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スライム狩

 飴色と言うよりは黒ずんだ壁と柱が目立つ1室。

 床から壁、天井に至るまで使い込まれ、磨き込まれたネウル木の風合いが目に優しい。

 置かれた家具調度もそれに見合った落ち着いた装いを見せている。


 ここはスイフナール商会の頭取執務室。

 俺とクレアはデマホーとの諍いについて相談に訪れた。


「ゴブリンの件についてはそんな感じだな」


「もう、ギルドを通さないのが悪いって一点張りなんだから!

 でも困ってる人がいれば助けるのは当然でしょ?

 ホブゴブリンまで出たんだよ?」


 この部屋にいるのは頭取のアズスイフばあさん、黒服の執事風の男。

 前回名を聞かなかったがサパスと言うそうだ。

 それに俺とクレアの4人。


「ふふ。ギルドとて慈善団体ではない。

 様々な利権が金を生むようになっておるし、収入が無ければ冒険者に払う金も無い。

 それに、届けもなく山中に入って、討伐報酬を受け取ったのだろう?

 そうなるとギルドの利権を冒したとされても、文句は言えんだろう?」


「ぐぅ……」


 ゴブリンの件は分が悪いか……

 となると……


「こいつはギルドに報告して情報料も受け取っている話だが、別に口止めされたわけでも無い。

 スライムには魔石がある」


「おや。アレからは魔石は出ないってのが常識じゃなかったかね?」


「私も見たことはありませんな」


「そりゃあね。

 核の中にある魔石が核が壊れるときに弾け飛ぶのよ。

 しかもうんとちっちゃいから、地面に転がったって探すのは容易じゃないよ」


 クレアが2本指を5ミリくらいまで近づけて大きさを示す。


「それで325個あったんだが、一つ10ギルで引き取ってやると言われてな」


「相場がないからねえ。10ギルと言われればそうかなってとこだが……

 魔石の鑑定はしたのかい?」


「俺たちはしてない」


「デマホーが片っぽだけのメガネで見てたね」


「鑑定魔道具だね。

 結果を聞いたかい?」


「魔石には違いないとしか言ってなかったよ」


「見せてもらっていいかい?」


「それが……」


「年甲斐もなく頭に血が登ってな。

 全部タクシーで消費したよ」


「だってこんな使い道のない魔石とか、言うんだよ?アイツ!」


「そうか……」


「必要ならまた取ってくるが?

 カイに行けばまだスライムが沼にいるはずだ。全部倒したわけじゃないからな」


「そうかい。カイなら3、4日だね。

 あたしはデマホーの情報を集めておくよ」


「わ!協力してくれるの?」


「何を言っている。恩を受けたのはこちらが先だ。

 そのお節介が元で受けた恩だからな、大概にしておけとも言えまいて」



 とんでもなく好意的なアズスイフばあさんの後押しを受けて、俺たちはカイに向かっている。


 デマホーのお陰で実入りはよくないとクレアが顔を曇らせる。

 スライムで挽回出来ないかな。


「ねえ、タケオ。

 ほんとにこれ、直しながら行くの?」


「この道はこれから何度も走るんだ。大穴になってるところだけでも直しておけば、次が早く走れる」


「ふう。ゴブリン、売ってないから魔石は結構あるしね」


 できれば売りたかったんだと言うところか。


「ああ。バタドリもまだ20くらいあったはずだ」


 走るだけならほとんど減らない魔石だが、「リペア」だけはバカ喰いする。

 穴の大きさにもよるが、バタドリで1箇所2、3個は覚悟したものだ。


 カイに着く頃にはホブとメイジ以外の魔石は殆ど使ってしまった。

 のんびりとはいかないが、それでも1昼夜でカイに着いたのだから、相当に早い。


 時間はお昼を少し回ったくらい。

 魔石コンロを出して積んである食べ物を適当に煮込む、いつもの簡単な昼飯を済ませ雑貨屋に行く。


 店主兼ギルド職員のデンストロは変わらず店番をしていた。


「いらっしゃい。

 おや。スライムを狩ってくれたクレアさんに……タケオさんだ。

 ヨクレールの方でしたね、お帰りですか?

 わざわざ寄って頂いて…」

「いや、ちょっと事情ができまして。

 まだカードは返してないんですが、ギルド、除名にされそうなんです。

 あー。されちゃったのかなあ?」


「いったい何があったんですか?」


「いや、それが……」


 スライム魔石の一件からゴブリン討伐、スイフナール商会の話まで、かい摘んで話すと

「そうですか、そんなことが……

 こう言っては何ですが、デマホーには良くない噂がありましてな。

 それが今ではサブマスターな訳でして」


「どんな噂だったんですか?」


「いや……それは外部の者にはちょっと……」


 コホン。

「それはそれとして、スライムなんですが、まだ居ますよね?」


「はい、先日400から狩って頂いたようですが、まだ200はいるかと。

 被害の方も減りはしましたが続いていまして、苦慮しておりました。

 私が100と言ってしまったばかりに、こんなことになっているんです。

 何とか50程度まで減らせませんでしょうか?」


「人を集めてもらって沼と畑から挟み撃ちにしませんか?

