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馬車事故

人物紹介 (本編はこの下にあります)

 スレフト 31歳 186cm(推定)

 浅黒い肌 黒い短髪 筋肉質な長身でどこか米インディアン風

 スイフナール商会 外向員 弓使い

 シンディ(推定15歳)銀のボブは姪

 カイの村を出てサイダ村目指しタクシーは走る。


 道は昨日と変わらず、ガタガタのデコボコだ。


 クレアはカーナビがお気に入りのようで、簡単な文字は判別がつくようだ。

 若いものはこういう順応が速い。

 ボケかけた俺の頭とは大違いだな。


「ねえ、タケオ。

 イブちゃんのレベルが上がってない?」


「ほんとか?ちょっと待て」


 そう言ってタケオは平らそうな場所まで進み路肩に寄せた。

 辺りに他の馬車は見えないが、ここなら横を余裕で通るだろうと見ての停車だ。


「で、どうだって?」


「ほら、これ見てよ」


 クレアが指差す先には

  イブちゃんLv4

  「アビリティ追加」 とある。


「またなんか機能が増えるみたいだな」


 タケオが追加ボタンを(つつ)いてみると、『ジャンプ』と並んで『リペア』と出た。


「修理のことをリペアって言ってたな」


「何の修理?」


「俺が聞いたのは確か、クルマの修理工場でだ」


「うーん、それだとイブちゃん丈夫だから使わないんじゃ無いの?」


「まあ、クルマに限ったものでも無いんじゃないか?」


「慌てて決めることもないかな。

 また今度にしよう」


 タクシーは走り出し、昼飯時にはサイダの村に入ることができた。


 が、この村には宿も食堂もない。

 エンスローの町が割と近いのだ。

 その代わりに、大きな屋根がかかった休憩所が領主によって整備されいた。

 もちろん利用料は安くはない。


 タケオ達にはタクシーがあるので、天気のいい今日のような日には、有り難みなどない。

 丸太を切り出したままといった風情の長椅子より、リクライニングさせたシートの方が柔らかく寝心地もいい。


 難点を言えば車内がそう広くないところだろう。


 ともかく、タケオとクレアは魔石コンロを出して鍋に湯を沸かす。

 カイの雑貨屋で求めた穀物と干し肉を一緒に炊く。

 水分を吸って柔らかくなった穀物に、肉の風味と強めの塩分が加わって味はともかく、食べやすい昼飯になった。


「欲を言えば味噌醤油が欲しいところだ。トマトソースやカレーでも合うと思うんだが」


 タケオはそんなふうにぼやくが、ここまで塩以外に調味料と言えるようなものに出会っていない。

 さりとて自分で作るとなると、どうやればいいのか分からない。


 タケオが作る料理は、食えればそれでいいというレベルだった。

 だから食事は女房任せ、娘任せでこの歳まで生きている。

 その辺りはクレアも同じで、そもそもそれ程いい暮らしをして来ていない。


 金持ちの家にいたというが、寝る場所食べるもの全てに於いて日陰暮らしだったのだ。


「そうかな?

 十分美味しいと思うんだけど」


 量こそ命のクレアのセリフは素っ気ない。


 腹がくちくなると二人は、簡単に片付けて前席を倒しお昼寝と洒落込んだ。

 この村はあまり見るものもないと、カイで聞いて来ているのでのんびり休憩して、夜は次のエンスロー着でと決めていた。


 午後は街道を北上する。


「なんかこの先にいるよ」


 クレアが言う。索敵になにかひっかかったようだ。


「こんな街道にか?」


「うん、割と小さめかな、反応が4つ。

 このカーブを曲がったら見えてくるかな」


「急ぐか。揺れるぞ」


 タケオは大きな穴だけ避けると決めて、アクセルを踏み込んだ。


 ダンダンダダダと激しい走行音を上げタクシーが速度を上げる。

 漂う程度だった砂埃がタクシーを追って巻き上がる。


 ゆるい登りの右カーブ。

 傾いた幌が見える。

 すぐにそれは幌付き荷馬車に変わり、左の車輪が外れているように見える。


 でも片車輪がないだけで、あんなに傾くものか?


