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湖沼の狩り

 仕留めたブルータイラントは、クレーンで鼻面を吊りフセーチ仕様のタクシー(イブちゃん)で曳く。


 しかし殆ど動かない。向きさえ変わらない。

 巨体過ぎて引けないのだ。


 そもそもタイヤトレッドで掻く水の量など知れている。

 そしてあの重量。


 20トンは超えているだろう重さの他に、あのサイズというだけでも恐ろしいほどの水の抵抗、加えて背面のギザギザ、デコボコが更に根を生やしたように動きを阻害する。


「うーん、どないしよ?」


「水の魔法少女さんにお願いするしかないんじゃない?」


「何や、ウチ?

 お願いて、どないせいちゅうんや」


「だって周りは全部水でしょ?

 泥々だけど水には変わりないわ」


「それ言うたら、土も行けるんちゃう?

 えらい量それに混ざっとるんは皆土やで」


 おいおいケンカするんじゃねえぞ?

 そう思っていたら次のクレアのセリフが決め手だった。


「あら、それもそうね?

 じゃあ一緒にやる?」


 かくしてブルータイラントは(おか)に向かって、スルスルと移動を始めた。

 泥を大量に含んだ水は流れることも乾くこともない。

 それが更に効率を上げる。


 固い地盤まで運ぶのに10分とかからず、イブちゃんはブルータイラントに引かれて、ついでの様に上陸したのだ。


 バックで牽引されるってのは気持ちのいいもんじゃねえよ。


「タケオ、何しとるん。

 さっさと解体せんやったら次いかれへんでえ」


 俺が気を取り直し外に出ると、気合い十分のクレアが槍先に土魔法を纏わせ、メアリの付ける印を次々突き抜いていた。

 背と腹で厚みの違うブルータイラントの皮を、まるで切り取り線でも引くように上下に分けていく。

 ブシュブシュという音にそちらを見ると、喉辺りの穴から血が噴き出て、そばに掘った穴へと流れ下っていた。

 四肢と尻尾の先には大きな水球が取り憑いている。


 あれは水で押し出すいつものメグの血抜きだな。


「タケオー。この切り残しを切って行って!」


 ステスがミトアと一緒に俺を捕まえて言う。

 小さなナイフでは刃が通らないらしい。


「タケオにいちゃんがんばれー」

 ラトルは応援に回るようだ。


 腰の短剣を抜いて風魔法を纏わせる。

 剣で切るのではなく纏わせた魔法で斬る。

 この頃分かって来た事だ。


 属性によって扱い方は様々、人によってもやり方が異なるとかで、教科書のない魔法を使うのはなかなか難しい。


 俺が既にある30cm間隔の、穴の間を繋ぐように切り裂くとその後からステスが腹の皮革をめくって来る。


「もっと薄いかと思ってたんだけどなあ、腹の皮だってのに1セロト(cm)以上あるじゃん」

 比較的薄い筈の腹皮をめくってみてステスが呻いた。


「その厚さやと押さえきれんやろ。

 ウチが加勢したるよって中身はまかせるで?」


 そうやって肉と内臓が少しずつ露わとなって行く。

 胴体部分の皮を上下で切り離すだけで2時間も掛かってしまった。


 全ての切り分け、処分が終わったのは結局夕刻で、忙しい夕食とあいなった。



「ほう。魔石は4セロト(cm)やったか。

 なかなかの物やなあ」


「でもイブちゃんのMS容器に入るギリギリだよ。あの巨体だからね、もっと大きいんじゃないかって心配してたんだ」


「なあ。

 そう言えば魔石狩りの最後で大物が来たろ?

 あれって何でタクシー(イブちゃん)にぶつけたんだ?」


「それはね、タケオ。

 イブちゃんが倒すと、魔物の強さをパーティに分配してくれるんだよ。

 メアリ、ステス、ミトア、ラトアの4人の力や速度を上げるためなんだ」


 通常は倒した魔物の強さに合わせて、手にかけた者の能力が毎回ではないが向上するらしい。

 それは段階的に上がって行くもので、戦闘で効果を上げた攻撃に応じて受けられると言う。

 この辺りは冒険者の間ではよく囁かれている事。


 だがタクシーが跳ね上げた獲物の場合、パーティメンバー全員にその効果が現れるんだと。

 そして力の弱い者ほど効果が顕著に現れ、成長の速度が上がるってのがクレアとメグの説明だった。


   ・   ・   ・


 ブルータイラントは一体狩っただけでも、荷車5回分もの運搬が必要だった。


「これはもっと大きな荷台を曳くか、荷運びの馬車でも雇わないと、毎回運搬だけで半日潰れるよ?」


「クレア、そう言うたかて、荷台買うても今だけやで。

 あと、氷穴に()り込んで運んどいてー、言うてもや。

 穴の中から馬車の上やで、どないして積む?

