ゴースト
人物紹介 (本編はこの下にあります)
メグ(メグクワイア-ゼーゼル) 18歳
オレンジブロンドの髪 緑の瞳 身長153cm(推定)
東海岸 リョウシマチ出身 孤児
魔法少女 水魔法使い(他に火と風) 短い木の杖を使用 B級ソロ冒険者
自称叔父に飼われたあと 魔法の師匠の元で数年修行し独り立ち
東海岸方言にコンプレックスを持っている
魔力は強大
坑口は緑の苔で覆われた岩に空いたただの穴だった。
手前には坑内から掘り出された土砂が脇にうず高く積まれている。
その横を幅の狭い赤錆びた鉄路が走る。
これがおそらく選鉱した後の排出土砂なんだろう。
茂る草木の間を縫って、杭口からずいぶん遠くまで捨てられているようだった。
クレアを先頭に坑内を進む。
ランタンは魔道具を3つ借りたので火気の心配はない。
鉱山では粉塵やガスによる爆発事故の危険があると言うのは、前世でよく聞いた話だ。
「嫌な感じが奥までしてるよ、ここ」とクレアが言う。
その嫌な感じというのはゴーストのことか?
まだ見たこともないけれど、ゴーストと言うからには幽霊みたいなものか?
誰に恨みを持ってここに棲みついたのやら。
その名前だけでも腰が引ける。
俺の武器は取り回しの悪い槍を置いて短剣と破壊槌。
これは前にラテラで買ったもの。
たまに振り回して、いくらか手に馴染んだ感じのするものだ。
岩系が出て来たらこれで迎え撃つつもりなんだ。
でも先頭のクレアは槍をそのまま持ち込んでいる。
7人の縦列はちょっと長い。
一応殿は俺に回って来たけど本当に務まるのか心配だ。
中程にメグが入っているとは言えメアリたちは小ぶりの短剣だ。
後ろからよく見ていかないと。
坑道を連なって歩いていくうちに石が足元に転げて来た。
普通ならどうと言うこともない小石。
だがそれがモゾモゾ動くとすれば?
虫型魔物!
取り敢えず踏む。
が固い。 踵で踏みなおす。
虫型は小さい奴なら踏めば倒せると聞いていた。
何故か虫型が2つに増える。
慌ててさらに踏む。
4つに増えた!
「虫型が出た!」
「なんやタケオ、落ち着いて踏んだらええやん」
「踏んだら増えたんだよ!」
「増えたんならしゃあないなあ、ちょっと待っとき」
踵で倒せないならと破壊槌を縦に使い、上から潰すように突く。
破壊槌なら当たれば潰せると分かったが足元にはまだ7匹、それも動きがだんだん速く?
もう1匹をなんとか潰すが俺の靴にまとわり付く。
こんな奴に集られたら靴の上だって気持ち悪い。
ズボンの方に登ってこられたりしたら嫌だ。
「うわうわ、メグ、まだか?」
そこでチャプンと坑道に水が跳ねた。
「ようさん出よったなあ。
なんやコイツ?
イシモドキやろか?背が青いからアオシモドキか知れへんなあ」
メグの足元、杖の先に動かなくなった14匹のイシモドキ。
それをメアリが大事そうに袋に回収していた。
なんか使い道があるんだろうか?
少し進むと壁が銀色っぽい場所があった。
これがガンツさんに聞かされた銀魔法石の鉱脈らしい。
残っているのは純度が低いって話だったけど。
そう言う場所は途中にいくつかあった。
先頭のクレアが手を挙げる。
何かあった合図。
みんなが止まると壁を手探りするように、確かめ確かめ撫でている。
右の岩盤に何かあるんだろうか?
クレアがバッと壁から飛び退く。
何か青白いものが岩壁から滲み出てくる。
「動きなや!ゴーストや!」
メグは腰の小瓶から水を振りかけた。
ジュウっと妙な音を残し消えるゴースト。
ゴーストの何が嫌われるって物理攻撃が全く効かないことの他に、火の魔法を使って来ることだ。
発動には間があるし着火程度で強い魔法ではないが、複数で使われると厄介この上ない。
メグは小瓶を構えたまま言った。
「これな、まえにタケオが教えてくれたジョー……なんやったかいな、ジョー$#?…スイとか言う奴でな?」
「もしかして蒸留水か?」
「せやせや、えーとフジュウブツやったか、それのあらへん水言うんがゴーストに効くんやで?」
「それ、多分不純物。
それが効くって聖水みたいなもんか?」
「まあた分からん言葉がでよった。なんやセイスイって。
効くんやから文句あらへんやろ?
