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商業ギルド

人物紹介 (本編はこの下にあります)

 ナレスカ 53歳 女性

 銀の短髪 身長166cm(推定)

 ヨクレール冒険者ギルドマスター

 元Aランク冒険者 プロレスラー並みの肩幅の広い筋肉質 今もトレーニングを欠かさない

 ヨクレールの宿屋で野菜類とイタチ肉を下ろしたけれど、まだ荷台には薬草類が残っている。

 これを買い取るのはこの辺りではギルドだけだ。

 ギルドカードのことを聞きに行くにも敷居が高いからな、手土産がわりといったところだ。


 ギルド前にタクシーを着けると2人で買い取りカウンターまで袋を運ぶ。


「クレアじゃねえか。

 ちょっと見なかったな?」

 買い取りカウンターで担当の親父から声が掛かる。


「エンスローに行ってたんだ。

 こっちは変わりなかった?

 大雨が降ったでしょ?」


「ああ。北の方は大変だったって聞いたな。ここらは大丈夫さ。

 今日は薬草か?

 バタドリの皮はオークションで高値がついたぞ」


「うん、でもその話の前にギルドカードの話をしてくるよ」


「カード?なんかあったのか?」


「うん。まあ、先に受付に行って来る」


 俺も親父に一礼するとクレアに続いた。


 受付ではベティが笑顔でお出迎えだ。


「しばらく振りね?クレア、タケオ。

 エンスローは楽しかった?」


「それなりにね。

 ねえ、あたし達のカードについて何か聞いてる?」


「そりゃ聞いたわよ。

 速攻、どう言う事ですかーって問い合わせたらね、ゴブリン討伐をギルド通さないでやったんだって?

 しかもそれでホブとメイジに、20からのゴブリンを討伐したって言うじゃない。

 いくらエンスローが大きいったって、そんなの普通の成果じゃないんだけどね。

 登録抹消だなんて横暴もいいところだわ!

 その件でギルマスが話があるんだって。

 来たら案内することになってるの。

 行くわよ」


 ギルマスという人には初めて会うな、と思いながらベティ、クレアに続いて登った階段の奥、分厚い樫の木を思わせる立派な扉があった。


 先に立つベティはノックし、(おとな)いを入れる。

「タケオとクレアを連れて来ました」


 耳の遠い俺には何も聞こえなかったが、応答があったんだろう、ベティが扉を引き開けた。


 入ってみると正面の大きな机以外は簡素な部屋だった。

 目立つのはそこに座る人物と床にまで積み上がった紙束だ。

 右手にもう一人痩せた男が書類を捲り、幾つかの山に仕分けをしているらしい。


 正面の人物は体格のいい……女か?

 いつだったか女子プロレスの興行で見たような、俺より広い肩幅に太い二の腕。

 胸に大きな2つの物体が無ければ、女だとは誰も思わないだろう体格をしていた。

 逞しい上体につい見入ってしまったが、顔を見れば短髪に揃えているがなかなかの美女だ。

 気の強そうな瞳が何かの光源を反射するのか、(みどり)色に見える。

 30代か?


「クレアは一度会っているな。

 あたしはギルマスを仰せつかってるナレスカだよ。

 あんたがタケオかい?