 何人も寄って集って運ばせとったら、運搬賃、えらいことにならへんか?」


「クレーンや水網が使える訳じゃないだろうしね、確かに大変そうか」


 それならと、俺が言ってみる。

「荷台と同じくらいの高さに氷の箱とか作れないのか?

 今は寒い時期だし、そんなしっかりしたものでなくても、何とかなるんじゃない?」


「あれ、そない簡単でもええのんか?

 何やいっつもやっとる通り、作っとったんやけど」


 なんてやり取りがあって、午後からはまたタイラント狩り。

 湿地帯は移動に時間がかかるので、仕留めて解体までやって、やっと1体だった。


 これで地図にあった印の集まった場所は終わりだ。

 けれどもう2、3体は狩りたい。

 ボソッと言ってたけど、できれば二桁ってのがメグの目論見だった。


 朝に商業ギルドまで1回だけ荷運び、そのついでに馬車と3、4人の荷運び依頼を出す。

 今回から氷箱の床は高くしたし、片面に氷の大扉を付けてある。

 荷積みはこれで大丈夫だろう。

 1台の馬車で6往復もすれば、タイラント1体分くらい運べる筈だ。

 運んだ荷はギルドが査定して、代金は預かりとする契約もした。


 依頼に応じる者がいるのかは、次を狩りたいので待っていられない。


 次からは虱潰しの探索になるので、時間は余計に掛かるだろうし。


 本日初のブルータイラントは、意外にもすぐに捉えた。

 餌は有効で雷もワイヤーのおかげで外さない。


 引き出すところまでは1時間で、解体に2時間程。

 運搬依頼を受けた者が居るようで、氷箱の中身は減っていた。


 遅い昼食のあとまた探索に出る。


 カーナビの索敵は、タイラントが水中にいると反応が薄いらしいと分かった。

 どうも泥水というのが良くないらしいんだが、なんでだ?


 索敵画面で見え隠れするタイラントと思われる光点。

 それはこれまでの3体よりも狡猾な奴だった。


   ・   ・   ・


「このままだと足場の状態が分からなくって、どうにも動きにくいわ」

 とクレアが言いだした。


 俺はそれで黒の森で木の表示を弄って、色を変えたのを思い出した。


「ちょっといいか?」

 助手席が定位置になっているメアリに断り、索敵画面をつつく。


 えーとどうやったんだっけ、ジジイの記憶は肝心なとこが結構抜けてんなあ。

 ああ、長押しだったか。


 クレアが言ってるのは足場の固さだな。


 この辺はハッキリ固い場所だ、薄い緑にして……こんなものか…こっちは湿地だが、水深によって表示の設定が違ってるな、何だって10cm単位なんだ?

 設定がめんどくさい……0〜50cmくらいを湿地ってことでいいか。



 うへ、この操作6回もやんのか……ええと、薄い水色でいいか……

 それで水溜まりはあのタイラントの巨体を思うと、2メートル以上かな……

 うえっ! こっちも10センチ単位じゃんか……どうすんだこれ?


「タケオ、下の方に水深設定って出てる」

 とクレアは助手席の背もたれの向こうから言った。

 俺の操作をずっと見てたらしい。


 水深設定? あ、これ、イズーラになってんのか、これじゃ読めねえ。


 俺が迷っていると、メアリが「ここ」と指をさす。


「見てて大体わかったと思う。

 やって良い?」


 メアリがやってくれるんなら別に文句はねえ。頷くと俺は自分の背もたれに戻る。


 メアリがすぐさま操作を始めるが指の動きが速い上に、画面の変遷がチカチカ瞬くくらいに速くて何をどうしたんだかさっぱりだ。


 後ろから見ていたクレアが絶賛する。

「おおー。

 結構良い塩梅じゃない?

 今のところ一つの沼に1体ずつって感じだね、縄張りでもあるのかな」


「それはありそうな話やな」


「でも泥水はやっぱり薄い感じ?

 掻き回したところは諦めるしかないかあ」


「あ、ここ!」

 助手席のヘッドレストに顎を乗せ、クレアが画面を指差す。


「近い水溜りで光った。

 あれ、消えた?

 何だろね?」


「近いんだったら行って確かめるか」


 俺はアクセルをゆるりと踏みハンドルをそちらに向けた。

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