ラテラ到着
今日ついにオネシス〜ラテラ線の高架橋が見えて来た。
長い長い距離だったし色々あった。
何か考え込んだ様子のタケオがポツリと、
「これでテオドラ砂漠の横断橋は完成するのか」
「なーに言うとるんや。
まあだ繋がっとらへんのやでえ。
大体見えたとか言うとるけど、ウチなんか昨日から見えとんねん。
ウチがいっちゃん高いとこに上がるよって、当然のことやけどなあ」
「メグさん、今日はずいぶんマウント取りますねえ」
割り込んだのはメアリ。
「おっと聞かれてもうた。
さすがショージにメアリやな」
「なんのことです?それ」
「分からんならええんよ、気にせんといて。
この間オネシスからラテラに着いたった時な。
えらいお出迎えが出とったやろ、あれがな、まあた出そうなんや。
どうもあの合流のとこにな、馬車がずうっと見えとるんよ。
気の長いやっちゃで、あんなとこで何日待っとるんやら」
「あのお祭り騒ぎはちょっと勘弁ですよねえ」
「そんでなあ、上手いこと到着、誤魔化せへんかな思てな?」
「何ですか?
夜に作業するとか、別で騒ぎを起こして目を逸らすとかですか?
ちょっと無理があるんじゃないですか?」
「ああ、騒ぎ言うたらあれも到着やなかったかなあ。
ワームの殲滅戦や。
まあた派手にやったさかい、な」
途中、架橋経路が青い網目から外れたせいか、ロププテラーは見なくなってニストワーム狩りは再開できていた。
魔石はカツカツと言ったところだった。
「それって、今回殲滅戦って要ります?
ラテラの街から離れてますよね?」
「せやなあ!
夜中のナイショ到着がええかも知れんなあ!」
なんて話があったのだが。
向こうからずっと見張ってる様な連中だ。
こちらの作業なんかお構い無しで夜も見ている。
近づいただけでもうお祭り騒ぎが始まろうと言う様子で、カウントダウンまでやっていそうな勢いなのだ。
夜になると篝火は焚くわ、ランタンは振るわの騒ぎが見えている。
メグが呆れて昼間に地味に接続することにした。
後ワームの殲滅戦も無し。
そんな予定を立てたんだが。
さて今日は高架橋接続の日だ。
互いの高架はもう目と鼻の先、400メルキに迫っている。
対岸の騒ぎは盛り上がりを見せていて、旗や横断幕まで持ち出し、人の重さで橋が潰れるんじゃってくらいの勢いだ。
200メルキの橋が出来上がるとまた大歓声が上がる。
けれど問題はここからだ。
集まった連中はこちらに手すりから身を乗り出して、そこを後ろの方からさらに詰めかける、と言ったことをしてるようなのだ。
「クレア、アレ、ヤバない?
死人が出よらんかい?」
「なら一発威す?
この空いた場所に雷とか!」
「はあ、それしかあらへんやろか……」
かくして、ラテラ高架橋接続のクライマックスとして、後世に長く伝えられることになる『雷神降臨』がメグの手によって実行されたのだ。
・ ・ ・
大袈裟にやってますが大したことではないんですよ、勘違いなさらない様にお願いします。
えーと。状況の説明から。
メグ達架橋班は地上におりまして、お出迎えはお向かいの橋の上にわんさとお出でになってまして。
東からはワームの群れが迫っております。
で、もう最後の架橋ですのでメグ達も地上にいる必要はなくて、むしろ移動には橋の上が都合がいいわけです。
それで3メルキ幅の急斜路を作って架橋中側の橋の上へ登ります。
ここでタケオがビビった話は、後のからかいネタですので割愛します。
もう最後ですから魔石の節約なんか考えません。
大量入荷の約束は各方面からいただいてますし、今更です。
で、ぽっかり空いた空間に特に意味のない砂を作るリペアを一発。
これ、実は全くの無駄。
でもそこへワームがドッと流れ込むんですよ。
ワームを集めるには時間がかかります。
手待ち代わりにメグが上空に黒雲を呼びます。
手に3セロトの魔石を握り込んでもう全力で!
この黒雲の気配だけでも対岸は騒つきます。
どんな嵐の前触れかってくらい風が吹き荒れ、まるで竜巻のような様相なんですから!
もちろんほんとに吹き飛ばしちゃうようなことはありません。
雲も風も遥か上空で、時折吹き下ろしのような雲が垂れ下がりを見せます。
暗雲が立ち込めると言うやつ。
結界の壁もメグは用意しています。
高空に達する巨大な黒雲は、遠くの方がその有り様をよく見て取れるのでしょう、恐れをなして後方から逃げていく人、人、人。
将棋倒しのような事故が起きていなければいいのですが。
下にはワームの群れ。
天を覆う黒雲、そこから下がる竜巻の暴風、逃げていく人々。
対岸のステージ上に人影は疎。
舞台は整いました。
「皆しっかり目と耳、塞いどき!」
メグの号砲です!