「左の薮に金色…の髪?タケオ、人が倒れてる」


「なにがあったんだ?」


 馬車の向こうに男が何かと戦っているようだ。


「何だ?

 クレア、狼だ!」


「馬車の横に止めて!

 タケオは薮にいる人を助けて。

 あたしは狼を何とかする!」


 タクシーはもうもうとした土埃を纏って馬車の横に付ける。


 停止した車体を吹き抜ける埃はド派手だが、時速にしたら30数キロ。道が悪すぎて、これ以上はコントロールが効かなかったのだ。


 クレアは完全に停止する前からドアを開けていて、止まるとすぐさま外へ飛び出した。

 開いたドアが閉まるわずかな間に、大量に埃が車内へ舞い込んだ。


 タケオもシートベルトを外し外へ出る。

 外は埃が雲のように舞っていた。


 クルマの後ろを回り荷馬車の向こう、薮を見ると長い金髪頭が見えた。


 そばに寄ると女だと分かる。

 簡素なワンピース、華奢な体付き。

 意識はないようだが、動かしても大丈夫だろうか?


 周囲を見回すと狼の姿は前方だけ、それも2頭がクレア達と対峙している。

 クレアは4頭と言っていたからまだ2頭いるかもって事だ。


 タケオは少女を抱き起こすと背中から両脇に腕を入れ、タクシーまで引きずっていく。


 前からギャンと悲鳴が上がる。


 クルマに辿り着く前に、クレアが現れた。


「グレイウルフは逃げたわ。その子、意識がないの?

 動かして大丈夫?」


「分からんが、あそこじゃ危ないと思って」


「そうね。

 後ろに寝かせましょう。

 あたしが代わるから用意をお願い」


 クレアに言われ、タケオはバックドアを開け、後席をフラットにして銀マットを敷いた。


 横抱きに少女を運んできたクレアがそこにそっと横たえる。

 見ると筋骨逞しい男がクルマの横に立っていた。

 左肩から血を流している。


「助かった。私はエンスローに住むスレフト。その子は姪のシンディだ。

 イッカクネズミが横から馬に突っ込んだんだ」


 指差す先を見ると蹄で踏まれたネズミが一匹路肩に転がっている。


「おかげで馬が驚いて馬車はこのザマだ。

 間の悪いことにそこにグレイウルフが5頭現れた」


「そうか。

 まずその傷を何とかしないとな」


「割れていなければ、馬車にポーションがある。

 心配ない」


 スレフトと名乗った男は壊れた弓を持って戻ってきた。

 肩を見ると血の跡はそのままだが傷痕すら見えない。日に焼けた良い色の肌だ。


「私は弓使いなんだが、この通りさ。

 参った」


 弓を使うのか。頭に羽飾りが似合いそうで逞しい男と言うとイン○ィアン(北アメリカ先住民)に似てるか。


「弓はともかく馬車の修理は……」


 クレアが途中で言葉を切り、タケオと顔を見合わせた。


「「リペア!」」


 スレフトがキョトンとする前で

「どうしたらいいんだ?」


「カーナビに聞きなさいよ」


「尤もだ」


 運転席は砂ボコリを被ってザリザリしていたが、その始末は後だ。


 上半身だけ乗り込んだ助手席からクレアがカーナビを操作する。メニューを慣れた手付きで辿ってリペアを選択した。


「んー。読めない!」


 カーナビの説明によるとメンバーが「指定」したものを修復するとあった。


「指定とはどうやるんだ?

 何か発動のキーワード的なものがあるのか?」


「ほんとにそれしか書いてないの?

 じゃあ適当にやってみたら?

