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砂漠橋の壁

「お前たちいっぺん戻って()い!」


 覚えたての風魔法で、右側をずっと吹き払いながら進んでいると、メグの叫び声がした。


 見るとクレアと二人で大きく手招きしてる。


 何だろう?


 そう思って見てるとクレアの声が

「タケオー。

 みんな連れて来てー。

 リペア掛け直すー」


 これはチビ達にも聞こえたようで、砂遊びの手が止まる。


 さっきまで僕が噴き上げる砂を見ながら、楽しそうに走り回ってたのに。


 メアリが外套に付いた砂を払うので、僕も全員に軽い風を当ててあげた。

 風の中でラトルがくるりと回りニッと笑う。

 僕もあたしもとステスとミトアがせがむ。


 砂を払い終わるとメアリの叩く手の音でみんな一斉に走り出した。



 メグとクレアが言うには、ここまで作って来た橋の両側の壁のせいで、砂を落としにくいんだそうだ。


 確かに薄い砂は、風で追い散らかせば開いた穴から流れて出ていった。

 左の厚い方はどうだろう?


 あれを掃き出そうとするんだったら、壁の穴のそばから順番に崩すようにしていかないと、砂が動きそうにない。

 穴が低い位置にしかないし、小さすぎるんだよね。


 それに道の左右で砂の量がこんなにも違うのは、多分両側の壁のせいなんだろうと思う。

 平らなテーブルの上だったら、吹き抜ける風がテーブルの上の軽いものを払ってしまう。

 こんなふうに溜まっちゃうなんてことはないと思うんだ。


「それでどうするの?」


「それなんやけどな、壁やめて柵にしたろか思てなあ?」


「柵って村とかの周りに立ってるやつ?

 杭に横木を何本か渡して繋いだあれ?」


「せやせや。

 板で砂押し出したろ思たんやけど、うまく落ちひんねん。

 せやから隙間の多い柵にしたろ思てなあ?」


「あたしやメグなら持ち上げて下へポイなんだけどねー。

 そんなの誰でもってわけにもいかないし?」


「そう言えばあんまり魔法使う人って、見た事ないけど少ないの?」


「そないな事あらへんで?

 ウチはまあちょいと特別やけど、普通にちょいちょいおるで。

 ただあんまり派手な魔法は出来ひんなあ。

 クレアが強力なんは腕環と魔石握り込んどるせいや」


 メグは師匠に付いて、結構過酷な訓練を受けたらしいってクレアが言ってた。

 あの木の腕環はメグが作ってくれたんだとか。


「タケオ、あんたの槍の石突きにも魔石が仕込んであるでしょ?

 上手く使えばかなり強い魔法が使えるわ」


 魔石を握り込んでいると言うのは、魔道具の土台部分を改造したものだ。

 魔道具は魔石の魔力で様々なことができる。

 それは魔法が使えない者でもだ。


 通常、魔道具は魔石の中の魔力を少しずつ使う。

 中の魔力がなくなればそれでおしまい、魔石は石ころに成り果てる。

 けれどもその空になった石そのものも、実は魔力でできているらしいんだ。


 メグはそう考えて、魔石そのものまでも一気に魔力を引き出すために、魔道具の土台部分を利用することを考えたんだ。

 改造した土台がどう言う理屈かわからないけど、魔石全てを魔力に変換してしまう。

 それを成し遂げたので、自分の持つ以上の魔法を行使できるわけだ。


 これを魔石ブーストなんて呼んだりしていた。

 それは僕も何度か聞いたことがある。


 それと同じものが僕の槍にも付いている。

 と言うことは、僕の槍はもっと威力を上げられるってことか。

 魔石が一気に全て魔力に変換されるところまで。

 今は普通の魔道具と同じで、小出しに魔力を使ってるってことだ。

 そしてこの使い方では、魔石まで使い切ることはできない。


 僕らがイブちゃんの横に並ぶと早速メグのリペアが橋を奔る。

 500メートルの橋が一瞬で変化する。


 積もった砂は手前の一山を残して消えてしまい、安心感のある両側の壁も消えた。


 太さ20cmほどの支柱は、2メートル間隔で同じ太さの2本の桟がそれを結ぶ。


 急に風通しが良くなって、ここが地上10メートルだと思い出させる。


「タケオさん、顔色が悪いよ、どうしたの?」


「大丈夫だよメアリ。

 ちょっと見晴らしが良くなったからねえ」


 それからクレアが裏に支えの付いた板で、砂山を先に向かって押し出す。

 真横に押し出したり、(しゃ)に掛けて柵の方へ寄せて行ったり。


 寄せて寄せて、最後は柵に沿って、(はす)の板の縁で撫でるように押して行くと、僅かに桟木の下に残るだけになった。


「ええやないか。

 こないな道具を馬の前に付けたったら、何遍か通るだけで砂が落とせよるで」


 メグは馬と呼んでいるけど、鳥だったり犬や虫だったりする。

 ほんとの馬も居るらしいけど僕は見たことない。


 それから僕らはオネシスへ向かって、側壁の作り直しと砂払いをしながら戻って行った。


 オネシスの町の上になる部分は壁のまま。

 砂の落とし口は下に何があるか、見てからでないと空けられない。


 ともかくこれで次の砂嵐でどうなるか。

 壁じゃない分溜まりにくいと思うんだけどね。


「ここらがテオドラ街道との交差点になるんや。

 三角になんぼか広うしたろ思っとんのやけど、どないやろか?」


 左に見える黒っぽい塊は多分ラテラの森、その向こうに白く聳える山々。

 他は見事に何にもない、砂また砂だ。


「普通に丁字路で良いんじゃないの?」

 これはクレア。


「そうだよね、砂漠だからそんなに通る人もいないんでしょ?」

 僕が言うとメアリも頷いていた。


「今はな。

 けど橋が出来てみい。

 まあ、テオドラ帝国とアクトベル王国の仲がどうなんか言うのもあるよって、分からんとこもあるけど通る数は絶対増えよる、思うで?

