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テオドラ砂漠高架橋

 ここで領主依頼のブルータイラントを狩り始めて8日経つ。

 仮の目標である2桁の頭数は4日目に達成した。


 俺たちとしては4センチ魔石が採れる10メートルクラスがありがたい。

 しかし、討伐の目的を考えると大物を狙った方が喜ばれそうだ。


 危険を伴うが素材の売り上げも値が跳ね上がるしという事でもう3日ほど大物狙いで動くことになったのだ。

 そして。



「ブルータイラント狩りの収支を発表しまーす。

 まず収入から。

 依頼報酬が25万ギル!

 5セロト(cm)魔石を含む素材買取が185万ギル!

 次に支出です。

 魔道具屋で購入した銅線と鉄線が18万ギル!

 荷運び馬車6日間が3万ギル! 差し引き189万ギルが今回の純利益となりました!」

 商業ギルドの帳簿を管理するのはクレアだ。


 ほう、2千万円に迫る金か。それはすごい。


「わあ、すごいすごい!」「やったー!」「なんか美味しい物、食べに行こ!」


「続いて魔石ですが、今回のタイラント魔石は4セロト級のみ。

 12個でした」とメアリが報告した。


 1cmの魔石に換算すると大体魔力で60倍。700個分程になる。

 これの準備で狩った魔石は半日で換算1千個だったから、売った5cm魔石を抜きにするとこっちの方は及んでいないか。

 アレはメグが暴走したからなあ。


 ネドクラスト侯爵からは依頼報酬の他に、2000個相当の魔石を高架橋のために提供するとの約束まで頂いた。


 それで話はゼレンシア商業ギルドへ戻る。

 ブルータイラントの件で日数が伸びたので、7千個相当の魔石を集めてくれた。

 俺たちの手持ちを合わせてザッと9千。


 必要量は俺の試算で1万2千個。

 その根拠はラテラ〜オネシス間の桁掛け実績だ。

 1回の桁掛け200メルキで消費する魔石は12〜13個。1キロメートルで60個強。

 180キロの架橋に必要な魔石は1万1千個余りになる。

 ニストワームが同じように出るなら若干減るが、できれば少し余裕が欲しいところだ。


 クレアとメグ、それに俺は朝から清算やら会合やらで走り回って1日が潰れた。

 明日は休養日にして、それからテオドラ砂漠高架橋の仕事へと戻るとしよう。


   ・   ・   ・


 緑の濃い土地はここで終わり。

 この先は西から風に乗って運ばれる砂が一面を覆って、それで足りないとでもいうのか地表の岩をその砂で削る。

 乾燥して草木一本生息できない過酷な土地、それがテオドラ砂漠だ。


 緑と砂の境目らしいこの辺りで見渡す分には、小島のように点在する小さな森が、最後の抵抗を試みている様が見て取れる。


「どうや?

 登りはここからでほんまに大丈夫やろか?

 砂が被ってまうなんてことにならへんやろなあ?」


 メアリ達は困ったように俺たちを見ている。

 いざ始めようという段でメグがゴネているように見えるから。


「メグ、そんな事いくら心配したって、どうなるかなんて誰にも分からないわ。

 あたし達は今できる事をするだけよ」


 ラテラから続く支柱の列はここで終わっている。

 高架橋へと登るスロープ。

 それをどこに設けるか、いざ架橋となってメグには迷いがあった。

 だが分からないものは分からないと、クレアが切り捨てる。


「ゼレンシアでもそのことは話したじゃないか。

 評議会がここの維持はやるって請け合ったんだ、大丈夫だよ」

 俺は予定通りで構わないと思っている。


「せやったなあ。

 でもなあ?」

「もういい!