ただコレ1本しか用意してへんのんや」
本当に純粋な水というものは、ものを溶かす力が凄まじいのだと聞いたことがある。
何か溶け込んでいるのが水。溶かし込む最初の最初は、酷く凶暴な振る舞いをするんだと。
蒸留水が純粋な水かは知らないが、それに近い力があっても不思議はない。
ゴーストの頼りない希薄な体から、必要な成分を奪い取って……と言うのもあながち荒唐無稽な想像とは言えない……?
だが蒸留水でいいなら、メグには簡単に作れるだろう。
そんな話をしたのが不味かった。
面白そうと思った子供は止められない。
よせばいいのにクレアが岩で小瓶を作ってやる。
メグがせがまれて蒸留水を作る。
水を熱して蒸発させ、それを冷やせばいいだけなんだから、やり方さえわかればメグには造作ないんだ。
できた蒸留水で一度、小瓶の中の不純物さえ流してしまえば、あとはなんの問題もない。
かくして坑道内でパチャパチャジュウジュウ、そしてキャアキャアの楽しげな声と共にゴースト狩りが始まってしまった。
「クレア、そこの岩壁を気にしてたけどなんかあるのか?」
「うん、ちょっと奥なんだけどね。銀魔法石の濃いのがあるっぽい。
良さげなところを抜いてみようか?」
抜くって言うとグレンズールーの洞窟でやってたアレ、石を円錐に抜くやつか?
「そんなおかしな跡を残したら、後で誤魔化すの大変なんじゃないか?」
「あー。そうだね、ここ、よその鉱山だものね。
じゃあどうしようか、そこに良さそうな石があるんだけどなあ」
「抜くだけ抜きよったら、そこらの屑石で塞いどけばええやん。どこから見ても岩壁なら問題あらへん。
そない大した量でもあらへんのやろ?」
「うーんどうだろ。
でもまあちょっとだけ!」
そう言ってクレアは1メートルほどの円錐を16本も抜いた。
その先端にはどれも拳大の銀魔法石が付いている。
「ほうほう!良さげな石やないか。
コレだけあったら何作ったろかいな、増幅の魔法石やからなあ、面白いもんが作れそうや」
そう言ってメグは石をマジックバッグにしまった。
採るもの採っての帰り道。
例の銀の壁に差し掛かる。
ここにもゴーストが幾つも湧いて、メグが蒸留水を作る。
先の分は子供達がみんな撒いてしまった。
作って撒いて、小瓶2本が余ったのでクレアが近くの銀魔法石混じりで栓をした。
小瓶の栓も岩で作って水が漏れないようにって、クレアどんだけ細工が上手くなってるんだ。
感心して聞くと
「なあに?
あれは柔らかい材料を間に挟んだだけよ。
全然細かい細工なんかじゃないわ?」
いや、岩は柔らかくなんかないだろ!
「戻りました」
「どうだったかね、大したものはなかっただろう?
予算がつけば新規の坑道も掘れるんだがな、ガッハッハ」
「そうですね。綺麗な銀の岩壁がありましたよ」
「そうかあれを見たか。あれは銀魔法石の採掘跡さ。
純度が低くて売り物にはならんので諦めた跡ってわけだ」
「幾つ目だったかゴーストが出ました」
「なに?ゴースト?
どれだけ奥へ行ったんだ。
浅い場所には出ないはずだぞ。
それでどうしたんだ、無事に帰ったところを見るとなんとかしたのか?」
「それはやな、ウチが古い文献で調べたったことがあんねん。
純度の高い水がゴーストには効くんや。
やってみたらあっさり退散しよったで?」
「何?そんなものがあるのか?
どうやるんだ?」
「メアリ、小瓶出したって。
この小瓶にさっき言うたただの水やないもんが入っとるんや」
アレはクレアが即興で作ったものだが、俺の目で見ても白地に銀の小粒魔法石が散った小瓶は形も良くて、『御利益如何にも』な感じがするんだ。
ガンツは小瓶を受け取り手の中で回し見る。
「コレはまたずいぶんと美しい瓶だな、ちょっと待て、この銀は魔法石のかけらじゃないのか?」
「よう分かったなあ。
材料はこの鉱山の銀の岩壁や。
それよりな、栓抜きよったら穴をゴースト向けるんや。ほんで中の水を振りかけるだけや。
上手くかければジュウっと音がしよる、3匹くらいは倒せるで?」
「ウームこれは欲しいな。
鉱山再開となったら真っ先に欲しい代物よ。
だがなあ、いまは予算がない!」
「銭があったらいくらの値を付けよるんや?」
ハッとしたようにガンツは言う。
「さっき銀の岩壁で作ったと言っていたな!
あの岩があれば作れるのか!?」
こうしてメグとガンツは目玉を銀貨色に輝かせ、夜更けまで話を続けた……らしい。