 指差して直れ、とか」


「ああ。なるほど。

 指定だもんな、指差せばいいのか」


 2人で外へ出て、シンディを心配そうに見るスレフトのところへ行く。

 弓は地面に放り出されていた。タケオはそれを左手で拾って右手指で指す。


「リペア!」


 2つに折れ曲がり、ダランとしていた弦が見ている間に張りを強めていく。


 握り近くの表面に見えていた、擦れたような跡も消えてしまった。


「お前、一体何をした?

 ブロックボアに削られたところまで直っているぞ」


「すごいよ、タケオ!

 この調子であっちもやっちゃおう!」


 クルマから馬車の間は1mちょっと。

 向こうへ大きく傾いた馬車と、ほぼ並んだ状態だ。


「メンバーって書いてあったからな。

 クレア、やってみるか?」


「いいの?

 これ直っちゃったらほんとにすごいよ?」


「ダメならダメで何とかなるだろ」


 クレアは馬車の後ろに回って、指差すと「リペア」を唱えた。

 まるで魔法だなと思いながらタケオが見守る中、馬車が起き上がってくる。


「おお、お……」

 スレフトが声を失った。


 が、荷台の傾きは水平までは戻らない。


「なんか失敗か?」


「違うー。こっちの車輪が穴ボコの中なんだよ」


 タケオも後ろへ回って納得したように頷いた。


「スレフト、馬車を前へ出してみろ」


「あ、ああ……」


 首を振り振り馬の横に立つと、太い首を軽く叩き小声で馬を促す。

 馬は4本の足を踏ん張って前へ出ようとする。

 スレフトも梶棒に取り付いて一緒になって引いている。


 クレアも加勢するが馬車は穴にはまって抜け出せないようだ。


「ちょっと待て」


 作業を止めるとタケオはボンネットを開け、ロープを取り出した。

 それを梶棒に巻き付けしっかり結ぶと、クレアに結ぶ場所を指示してタクシーを前へ出す。


 教えたのは牽引用のフックの位置だった。

 他のクルマを引くわけではなく、自分が引いてもらう時にいいようにと前後につけたフックだが、こんな時に役立つとは思わなかったタケオだ。


 輪にしたロープをクレアがかけて手で保持しながら合図する。


 ロープがピンと張ったところで、

「馬にも引かせて」


 馬はまた全力で引き始める。

 ゆっくりとタクシーが前進する。

 馬車は持ち上がるように深い穴の縁を越えた。


「どうどう。

 よく頑張った」


 スレフトが馬を撫でながら褒めちぎる。

 ロープが外されるとタクシーは前方に出て、左へ寄せて停車した。


「シンディは動かさないほうがいいだろう。

 このまま一緒にエンスローまで行くか?」


「そうしてくれるとありがたい。

 私が先導するよ」


 スレフトが操る馬車はタクシーを追い越して街道を進み始める。


「馬車ってこうしてみるとすごく遅いね」


「それは仕方ないさ。車輪は地面の凸凹が直接伝わるし、馬は生き物だから疲れる」


「イブちゃんは疲れないの」


「燃料が……今は魔石か……無くなるまで走れるよ。

 あれ?Eランプ?」


 Eランプはエンプティ。燃料がもうじき無くなる警告灯だ。向こうでは電力、今は魔石が無くなったことを示している。


 タケオは慌ててタクシーを停め、ボンネット下のMSタンクを覗き込んだ。


「あんなに入ってたのに空っぽ?」


 ゴミのビニル袋からオオカミ魔石をいくつか放り込んだ。

 スライム魔石、魔砂か?はエンスローのギルドで売るつもりだった。


 運転席に戻るとEランプは消えている。


「リペア使ったからじゃないかな?」


「なるほどな。タダであんな事できるはずないか」


 途中クレアが見かけたという薬草採取があったが、エンスローへは日の傾く前に入る事が出来た。

つぎは11/17から7日間不定期投稿やってみます

12:20!

 またお会いしましょう

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