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ヨクレールへ帰還

人物紹介 (本編はこの下にあります)

 ナブラ 46歳

 身長 155センチ(推定) 茶色髪で後ろで団子にまとめている

 小太り体型 ヨクレールの名のない宿の女将さん

 元Bランク冒険者

 快活で面倒見のいいところがある

 子供がいないためクレアを子供のように可愛いがっている

 エンスロー、スイフナール商会。


 雨で食らった足止めは2日に及んだ。

 おかげでゴタゴタあったが、ここまで辿り着いたところだ。


 執事という肩書きでいいのか、アズスイフばあさんが会議中だというので、受付でサパスが淹れてくれたお茶を飲んでいる。

 クレアは一緒に出された茶菓子に目を輝かせている。


 ここのは砂糖が使われてるから、一昨日からずっと楽しみしていた。


 こんなふうに待たされるのは仕方のない事だ。

 街に住む有力者なら、使いの者を先触れに時間の予約や調整ができるが、突然現れる俺たちのような者は、どうしたって後回しになる。


 このお茶が一杯、余計に飲めると思えばありがたいくらいだ。


 クレアがすっかりくつろいでしまった頃、サパスが現れ

「頭取がお会いになります」


「分かった。すぐに行く」


 相変わらず頑丈そうな扉の前まで先導されて、ノックを3回

「タケオ様、クレア様がおいでになりました」


 分厚い扉の向こうから聞こえた声はなんと返したのか分からなかったが、サパスが扉を押し開けて、一歩横に寄った。


 俺は黙礼一つを返すと、中へ入った。

 クレアが後ろに続く。


 窓の外の箱詰め花壇に青い花が揺れている以外、相変わらず贅沢な執務室だ。


「サイダからの道が水没したと聞いた。

 大事無かったようで何よりだよ」


「ええ。

 狭いタクシーでタケオとふた晩過ごしましたが、楽しかったですよ?」


「約束したスライム魔石を持って来た。

 ここに782個ある」


「話よりずいぶん多くないかい?」


「カイの連中は、沼の中まで数えられないってところだろう。

 今回は勢子を使ってほぼ狩り尽くしたから、しばらくはスライム被害が無いんじゃないかな?」


「すごかったよー。

 イブちゃんがバタバタ、スライム弾きながら通ると、潰れたスライムで足元なんか、そこらじゅうヌルヌルになったんだから!」


 アズスイフは想像してしまったのか、顔を歪める。


 俺は両手に収まるくらいに膨らんだ皮袋をテーブルに置き、口を開けると3粒ほど取り出して横に置いた。


「聞いた通り小さな魔石だね」


 扉から3回のノックの音が響く。


「専属鑑定士を連れて参りました」とサパスの声。


「ああ。入りな」


 まず入って来たのは若い小男。

 サパス同様黒服に身をかためている。

 続いてワゴンを押したサパスが入って来た。


 小男はまだ座る場所があるというのに、どこからか簡素な丸椅子を持って来てテーブルに着いた。


「うちで鑑定士をしているイメキキだ。

 イメキキ、この魔石を見ておくれ」


 イメキキと呼ばれた男がテーブルから一粒指で摘んで顔の前へ持って行く。


 その間にサパスが慣れた手つきでカップを配っている。

 カップからは先ほどのお茶とは違う香りが立ち上っていた。

 スプーンの載ったトレイ、砂糖壺、最後にお茶請け菓子の盛られたカゴ。


 イメキキを見ると右手を顔の前で構えたまま、目を閉じていた。


「ああ、そっちはもう少しかかると思うよ。

 先にお茶を楽しんでおくれ」


 ばあさんがそう言うんなら。


 クレアは砂糖壺から3杯掬ってニコニコとかき混ぜ始めた。


「デマホーについて調べて分かったのは、魔道具師に繋がりがあるって事だね。

 ギルドを通さず魔石を流している疑いがあるよ。

 ずいぶん研究熱心らしくてね、幾つか珍しい魔物の魔石を冒険者から買い叩いたって、これも噂だね」


「ちょっと宜しいでしょうか?

 この魔石ですが、大きさの割に内包する魔力量は多いようです。

 魔力濃度がオーガに匹敵するくらいありますので、魔力量としてはゴブリンやグレイウルフのものと同等と言えます」


「ほう。

 そいつは驚いたね。

 小粒だから一つ10ギルってのは如何にもな話さ。

 こいつは傑作だね」


「グレイウルフと同じならたった1割に値切ったって事?

