ラテラの町
ラテラ掃討戦では1センチの魔石が採れるニストワームが75匹、3センチ魔石は2匹のニズドワームから出た。
魔石狩り終了ってなった時、上から降って来た歓声には本当にビックリした。
橋の上にこちらを見て手を振る人達は多分50人はいたんじゃ無いかな?
「いやあ、凄かったなあ。
あんた達がイブちゃん(モニョモニョ)かい、慣れてるねえ!」
いや、ちゃんと覚えてくれよな!
商人達はこちらへ戻って来て僕らに言う。
メアリ達も降りて来て、魔石の回収とニズドワームの皮剥ぎを始める。
僕もそれに加勢しながら、聞くとはなしにメグやクレアと商人の話を聞いていた。
これまでイブちゃんタクシーは、街道直しなんかあちこちでやって来た。
僕が知ってるのはヤイズル街道やシーサウストからリョウシマチの岬周り、エンスローからテオドラ街道だけど、こんな風に地元の人と関わった事はほとんどない。
こんな騒ぎは初めてなんだ。
それはメグもクレアも一緒で、ひどく戸惑っているのがわかる。
どうやらオネシスの評議会からの連絡で、砂漠に橋を架ける話が町中に広まったらしい。
その上に10日ほど前に森の上へ出る新しい道が出来た。
砂漠を見渡す展望台みたいな扱いで橋は町の観光名所になってたらしい。
砂嵐が去って昨日になって南から伸びる橋を遠くに発見、ヤムル隊を出して調べようと言うとこで、僕らが残りを繋ぎ始めた。
知らせを受けたラテラの町は大騒ぎになった。
アクトベル王都に通ずる砂漠橋の計画もあると言うのだから。
その前身としてのオネシスへの砂漠橋だ。
商人は興奮した口調でそう語る。
寂れて久しいラテラの交易。
親から引き継いだ交易商。
そんな恨み節が口から溢れかけたので、商人は話題を変えた。
テオドラ帝国の特産品についてだ。
テオドラ帝国の魔法石は有名だと思う。
エンスローで魔道具店を覗いたから、それくらいは知ってる。
あとは古い骨が石に変化したものが、魔石並みに魔力を含んでいるそうな。
それで小さな像を彫って置物や飾りを作るんだとか。
幸運の呪いになるらしい。
そしてそういうのは魔物が徘徊する鉱山で採れると言うのだ。
鉱夫や運搬夫に護衛の冒険者を付けて僅かずつの採掘をしてる。
ラテラでは町が宿屋を借り切ってくれて、開通祝いをしてくれた。
町長とテオドン商人の代表が長い挨拶をして、僕らはテーブルを前にじっと立ったまま聴いてる、なんて始まり方はどうにかして欲しい。
それから椅子に座って料理を食べた。
宿の部屋へ移動した時にはクレアは足腰立たないほど酔っていて、ベッドに放り込まれていた。
「このあとはどうするの?
オネシスに戻ってゼレンシア?」
「せやなあ。橋が架かってしまいよったで、オネシスに戻ったかて、なんぼもかかれへんけど、あそこ、飯不味いねん。
ここやったら美味いもん食えるし、町を挙げて歓待してくれよるでなあ。
言うたらタダやんか?」
「あれ?タダって信用できないとか言ってなかった?」
「なあに言うとるんや。
ここの払いは言うたら報酬の一つやないかい。
労働の対価やで。
それでのうてもニストワーム狩って、魔石代浮かしとるんや、文句なんか言わせへんでえ?」
「ふうん。
鉱山の話は聞いた?」
「聞いたで。難儀しとるらしいで?
出るんは岩に偽装して突然襲ってくる岩系と、壁を抜けていつ来るか分からへんゴーストや、言うとったなあ。
他にもおるらしいけど、あんまり美味しいとこのあらへん魔物や。
護衛に払う金は採掘の足引っ張っとるらしいで」
岩系は魔石だけ、ゴーストに至っては魔石を持っていない。
他は小さな虫系だのワームだの。
「中は広いのかなあ?
僕の槍じゃ長すぎる?」
「坑道言うたらなんぼ広うても3メルキくらいやろ。
クレアの槍でも場所によっちゃあ、よう取り回しが利かんやろなあ。
短剣は持っとるからあとはせやなあ、もう少し重い剣かウォーハンマーやろか?」
「そっか。槍は使えないのかあ」
「まあ明日交易商の店回って見よやん。
なんぞええもんあるかもやで」
・ ・ ・
「あかん、目が回りよる」
その言葉を最後にメグがパタリと砂地に伏せた。
ここはラテラから20kmほど、アクトベルへ向かう途中のテオドラ砂漠の只中だ。
何かワームの巣でも突いてしまったんだろうか、次から次と止まる気配がない。
現れるニズドワームが多過ぎて、魔力が枯渇したんだ。
それでも最後に、半径20m程の小規模リペアをかけてくれたので、僕とクレアがメグを引き摺って後部座席に放り込む。
「逃げるよ!」
クレアがアクセルを踏み込む。
そこへニズドワームが壁のように立ち塞がる。
クレアはハンドルを大きく左へ切った。
右の馬鹿でかいタイヤが2本とも浮き上がる。
今までも結構乱暴な運転に耐えて来たイブちゃんだけど、これひっくり返るんじゃ無いの?
