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ギルドのサブマス

人物紹介 (本編はこの下にあります)

 デマホー 46歳 身長164cm(推定) 魔法職

 元Aランク冒険者 エンスロー冒険者ギルドサブマスター

 ここはエンスローの北門近く、トエンズルの山中だ。


 俺たちは麓の山菜を売ってる売店で買い物をした際に、店の女主人からゴブリン討伐を頼まれた。

 聞いていた数ははっきりしないが4匹程度、礼金は3000ギル。


 但し、ギルドを通した依頼ではない。

 ギルドは何故か彼女らの依頼を請けてくれないというのだ。


 俺たちもギルドのサブマス、ダメホーの印象が……

 あれ?デマ……デブ……?

 名前はまあいいか。

 そのダメホーの印象が悪すぎたせいもあって、そんな話に納得してしまったわけで、今朝から山へ入っているのだ。


 俺はクレーンを使ってゴブリンどもをかき回すことにした。


 平のゴブリンの2匹にはフックがかかったが、特殊個体2匹はでかいくせに動きが早い。

 仕方なく掛かった2匹を引き摺り、メイジと思しき個体を追い回す。

 吊ったゴブリンでなぎ倒したゴブリンメイジに、フックをかけることができた。

 魔法は厄介と思いこっちを選んだんだが、その間に大型のホブゴブリンがクレアに迫っている。


 混乱する下っぱどもは、クレアがうまく誘導するようにタクシーへ呼び込んだ。

 突っ込んでくるゴブリンはタクシーに弾き飛ばされ、脱落して行った。


 それを見てホブゴブリンが3匹従えクレアを囲んだ。


 クレーンで吊った3匹を、背後から体当たりさせようとした操作はホブゴブリンが躱し、並ゴブリン1匹を巻き込んでタクシーに当たる。

 4匹は跳ね上げられホブゴブリンの頭上を超え飛んで、木立や藪に叩き落ちた。


 ホブゴブリンはこれでさらに警戒したようだ。


 やおら右のゴブリン1匹の頭に、大きな右手を被せるように掴むと、タクシーの手前に立つクレアに投げ付けた。


 クレアがそれを躱し、ゴブリンが宙を舞う。

 その陰からホブゴブリンが太い棍棒を、避けたクレアに叩きつける。クレアはそれも躱し槍の穂先をホブゴブリンに叩き付けた。


 だがその穂先をホブゴブリンの左手が掴む。

 押し合いになったのは一瞬のことだった。


 ホブゴブリンが身体を捻り槍を振るとクレアも一緒に跳ね飛ばされ、木の幹を掠め藪へ飛び込んだ。


 ゴブリン3匹がタクシーに当たった時にフックはフリーになっている。

 俺はホブゴブリンを示す赤丸にフックをかけようとナビ画面を連打したが、クレアの方へ身を翻す動きが速い。


 ズンズンとクレアの方へ行くホブゴブリン。


 まずいって!


 俺は闇雲にその前の辺りを指で叩く。


 かかれ!


 バシバシと叩くうちの一つがどこかに掛かったらしく、ホブゴブリンの動きが止まる。

 止まってしまえば残りのフックは外さない。立て続けに両肩に掛けることに成功した。


 すぐに吊り上げ、過負荷で巻き上げがストップする。

 これで力の強いホブゴブリンと言えど動けまい!


 並ゴブリンは片付いているはずだ。

 索敵を見てもホブゴブリンの赤丸が一つ、周囲に他の赤丸はいない。


 俺はクレアの落ちた場所へ駆け寄った。


 ガサガサと藪を掻き分けクレアが立ち上がる。

 少し離れた地面にあった槍を俺が拾って差し出すと、それを杖のように使いクレアが出て来る。


 最後にクレアが疲れた表情で動けないホブゴブリンを突き刺して、ここの討伐は終了した。


 この数だと巣があるかもしれないが、俺たちの手には負えない。

 何しろタクシーとセットでないと、戦闘可能なのはクレア1人なのだから。


 その後はゴブリンとの遭遇はなく、南街道脇の直売所に戻った頃には昼を過ぎていた。


「戻ったよ!」


「ご苦労様。で、どうだった?」


「これが討伐証明の右耳だよ。

 23あるから」


「そんなに居たのかい!?

 怪我なんかしてないよね?

 あら、2つ大きいのがあるね、これは?」


「大きいのはホブゴブリン、中くらいのはゴブリンメイジだよ。

 流石にしんどかったよ」


「そんなのまで居たのかい!?」


「うん。

 それでね、こんなのが居るってことは、最悪集落ができてるかもしれないんだ。

 ギルドに断られたって言ってたよね?

