ロププテラー
オネシス、ヤンドル、ラテラそしてゼレンシアに戻って。
あたし達は砂漠を安心して走れるようにと、長い長い橋を架けている。
砂漠で橋の作業をしていると、集まって来るのがニストワームという魔物だ。
あたし達の邪魔をする厄介ものだけど、体内に持つ魔石は橋作りに役に立つ。
今日はゼレンシアヘからラテラへの折り返し、その最初の日。
前回とはだいぶ間が空いたし、ここへ着いた時にはあまり追いかけて来るのも居なかった。
この砂漠の端はあいつらには住みにくいのかもしれない。
でもずっと付き纏う、言ってみれば先住の存在。
どこでまた出会うか、あたしはずっと警戒していた。
広域にした索敵画面には、遠くにポツポツ赤い点が見えるくらいだったのに、メグさんのリペアが始まると、気のせいかもだけどこちらへ寄って来るように見えた。
だから毎回見ていたんだ。
お昼近く。
今日のリペアはもう20回を数えて、近くなる赤い点に気分は沈んでいく。
「タケオさん、ニストワーム。
そろそろ集まって来てる」
タケオさんはそうかと一言返してくれて、索敵画面を確かめる。
「まだ間はあるな。メアリ、右が近そうだから気をつけて見ておいて」
そうして午後3時を回る頃、いよいよ出て来そう。
リペアが始まってタケオさんとステスが前に立った。
多分ステスは足手纏いだと思うけど、経験だ、とタケオさんが笑う。
あたしは二人に向かって来る方向を教える。
でも地面から飛び出す場所までは分からない。
それでも必死に声を張り上げる。
「もっと右よ!
ステスも右に行って!
そう、その辺!3つ来る!
もう近いわ!」
タケオさんが動いた。
ザクッと地面を槍で突いたように見える。
そのあと何か動きがあって、ミトアとラトルが驚く声を上げた。
何か起きたの?
そう思って見ていると、ステスのほんの目の前にニストワームがいるじゃない。
なんでそんなことになってるの?
ステスが短剣を突き出すのが見えてそのあと、ニストワームの胴体がそこで二つに折れるような、おかしな曲がり方をした。
ステスの短剣が歯の並ぶ口を叩く。
地面に落ちて動かなくなったニストワーム。
あれってステスが1匹仕留めた?
索敵を見ると赤い点は一つに減っている。
それも見ている前で画面から消えた。
どうやら最初の波は越せたみたいだ、そう思ってホッと息を吐く。
「見とったでえ、タケオ。
いい判断やった」
「上出来だわ。頑張ったね」
メグさんとクレアがタケオさんを労っている。
あれ、ステスも1匹倒してなかった?
「ステスも頑張っとったなあ。
せやけどあんな手打ちではどないもならん。
まだまだやな」
聞くとステスの前に跳んで来たニストワームを、タケオさんが体勢を崩しながら槍で斬ったらしい。
それをステスが叩いて落としただけのようだった。
「あれで顔面から転んだんだ。
口の中がまだジャリジャリ言ってるよ」
思わず顔をじっと見てしまった。
どこもケガして無さそうでホッとする。
それでステスは、普段の素振りでやって来たことを思い出したみたい。
次のリペアでは1匹タケオさんが仕留めたけど、その後ろでいつでも動けそうな姿勢で短剣を構えていた。
お昼にしようかとメグさん達が加勢に入る。
近くに来てるのは、掃除しとかないと落ち着いてご飯ができない。
それはずっと砂漠でリペアをやってると、嫌でも分かることだった。
「メアリ、あたし達は手伝わなくていいの?」
ミトアが聞いて来る。
「メグさん達は近所に来てるワームのお掃除をしてるの。
だからあたし達でお昼の準備しとこうね。
お掃除が終わったらすぐ食べられるように」
この子達は野営が多いこの生活にすっかり慣れて、食事の用意くらいは任せてもいいくらい。
魔石コンロは扱いが簡単だし、火が無いから火事の心配がない。
今は荷車の調理台が使えるから用意も片付けも簡単。
調理道具も種類が少なくて、調味料も少ないからすぐに覚えてしまった。
組み合わせは追々ってところ。
そもそも野営でする料理に、そんな多くのメニューなんかない。
不味くなくてお腹いっぱいってのが目標だからね。
いつもの手抜きスープ、コーンを炊いたの、肉だけは新鮮、筋を叩いて柔らかくして軽く焼き目をつけるだけ、など実にお手軽な料理が出来上がる頃、ニストワーム掃除は終わった。
昼に狩ったワームは5匹。
初日が終わって合計でも32匹。
魔石の数も同じ、そんな1日だった。
あれから5日経って、ワームの数はわずかに増えていっている。
昨日は44匹と多かった。
ミトアもラトルもスナヘビやトカゲが近くに居たらそれを狩り、合間にワームの解体する、と言ってもニズドワームと違って魔石を取り出すだけだけど。
そして今日。
索敵画面が青い。
これは支柱の仕事の途中で出会った現象だ。
あの青い網目がまたここへ動いている。
それで何が起きるでもないんだろうけど、なんとなく落ち着かない。
8回目のリペアで索敵中に画面左上から赤い点がスッと現れた。
それは動くのがはっきり分かるくらい、ワームなんかより遥かに、魔石狩りで必死に逃げて来るウルフよりも速い、それが画面中央に向かって動く。
「なんか来るよ!」
警告しようと顔を上げたら、先にクレアさんの声が飛んだ。
「こっちにも見えてます!
