山中のゴブリン討伐
今朝は晴れていた。
これはありがたいことだ。と言うのもこれからゴブリン偵察で山道に入ろうと言うのだから。
ただでさえ道の悪い山の中だ。雨でも降られた日には、滑ったり嵌まったり無事に戻ってこれない心配がある。
売店で預かった地図によると、今回の目撃箇所を含む山を沢沿いに一周するルート、その途中から九十九折りに高さを稼いで山頂付近まで行くルートが西側、南側に一本ずつある。
ゴブリンが出たのは西側の登りの途中だそうだ。
「まず一回りしてみようか。それから西側を登ってみる、でいい?」
「そうだな。
道から外れるとおそらくタクシーは使えない。
ゆっくり行くから、索敵で見つけたらクレアが降りてタクシーのそばまで引き寄せてくれ。
近くに来れば防御結界があるし、クレーンで吊り上げもできるから、なんとかなるだろ」
「確かにね。でも5匹くらいなら負ける気はしない」
山道は木の間を縫うように曲がっている。
客の指示で林道を走ったことも何度かあるが、あれは重機で山肌を整地したり、急勾配では土留めや橋、排水溝も整備されていて、ここまで荒れてはいなかった。
少なくとも砂利が敷いてあるので滑るようなことはそうない。
だがここの山道は、多少の整地はされているようだが、土を踏み固めただけであることが少し進んだだけで分かった。
根瘤を踏んで進む場所や、水が流れて切れ込むように抉れた溝になっているところなど、とても速度など出せる道ではない。
「うっわー。逃げ足は速いよって言ったけど、これはそんな訳にはいかないねー」
左右の揺れはサスペンションで増幅されやすく、凹凸の間隔がバネの周期と合ったりするとグラングラン揺れる。
そんな中でクレアはカーナビの、周囲数10mの範囲が画面に映っている索敵画面から目を離さない。
南東の売店広場から山へ入り、北上する。
車輪の通る場所は溝に、牽引する獣の歩く場所には草が伸び放題に伸びている山道から、左に沢が見え隠れに流れる。
ゴブリンの目撃地点はまだ先だ。
覆い被さる木の枝からの木漏れ日が刺さる山道を進んで行くと右手に曲がる交差点が見えた。
あの場所から山へ登って行くのだろう。
タクシーは予定通り、沢沿いのルートを進んで行く。
道は北端を回って東へ進んで行く。
地図にはない北へ向かう3叉路があったので、そこでUターンした。
今度は沢を右に見ながら下って行く。
ルートの北端を回ってしばらく行ったところだった。
「左に反応があるわ。
ちょっと待って、右にもいるね。
道に近いところに潜んでる感じ」
「ゴブリンか?
たまたまなのか、タクシーを見て興味を持ったのか。
数は?」
「重なってるのかな?多分右が3、左は4だと思う」
カーナビの画面を拡大すれば数はわかるだろうが、見える範囲は狭くなる。
今は全体を俯瞰できた方がいいだろう。
「ちょっと多いか。
俺が左の4匹を吊って、右のゴブリンに打つけるからその混乱に付け込むってのはどうだ?」
「タケオ、悪いこと考えるんだ。
じゃああたしはドアのとこで待ってればいいかな?」
「いい事って言ってくれよ。
精々混乱してもらおう」
隠れているゴブリンどもから10mくらい手前でタクシーを停めると、俺は後席ドアを開けるスイッチを操作し、カーナビに取り付いた。
クレアはドアの間の地面に立ち、ルーフハンガーから槍を取って待機に入る。
右の赤丸をワイヤーフレームになるまで拡大し、一匹の肩辺りをタップするとミニメニューのクレーンから4点吊りを選択、近くのゴブリン全てに印を付ける。
そしてその4匹を地面から浮くまで吊り上げた。
拡大した画面の中でジタバタするので吊り上がったのはわかる。
縮尺を戻すと、左の3匹はこちらへ動き出していた。
俺は左と下のボタンを押して4匹を引き寄せる。
3匹が仲間の叫ぶ声にギョッと足が止まるところへ、俺は構わず吊ったゴブリンどもを打つけに行く。
開いたドアの向こうでクレアが駆け出す足音が聞こえる。
俺は画面をワイヤーフレームになるまで拡大すると前を見た。
左前方でまだ立っている1匹にクレアが槍を叩きつけている。
俺は転んだ2匹の上に行くように右ボタンを押す。
起きあがろうとする仲間を、吊られた4匹が必死で踏みつけ、結果どれも動けない。
踏み付けに動き回る足が邪魔だったのだろう、クレアは吊られた4匹から胸や喉を突いて動きを止めた。
そのあと下の2匹に止めを刺す。
と。
クレアの動きが止まる。
耳を澄ませているような……
俺は慌ててカーナビ画面の縮尺を小さく、広範囲が映るように切り替える。
左から迫る赤丸が7つ!
