り跳ね上がるんだ。

 シートベルトはしてるんだが止め切れないらしい。


 両側から枝が大きく被さる中、川に沿って進むと道が大きく回ったあと、木立ちが切れていきなり視界が広くなった。

 草のあまり生えていない砂地が目の前に横たわる。

 視界いっぱいに、小波に反射し煌めく陽光が俺の顔面を打った。


 砂。

 水辺の砂はよく締まっていて、タイヤを取られることはほとんど無い。


 だが、こう言う離れた場所の砂は水気がほとんど無い。


 表面が白っぽいのはその証拠だ。

 サラサラの砂地を走るなら、特大の幅広タイヤが欲しい所だが、もちろんそんなアビリティはない。

 タイヤの径をやたら大きくしても車幅が変わらないので、傾けばあっさり横倒しになってしまうだろう。


「タイヤ径を20センチくらい大きくしとくか」


 カーナビのメニューからタイヤ径を変更すると視点がググッと上がる。


 メグが読めないはずのカーナビ画面から顔を上げて周囲を見回した。


「ねえ、今動かんやった?」

 メグはちょっと驚かすと口調がガラッと変わるのが面白い。


「ねえ、メグちゃん。

 喋り方、そっちだけにしたら?

 丁寧なのは他所行きにしてさ」


「なんやて?ウチがどれだけ苦労して公用語覚えた思てるねん!

 って、しもた!」


「あはは、やっぱりあんた、そのまんまがいいよ」


「そうだな、俺もそっちがいいよ。

 丁寧なのはなんか壁があるみたいでな、やりにくい」


 高い場所は迂回したほうが良さそうだな。


 俺はハンドルを右に緩く切って進み始めた。

 風紋のような波が砂道の表面に見えるが、踏み越える手応えは全く無い。

 やはり乾いたサラサラの砂だな。


 バックミラーには木立が防風林のように続くのが映っている。


 キシキシと砂が軋む振動がハンドルから伝わってくる。

 波打ち際まではまだ距離がある。

 時折、ズッ、と一本のタイヤが空転する感触を挟みながら、タクシーは進んで行く。


 慎重に一定の速度を意識しながら湿った黒の濃い砂地へと辿り着いた。

 ふう、と息が漏れる。


「着いた?」


「ああ」


 クレアがルームミラーの中で両腕を上げ伸びをした。


 隣ではメグがドアのレバーを探して手探りしていた。


「まずシートベルトを外せ。

 レバーはほら、そこだ」


 ベルトの金具をボタンで解除してやると、メグはドアを開けて外に飛び出した。

 客席のスライドドアを開け、俺も降りてみる。


「これが海かー」


 クレアの第一声だった。


 砂浜に打ち寄せる波は50センチくらいに見えた。

 浜辺で遊ぶにはちょうどいいか。


「この辺は大丈夫ですが、波がかぶるあたりは貝の魔物が潜んでいます。

 見ていてください」


 メグは魔法の準備を始めた。

 魔物と聞いてクレアがルーフハンガーから槍を取る。


 短い詠唱だった。

 突然数歩の円形に濡れた砂が上に弾けた。

 それは小さな爆発のようだった。


 噴き上がった砂は辺りにぼたぼた落ちるが、その中に拳二つ分ほどの丸みのある、あれは貝か?

