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エンスロー

 エンスローの街はこの辺りの中心都市だと言うことで、かなり大きいらしい。


 お母さんに連れられこの街も通った筈なんだけど、たった2年しか経っていないのにあたしは覚えていない。


 スレフトの馬車の後に付いて、街道を北へ進んで行くと石作りの城壁が遠くからも見えた。

 城壁の向こう、霞んで見えるけどあれは聞いていたお城の塔だろう。


 スレフトと言うのは、サイダ村からエンスローへくる途中で事故を起こしていた馬車の御者。

 同乗者の姪だと言うシンディは、イブちゃん(タクシー)の平らに広げた後ろで寝ている。


 馬にイッカクネズミが突っ込んだとかで、街道に空いた大きな穴にはまって、車軸は折れるわ、姪御さんは放り出されるわで、止めにグレイウルフの群れ。


 どんだけツイてないのよってところへ、あたしたちが通りかかった。

 スレフトさんは肩に傷を負いながらも、短剣一本でグレイウルフ1頭を仕留める、かなりの腕利きだった。

 でも本職は弓使いだと聞いて2度ビックリだった。


 丁度イブちゃんの「アビリティ」ってのが保留にしてあって、「リペア」が使えたから弓と馬車を直すことが出来た。


 タケオはゴツゴウがどうとか言ってたけど、単純にラッキーだって、喜ぶところだよ。


 城壁が見えてから10分、あ、これ、カーナビに時間が出るんだよ、便利だよね、左手にナビキ川があって、石造りの橋を渡ると城門になっている。

 右へ川沿いに行くと、街へ入らずに北門まで行けるそうだ。

 北門にもここより大きな橋があるそうだから、見ていこうと思ってる。


 城壁はナビキ川に沿ってずっと上流まで続いてるみたい。


 石の橋を渡り出すと馬車が3台並ぶほど広いのが分かった。

 イブちゃんならスマートだから4台行ける。イブちゃんは1台しかいないんだけど。


 イブちゃんは白いすべすべ肌にオシャレな青いラインをドアの前後に流して、オデコに黄色い飾りを載せている。

 あれはアンドンって言うらしい。


 そして何より、馬車の5倍は乗り心地がいいんだ。


 おっと。イブちゃんの話ばかりしてたら、折角エンスローまで来たのに見物が出来ないよ。


 城門はスレフトさんが口を利いてくれてすんなり通過した。

 入市税はちゃんと払ったよ?


 スレフトさんの住まいは、城門から3ブロック行った環状通りを右に少し行ったところ。

 穀物なんかを扱ってるお店で働いているそうで、宿舎はその店の裏手。

 店で働く人が何組か一緒に住んでいるそうだ。


 まだ足元がおぼつかない感じのシンディちゃんを、イブちゃんのバックドアからスレフトさんが抱えて建物に入っていく。

 せめてお茶でもと言われて、あたしたちも付いて行った。


 どっかいい宿があったら紹介してもらっちゃおうか。


 と言うわけで、向かいの5軒くらい左へ行ったところがお勧めと言うので、あたしはそこに決めた。

 タケオは相変わらず、イブちゃんの後ろで寝るそうだ。宿舎の前に駐車した。


 宿はなかなか綺麗な部屋で、食事もたっぷりあった。

 体を拭いて寝心地のいいベッド、朝までぐっすりだった。



 朝起きるとタケオを呼びに行く。ほっとくと朝ごはんもテキトーに済ましちゃうから。


「ほらほら。今日はギルドに行くんでしょ?