 さっさと始めるよ!」


 まだ何か言いたげなメグだが、クレアが押し切った。

 渋々といった様子でメグが配置に付く。


 俺はそれを途中で捕まえ

「また後で見にくればいい。

 何かあるならその時に直せばいいんだ」

 と言ってやる。


 架橋にせよ道路補修にせよ、リペアで事を行うには事前にどれだけ正確なイメージを術者が持てるかにかかっている。


 だからメグはクレーンで自身を、20mの高さまで吊り上げる。


 下で見上げるクレアにメグが手を上げて見せた。

 イメージが固まった合図。


 クレアが右腕を掲げ、手首に光るのは木製の環に付いた青い石。

 普段は黒に近い色のその石は、クレアの魔力を受けて明るい光を放っていた。


 足元から数えて支柱3組が、クレアの動きに合わせ持ち上がる砂に隠れて行く。

 その形は大雑把な斜路だ。


 メグのリペアが発動する。

 桁を架橋する距離は200メートルと絞ってあるので、魔石の消費量は少ないがメアリがタクシー(イブちゃん)のボンネット下に待機している。


 予定ではMS容器の半分を消費するのだが、万が一でも魔石を切らすのは不味い。


 砂の斜路は橋桁へと輪郭を引き締めて行き、8m幅の広い登り坂が見ている前で現れた。

 左右に小段はあるが欄干はない。

 そして斜路はまだ予定の高さまで登っていない。

 それは馬車休めの小段が途中に一つあるためだ。


 上でメグが身じろぎを一つ、杖を構え直す。

 MS容器の中でカタリと音がして、メアリが慌てたように魔石を補充する。


 路面の照り返しが鈍くなり、同時に欄干が生えた。


 欄干まで同時に思い描くのは大変なんだと言っていたから、修正で付けたんだな。


 出来上がった高架橋だが、俺たちは砂漠を走る。

 それは材料として使う大量の砂を、クレアが供給するから。

 クレアは地面の近くにいないと効率が悪くなるのだ。

 もう一つの理由はリペアの魔力にニストワーム(蛇顔)が多く寄って来て、それを俺やステス達で狩れば魔石が得られるから。

 スナトカゲやスナヘビ、サソリが狩れるのも、地面を離れたくない理由の一つだ。

 なんせあいつらは結構美味いし。


 一方リペアで桁を形成するメグは、全体を見渡せるようにより高い場所が有利だ。

 だからリペア発動時はクレーンで上空に上がる。


「次行くで!」


 メグが降りて来るとすぐに移動だ。

 昼前はニストワームの心配は要らないだろう。

 俺たちは滅多には出会えない、美味い獲物を探す。

 まだ買い込んだ食料はたっぷりあるが、見逃すつもりはないんだ。


 高架橋の始まりが砂丘の向こうに見えなくなる頃、3食4食分のヘビとサソリを移動の合間に捕らえて、皮や毒腺を採った他干し肉加工までやることができた。


「晩御飯に少し獲れたてを焼いて食べようよ!」「わあ、サソリ、ゴブサター!」

「スナヘビ肉は歯ごたえが良いんだよ!」


 などと、すっかり砂漠に適応してしまった子供達だったが、1回の架橋にかかるのは10分ほど。

 日に50回として進むのは10km程。

 これから20日はかかる長い砂漠暮らしはこれからだ。


   ・   ・   ・


 昼が近くなるとカーナビで警戒するメアリがそろそろだと言い出す。

 赤い光点が集まりつつあるんだとか。

 中でも右から迫る一団が近い。


 最初の波がやって来たのは午後3時過ぎ。

 メアリの警告に従って俺とステスが前に立つ。

 索敵で大体の出現方向がわかるのがありがたい。


「もっと右よ!

 ステスも右に行って!

 そう、その辺!3つ来る!

 もう近いわ!」


 位置取りにメアリの指示が飛ぶ。

 あとはどのあたりで地面から飛び出すのか。


 と、正面6メートル、土が僅かに盛り上がる。

 俺は数歩前へ出る。


 狙い易いのは槍の中間を持った時、それでも間合いは3メートル程になる。

 もそっと上がって横に崩れる砂、その根元を狙って突きを一本。

 ザクッと砂越しに弾力のある手応え。


 引き抜いた槍を再び構えて左右を見る。

 そこで突いたばかりの砂がはじけた。

 構えのまま足を踏み換え、何がどうなったかと注視すると飛び出すのは砂に見え隠れのニストワーム。

 俺はそのまま狙いを上に、飛び上がった頂点で突きをブチ込んだ。


 だがそいつはさっき突いたニストワーム(蛇顔)だった。

 砂に開けた穴から時間差で俺に向かって飛び出して来る。

 突きで伸び切った身体を無様に右へ転げさせて突進を避ける。


「うわっ!」「わわっ!!」

 驚く声がする。

 転げたのもそのまま膝立ちに槍を回す。

 ステスの前に歯を剥き飛び上がるニストワームがいた。


 姿勢の安定は良くないがステスが危ない。

 そう思った俺は強引に体を回す。

 回しながら切先をそいつに合わせる。

 距離も刃筋も、斬撃の高さも合わせないと届かない。


 無理な動きで体が斜めに傾ぐ。

 だが右膝、伸ばした左の爪先は地面を噛んでいる、まだ振れる!


 ステスが自らを庇うように短剣を突き出す。

 腰が入ってないからあれは効かない、頭の隅で妙に冷静に思う。


 穂先は狙いの下を薙いだ。

 それはニストワームの胴中の半ばを切り裂いた。

 勢いを削がれたところにステスの短剣が叩くように入る。

 そこまでは見えたが俺が突っ伏すように倒れ込む。


 メアリは3つと言っていた。

 口の中の砂が歯に当たってガリッと酷い音が頭蓋に響く。

 ブハッと息を吐く口から砂が飛び散る。

 両手を突いて上体を起こす。


 足元の砂が盛り上がるところが目に飛び込む。

 槍は間に合わない?

 咄嗟に槍を放し腰の短剣を引き抜きながら膝立ち。

 砂が崩れ始めたところで、よろけるように一歩後退し、立つことはできた。


 足を踏ん張り腰を落とす。

 然程強くないニストワームが相手とはいえ、手打ちではどうにもならない。


 噴き上がる砂に目を細くして見据える。

 その砂に隠れるように何かが出て来る、その気配を俺は上から短剣を斜に斬り下ろした。

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