 蛤かホッキ貝といった黒っぽい影が、こちらへ分けたように飛んできて足元に転がる。

 貝の合わせ目が薄く開き小さな管。

 そこから俺たちに向けて液体が飛ぶ。

 液体はガラス窓にでも当たったように途中で止まって下へ落ちた。


 それを見てクレアが槍を突き出す。

 穂先は閉じた貝殻に当たって、貝があらぬ方へ飛んで行った。


「今飛んできたのは毒じゃないけど浴びない方がいいわ。

 顔を狙って来るから気をつけて」


 そう言って貝の一つを指差すと、ポッと貝の周りに火が現れる。

 火力が強いようで、直ぐに合わせ目からブクブク泡が出て来た。

 ついに死んだのか貝はパクンと口を開けた。

 メグはそうやって次々と、降って来た4つの貝を処理していって、一つを拾い上げた。


 俺の手のひらに余るくらいの丸みの強い、黒茶白の斑模様の貝だった。


 メグは腰から解体ナイフを取り出して、貝殻の内側を滑らせるように2度掻いた。

 その度に貝の口は少しづつ開いていく。そして貝殻の縁に両手の親指を当てるとゆっくりと貝を開く。

 中には三日月型の赤っぽい肉、白い貝柱、内臓っぽいもの、そしてタマムシ色の石が縁周りのヒモから顔を覗かせている。


 石は貝の内側と同じでテラテラと光っているようだ。


「中はまだ熱いわよ。食べてみる?」

 メグはそう言って赤い肉と貝柱を貝殻の中で切り分けた。

 海の塩水で煮込まれた貝肉は美味かった。

 醤油があればもっとだろうな。


「これがこの魔物の魔石。

 綺麗な色だけどそれだけよ。

 ゴブリン魔石の半値が相場、大きさの割に魔力量が極端に少ないの」


「名前はないの?」


「カベヌリノカイって呼ばれてるわ。

 なんか変ば感じがするから、わたしはただ魔物の貝って呼んでる」


「壁塗りって……」

「そう。シーサウストの壁に塗っているのがこの貝殻を砕いたものよ」


「へえ。これがねえ」


「ねえタケオ。

 イブちゃんの防御結界って下にも有効だと思う?」


「あー。なるほど、やってみるか」


 クレアが一つしかない採取カゴを後ろから下ろすと、俺は砂浜に打ち上がった波を踏んでタクシーを走らせた。

 砂浜は、向こうの舗装だってこんなに平らじゃないってくらい走りやすい。



 が、無情にも赤い警告灯が目の前のメーターウインドウに灯る。

 もう何度目かの「MSOvFl」だ。


 気持ちよく走った距離は100mもない。

 なんだかモヤッとした気分でボンネットを開けると、MSのキャップを押し上げトレイに溢れた10数個の魔石は、ザラザラと転がってパチンコ玉のように見えた。


「この容器が小さいってのも考えものだな」


 走り回る分にはいいんだが、魔石回収を大量にやると警告灯がうるさいんだよ。


「タケオー。

 すごかったよー」


 クレアの声がなんかはしゃいでる。

 見るとメグと2人でカゴを持って貝を拾い歩いている。

 砂浜はそこらじゅうに貝が転がっていた。

 俺もビニル袋を持ち出して回収に参加したが10と少しも入ると重くて、持ち運べない。

 砂浜に袋を転がし次の袋へ拾っていく。

 クレアたちもカゴを諦めて袋を取りにタクシーに行った。


 クレアがタクシー(イブちゃん)をそばに連れて行って積むんだと、メグに説明する声が聞こえた。


 貝の入った袋は12個を数えた。

 全部で50枚くらいは積んであったはず。


 集めて休憩を挟んでまた浜を走り出す。

 やや100mを走ること4回。

 貨物スペースはクレアの座る席の分が1列を占めるのでそう広くできない。

 運転席の後ろにも6つの袋を押し込んで、お昼は貝のバーベキューだ。


「半分でこの量だからねえ。

 イブちゃん恐るべし!」


「半分って?」


「あれ、タケオ、気が付いてなかった?

 貝はタクシー(イブちゃん)の両側に飛ばされてたんだよ?」


「半分は海に落ちてましたよ。

 海には魚やカニ、他の魔物なんかもいますから、きれいに食べてくれるでしょう」


「そうか。

 戦後の物のない時代に育ったからなあ。どうも貧乏症でいけねえや」


 町で買って来たパンにメグの魔法で焼いた貝、干し肉と野菜を刻んで煮ただけのスープだが、波の音を聞きながら陽の下で車座になって3人で食べるのは美味しかったよ。


 町へ戻って商業ギルドにまた紹介状を書かせ、加工場に貝を持ち込んだ。

 メグの昇級点にはならないが、こっちの方が2割近くも高く売れるし、俺たちの取引累計額も上がる。


 パーティを組むならそのあたりは話し合いが必要だろう。


 加工場では2人の年配の女性が600個からある貝を、瞬く間に殻を外し身を分けていく。

 熟練の職人ってやつだ。

 魚やカニの類もここで加工できるそうだ。


「これ、なんで魔石がないんでしょうね?

 こんなにどれもこれも魔石がないって、なんかおかしいですよ?」


 あちゃあ。なんて言い訳したものやら……


「わたしは魔法少女です。

 討伐した時に魔石を回収したんです」


 わ。言い切ったよ、この娘っ子!


 職人さんは怪訝な表情をしたが、ないものはないで納得したようだった。


 すげえな、魔法少女!


 貝の売却額は9000ギル。


「頭割りってことだったよね。

 1人2250ギルになるわ。

 これがメグの取り分よ」


「あら。3人で分けるのじゃないの?」


「あのね。イブちゃんがいるでしょ?

 4人って言っていいかわかんないけど、割るのは4です。

 今日一番活躍したのは誰?」


「それは確かにそうやけど。

 そやかて、この子、頭なんかあらへんやん」


「それは屁理屈ってものよ、メグ。

 稼ぎの一番いいイブちゃんを除け者にはあたしがさせないわ」


「うう!

 まあ、金額は悪うないけど、ほんまにそれでええんかいな。

 タケオがその金、預かるんやろ?

 それって取り分ちゃうんかい」


「その辺はパーティの共同資産って感じに使ってるわ。

 街道の補修なんかもしてるし」


「街道の補修やて?

 そんなん、領主の仕事やないかい。

 なんでそないな…」

「道が悪いと流通が滞るんだよ。

 俺たちも移動に時間を取られるし、何より乗り心地が悪過ぎる」


「そら、確かにそうやけど、なんで?言うんはあるで」


「いいじゃないのよ。

 悪いことしてるわけじゃないんだし、たまたま誰かの得になってるだけの話だわ」


「で、それには魔石が要るんだ。

 リペアってのがあってな」


「ちょっと待ちなさいよ、タケオ。

 まだメグを入れるって決めてないのよ?

 そんなのは後にして」


「なんかおかしいない?

 ウチがパーティに誘ったんやで?」


「いいえ。

 あたしらは既にイブちゃんタクシーって言うパーティなの。

 冒険者ギルドに登録もしてたんだから!」


「まーたややこしいこと言いよるなあ。

 冒険者ギルドに籍なんかあらへんやん。

 パーティはウチが登録せんやったらデキひんやろが」


「正式にはそうね。

 あたしたちから誘ったわけじゃ無いんだし、そのパーティの話は無かったことにしましょ?」


「ちょ!

 待ちいな!

 あー!もう分かったで、分かりました。

 クレアの言う通りに致しますよって、パーティに入れてください!」


 こうして非公式のパーティ、「イブちゃんタクシー」にメグの参加が決まった。

2話目でーす!

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