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積もった砂嵐

 ここはテオドラ街道交差点予定地や。

 ラテラは砂丘に登って見ると、あの森が見えるまで近づきよった。


 オネシスを出て4日目の朝や、昼前には砂漠橋のオネシス〜ラテラ間は開通でけるんやないやろか?


 砂漠言うんは大量の砂が風であっちへ行ったりこっちに積み上がったり、とにかく地形がよう変わる。

 砂丘なんかはひと繋がりの縞模様みたいに連なるんやけど、その向き言うんは風が決めよる。


 そないなわけで、今日は砂嵐や!


「ずいぶん嬉しそうにしてるね、メグ」


「嬉し訳やおまへんのや、けどな?

 言うたらこの砂漠橋、風で(いご)きよる砂の山、どないしたらええねん、から始まっとるやん?

 せやからや。

 この砂嵐がなんぼのもんか分からへんけど、効果があるんか無いのんかはっきりする、思うんや」


 イブちゃんは今、橋の上や。

 あのまま砂漠に()っては埋もれてまう。

 返らんようにフセーチで車幅を広うとって、風除け立てた斜路を登った。

 タケオが(めえ)回しとったけど今更や。

 ここ、ほんまやったらええ見晴らしな筈なんやけど。


 ビシビシと壁を叩く砂粒。

 防御結界は効いているから、イブちゃんに砂が直接当たることはない。


 もちろん視界は半球形の砂模様が渦巻くドームの中だけだ。

 砂は防御結界で止まるのに強い風は車体を揺らす。


 ゴウゴウヒュウという風音を圧して、ビシビシ、ザザと周囲を砂が叩く。


 横の窓から見る路面は砂が渦を巻いて、岩場を叩く海の荒波のようだ。


 結構な風でグラグラ揺れる、広いとは言えない車内やけど、気密のピシッとしたイブちゃんは砂粒どころか、風も通さない。


「さあて。

 これではどないもならへんなあ」


 クレアを相手に騒音に負けじと声を張り上げ、ウチは話し出した。


 ふと後ろを振り返ったクレアが言う。


「わあ、こんだけ揺れてうるさいのに、みんな寝ちゃってるよ!」


「ホンマや、よう寝られるもんやなあ」


 それからまたアレやらこれやらと、喋っとったんは覚えてるんや。


 妙に眩しい光が瞑った(めえ)に当たる。


 なんや眩しいなあ?

 ウチどないしたんやったっけ?


 顔を上げると青空が見えよった。

 帽子を被ってへんよって窓から見える全部が空や!

 ああ、運転席倒して…クレアと喋って…そのまま寝てもうたんかあ……

 チビ達のこと言われへんやん……


 砂嵐の中で皆よう眠れるなあ、思たけど、案外寝られるもんやったか。

 助手席を見るとクレアも、前のグローブボックスに膝をぶつけるように前に寝崩れて、座ったまま眠りこけとったわ。


「砂嵐、行ってもうたんやなあ」


 ウチはドアを開け外へ出た。

 冬の砂漠の冷たく乾いた風がそよと頬を撫でる。


 風船みたいにデカいタイヤの間を抜ける。

 イブちゃんの周りは4メルキ()、グルッと平皿の縁が囲むように砂が積もっとる。

 足元には()っすらと広がるだけで、ウチの足跡に橋の路面が顔を出しとった。


「これなんぼ積もっとるんや?」


 段の縁、足で路面を蹴散らし、そばに屈んで手の平で測ってみると30セロト(cm)もあるやんか。


 顔を上げた先は側壁や。

 それに向かって砂面が登っていく。

 1メルキに作った壁が半分も見えてへん。


 どう言うこっちゃ?

 反対側の側壁はどないなっとるん?


 フセーチタイヤを回り込んで後ろへ、側壁の間にずうっと遠くまで、続く波模様が右に傾いとる。


 はあ、何じゃこれ。

 波を見るに風は左後ろから右前に、橋をやや斜めに横切ったんやろ。


 左壁は半分以上埋まって、右へ向かって砂が薄くなっていく。

 右の側壁のそばは内角(うちかど)を隠すように2、30セロトの隅の山。


 突き当たった風が巻いたんやろか。


 ドアが開く音がした。


「うわあ、なにこれ!

 砂が波になってるじゃない!」


 ウチが降りた時に外の冷たい風が入ったからやろ、クレアが起き出して来た。

 続いてスライドドアがゴロゴロと開く。

 タケオ以下5人の子供達がゾロゾロ降りて来る。

 目隠しみたいになってるタイヤの間を抜けると

「わあ砂がいっぱい!」「すごいすごい!」


 砂なんぞ砂漠でいくらでも見たろうに、箱に区切られた中に波打つ造形が目を引くらしいて。

 波頭を蹴り飛ばし、足跡を付け回り、果ては寝転ぶのまで出る始末や。


「砂嵐の度にこんなに積もるんじゃ、馬車なんか走れないんじゃない?」


 タケオが言うんも尤もや。


「あたし達なら、イブちゃんの後押しがあるから、これくらいの砂なんて下へポイだけどさ。

 1メルキの壁越しに捨てろったら、大概怒り出すんじゃない?」


 ああ。それは大変やろなあ。

 砂退()けい言われたかて、縁まで寄せて走れるようにするんが精一杯やろなあ。


「掃き出しの窓でも空けておく?