動きが早い。
俺はクレーンの上ボタンを押してみた。移動する向きを見て、近づく赤丸を見る。
このまま離す方向でこの辺りで衝突しそうか?
俺はタイミングを計った。
クレアは吊ったゴブリンが動いたので、俺が何かすると気付いたはずだ、動かずに槍を構えている。
ここか!?
俺は上ボタンを押す。押し続ける。
仲間の死体が自分に向かって、宙を飛んでくる光景に足を止めるゴブリン。
そこへ逡巡なく突進する死体。
3匹が跳ね飛ばされた。
俺は死体を落とすと、4点吊りの目印を棒立ちになっている3匹に付けた。
動きの速いやつは上手く印がつかなかったのだ。
吊り上げ宙に足が浮いたところにクレアが駆け寄って、まだ呆然と立つ1匹を槍に掛ける。
が、跳ね飛ばされた3匹と対峙することになってしまった。
俺が左右にボタンを押す、揺れるように騒ぎ動く仲間にギョッとしてゴブリンの動きが止まる。
クレアはその援護を無駄にせずタクシーへ駆け戻った。
逃げるものを見ると追うのが本能とはよく言ったもの、ゴブリン3匹はタクシーに向かって走り出した。
後席のドアにクレアが隠れたところへ、3匹が体当たりのように飛びついたから堪らない。
その勢いに倍する威力でゴブリン3匹は弾け飛んだ。
ゴブリンは地面に叩きつけられ、それきり動かなかった。
ここでの遭遇ゴブリンは都合16匹。
想定外の数と順調な狩に、クレアと俺は驚くばかりだった。
索敵を300mの最大範囲にしたが反応はなく、俺たちは魔石と耳を回収し後は穴に死体を埋め、分岐から西側登りルートを目指す。
分岐から登りの道を辿って行く。
道が悪いのは一緒だが木立が混んでいて、登って行く分足場が悪く速度が落ちる。
雨水が道を抉って流れた跡に突き当たった。
左の落ち込みが酷く進めそうにない。
タクシーが停車したのでクレアがカーナビの索敵画面から目を上げ
「わ!これ、ひどいね!