 歳は幾つだね」


 思ったより高い声だ。


「68だよ」


「ほ。見えないねえ。

 聞いてると思うけど、エンスローからあんた達の登録抹消、カード剥奪って指示が来てる。

 格はあっちが上だが、うちで登録した冒険者を、はいそうですかと切り捨てるわけにもいかないんで問い合わせをしたんだ。

 帰って来た理由ってのが、無断ゴブリン討伐だそうだが、その辺りはどうなっているんだ?」


「依頼を受けたのはエンスローの北門の先にある山菜の直売所ですけど、ギルドが見かけたゴブリン4匹の討伐を受けてくれないっていうんで、調査がてら山へ入ったんです。

 あー。討伐報酬は3000ギルでした。

 それで、ゴブリン20数匹に、ホブゴブリンにゴブリンメイジを1匹ずつ倒して、依頼のお金を受け取りました。

 ゴブリン集落の線があると思ったけど、山中の調査なんて二人じゃできないから、エンスローのギルドに報告に行ったんですけど……」


「なるほど。

 その前にスライム魔石がどうのというのも聞いているんだが、そっちも教えてもらえるかい?」


「ええと、カイの村で畑の作物、コンテンショが食い荒らされるって言うんで、間引きをカイの雑貨屋さんから請けました。

 100匹くらいって話でしたけど400くらい倒して、その時に300いくつの魔石を採取できたんです。

 スライム魔石なんて初めてだからギルドに行けば情報料が出るって聞いて、エンスローのギルドへ行きました。

 サブマスのデマホーから情報料の5000は貰ったけど、魔石は一つ10ギルだって言われて、断りました」


「デマホーか。

 昔の話だが同じパーティにいたことがある」


 女と言うのにギルマスの筋肉隆々の腕を見れば元冒険者というのも頷ける。

 しかし、デマホーと同じパーティだったとは驚きだ。


「あれはAランクでも上位の攻撃魔術師だった。

 それが色々あってギルドのサブマスターに収まったんだが、魔道具に入れ込んでいてな。

 珍しい魔石を確保したかったんだろう」


「だからってあんな対応は無いわよ。

 タケオがキレてお前には売らんって言ったくらい!

 失礼なんてものじゃなかったんだから!」


「そうか。

 それでゴブリン討伐で籍の抹消に繋がる訳か」


「えー?

 何?先に機嫌を損ねたのが悪いって言うんじゃないでしょうね!」


「クレア、落ち着いて。

 そんなこと言ってないでしょ?」とベティが宥める。


「デマホーは妙に生真面目なところがあるんだ。

 そう言うこともありそうだと言うだけだ。

 苦情を入れたから何らかの動きはあるだろう。

 だが受けた指示は、あんたらには悪いが守らなければならない」


 そこで困ったような表情で言葉を切った。


「ベティ。二人のカードを受け取ってギルド預かりにしておいてくれ」


「分かりました。手続きを始めます」


「まあ、そんなわけだ。

 力不足ですまんな。

 こちらも少し動いてみるから、しばらく辛抱してくれないか?」


「薬草を持ち込んだんですけど、それってどうなりますか?」


「薬草か。その代金も預かるほかないな。

 そう言えばバタドリをオークションに出していたな。

 あれの売り上げはこの話の前だから、払ってしまおう。

 ただ、その話は他ではしないようにしてくれ」


 話はこれで終了か?

 今後は毛皮その他の買い取りは期待できないのか。

 エンスローまで行けばスイフナール商会で売れるからと言っても、そうそう(かよ)ってもいられない。


 俺たちは階段を降りて受付カウンターへ行った。


 それぞれのカードをベティに渡し、先日のバタドリの皮の代金18500ギルを受け取った。


「カードが無くなると街の出入りが不自由になるよ。

 商人ギルドに紹介状を書いてあげるから行ってみなさい」


 ベティはそう言って2通の封書を出してくれた。

 おれには読めない文字で何やら書いてある。


 受け取ってタクシーに乗るとクレアが言った。


「この紹介状、裏書きがギルドマスターになってるよ。

 あたしたちが来る前から用意してあったんだね」


「そうか。色々心配をかけてしまったようだな」



 商業ギルドの建物は同じ通りのそう遠くない場所にあった。

 建物自体は冒険者ギルドの半分くらい、ただ、馬車を停める広場と馬房がやたら広い。


 俺は入り口近くの馬車が停めにくい片隅に、こじんまりと駐車した。


 ホールに入ると左に受付けがあり、同じ高さの取引カウンターが続いて数人の黒服がその内側に立ち、客が2人商談中らしい。


 中央の、向かい合わせのカウンターは向こうの銀行などで見たものと似ている。

 簡単な書類を書いたりするものらしく、書類用の小物類が置いてあった。

 その近くには囲むように簡素なベンチが並ぶ。


 右手には衝立で仕切られたテーブル席が5つ並んでいる。簡単な商談スペースのようだ。


 ホール正面にドアが3つ、受付横とテーブル席の片隅にそれぞれ階段がある。

 上を見るとそう高くもない天井に魔石灯がいくつも見えた。


 冒険者ギルドとは全く違う静かな雰囲気の中に、微かな話声だけが漂っているようだった。


 俺たちは受付で痩せた短白髪の初老の男に紹介状を出した。


「商業ギルドに登録したいんですけど」


「こちらで確認します。よろしければ掛けてお待ちください」


 そう言って封書を改め始めるので、俺とクレアは近くのベンチに腰掛け、待つことにする。


 カウンター奥の棚には様々なものが置いてある。

 ここから見える限りでは大きな鈍い青を反射する鉱石、花瓶や壺、百科事典のように装丁の揃った分厚い本が10数冊並び、凝った模様の見える小箱などなど。


 興味深く眺めていると

「お待たせしました。

 タケオ様、クレア様でございますね? 

