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雨の南街道

2話目!

 俺たちはエンスローに向かっている。

 目的のスライム魔石はたっぷり……

 根こそぎかも知れんが、村の人らが喜んでたから良いだろう。


 

 今日は朝から雨模様だ。ワイパーが酷くセカセカと仕事している。


「タケオ、道の穴、直しといて良かったねー。

 前のまんまだったら、浅い水溜りと穴ボコの区別なんてつかないからねー」


 確かにそうだな。雨が降って見ると、道の部分が周囲より低くなってるのがよく分かる。

 馬やら、重い車輪やらが何度も踏み付けるせいだろうか、走ってみると道幅一杯に泥水が溜まってるなんてザラにあるんだから。


 俺たちはカーナビのマップでリペア跡を見れば大体の見当は付くから、反対車線を通るとかできるけど、それだっていちいち確かめるってのは面倒なことだ。


「こんな水の中で車輪を落としたら、引っ張り上げるの大変なんだから!」


「ああ。目に見えるようだよ。

 着てるものなんか、頭のてっぺんからつま先までビッチャビチャのドロッドロだ。

 それで上がればいい方……って、思い出しちまったじゃないか!」


「わわ、なに急に怒り出すかなあ?」


「いや、昔のことだよ、気にすんな」


「ふうん……」


 クレアには悪いが、あんまり胸くそのいい話じゃねえ。

 クルマに乗って、もう50年も経つんだなあ。


「今のクルマは良くなったって話さ」


 クレアはひとつ首を振ると、カーナビ画面を開いてメニュー探索を始めた。

 こう見るものがなくちゃ退屈だよな。


 画面を見て、しきりに頷いていたクレアが

「ねえタケオ。

 イブちゃん、レベル5だって。

 なんかメニューが増えてる。

 選択できるのが増えたみたい」


「なんだそりゃ?通信って書いてあるな。

 だがどこと通信するんだよ?」


「知らないよ、そんなこと。

 心当たり、ないの?」


「心当たりってもなあ……」


 俺は無線が好きじゃないんで積んでない。

 通信って言やスマホと協会支給のガラケーがあったっけ。こっちに基地局なんかあるわけないから圏外だってんで、スイッチ切ってそのまんま……

 って、アレか?


「アレかも知れねえ」

 俺はタクシーを左に寄せて停めた。

 この酷い雨で通る奴なんかいないだろうが、一応な。


 左側に付いてる肘掛け兼物入れ。

 中には営業用のバッグがしまってある。

 入ってるのは釣り銭用の細かいのが2万円分。

 ここじゃ使い道はない。

 カードの類は持ち歩かないから、あとはスマホとガラケーが入ってる。

 こっちに来た時に圏外を確認して仕舞ったはず……ああ、あった。


「タケオ、それは?」


「こっちがスマホ。こっちの折りたたみはガラケーだ。

 通信できる物って言えばこれしか思いつかん」


 二つとも電源ボタンを押して見る。

 起動に時間がかかるのは変わっていない。

 それぞれメーカーのロゴみたいのが出てお馴染みの表示になった。


 ガラケーの方は、電話とメールの機能しか使ったことがないし、それで充分用は足りた。


 スマホには沢山マークが……アプリだかアイコンだかが並んでたはずなんだが、ずいぶん少なくなってる。


 俺がよく使うのは地図とSMSとか言う文字を送るやつ、あとは電話だけだ。


 アンテナが3本表示になってるな。圏外はどうなったんだ?


 ガラケーには自分の番号がシールで貼ってある。人に番号を聞かれても覚えちゃいないんでな。


 スマホを裏返したりして見ているクレアから、ちょっと借りる。

 電話を開いてガラケーの番号をにかけてみた。


 10秒くらい待ってベルが鳴るのも変わらない感じだな。


 スマホをクレアに渡し、俺はガラケーの応答ボタンを押した。


「どうだ?聞こえるか?」


「ん?んん!?

 タケオの声がこっちからも聞こえる!」


 目の前で喋ると電話の方がちょっと声が遅れるんだ。


「クレアの声もこっちで鳴ってるよ。

 聞いてみるか?」


 ガラケーとスマホを交換しておなじことをしたあと、発信と着信の練習をさせた。


 スマホもガラケーも電話以外の機能は反応がない。

 電話だけだとクレアと一つずつ持っても、ほとんど一緒に居るから対して役には立たないか?


「通信ねえ……」


 クレアが新しいおもちゃを手に怪訝な顔で俺を見た。

 外はワイパーの働くフロントガラス以外、雨で煙って動くものもない。


「そのスマホはな、地図が出せるし案内もしてくれる。

 あとは翻訳か。外国人が乗った時には使い方を聞いておいて良かったと思ったっけ。

 カメラもあったな。

 まあ、色々使えるんだ。

 さっきやった電話は別の街にいても話ができる」


 俺はクレアの困惑顔を見て笑った。


「まあ、見なきゃ分からんよな。

 俺もこのクルマが何で動いてるのかさえさっぱりだからな。

 多分だが、その通信を追加すると、そう言ういろんな機能が使えるようになるんじゃないかな?」


 そこまで言って「○日間お試し無料」って言葉が浮かんだ。

 そういや向こうは商業主義とやらで、山ほど広告を背負わせた無料サービスが出回ってた。

 こっちでなんの宣伝をしたいのか分からんが、そう言うのもあるんだろうか?