 道路に追い込んでもらえば一網打尽にできますが」


「スライムを追うんですか?

 竹箒を使えばできると思います。ただ人数は小さい村ですので何人集まるか。

 村長に相談してみます」


「俺たちは夕方に一度数を減らすよ。

 そんなに長居できないから、明日の夕方に出来なければ、あとはエンスローの帰りになってしまうな」


「それは大変だ」


 デンストロさんは慌てて店を閉め、どこかへ走り去った。


「急にどうしたの?」


「さあ?」



 ともかく俺たちはスライム沼の道を、様子を見ながら流している。


「あー。まだ結構いるねえ。草の間で動いてるの、どう見ても波って感じじゃないよ」


「まあ、スライムが動き出すまでやることはないな」


 道路を横切って畑へと移動する瞬間を狙って、タクシーの防御結界で弾き飛ばすのだが、タクシーはさして広いとは言えない道路上しか走れない。


 クレアは退屈した様子でカーナビを(つつ)き始めた。

 俺も運転席を倒し、開けた窓からぼんやり沼を眺めていると。


「スライム、狩ってけるってか?

 明日までって言われたけんど、今日でもいいんだっぺ?

 みーんな竹箒世話あするんで、手間ぁかかっちまってえ」


「うお。びっくりしたあ」


「はは。すまねえ、おどぎゃあしたかね。

 5人連るって来ただに、沼さへえって試しい追ってみるで」


 いまいち言葉が分からんが、沼から追ってみると言うところは分かった。


 クレアがナビ画面を索敵に切り替えて外へ出る。

 ルーフハンガーから槍を外しながら

「スライムが濃くなったら合図するね」


「ここからでいいか?

 もう少し前へ行こうか?」


「そうだね。端から順番に追い出してもらったほうがいいかも。

 そうなると……ちょっと降りて」


 俺がタクシーから降りると、クレアが5人の農夫に作戦の説明を始めた。


「スライムは沼の浅いところにいるように見えるから、沼寄りを先行するように斜めに並んで追い出してくれるかな?

 そしたら道路に出て来た分をイブちゃんがやっつけるから。

 あたしも湿地の方に加わるよ。

 タケオはあたしの合図で行ったり来たりってことで」


 俺が沼沿いの奥まで行って待機。

 農夫たちが沼の縁沿いにザブザブと水に入って行った。


 竹箒で水面をバシャバシャ叩くと、その先で水面が大きく波立つ。

 沼から湿地に逃れた波を次の箒が追い立てる。

 10歩ほどの間隔を置いて斜めに並んだ5人の農夫、その殿(しんがり)がクレアだ。


 深い場所を歩く先頭の男の速度に合わせ、斜形陣がゆっくりバシャバシャ進んで行く。

 畑側にスライムが溢れ出すのがミラーに映って、

「タケオ、始めて!」


 俺はギアをバックに入れ、窓から後ろを見ながらタクシーを駆る。

 除雪車が雪をかき分けるような光景が再現された。

 跳ね飛んでるのはスライムだけどな。


 先頭の農夫を追い越し、少し待機。

 また道一杯になって溢れるまで待つ。

 畑へスライムがはみ出したのを確認し、クレアの合図で前へ走り出した。


 まだ日は傾いてはいても落ちるまでは少しある。

 最初の予定通りだと、前回みたいに魔石灯のお世話になるところだった。


 村の人が早く来てくれて良かったよ。


 1時間で沼の半分ほど、タクシーは既に8往復くらいしている。


 数えられるようなものでもないんだが、1度に3、40弾いているように見えるんだ。


 30匹16回ったら480か?

 まだ半分だぞ?

 何が200だよ……って数えられるもんでもないから仕方ないか。


 スライム魔石は8〜10個で1cc、コーヒー缶で250cc、それと同じくらいに見えるんだから、えーと、MSの容器には2000個は入るのか。

 なら大丈夫だな。

 またオーバーフローとか言われるんじゃって焦ったぜ。

 前回はバタドリが結構残ってるとこへ入り込んで、それで溢れたんだ。


 沼の半ばを越えた辺りから追い出されるスライムが減って行った。

 俺はもう何回走ったかなんて分からなくなってたが、みんなで追い出した分を掃除しないわけにもいかない。

 日が沈んでヘッドライトと魔石灯を点けて、クレアが終わりと言うまで頑張ったさ。


 カーナビはリプレイってのもできるんだと、クレアが往復回数を数えてくれた。


 18回半だそうだ。

 聞かなきゃ良かったよ、首が痛え。


 魔石は3本指で掻き出せるだけ取って782個あった。

明日 11/23 8:00 に1話だけ投稿予定です

不定期は今日で最後!

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