 あたしらが魔石を売るついでにねじ込んでくるよ。

 もしこんな街に近い場所に、ゴブリン集落があった日には大変だからね」


 なんかクレアが妙に張り切っている。

 女店主から依頼料を受け取ると、俺たちはエンスローの冒険者ギルドへ向かった。


 環状通りにあるギルド前の広場にタクシーを駐め、クレアに続いて見上げるような大きな建物へ入って行く。


 中では駅前広場並みに多くの人がいたが、大体は飲食スペースに群がっている。


 クレアは真っ直ぐ空いている受付へ向かった。


 ギルドカードを見せながら

「ちょっと相談があってきたんだけど」


「はい、どのようなご相談でしょうか?」


「エンスロー近郊でホブゴブリンとゴブリンメイジに出会ったんだ」


「何ですって?

 近郊とはどの辺りですか?」


「北門のちょっと先の山中だよ。

 トエンズルの山菜の直売所を知ってるかい?

 そこの裏山」


「近いですね。

 何か証拠品はありますか?」


「耳と魔石があるよ。それでいいかな?」


「と言いますと討伐されたのですか?」


「そうだよ。けどあたしらは人数がいないから、見かけた分だけ狩ったんだ。

 他にどれだけいるのかは調べていない」


「では拝見します」


 クレアは背嚢から魔石22個と耳を23出した。


「これは確かにゴブリンです。

 ホブゴブリン…こちらがゴブリンメイジ……

 これらは全てその場所で?」


「そうだよ。この数の上に上位種だ。

 それで相談に来た」


「報告ではなく相談?

 相談とはどう言うことでしょう」


「聞いた話だけど、ゴブリンを4匹見かけたから討伐をギルドに依頼したそうだよ。

 ギルドは請けてくれなかったと言うんだけど、そこはどうなんですか?

 この数だと集落ができてるかも知れない。今度は調査はしてくれるのかな?」


「請けなかったですって?

 すぐに調べます。

 そちらの席でかけてお待ちください」


 10分ほども待ち時間があった。


「クレア様、お待たせしました。

 過去2ヶ月分の申請を確認しましたが、仰るような記録はございません。

 何かの間違いではないかと思うのですが。

 それはそれとして、20匹を超えるゴブリンに上位種となりますと調査が必要です」

「ちょっと待ちたまえ」

 男の声が受付嬢の説明に割り込んだ。


「その話はここですることじゃない。

 中へ来てもらおうか」


 またサブマスター(ダメホー)だよ。暇なのか?


 場所を移動すると言われて、拒否する理由はないか。

 クレアも同じ意見のようで大人しく案内されて行く。

 もちろん俺も続いた。


 薄暗い幾つも扉の並ぶ廊下。

 昨日とは違う場所だ。

 その一つに俺たちは受付嬢によって案内された。


 俺たちが勧められた木製の椅子に座ると、後を追うようにサブマスターが入って来て、受付嬢と並んで大きなテーブルの向かいに座る。


「状況の詳しい説明を頼めるかな?」

 サブマスターは受付嬢に言った。


「はい。

 こちらのイブちゃんタクシー様が北門の先で直売所をなさっている店主から依頼を請け、ゴブリンを討伐されました」


「ちょっと待て。

 直接請けたのか?

 ギルドを通さずに?」


「はい。店主はギルドに申請を出したが請けてもらえなかったと仰っているそうです。

 過去2ヶ月間にそのような申請記録は確認できませんでした」


「それでわざわざ苦情を言いに来たのか」


「そうではありません。

 パーティは実際に山中に調査へ行ってゴブリンを20匹以上、ホブゴブリンとゴブリンメイジを各1匹倒しているのです」


「そこが問題だ。ギルドを通さずに直接の依頼を請けた。

 これは規約違反だよ。

 君らは除名処分だ。

 カードを返却し帰りたまえ」


「ちょっと待ってください。話は終わっておりません。

 エンスロー近郊ででこれだけのゴブリンが出たのですよ?

 その報告に来たものを除名だなんて、どう言う…」

 受付嬢の言葉は顔の前に手のひらを翳され、止まった。


「後のことはこちらでやる。

 聞いての通りだ。

 手続きをして帰りたまえ」


 クレアが今にも爆発しそうな顔で肩を震わせていた。

 俺も正直腹ワタが煮えくり返る思いだったが、ここで逆らってもいいことはない。

 クレアの手を握ると

「行くぞ」と声を掛けた。


 クレアはビクッと一つ震えたが唇を噛んで扉を潜った。


 俺たちはそのまま、手続きなどせず無言のまま駐車してあるタクシーに戻った。


 前席に並んで乗ってドアを閉める。


「アイツ、ダメホーはかなりおかしいな」


 クレアはクスクス笑った。

「いや、それ違うよ、名前。

 あれ、デマホーだよ」


「デマだったか。

 デブだったかダメだったかで悩んでたんだが」


「何それ?タケオ、名前覚えるの苦手?」


「一応客商売なんだけどな」


「変なの。

 まんま出て来ちゃったけど、どうするの、リーダー?」


「この街には知り合いが何人かいる」


「何人かって、スイフナール商会しかないじゃないの」


「そうだな、まずそこで相談してみよう」


「うん」


 環状線を南下する間、クレアはカーナビをいじって過ごした。

 そんなに面白いんだろうか?