 あたしもこんな大きいところのギルドは楽しみだよ!」


 そう。スライムが小粒の魔石を持ってたなんて誰も知らなかった。

 倒すにはスライムの体内に透けて見える核を壊すんだけど、核が壊れるときにパチンと弾けるんだ。

 そうするとスライムの体のネバネバと一緒にそこらに飛び散って、あんな砂粒みたいな魔石はどこへ行ったか分からない。

 あたしもあの日は多分4、50匹も倒したはずだ。


 大体、無いと思ってるから探しもしないってのが本当。

 で、イブちゃんは倒した魔物の魔石は全部集めちゃう子なんだよ。

 あの砂つぶ魔石は数えたら325個もあった。

 何個かはあの穴の底で、小さくて取り出せなかったからもっとあったんだ。


 魔石があるって言う情報がいいお金になるらしいんで、あたしたちはギルドへ行くんだ。楽しみー!


「クレア。ずいぶんはしゃいでるな、迷子になるなよ?」


 この意地悪を言うおじいちゃんがタケオ。68だって言うんだよ?

 信じられる?

 自分ではボケたとか縮んだとか言って嘆いているけど、歳が本当ならあんな元気なわけがない。


 まあいいや。

 あたしの感想がどうであれ、この人は命の恩人。

 黒の森で滅多に出るはず無い強い魔物を倒してくれた、イブちゃんを連れて来た人。それも2回もだよ?

 あんな浅いところにオークやファットリザードが出てくるなんて、誰が思うかなあ。


 それでもってギリギリの生活をしていたあたしに、お金の余裕までできちゃった。

 もう、大恩人だよ。


 

 この辺のことはよく知らないから見て歩きたいんだって。

 イブちゃんがいるから移動だって楽々だし、防御は完璧。

 あたしが今、レベル10だなんて信じられる?

 諦めてた土魔法まで使えるって……

 わ。やばい、涙出そう。


「おじいちゃんこそ迷子にならないでね、探すの大変だから」


「タクシー運転手が滅多なことで迷子になるか!」


 って、宿の周りをお散歩がわりに見て歩いてるだけなんだよ?


「あ。タケオ、これ可愛いと思わない?」


 あたしはイブちゃんのフロントに敷くのに良さそうな、お魚柄の布を見つけた。


「ほら色んな向きで泳いでる。

 ねえ、これ買うから敷いていい?」


「好きなようにしていいけど、埃を呼ぶと思うぞ。こまめに掃除してくれよ」


 こんな調子でついでだから近所も一回り。


 おやすみ気分、堪能したー!


「ギルド行ってお昼に美味しいもの!」


 あ。なんか呆れてる。


「おう。じゃ、タクシーに戻るか」


 タクシーはスレフトの宿舎に駐めてある。環状通りを南に下って、大きな看板の穀物店を左に曲がると、宿舎が見えて来る。


「ちょっとシンディちゃんの様子を見ていこうよ」


 タケオが頷いたのであたしは宿舎へ入った。

 昨日スレフトに付いて部屋まで行っているので場所は分かる。


「こんにちはー。

 シンディちゃん起きてるー?」


「はあい、どなた?」


 中からドアが開けられ、元気そうなシンディちゃんが顔を出した。


「わあ、元気そう!

 よかったねー」


「あの……?」


「クレア、先に名乗ってやれよ。

 俺はタケオ、この無礼者はクレアだ。

 昨日そちらの馬車事故に……」

「あ!叔父さんに聞いた冒険者の人!

 助けてくれたって聞いて、どんな人かなーって思ってたの」


 うふ、タケオがセリフに割り込まれて苦笑いしてる。


「そうよ。丁度あそこで行き合ったんだよ」

「あのね、お店の旦那様がお礼をしたいって言ってるの。

 もし寄ってくれたら、連れて来てって言われてるんだ。

 お願いして良いかな?」


「俺、そう言うの苦手だ」


「まあ、良いじゃない。挨拶くらい」


 おっと、タケオが不機嫌そう。


 シンディちゃんの案内で、宿舎の玄関の向かい側にある戸口を潜る。

 中は倉庫で左手に馬車の搬入用らしい大扉がある。店舗は正面らしい。

 

 右奥の階段から上がった先は小綺麗な広い廊下で、2つ目の立派なドアをシンディちゃんがノックした。


「どうぞ」


 聞こえたのは女の人の声?