急旋回が功を奏してか、ニズドワームの巨体は躱した。
10数匹の立ち上がり跳び回るニストワームを何匹か跳ね、踏み潰す。
前に大口を開けたニズドワームが砂地からヌッと現れた。
クレアが右に切る。ドンと左のタイヤが地面を叩き車体が左右に震える。
鎌首が僕らを追って大口が迫る。
ぶつかる!!
ドスンと重い衝撃。
ギュッと止まるイブちゃん。
僕らはシートベルトが間に合った。
横になっていただけのメグの体が前の座席に向かって飛ぶ。
けれど不思議なことに、メグの体は背もたれに当たる事なく座席に戻った。
「あはは!」
クレアが笑う。
フロントガラスの向こうでは、長大なニズドワームが砂地に伸びている。
それを車内から呆然と眺める僕たち。
停まったイブちゃんに周囲からニストワームが襲うかかる。
中はニズドワームも混じって……
ダダン、ババ、ドン!!
イブちゃんがめちゃくちゃ揺れる。
騒音と揺れは続き、目を開け窓の外を見ると大小に大口がパッと閃き消える。
それが幾つもいくつも。
少しすると飛ばされずに半球状に止まるやつが出てくる。
外からの攻撃は続いているらしい。
下へずり落ちたり、弾かれて別のと入れ替わったりしてる。
自分で動かなくなったニストワームに囲まれ車内が暗くなって、ヘッドライトが灯る。
そんな状態で数十分。
チビ達は飽きて寝てしまった。
一体いつまで続くんだ、これ。
「うーん。やっぱ行かなきゃダメだよねえ?」
運転席のクレアが言う。
「どうしたの?」
「いやね、さっきからずーっとMS容器が溢れてるって……」
そう言ってクレアは運転席の前を指す。
そこには赤い警告の文字が点滅していた。
意を決してクレアがドア開け外に出る。
ボンネットオープナーのレバーを引くと、タイヤの向こうを見て顔を顰めた。
タイヤと結界を覆うニストワームにあまり隙間がない。
ドアを閉めてボディーとタイヤに手を掛け、ヒョイと狭い隙間を飛び越えた。
流石に身が軽い。
僕とメアリもドアを開け外に出たはいいけど、ぶつかられて弾かれ振動でずれ落ちる、ニストワーム表皮の生々しい様子にめちゃくちゃビビる。
クレアが外を通らずにタイヤを飛び越えるわけだ。
僕もあんなの、そばに行きたくない。
フセーチタイヤのボコボコと、ドアのハンドルやら窓枠やらを伝って、やっとの思いで前に回ってみると、クレアがザラザラと溢れた魔石を袋に移していた。
「結構荷物の隙間に入り込んじゃってる。
落ち着いたら一回全部下ろして回収だね」
上ではまだダンダンと当たる音がしていて車体が揺れる。
ヘッドライトの光に蠢くニストワーム模様の中で、僕らはまだまだ溢れる魔石を袋詰めだ。
「粒はこっちが大きいけど、チョワードのクイツクシムシを思い出すよ!」
オーガを狩りに行って囲まれたって聞いたことがある。
この大きなビニル袋に入れた小粒魔石が、袋で7つとか8つとか言ってたっけ。
「うわあ、今日は大漁だね!
たまに大きいのも混じってる!」
「メアリ、タケオと石の回収お願い!
あたしはイブちゃん動かしてみる。
こうなったら結界になるべくたくさん当ててやるんだ!
ここに乗っちゃって!」
クレアが指すのは荷物置き場。
ごちゃごちゃした荷物の隙間に足を突っ込み、なんとか座る場所を確保する。
その時にザラザラと下へ流れる魔石が結構見えた。
クレアの言う通り、これはいっぺん全部降ろさないとだなあ。
「タケオさん、掴まった方がいいよ?
多分揺れる」
そうだろうな。それはありそうだ。
ワーム達の死骸を踏み越えて移動するんだろうし。
ビビっとクラクションが鳴る。
ガクンとイブちゃんが後ろへ下がるがドスンと止まる。
何かに乗り上げた感じ。
今度は前に出る。
頭上のワーム達が後ろへ溢れ、ちょっと陽が差すけどバシバシ当たる音ですぐに埋まってしまう。
けれどイブちゃんは前に、ワームの死骸に乗り上げた。
ザラザラっとまた上が明るくなり、襲い来るワームが見えるようになる。
グラングラン揺れる中、僕らは溢れそうになる魔石を掻き出し、袋へ移すのに忙しい。
ふと周りを見ると、まだこんなに居たのか。
地面を這うもの、跳び回るもの、倒れ込むように襲ってくるもの。
左右で大きなタイヤがワームどもを踏む。
最初の大きな死骸の山を踏み越えてしまえば、もう大きな揺れは来ない。
タイヤが小刻みに上下に動く割に車体自体は然程揺れず、イブちゃんはズンズン進んで行く。
メグは自前の魔力が無くなるまで頑張ってたけど、最初からこうすればずっと楽だったのに。
いやまあ、イブちゃんがニズドワームの叩き下ろしも平気だなんて、まさかもいいとこだけどね。