 スマホを見るようなものか?

 まさかゲーム機能なんか追加になってないよな?

 チラッと見るとメニュー、サブメニューが幾つか重なって開いていた。


「なんか新しいものでも出たか?」


「うん。あとで調べたいのがあった」


 タクシーはスイフナールの裏口駐車場に滑り込む。

 そこでは丁度、馬の付いていない馬車を4人の男が奥まで押し込んで並べていた。


「これは大変そうだね。こんなふうに馬車って駐めるんだ?」

 俺が声を掛けると4人はコチラに寄ってきて、首のタオルで汗を拭った。


「どの馬もバックは苦手でね。特にきちっと並べようと思ったら、俺たちで押した方が細かく調整できるからね」


 4輪の馬車は車と同じで、梶棒に連結した前側の車輪で向きを変えるようになっている。

 前へ進む分にはなんの問題もないのだが、車の車庫入れを考えると、ハンドルを大きく切る操作が必要になることがわかるだろう。


 これを馬にさせようとすると、バックの前に大きく横へ移動してから後ろへ進むことになる。

 後退は苦手ではあるができないことはない。

 横移動もまあできないことはないが更に苦手な動きで、それを何頭かで連携してやるとなると難易度は幾何級数的に跳ね上がる。


 そしてハンドルを戻す段になって、また大きな横移動をしなくてはならない。

 これをスムーズにできる専用の馬を訓練しても良いだろうが、付け替えの手間や世話する場所などを考えると、力のある4人の方が安上がりなのだろう。


 ちなみに幾何級数と言ったが、俺はそれがなんなのか知らない。どこかで聞いた言い回しが気に入ってるだけだ。


「昨日は済まなかったな。

 俺たちが休憩で目を離した隙にあの騒ぎだ。

 頭取に大目玉食らっちまったよ。

 いつもは見張りを一人残すんだが。

 ほら、こんな豪華な馬車も駐めるから、そう言う決まりになってるんだ。

 これからは気ぃつけるんで勘弁してくれや」


「被害はなかったですから、そう気にしなくても良いですよ?

 それより、頭取さんはいらっしゃるようですかね?」


「出かけることは滅多にねえし、そんな様子もねえ。

 いると思うよ。

 ただ来客が多いからなあ。待たされるかもな」


「そうか。邪魔したね」


 裏口から入って壁沿いに右手へ。

 階段を登って広い廊下を左へ、扉は3つ目だったか?


 廊下に男が一人立っていた。

 背筋をピンと伸ばし、仕立ての良さそうな黒服、執事か従者か。


「ここの頭取に会いにきたんだが」


「只今商談中でございます。

 あちらに商会の秘書がおりますので、お話しされてはいかがでしょう」


 ずいぶん折り目の正しい人だなあ。


 俺は一礼して指された扉のない間口へ向かう。

 魔石灯が照らす薄暗い廊下にそこだけ陽が差している。


「こんにちは。タケオとクレアと言います。

 昨日頭取にお世話になったものです。

 相談事があってきたんですがお忙しいでしょうか?」


 暖炉を背に机に向かってるのが秘書だろう。

 暖炉に火は入っていない。扉がないから冬はさぞ寒いことだろう。


「はじめまして。私はサブローと言います。

 ここで秘書のようなものをしています」


 サブローの言い方がサブレーというのと発音が似ていた。

 日本語とは違うんだろうな。


「だだ今の商談の後、しばらく頭取に予定はございません。こちらに掛けてお待ちいただけますか?」


 俺たちが並んでいる椅子に座ると、頭を下げられた。


「昨日は当店の駐車場で大変なご迷惑をお掛けしました。

 私からも謝罪いたします。

 申し訳ありませんでした」


「そんな!

 被害は無かったんですから、やめて下さい。

 それより怪我をした人は?」


「はい、こちらで全て治療致しました。

 只、剣を振り回した者のお仲間でしたので、そのまま衛兵に引き渡しましてから、その後がどうなったかの連絡はまだ頂いておりません」


「怪我人が見てただけの野次馬でなくて幸いってとこだな。

 今日はギルドのサブマスターの情報が欲しくて来たんだ」


 調べる手間もあるだろうからと、先に用件を言っておく事にした。


「サブマスターと言われますとデマホー様ですか?」


「そう!そのデマホー!」


「詳しいことはばあさん頭取に……」

「もう!アズスイフさんよ!」


 クレアの横槍が入る。


「ああ、済まん。アズスイフ頭取に話すよ」


 クレアに怒られちまった。

不定期投稿実行中!

次は 11/22 6:10 でーす♪

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