どうするの?」
「どうするってもなあ。
リペア、やってみるか……」
俺はタクシーから降りて前へ回った。
抉れてしまった道を指で指し「リペア」と言ってみる。
イメージは繋がった路肩に強固な法面。
どこから土が湧いたのか地面の溝が浅くなって行く。
「タケオ!メータに赤い印が出てる!」
クレアが助手席の窓から言った。
ボンネットを開けMSの中の魔石を確認すると、空だった。
少なくともさっきのゴブリンの魔石が3個入っていたはずなのに。
リペアはかなり燃費が悪いなあ。
スライム魔石を二掴み追加した。
もう一度「リペア」を唱える。
道は何とか通れるまでになった。
足で踏み、歩いてみるが充分に固そうだった。
「一応、魔石がどうなったか見ておくか」
スライム魔石は殆ど残っていない。
俺は残りのスライム魔石と、バタドリを数個入れて置いた。
ビニル袋を見ると後はバタドリ魔石が20数個、「リペア」を使うようになってから在庫の減り方が速い。
「溝がきれいになくなったね。
すごいね、リペアって」
「魔石の減り方もすごいけどな」
タクシーは再び揺れながら走り出した。
幾度も左右に急カーブを描く、道とも言えない道を登って行く。
カーナビの地図がなければ疾くに遭難していただろう、そう思わせるような山中の踏み分け道。
地図上では先ほど、ゴブリンと遭遇した辺りに近づいている。
通った道は表示されるがこの先の道は地図にはない。
だから赤丸が現れても、そこまでタクシーが行けるのかはわからない。
「タケオ、赤丸が見えた。
この先ちょい左!」
道は左右に斜面や木を避けながら続くので、どこが最接近か判断できない。
「もう少し進むぞ」
前だと言うのだから取り敢えず進む。
大きく逸れるようならそこで止まる。
「丸が増えた。5つかな?」
「巣でもあるのかな?」
「どうだろ?
集落ってことはないと思うけど……」
「恐ろしいこと、言うなよ」
「今8つになった。前に3つ、左に5つ。
左が近づいてくる」
「止めるぞ。
準備頼む」
クレアの開けたドアの向こうは下りの緩斜面。背の高い草が茂って見通しは良くない。
俺はカーナビに取り付き、近づく5匹を拡大した。
動きがあるので捕まえるのに苦労したが、何とかやっと2匹にフックの印を付ける。
防御結界はあるが何が起こるかは分からない。危険はできるだけ減らしたいのだ。
2匹をクレーンで吊り上げるとグギャグギャ騒ぎ出すが、突撃に夢中で登る3匹は気付かず突進して来る。
クレアが先頭の1匹を槍先で突き抜いた。
槍が絡め取られるのを見て、2匹が勢い付く。
錆の浮いた剣を振り翳し、足場の悪い斜面をものともせずにクレアに殺到する。
短剣を引き抜いて待ち構えるクレアはしかし、横っ飛びにそのその切先を躱す。
目標を失った2匹の剣が体ごとタクシーに接触、次の瞬間には斜面の空中を飛ばされていた。
クレアは淡々と槍を回収し、俺が吊り寄せる2匹のゴブリンに止めを刺した。
俺は、死体を落とすと前方の3匹をカーナビ画面で探す。
あれ?どこへ行った?
てっきり続いて襲って来るものと思っていたが、画面から反応が消えている。
クレアは斜面下に跳ね飛んだ2匹の討伐証明を諦めていた。
魔石はタクシーが回収済みだし、利用できる素材もない。
耳の数はもう充分なだけある。
そのあとタクシーは山頂まで何事もなく登り切った。
山頂といっても周囲は葉の茂る木々に囲まれ、風景など皆目見えない。
休憩でクレアが薬草をいくつか見つけた程度だった。
戻り道、カーナビの往路のルートに10数匹の赤丸が、待ち伏せのように集結していた。
まだいるんだな、ゴブリン。
俺は一旦停車した。
「クレア、拡大してみてくれ。
武器が見えるかもしれん」
これはオークと戦った時、ワイヤーフレームまで拡大すると、持っていた棍棒が見えたからだ。
「武器は剣を持ったのと杖を持ってるのがいるね。これ、他より体が大きいみたい」
「ん?
ゴブリンじゃないのが混じってるのか?」
「見たことはないけど、ホブゴブリンとゴブリンメイジじゃないかな。
大きな群れになるとそう言うのがいるらしいよ?」
「へえ、そうなのか。
強いのか?」
「どうだろ。
オークには及ばないんじゃない?
でも1匹だけじゃないからね。
居るとゴブリンの戦い方が変わるって言うし」
「じゃあデカいのを吊って、こっちに引き摺れば混乱するな?」
「タケオ、また悪いこと考えてない?」
「よし!ここから仕掛けるぞ。
準備を頼む」
連続投稿週3日目
次は11/20 14:40!!