 道路と平らなら押し出すだけだし、いくらか楽なんじゃない?」


 クレアとタケオ、メアリまで加わってやいのやいの言われてな、一旦オネシスまでの砂掃除やって押し切られてもうたわ。


 面倒(めんど)いけどしゃあないかあ。


「じゃあ、お掃除行くよー」


 クレアが簡単にお掃除やら言ってくれとるけど、それは橋の上に積もった砂を退かすだけの事やない。


 今のままやと次の砂嵐が来よったら、まあた元の木阿弥やん。

 せめて下へ捨てやすいように、側壁の下っ側に穴を拵えたらんとあかんのや。


 砂の掃き出しを実際にやってみたいよって、路面の砂はそのままや。

 側壁の下っ側に1メルキの掃き出し穴を空ける。間はやっぱり1メルキ離してみよか。


 穴の高さはせやなあ、20セロトもあればええやろか?


「穴だけ開けてみるよって出来(でけ)たらそこから砂、落としてみいや」


 イブちゃんの魔力を借りて再度リペアや。

 砂はいじっとらんから見た目は変わらへん。


 およ、左の壁際の高いとこ、砂が落ち込みよった。

 穴が開いただけで、もう流れて出よったんや。

 サラサラやからなあ!


「ええやん、ええやん!

 あとはどないしてか、砂を押し出さんとやなあ!」


「これみんな手で落とすの?

 ものすごい量だよ?」

 タケオとメアリが不安そうな顔で言う。


「そうよねえ、イブちゃんに積んであるショベルなんて先の尖った小さい奴が1本だけだし」

 クレアが言うた。


 ウチより前にイブちゃんに乗っとるからなあ、そう言うんは詳しいんや。


「クレア、土魔法で板作らへんか?

 それでこう、ゾゾッとなあ、砂を押してくんや。

 押すんも土魔法で出来(でけ)るよなあ?」


「板?

 んー…まあ、やってみるけど…」


 できた板は割と小さなものやった。

 それを作る間に、タケオ達は足で砂を蹴落としたり手で搔き出したり、砂遊びは楽しそうやなあ。


 濡れた砂は形をつけ易うて、あれはあれで面白(おもろ)いんやけど、サラサラの砂言うんもなかなかのもんや。


 おっと、板やった。

 浮かせて移動はずっとやってた事やけど、地面滑らすんはウチもやった事あらへんなあ、クレア、上手く動かせんで苦労しとる。


 薄い板は自分では立っとらへんから、支えとかなあかん。

 重さは残したまま押して行けばええんやけど、左右で砂の重さがちゃうんやろ、板の向きが回ってもうて真っ直ぐ押せへん。


 あ、板が倒れよった!


「もう!上手く押せない!

 こんな砂なんか持ち上げてポイの方がよっぽど簡単よ!」


 あー、クレアが切れよった。


 なんや騒がしいて見ると、タケオが砂煙巻き上げとる。

 (こお)らが周りでキャッキャ(はしゃ)いどる。


 タケオが手にしとるんは槍や、いつ持って行きよったんやろ?

 石突きを前に向けて左右に振るだけやのんに、道の右半分の薄い砂が吹き飛んで、穴から出て行きよる。


「ほーう?

 随分本格の風魔法や。

 槍に仕込んだ魔石、よう使(つこ)とる」


「あらま。いつの間にあんな使い方覚えたんだろ?」


「タケオが子供言うんはどうかと思うけど、若い方が覚えがええんは間違いないからなあ」


「あは!お爺ちゃんだもんね」


「せやな」


 なに言うたかて、イブちゃんタクシーはタケオ爺さんの下に集まったパーティや。

 爺さんが子供返りとか訳わからん話やけど、そこだけは変わらんのんや。


 まあウチもクレアもタケオが子供になった言うても、ちっとも子供らしないんは(きい)ついとる。


 カーナビには相変わらずオーナーになっとったし。

 変わったんが、LVがつくようになったのんと風属性の表示が出るくらい。


 あのぼやけた幻影っぽいんが現れてそろそろ一月、どないなっとるんや思うこともあるんやけど。

 まあええ。



「それよりクレア、魔法でどないでもなるんはええけど、使えんもんもおるんや。

 馬で押す格好で砂払いが出来(でけ)んと後が厄介やで」


「そうだよねー。

 毎度砂嵐の度に駆り出されるのは勘弁だよ」


「そう思たら、なんとかしたりい。

 ひっくり返らんように、前後に支えつけてみよやん」


「支えって、コの字とか丁の字とか?

 まあやってみるけど」


 前後に支えを付けてやると、板がひっくり返ることは()うなった。

 砂を側壁の穴に向かって按配良く押して行く。


 ところがや。

 前にある出っ張りのせいで、板が壁まで届かんのよ。

 板と壁の間に溜まった砂が捌けよらん。


「前は無しだね!

 後ろの支えをおっきくするよ!」


 今度はペタンと壁まで寄って行けるやろ、そう思たんやけどなあ。

 掃き出し窓と隣窓の間に壁が残ってるやん?

 そこに砂が挟まるんや、上手くいけへん。

 そうかってなあ、穴、みな繋いでもうたら、壁は誰が支えてくれるんや?


「分かった!

 これ壁じゃなくって柵にしたらいいんじゃない!?」


 柵なあ。

 柱立てて横桟何本も這わせて?

 まあ、景色はよう見えるし……って、ここいらはどっち見たかて砂ばっかりやんか!


 はあ、しょうもない。

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― 新着の感想 ―
ふむ? さらさらの砂ってことなら、水みたいな流体と見なせるだろうし、わざわざ押し出す必要はない気がするが…? 高速道路の排水機構的な、道路に左右への軽微な傾斜をつけて砂だけ通れる排水溝を道路面に作れば…
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