「どんな機能が使えるんだか分からんが、やってみるか?」


 余程退屈してたんだろう。

 クレアは頷いた。


 通信を選択したあと、スマホの操作……

 と言っても画面をチョンと触るやつ、1本指で縦横にずらすやつくらいだが……

 ちょっと教えて運転に戻る。


 両側に草木があって、雨で視界が悪いが道路が泥水で埋まっていても道の場所はわかりやすい。


 洪水になる程は降ってないので、このまま行けると思っていたんだが。

 目の前に泥海があった。


 流れている様子はないが、向こう岸は50mくらい先。

 あそこまでクルマが走っていける深さなんだろうか?


「クレア、ここって地形はどうなってた?」


 俯いてスマホをいじっていたクレアが声を上げる。

「わ!なにこれ!

 すごい水だね、ちょっと待って。

 カーナビでわかるかなあ?

 引き返した方が良くない?」


 言いながらナビ画面で地形を見て行く。


「ほら、ここだよ。なんか深そうだよ?」


「迂回する道は……あるわけ無いか。

 行った事のない道は地図に出ないんだし。

 それに変に通りの少ない道は、なおのこと危ないよな。

 これは高い場所まで戻って、車内泊だな」


「車内泊?

 ここで寝るの?

 やったね!」


 妙に喜んでるな?

 とにかく向きを変えないと。

 丈の高い路肩の草を目印にバックで切り返す。バックモニターってのでナビの画面に後ろの画像が出るんだが、カメラじゃどうも遠近感が掴めない。

 ついついドアを開けて肉眼で確認してしまう。


 クレアが不思議そうに見ているが、骨董品みたいな運転手だ、そんなものだと思ってくれ。


「少し戻ると林があったよな?」


「あたし、これ見てたからね。分かんないよ?」


 あ、そうか。スマホ見て下向いてたもんな。


 覚えのある木立が道路に沿って並ぶ、小高い場所にクルマを停める。

 下手に端へ寄せて溝にでも落ちたら厄介だから、そこはテキトーにしておくさ。


「揺れるから、ちょっと気持ち悪くなったよ」


「そりゃ、クルマ酔いって言うんだ。

 風に当たって遠くを見てれば治まるだろう」


 クレアは雨粒が吹き込まないように5cmほど窓を下ろし、隙間から外を見始めた。


 膝の上のスマホを取って俺もちょっとやってみる。


 「通信」ってのはどのくらい使いでがあるのか見ておかねえと。


 ええと、まずは番号登録か。

 発信履歴から名前の登録はどうやるんだっけ……

 ああ、こうか。


「タケオのガラケー」

 これでいいや。こっちは俺が持つつもりだからな。


 ガラケーの方にも着歴から「スマホ」と登録した。

 しばらく触ってなかったから手つきが怪しい自覚がある。


 次はメッセージか。

 ガラケーからだと、メニューから文字を打ち込む画面まであちこち選んでいくんでめんどくさい。


「元気になったか?」と打ち込んで「スマホ」に送信っと。


 ピコンとスマホから音が鳴る。

 クレアがこっちを振り向いた。


「ほれ。メッセージ送ってみた」


 スマホのメッセージを開いてを見せると

「なんて書いてあるの?

 これ読めない」


「あ。

 そうだった。

 俺もこっちの字は読めないな」


 あれ?

 クレアに打たせるなら、キーボードもこっち仕様が要るのか?

 こりゃ連絡は電話だけかな……

 待てよ?


「翻訳ってのがあるんだが……」

 そう上手く行くとも思えないが。


 「翻訳」のアイコンに触って、起動させると設定を選んだ。

 えーと、日本語と……こっちの言葉は何語って言うんだ?

 なんか看板で見たそれっぽい字が3種類くらいあるな。それも上の方に。


「ここに分かる字ってあるか?」


「あれ、なんでイズーラがあるの?

 2つ下のはたぶんテオドン。

 テオドラ帝国でこんな字を使ってる」


「読みやすい方を選んでみろ」


 んな訳ないと思いながら、メッセージの画面の開け方を教える。


「あれ?さっきの画面だよね?

 ちゃんと読めるよ」


 クレアはこっちを向いてニコッと笑う。

 

「元気になったよ」


 それが俺の送ったメッセージの返事だと気がつくまでしばらくかかった。


 

 ここまで近間の大きな街まで往復したわけだが、なんとなく流されていた感は否めない。


 来た方法も分からないし、黒の森にもそれらしい痕跡も見つけられていない。


 子供達は独立してるし、孫も充分大きくなってる。曽孫はあまり期待できそうな様子じゃなかったが、そう考えると連れ合いのいない向こうに戻っても、何がしたいわけでもないし、できることもない気がする。


 翻ってこっちはどうだ?


 隣で真剣な目でスマホを弄る若い娘を見る。


 下の孫と変わらない年頃で、身寄りもなくあの恐ろしい黒の森へ、どんな事情があるのか分からないが、単身で薬草採取など無謀と言うものだ。

 けれど、そのおかげで俺はこの世界について多少なりと知ることができた。


 となればだ。


 タクシーという移動手段を活かすのであれば道の整備は欠かせない。

 見た限りではこの世界に移動速度は時速10kmが精々。

 物や人の移動なら俺の独壇場だろう。


 幸い、「リペア」もあることだし、あちこち回るついでに道の補修をやって行くか。


「雨、やまねえなあ」


 クレアの生返事が返ってきて、俺の口元は緩む。

また来週お会いしましょう!

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