 シンディちゃんについて中へ入り、見回そうとすると厚手の絨毯に足が沈む。


 タケオと2人で足元をまじまじと見てしまった。


 女性に付いていくと重厚な扉の奥の一室。

 執務室らしい大きな机に背後の広い窓。

 ガラスの向こうには小さな花壇が置かれ、赤白の小さな花が並ぶ。

 その向こうはエンスローの街並みだ。


 室内にはそれに合わせたような豪奢な調度。


「そちらが助けていただいたと言う方々かい?

 よくいらっしゃいました。

 私はスイフナール商会の長をしているアズスイフだ」


 服装は上品な感じだけど、目がきかん気のお婆さん。

 聞いちゃいけないんだろうけど、歳はタケオとどっちが上だろ?


「俺はタケオ。こっちはクレアだ。

 肩書きは冒険者だ」


「見たところあたしとどっこいの歳で冒険者とは恐れ入ったね。

 うちのスレフトが大変世話になったそうで、お礼が言いたくて来てもらったんだ。

 この通り感謝する」


 おばあさんが頭を深く下げた。


 姿勢を戻し、手で合図するとかっちりした印象の黒服の男が、小ぶりのワゴンを押して来て、ポットからお茶を注ぎ始める。


 おばあさんに促され、食堂で使うような高足テーブルの前の椅子に座った。

 赤や青の華やかな柄のカップをあたし達の前へ出してくれた。


「お好みで砂糖をお使いください」


 あたしは耳を疑ったよ。だって砂糖だよ!


 黒服の人はシンディとおばあさんの前にも置いていく。


 タケオが飾りがいっぱいの小壷の蓋を取り、トレイの上のスプーンで中から薄茶色のザラっとしたものを2杯、カップに入れ静かに掻き回す。


 あんた何してんの!?

 あたしは声には出せないけど、怒鳴りそうになったよ。

 お前も入れたらって目でこっちを見るな!!

 それ無茶苦茶高いんだぞ!


 おばあさんが別のスプーンを取って一杯入れ、シンディは震える手で砂糖を一杯だけ入れ、回りを見回した。

 もう一杯入れるとカップを大事そうに両手で持つ。


 さてあたしはどうしよう。

 お好みというんだから一口飲んでみるべきでは?

 飲んだことのないお茶だし。


 部屋いっぱいに広がる香りで、美味しそうなのは分かる。

 昔の家でも村でもあまりいいお茶は飲んだことないからなあ。


 飲んでみるととても美味しいお茶だった。味がどう変わるのか確かめたくなって、あたしはスプーンに2杯の砂糖を入れてかき混ぜた。

 甘くて幸せな味になった。


 あたしがお茶に夢中になっている間に、タケオが言いくるめられて金貨20枚も受け取ったなんて、後で聞いてビックリしたよ。


 お茶を堪能して、執務室を出る段になって突然頭にどこかの景色が浮かんだ。


 最初はわからなかったけど、どうやらイブちゃんの止まる駐車場。

 クルマを含めて周囲を高い建物から見ているような光景だ。


 周囲を少し離れて20人近い人が取り囲んでいる。


 囲まれてるのは黒い屋根に白いボディ、ボンネットのとこだけ白が広く見える、そして上からだと丸く見える黄色いアンドン。

 見間違えるはずもない、あれはイブちゃんだ。


 イブちゃんのそばにいる男が振り翳しているのは剣?

 こいつイブちゃんに何する気よ!


 何もできず見ているうちにそいつは剣をアンドンに向け振り回す。


 わ!やめて!


 何の前触れもなく男が弾け飛んで、その光景は終わった。


 タケオが

「何だ今の……」

 と呟いていた。

明日も夕方19:10に1話行きます

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