 そないになって、ここで事故でも起こされたら敵わんやん」


 そんな先のこと心配したって……


 交差点は広くとって、中央にも砂落としの丸い穴を空けることに決まった。

 もちろん穴の周りにも柵が立つ。


 右はアクトベルへ続くけど、当面はここで行き止まり。

 ラテラまでは桁架けがあと8回くらいか。

 随分近くなった。


 森の上に舌でも出すように伸びる橋桁が近付いてくる。


 あと1、2回となったところで向こうの橋の上に人影を見つけた。

 砂漠地表を移動する僕らに向かって、何やら布を手に振っているらしい。


 その人数は近づくに連れて増えて行っているように見えた。


 いよいよ接続となる最後の100メートル余りになると、向こう側はお祭り騒ぎになっていた。


 クレアの土魔法で持ち上がる、大量の砂の向こうで大きな歓声が上がる。


 橋を繋ぐ形で砂が宙に集まり、見るうちに桁として固まっていくと、爆発せんばかりの足踏みや声が辺りを圧した。


「全く。

 なんの騒ぎや、(やっかあ)しい」


 メグが溢すけど、それだけラテラの人達も砂漠の橋を待っていたんだと思う。

 この先アクトベル王都方面へも、橋を伸ばす話も聞いているだろうから。


 森の方からヤムルが10数騎、砂丘を乗り越え向かって来て、移動の準備をする僕らを取り囲んでしまった。


「こんなに早く橋が出来てしまうとは思わなかったよ!

 あんた達がイブちゃん(モニョモニョ)かい!

 これでアクトベルまで荷を運べる!

 わしらは大儲け間違いなしだ!」


 いや、こんなとこまでヤムルで出て来て言うことがそれ?


「あんたら、さっさと帰り!

 まあだニストワームの始末がついとらへんのや、巻き添え喰いたいんか!?」


 そうだそうだ!名前もちゃんと覚えてないくせに!


 ラテラを目の前にして僕らの移動準備は即ち、集まり来るニストワームの殲滅戦の準備だ。

 あいつらを引き連れて町へ向かうわけにはいかない。


「ニストワーム?

 わしらも砂漠の交易商だ、ニストワームくらいで驚くものではない!」


 いや、それはどうだろうか?


「来るよ!

 10や20じゃない!

 逃げるんなら今のうちだよ!」


 クレアの声が飛ぶ。

 メアリは助手席で、食い入るようにカーナビ画面を覗き込み、チビ達も後席から首を伸ばす。


「なあに、たかがニストワーム。

 数が来ようと……」


 セリフの途中だが、僕が待ち構える前方で砂が噴き上がる。


 そこか!


 槍を向ける間もなく砂色の影が宙を舞う。

 僕の穂先は尻尾辺りを捉えた。


 クレアがツツと右へ寄る。

 僕が仕留め損ねを始末するうちに飛び出す影を両断した。

 目の隅にキラリと陽の光、それも幾つもの煌めきが飛び込む。


 モコモコと盛り上がる砂から目を離せないので、ハッキリは見えないけど、あれはメグの氷弾だろう。


 いつものように、大量の氷の穂先を周囲に準備しているはずだ。

 まだ出てくる数が少ないから、僕とクレアの露払いを見ているんだ。


 実際、ニストワームの飛び出しは散発的。

 現れた商人達もヤムルから降りて剣を抜いている。


「タケオ、足元!」


 クレアの声に続くように僕の足元がグラリと揺れ、慌てて飛び退く。

 砂が渦巻くように盛り上がる。


「退きやん!」


 メグの声に数歩飛び退く。

 現れたのは4メートルもの高さに立ち上がり、四方に口を広げたニズドワームだ。

 商人達が悲鳴を上げる中、メグの氷弾がめちゃめちゃに叩き付ける。

 首のすぐ下辺りを集中して襲う氷の槍先は硬い皮を弾き抉る。

 ニズドワームは踊るように身をくねらせた。


 行けるか?


 メグの一斉射撃の切れ目を待って穂先に風を纏う。

 右から袈裟懸けに僕は槍を振り下ろした。

 当たる手前から、集中を上げる。

 穂先が太くなったような感覚は勘違いなどでは無い。


 ニズドワームの頭がドスンと砂地に落ち転がった。


 太い砂色の胴体が遅れてグラリと揺れ、砂地に叩き付けるように倒れる間にも、メグの氷弾の再装填が進む。


 クレアは20以上と言っていたのだ、こんなものでは無いはず。


 僕は穂先に風を纏い、幾つも渦巻く砂地の動きを睨み付けた。


 メグが再装填をしながら、足止めの水カーテンを準備し始めた。


 僕はニストワームを数匹纏めて風で切り裂く。


 水は厚い砂地の下にいくらでもあるって言ってたけど、随分簡単に持って来るんだなとちょっと感心してしまう。


 でも、これは予想より数が多いってことか?


 クレアが右へ、僕が中央、左翼はメグの氷弾が蹂躙する、まさにいつもの魔石狩りの配置だ。


 なんだってこいつらは魔力に集まってくるんだろうか。

 お陰で橋に使う魔石は随分助かるけど、正直、面倒くさいくらいだ。

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― 新着の感想 ―
壁を柵に変更、除雪車ならぬ除砂馬車での定期的排除。なかなか良いんじゃなかろうか。 橋の上を通っている時に砂嵐に巻き込まれた時用に、パーキングエリアと言うか砂防壁の有る一時避難所みたいな場所も必要な気…
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