世界が焼け焦げるかと思うほどの閃光、轟音がこの200メルキの空間に落ちました。
静かです。
どこまでも静かです。
動くものもなく、目を閉じて居ても白い、どこまでも白い静謐な空間がそこにありました。
・ ・ ・
最前にお断りしたように、大したお話ではありません。
集まった人々を穏便に下がらせ、悪さしかねないワームを焼き払っただけのことでした。
この後、一休みした一行は悠然と架橋を完遂致しました。
・ ・ ・
「とんでもねえ騒ぎだったなあ、おい!」
「おうよ!
俺あ、手摺いっぱいまで出張って旗振ってたんだがよう。
すごかったぜあの嵐。
突然暗くなったと思ったらよう、ゴウゴウ黒雲が渦巻いてな、いつ吹っ飛ばされるかと思ったぞ。
逃げようったって後ろにはわんさか人やら馬車まで詰めてたからなあ、ほんとどうしようかってとこだ。
それがな、向こうのほうからゾロゾロ人が退いて行くんだ。あれはたまげたよ」
「あたしは前にも後ろにも人がぎっしりでさあ。
何を見に来たんだって思ってたらさあ。
でっかい黒雲がモクモク湧き上がるじゃない。みんな「逃げろー」なんて、何が何だかわかんないうちに街に戻ってたよ」
「いやあ、あの黒雲さまが見られただけで一生ものさ。おまけにあの大閃光だ。
ありがたや、ありがたや」
・ ・ ・
さてこちらはパーティ『イブちゃんタクシー』
「聞いたらヤンドルからの荷が随分出回ってるらしいよ」
「ヤンドル言うたらあの不っ味いエンダコーンやあらへんやろなあ!」
「あはは、オネシスの牢で食べたやつ、まさか普通に食べてるとは思わなかったよね!」
「評議会の食堂でもアレ出て来よったからなあ、味覚おかしいんちゃうか?」
「そんなこと言わないの!
それよりさ、清算しちゃお!
いくらの儲けになるかなあ?
商業ギルドの帳簿、収入が多いのはいいんだけど、税金もガッポリでさあ、頭痛いんだよねー。
この清算でどうにかしないとー」
という事でやって来ましたラテラ政務庁会議場。
そこにはツーレンドラ領主代理、ヤンドルの評議長、ラテラのお歴々と、オネシスからはヤーライ評議とエイプス書記官、更にはゼレンシアの代議、それにネドクラフト侯爵の代理人の方まで並んでいらして。
パーティ『イブちゃんタクシー』のただの思いつきが、ずいぶん多くの町を巻き込んだことになります。
「この砂漠に安全に通行できる橋を。
そんな荒唐無稽な話を一体どんな奴がするのか?
このプロジェクトはそんな疑問から始まった。
その検証は成されないまま、まずヤンドル〜オネシスのトンネルが作られた。
そしてラテラ〜ヤンドルの高架橋。
この時に不可能なプランではないと証明されそして昨日、長い月日と距離を超え、記念すべきテオドラ砂漠橋の完成を見た。
これは一重に各街町の協力の賜物であり、今後のアクトベル王国、テオドラ帝国の交易、さらには両国の発展に資するものである。
よってその発案者であり、一連の工事の先頭に立ち完成までやり遂げた『イブちゃんタクシー』の面々に最大の感謝を捧げるものである。
すなわちこの感謝状を贈呈したい。
なお、こちらは些少ではあるがその神謀、労苦に報いんが為の褒賞目録である。
今日までの作業見事であった。
王国歴178年、ツーレンドラ領主クイントール。
代読、オネシス評議会ヤーライ。
ご苦労様でした、ありがとう」
・ ・ ・
あとでこっそり聞いた、エイプスさんの追加情報はこちら。
オネシスの政務庁に粛正の嵐があったんだとか。
悪評のあったゲビ評議だけでなく、ナクスタル議長まで汚職の告発を受けて免職の上、追放刑だそう。
配下の書記官数名も解雇。
奴隷商のオマードレーは領主許可の取り消しと高額な罰金刑を受けたんだって。
「証拠固めには苦労しましたよ!」
とはエイプス書記官の言でした。
・ ・ ・
「いやー、よかったよ。
商業ギルドに行ったらさあ、今回の褒賞の中に税金免除ってのが入っててー。
今年の分まだ三月あるけどそこまで全部免除!
ねえ、浮いた分何に使おー?」