 私は本日の受付を担当いたします、アントワースと申します」


「はい」


「当商業ギルドへの登録でございますが、露天商、行商、運送業、宿泊業、卸業、小売業と種類がございます。

 どれを選んだからと言って、全く他の形態で取引ができないわけではありませんが、取引額が大きくなる場合ギルドへの申告が必要になります。

 具体的には5000ギル以上、税が発生する場合ですね。

 ご存知の通り、5000ギル以上の取引では1割の税を国に納めなければなりません。

 その代行を商業ギルドが、お付け頂く帳簿に従って徴収、納付いたします。

 そのため年に1度はギルドに足を運んで頂く必要がございます。

 ここまではよろしいでしょうか?」


「その種類の違う取り引きってのは手続きが面倒なのか?」


「帳簿をお付けいただいておりましたら、そちらを確認しギルドが代行します。

 日々の商取引の日付、内容、金額を記入いただいておりましたら、後はさほどの手間は取らせません。

 こちらにいらした時にまとめて、と言うことでも半年を超えなければ結構です」


「それで、その帳簿っていうのはどんなのですか?

 あたしが書くことになると思うんで、難しいと困るんですが」


「帳簿はこちらでございます。

 1000ギル以上の売買について記入いただきます」


 えーと? って読めねえか。

 クレアがクスッと笑い指差しながら教えてくれた。


「この列が日付。次が取り引きね。

 売り上げと買付けは別の列に書くんだ?

 いろんなものを売ったら全部ここに書くの?」


「そうですね。お客様は冒険者からの移籍でございますから、魔物によっては様々な素材を売られることでしょう。

 それをいくつかに分散して売ることもあろうかと思われます。

 その場合、分かる範囲で結構ですので、例えばゴブリン魔石5個、オーク魔石1個、オーガ魔石1個とこのように3行使いまして、日付と金額の方は上の行にご記入下さい。

 複数品目の場合、皆様そのようにしておられるようです」


 差し引き残額を書かない小遣い帳みたいな物か。


 クレアと俺が頷くのを確認して

「お客様の来歴を考えますと行商がよろしいかと存じますが如何いたしますか?」


 クレアがちょっと首を捻ったが頷いた。

 あちこちに移動する予定の俺たちには良さそうだ。


「では、次にランクに付いてご説明致します。

 現在は登録し立てですのでFでございますが、年間の取引額に応じてランクが上がります。

 3年を通じて取引額が基準を満たさない場合には降格もございます。

 ランクにより商業ギルドの施設利用などの特典がございますが、当面はよろしいでしょう。

 それと当ギルドに登録されますとランクに応じ年会費が必要となります。

 Fの場合、商標当たり1000ギルとなっております。

 以降、ランクが上がるごとに倍々に増加致します。

 ここまでよろしいでしょうか?」


「税を払って年会費もですか。

 それで俺たちに何かメリットがあるんだろうか。

 もちろん身分証明になるのは有難いんだが」


「そうですね、冒険者の方ですから冒険者ギルドと比較してみましょうか。

 冒険者ギルドは依頼の達成と素材の持ち込みにお金を支払いますね。

 その額は市場価格の大体3割引きです。

 その差額の理由は、こちらでも徴収させて頂く税の他に、冒険者育成、職員の給料、建物の維持費等々に使われます。

 対して商業ギルドでは、税以外の諸々はお客様がそれぞれ対応されます。

 私どもはこの建物、職員の維持費として年会費をいただきますが、ギルドとしての商取引も行っていますので、会員様のご負担は幾分軽いものになっていると存じます」


 まあここの商人は知らないが、よその街へ物を運ぶについちゃ、護衛を雇ったり大変な経費をかけることもあるって辺りか。


 おっと。これも孫と見たアニメの受け売りだったな。


「他に気になるようなことがありましたら、遠慮無く申し付け下さい。

 こちらがお二人のカードでございます」


 こうして俺たちは冒険者から、行商人へのジョブチェンジってやつを果たしたわけだ。

面白いと思っていただけましたら評価よろしく

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