カーナビの青い線
俺の若返り、ジジイの記憶だけ戻った件についてはさっぱり分からないまま、柱の列がゼレンシアへと近付いて行く。
ワームの皮はもう随分な量になって、タクシーの後ろにぶら下がっている。
クレーンがなければ手余ししてるところだ。
「ねえ、タケオ兄ちゃんって、ほんとにおじいちゃんなの?」
ラトルが聞いてきた。
ステスとミトアも聞き耳を立てているようだ。
そうだよなあ。同じ年頃と思ってた友達枠が、保護者の二人を飛び越えてジジイだもんなあ。
そりゃ納得できんか。
だがどう言えばいい?
「俺が君らと会った時は爺さんだったなんて覚えて無かったんだ。自分は子供だと思ってた。
けど、昨日の砂漠で逸れちゃって、あの砂の柱を見て、何でか思い出しちゃったんだよ」
結局正直な話をするしかないか。
「ふうん?どのくらい年寄りだったの?」
「……68だ」
「えっ、ホント?
じゃあいろんなとこに行った?」
「さてなあ、田舎で育ったし、あまり遠くへは行った事もないが、こことは随分違ってたかなあ」
「そうなんだ、今度お話聞かせてね!」
「僕にも!」「ミトアも〜」
おい、なんか子供達に気を使われてねえか?
・ ・ ・
メアリがカーナビの画面に色がついて見えると言い出した。
ごく薄い青に変わったと言うんで、みんなで見てみたが正直、違いが分からない。
昨日までは変わってなくて、今日になって見たら変わってたって言うんだが。
翌日になると目が慣れたのか、メアリはしきりに首を捻る。
そして3日目、ここへ来て青が消えたと言うんだ。
何だろうと昼飯の時にみんなで言い合うが、結論なんか出るもんでもねえ。
その日は予定の作業を終えたんだが、どうにも気になるんで、経路を戻ってカーナビ画面で見てみることにした。
途中で変わるんなら、どこからどこまでって見当を付けられるかなってところ。
作業せずただ戻るんならそんなには掛かりゃしない。
2日分戻っても変わらず、3日前に作業した辺りで色が変わり始める。
画面を斜めに区切る境目は手前が黒で、右に大きい三角形の黒に近い青。
こうやって見ると確かに色が違う。
「あんた良くこの色の違いが分かったねえ!」
「でもこんな境目はなかったんですよ?
場所だって違うし」
メグがイブちゃんを停め、
「それ、動きよるんやないやろな、1日分ずれとるやらおかしいで」と言った。
しばらくじっとカーナビ画面を睨んでいたが、境界線が動く様子はない。
メグはイブちゃんを先へ進める。
すぐに画面は青く染まって、いくつか光点が現れる。
この感じは多分サソリ辺りだろうが今は無視だ。
そこで広域にして見ることをメアリが思いついて、やって見たら何と青い帯が画面を斜めに、幾らかカーブするように進路方向に伸びていた。
見ると10日分くらい戻った辺りで、また進路と交差しているようだ。
「ほう。ここら辺で重なっとる感じやな。
何やろ、これ」
更に範囲を広げて行く。
アクトベル王国の半ばまでは広げて見ると、数本の青い線が放射状に伸びている。
「ここの集まってる辺り、あれやないか?
テルクレフト山!」
テルクレフトはこの大陸で一番高い山で、アクトベルのほぼ中央に聳える山。
寄り添うように幾つかの頂を見下ろして、こじんまりとした山脈を形成している。
北寄りにある王都から南へはクライス山脈がある為交通の便が悪い。
線の交わる辺りが山頂なのかは画面から判別できないが、何某かの関連はあるんじゃないか。
「この広域図を記録してくれ。
そんなコマンドが無かったか?」
「それは見たことあらへんでえ?」
「スマホで撮っておく?」
「ああ、それでもいい。
形が変わるのか、わかるかも知れない」
写真を保存してここまで1時間少々。
「戻って柱の続きやな。
ついでにサソリやら狩って行くでえ」
「賛成!