 ひっどい話だわ!」


「値切ったのは確かだけど、このサイズの魔石を取り込める魔道具はまだ無いからねえ。

 でもまあ、道具が小さくできるのは良いことさ。

 当座は値が下がるかも知れないが、半値ってことはないだろう。落ち着くところへ落ち着くよ」


「ですが頭取。

 魔道具が小型化してそれが主流になると、グレイウルフやゴブリンが値崩れ致しませんか?」


「そりゃ下がるだろうさ。

 それこそ今の半値だろうね。

 古い魔道具を使い続ける人もいるだろうから、無くなりはしないだろうけどね。

 ああ。イメキキ、お前はもう良いよ。

 下がっておいで」


「分かりました。では失礼致します」


 鑑定士が部屋を出ていくと、


「それじゃ今回持ち込んだ分はグレイウルフと同じ、一つ100ギルで買い取ろうじゃないか。

 次からの分は様子を見て値を決める。

 商会はこの小粒に合わせた魔道具を開発するよ」


「次って言っても、カイは根こそぎにしちまったぞ?」


「なに、次というのは何ヶ月か後の話さ。

 スライムは他でも出るんだ、必要になったら情報は回すよ。

 サパス。出入りの魔道具師に、これが使えるように仕立て直しを指示しとくれ」


「かしこまりました。

 当面は今出回っているものの改造という形で進めます」


「ああ、そうしとくれ。

 小粒の魔道具が出回り始めたら、デマホーとギルドがどんなに慌てるかねえ」


 アズスイフは足代だと言って、代金を8万ギルに切り上げてくれた。

 ついでなので、マッドエイプとシルバーフェレット、それにグレイウルフの毛皮も引き取ってもらう。


 ギルドより高値をつけてくれたと、クレアが喜んでいた。

 今はギルドに行けないからなあ。


 なお、商業ギルドに納める税は今夏に限りスイフナール商会で払ってくれると言う。

 買い上げの1割なので、9千ギルになると言うことだった。


 俺たちはその金でポーションを10本仕入れ、ヨクレールに戻ることにした。


 ギルドカードの件はヨクレールのギルドで相談してみるつもりだ。


   ・   ・   ・


 カイの村に寄ると、雑貨屋店主兼ギルド職員のデンストロは上機嫌だった。

 スライムがほとんどいなくなったと言って、隣近所の農夫から野菜を集めて持たせてくれた程だ。


「わあー。ありがとう!

 ヨクレールの宿で美味しい料理にしてもらうよ!」


 クレアはそう言って喜んだ。

 自分で料理すると言わないところが俺にはありがたい。


 俺たちのカード失効の件は、何も言わないところを見ると知らされていないのだろう。


 カイで車中1泊の後、「リペア」で道を直しながらヨクレールへ向かう。


「魔石が心許ないな。

 あそこで狩っていくか?」


「黒の森?

 いいんじゃない?

 あんまり奥には行けないけど」


 いや、おまえ、奥までいかなくても結構酷い目にあってるだろ!?


 クレアのさも当然と言った返事に、俺は声に出さないツッコミを入れたが、言い出したのは俺だ。

 南街道に幾つか見えている大穴を残し黒の森へと道を逸れた。


 あの大雨の影響があるかと思ったが、何も変わらない草原がそこにあった。

 魔石ばかりと欲張らず、取り敢えず薬草採取のエリアへ入る。


 俺がカーナビを見張っていれば奇襲されることもない。


 そういう予定だった。


 確かに奇襲は事前に押さえた。


 青い毛皮のブルーミンクが2匹、それにお馴染みのゴブリンが3匹。

 2時間くらいかけて薬草、毒消し草、臭み消しのハーブを何種類か。


 手持ちのビニル袋のいくつかは、集めた草でぎっしりと言っていい。


 魔石の稼ぎは思ったより少ないが、こう言う時もある。


 当てが外れた感じでタクシーはヨクレールの町へ入った。


 久しぶりに見るヨクレールの町。

 エンスローを見た後ではずいぶん小さく感じる。


「なあ、何日振りだ?」


「えーと…12…かな?」


 そうか、そんなに離れていたか。


「よう、クレア!

 しばらく見なかったな!」


 門番の髭面は警戒する様子もなく駆け寄って来た。


「グレイル、おはよ!

 エンスローへ行ってたんだよ!」


「へえ?

 それにしちゃ大荷物じゃないか。

 黒の森に寄ったのか?」


「おおー!ご明答!」


「そりゃ荷台が一杯だもんな。

 ずいぶん色々採取したんだな」


「あはは!通るよ!」


「ああ。長旅だったんだからゆっくり休めよ!」


 うーん?俺は一言も喋ってないぞ?

 クレアとタクシーで顔パスはありがたいんだが、俺はオマケか?


 クレアが青い目を煌めかせてせがむ。

「さあ宿へ行こう!宿!」


「最初からその予定だろ」


 タクシーは辻を2度曲がり、宿屋の通りへ入る。


 ナブラが入り口前の掃除をしている。


 こちらに気が付いて悲鳴のような声を上げた。


「クレア!帰って来たんだね?

 危ない事は無かったんだろうね?」


「ナブラ!

 大丈夫だよ、イブちゃんもタケオもいるんだから!」


「そうかい、それならいいんだ。

 それにしてもまたぎっしり詰め込んだもんだね」


「うん。帰りに黒の森に寄ったんだよ。

 カイ村の野菜とハーブがあるよ。あとイタチ肉もあるんだ」


「カイで野菜なんてよく買えたね?

 あそこの作物はみんな王都へ行くはずだよ?」


「畑がスライムに荒らされて困ってるってのをあたしらが討伐したんだ。

 そのお礼だって」


「へえ。野菜をお礼するほどの活躍かい。

 それは大したものだよ。

 野菜やハーブはうちに卸しとくれよ。

 厨房は朝食の準備が終わった頃さ、今なら手伝いが何人かいるんだ。

 降ろすのは任せな」


 相変わらず切り替えの早いナブラだった。


 ナブラが、タクシーの開いたバックドアの下で手伝いの二人と俺たちに降ろす物の指示をして、ほとんどがここで降ろされた。

 前回2回分の精算が6300ギル、今回の分は800ギルということで、そのまま朝食をご馳走になった。

 ここ2日ほどまともな料理を食ってなかった俺たちは、久々の宿の料理を堪能した。


 俺の食いきれない分はクレアが綺麗に片付けていたよ。

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