2ジ方向!」
この何ジって言い方はタケオさんの提案。
イブちゃんの運転席前と助手席後ろに、丸い形のトケイって言う小さな窓がある。
その中には3本の針が回っていて、それぞれ動く速さが違う。
速いのは赤い針。ひと目盛ずつドンドン動いていく。
この回る方向がトケイ回り。
次に速いのは長い針で赤い針が1周するとひと目盛、カチンと回る。
次の短い針は動くところは見たことがない。
でもいつの間にか指す場所が違ってるから、酷くゆっくり動いているんだろうと思う。
小さな目盛は48個あって4個並ぶと次は大きな目盛。
それがぐるっと1周して全部で60個。
この大きな目盛を数えるのがさっきの何ジって言い方だ。
トケイのてっぺんの方向はイブちゃんが向かう方向。
それを基準にして大目盛一つが1ジ。
右は3ジ、後ろは6ジ、左は9ジだ。
だからあたしが2ジって言ったのは、右のちょっと前ってことになる。
イブちゃんの方向が分かっていないと通じないって欠点がある。
使う時はちょっと気をつけないと。
「上を警戒!」とクレアさんの声。
え?上なの?
まさか空飛んでる?
見上げた2ジの空遥か上に小さな点が一つ。
ゆっくり動いて見える。
あんなに遠いのにクレアさんが警戒って言った意味。
点は真上に差し掛かる。
「来るよ!イブちゃんの近くへ集まるんだ!」
ステスがミトアとラトルを連れて来る。
イブちゃんの白い身体に寄り添ってさえ居れば安全なはず。
クレアさんが前方、タケオさんが後ろに付いてそれぞれ槍を上空に向ける。
あれ?メグさん?
「メグさんがいない!」
「メグなら心配ない。あいつはどうとでもするよ、それよりこっち!」
言われて窓から顔を出し上を見ると、黒い雲が小さな渦を巻いていた。
「呑気に上見てると目をやられるよ!」
その途端に上空で光が走る。
雲の上で何か始まった。
・ ・ ・
これからリペア発動やってところで下のクレアが騒ぎよる。
メアリ、2ジって言うた?
いったいなんや?
何?上ってクレアが言うた?
おおー、なんや飛んでるもんがおるなあ。警戒やって。
こっち襲って来るんやろか?
下は結構バタバタしとる。
保険かけとこか。
ウチはちんまい黒雲を用意したった。
砂漠の空は水気が薄いよって、せっかく地下から持ち上げた水は大事に使いたいんや。
小うても舐めたらあかんで!
その分ぎゅっと集まっとるさかい、大きいのんに引けはとらん。
ブルータイラント様様や。
あれでバンバン雷使たからなあ、まあた強力になりよったんや。
あかん、塩玉忘れとった!
上空へ一つあいつを追尾するように上げる。もう一つ地面に向こてイブちゃんからは離れたところへ。
上に向けた雷言うんは初めてやけど、出来んことはあらへんのや。
お、来よった。
なんやろアレ?
グレンズールーでエンプテラを見たけど、色が違うなあ、真っ黒やん。腹の色はなんぼか薄いやろか。
黒雲も塩玉もええ感じや、いつでもええで?
後で聞いたら、アレ、ロププテラー言うらしい。めっちゃ呼びにくいで。
カーナビ情報やってん他で通じるか分からへんけど。
さてそのロププテラー。
トケイ回りに降下して来よる。
ウチの後ろ取ろう言うんか?
なら、こうや。
塩玉を操ってウチとロププテラーの間へ、もう一個は地面まで繋ぎは取ってあるよってウチの後ろへ立ち上げる。
あんまり高するとこっちに雷が来てまうよって、ウチよりナンボか高いくらいまでや。
今や!
ロププテラーが背後に回り込んだ思て急降下に移る、それを待っとったんや。
塩水の糸を黒雲とロププテラーへ伸ばす。
稲光が塩水糸に沿って鋭く走る。
あれ?消えた?
当たらんやった?なんで?
もう1回や!塩玉もう1個!
その時ロププテラーから上空、灰色の空に向かって青い光が紐が風に靡くみたいに漂い登るんが見えた気がしたんや。
結果から言うたら次の一発はちゃんと当たりよった。
控えに立てといた塩水糸で、地面に雷を逃すんも上手くいったんや。
言うたら翼の解体の方がナンボか苦労したわ。
グレンズールーで買うたしゃもじがあらへんやったら、お手上げやったろな。
けどあの青い光、なんやったんやろ?