夕飯が楽しみ!」
ミトアが喜んだ。
光点は右が多い。
柱の列から離れると獲物は多いようだ。
結局あちらこちらと光点を追って寄り道したので、作業場所に戻ったのは昼の時間を大きく超えていた。
飯の内容が掛かっているので、誰も文句を言う奴が居ないのは幸いだよ。
戦果はサソリが20数匹、ヘビが大小合わせて6匹、トカゲも色違いのを3匹、他に食用になるサボテンも見つけた。
解体もあって遅い昼飯の後、作業はいつもなら1日4、5回やるところを1回だけ。
広域にしたので分かったことだが、荷車を埋めて隠した地点まで、予定では10日かかるまい。
荷車はあったほうが断然便利だし。
そもそも何で埋めたんだったか。
さて、折り返しも見えて来た。
・ ・ ・
砂漠の端ともなれば、緑の小島がポツリポツリ点在している。
砂に飲み込まれる途中の森と言ったほうがいいかもしれない。
そう言った森には、普通なら積もっている落ち葉が腐らずに乾燥し、砂に埋もれている。
それでも木々が地下から吸い上げた水を放散するので、森の中はいくらか湿気がある。
小動物もそれを頼りに虫などを捕まえて細々と暮らしている。
そんな近くの森をリスが狩れるかと見に行ったステスとミトアが、大きなカメを見つけたと駆け戻ってきた。
両手を広げてこんなに大っきいと表現する仕草は可愛いが、いまいち大きさが伝わらない。
みんなで見に行くことにして、イブちゃんに乗り込む。
見つけた辺りには大きな穴があって、その奥にも何匹か潜んでいるようだった。
カメは体長2メートルを超え、甲羅の高さも1メルキに近いズングリしたやつ。
びっしりと緑の苔を纏っている。
体重500キロは超えていそうだ。
「これ1匹でしばらくはええなあ」
もう砂漠の出口が近いので、そう無理する必要もないだろう、こいつ1頭だけ狩ると言うことになった。
メグの水魔法であっさり窒息させ、クレーンで回収、作業地点に戻って血抜きと注水まではメグがやった。
硬すぎる甲羅にメグの水刃が通じない。
「タケオ、任せたで」
そう言い置いてメグとクレアが柱の作業へと戻ってしまった。
ステスがチビ達と解体を始め、あまりの硬さに僕を見るんだ。
甲羅を切るのが大変で、俺が風魔法を纏わせた短剣で上下に切り分けるようってことになった。
あの甲羅は磨いて売ればいい金になりそうだったから、おかしく傷は付けられないんだ。
甲羅には首と前脚が出る大きな穴と、後ろ脚の出る穴、尻尾の出る穴の6つの穴がある。
切りやすいかと始めた右の脚の腋だったが、穴の縁が分厚くなっていて刃が通らないのは予想外だった。
縁が厚いならとやや後ろの合わせ目から攻める。
風魔法が刃先に上手く纏っている感触はあるんだが、同じ場所を3回切り付けても、傷はガリガリと入るのに向こうへは抜けていかない。
ニストワームを槍先で斬るのとは違うんだろうか?
あれは動きの中で纏わせているので、余りタイミングなんか意識してない。
言ってみたら纏わせっぱなし、魔法が切れたら切れた時って感じだ。
あと、よく考えると刃が届いてなくても、バッサリ切れるときもあったような気がするんだ。
だけどこうやって切る方が、手元が安定してて切りやすいはずなのに……
何で切れないんだ?
試しにと膝立ちで、実戦と同じように魔法を纏わせて突く。
刃はあっさりと突き抜けた。
傷が入っていて薄くなってたからか?
もう一度。今度は傷の無い場所へ。
ありゃ、魔力が逸れた。
カツンと刃が弾かれる。
もう一遍!
今度は突き抜きに成功。
斬撃はどうだ?
地面に近いとこで水平に薙ぐのは難しいか。
クレーンはメグ達が使ってるし。
左手を突いて身を屈ませて、窮屈な体勢になってしまうがこれも試し。
何度かやって見ると切れるは切れる。長さは短いが刃は通るかな。
やってみて分かったのは、短剣の刃先で切ってるんじゃ無いってこと。
この刃で甲羅が切れないのはハッキリしている。精々引っ掻き傷が付くだけ。
突きで刃が向こうへ抜けたのと、無理な姿勢でも斬撃が通ったのは短剣の動く速さと、風魔法の斬撃が先に甲羅に届いたかららしい。
もう少し検証してみよう。
「ねえタケオ、もう解体始めてもいい?」
言われて気がついた。
甲羅の合わせ目はもう切れ目が一周していた。
「あ、ごめん。ちょっと試してたもんだから。
いいよ。始めちゃって」
とは言ったものの、甲羅は切れているけど、中の筋や肉は上下の殻にしっかり付いているようで、簡単には口を開かない。
広く空いている首元からステスが腹側の甲羅に沿って、ナイフを滑り込ませ身を剥がしに掛かる。
首元にはスジが沢山あるようでなかなか進まない。
スジで甲羅の広い口から体の中身が飛び出さないようにしてたんだろうか。
ナイフ1本分が一通り切れて、殻が少し動くようにはなったけど持ち上がるとこまではいかない。
さてどうしよう。
メグとクレアは先へ進んでいる。
2回分は行ったようで、 タクシーの白い車体は見えない。
あ、あれ、クレーンで昇ったメグかな?
空にポツンと浮かぶ人影は鍔広帽子。
俺が手を振ると一応僕らのことは気にかけてくれてたらしい。
すぐに手を振り返してくれた。
今上がったところなら支柱リペア1回はやってしまうんだろう。
「もう直ぐイブちゃんが戻ってくるから待っていよう」
カメは移動ついでにクレーンで裏返して貰った。
そうなると隙間に工具を捩じ込みながら、そう時間もかからず解体してしまった。




