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テオドラ砂漠

 これはアンバース郊外で行った魔物狩りの夜のこと。


 後部座席2列は全て畳まれて床は平らにしてあってチビたちはもう3列目の座席辺りで丸くなって寝ている。

 そこにはメアリの姿もあった。


 即席お風呂にも入れてあげたからね、いくらか疲れも取れるでしょ。


 タケオも今日の魔物狩りで疲れたんだろう、ちょっと眠そうにしている。


 なぜすぐに寝てしまわないのか、それは今日の魔物狩りのことだろう。

 あたしとメグも色々と相談しておきたいことがあったくらいだ。


「タケオ、あんた、眠そうだよ?寝たら?」


 そう言ってみたけど聞く様子はない。

 あたしは一つ首を振った。まあ良いか。

 あたしはこの話から切り出した。


「あの子たちのたちのナイフの扱いなんだけどね。

 今日やらせてみたけど一通りはやって来てるみたいなんだ。

 色々甘いとこはあったけど、ちょっと教えたらすぐに飲み込んだよ。

 あの子たちが使ってたのは多分元はペーパーナイフ、それが折れて捨てられてたやつみたい。

 それを片刃と先の方も丸く研いで、削ぎベラみたいに使えるんだ」


「ほう、そらええ工夫やないか。尖った刃の先が結構要らんことしよるからなあ」


「うん、そう言う先の丸いナイフを持ち替えて使うのも良いかもね。

 それでもう少し慣らしたら、解体は任せられるんじゃないかって思ったんだ」


「まあ小さいの相手がせいぜいやろけど、ええんやないか?」


「次はこれだね」


 あたしはカーナビ画面のメンバー情報を開いて見せる。


「おお?メアリたち、4人も載っとるなあ。

 いつ載ったん?」


「さあ?昨日じゃないかな、イブちゃんに乗せた時、それかその後。

 あたしもさっき見つけたばかりだから。

 でね?」


 リストからメアリを開く。


「ほら。LV(エルブイ)が2!

 見たけど他の子もみんな!」


「あの(こお)ら、1匹も倒しとらんちゃう?」


「うん、それなんだけどね。

 あたしは駆け出しの頃にタク……イブちゃんと会ったじゃない?

 イブちゃんの防御結界で弾いたファットリザード、2メルキ()超えの大きなやつだったんだけど、アレの討伐が半分あたしに入ったみたいなんだよね。

 そのあともウルフとか色々。

 戦闘職はあたしだけだから、イブちゃんと頭割りって感じで」


「イブちゃんに頭、あらへんやん」

 メグの突っ込みは小さな声。


「それであの(こお)らにも、とどめになったオーク1匹、5等分ちゅうわけかい」


「そんな感じ。

 あ。タケオが寝ちゃった」


「おろろ。随分頑張っとったもんなあ、ええよ、ウチが寝かしたる」


 小柄なメグの方が、タケオが寄りかかる狭い隙間を抜けて後ろに移るのは楽にできる。

 足の置き場にはちょっと迷ったようだけど、メグが無事に後ろへ移る。タケオを空いた場所に横たえ、毛布を掛けた。


「で、何やったか、あ、LVが2言う話や」


「そう。

 でね。なるべくイブちゃんにとどめを任せれば、あの子たちの力や素早さがそれだけ速く上がる」


「戦力アップちゅうやつやな」


「まだ先頭切ってなんてとても無理だから、あんたの水カーテンの前で練習は良いかもね。

 で、数が減ったらイブちゃんの前だけカーテンを開いてまとめて弾いてもらうとか?」


「ええなあそれ。

 いっぺんイブちゃんに(みいんな)弾いて()ろたら、面白(おもろ)いかもなあ」


「それ、絶対やめてよ?

 イブちゃんって弾いたあとどこに落とすか、分かんないんだから!」


 もう!メグなら面白いってだけでやりかねない。

 でもまあ、あの子たちが力をつけてくれれば、できることも増える。

 当面は解体の方で頑張って貰えば良いかな?


   ・   ・   ・


「朝やでー。

 皆起きいやー」


 朝、メグに起こされるのは毎度のことだ。


「今日は肉や毛皮を運ぶ日だね。

 商業ギルドに卸すなら、枝肉でもあんまり変わらないって聞いたから、このまま持ってってみる?」


「この間買取カウンターで、長いこと話してる思たらそんな話があったんや?

 手間、抜けるんやったらそれもええなあ」


「クサミケシもこの頃は萎れちゃってるから、できたらこのままがいいよ。

 顔洗って朝の用意だね。

 タケオー、メアリー。朝だよ、起きなー」


 上の子達から起こさないと、チビたちに世話を任せられない。

 タケオが子供になっちゃったからその辺は面倒だよね。


 魔石狩りの後始末はアズール商業ギルドまで、4往復に及んだ。


 枝肉での売却はいくらか安かったけど大きな差額ではない。

 氷箱に自家用分の肉を残して1万4千ギル、毛皮その他を合わせると2万を超えた。

 慎ましく暮らせば、一家4人が半月過ごせる額を2日ほどで稼いだ事になる。


 なんて偉そうに言ってるけどあたしが駆け出しの頃、タケオ爺ちゃんに会う前は、1日200ギルがいいとこって暮らしだったんだから、大した出世だよ。


「ちょっと早いけどお昼はアズールで食べて、西に行って街道整備だね。

 これだけの距離が1ハワ(時間)ちょっとだなんて、イブちゃんのリペアさまさまだよ」


 子供達はお昼と聞いてもあまり喜ばない。

 朝ごはんから4ハワ少々、お腹が空いてないってことは無いと思うんだけど。


 3列目の座席に身を乗り出してみてみると、そこには菓子のカラフルな空の包みがたくさんあった。


 ギルドであたしたちが忙しくしてる間に出して来たらしい。


 ボンネットの開け方なんて見せた覚えはないんだけどなあ。

 あー、あれか?

 メグがペットボトルの水を飲んでたから、その時にでも一袋抜いたか。


 4人の子供達には軽めのものを頼んで、あたしたちはいつも通り。

 タケオはリペアと聞いてまた走らされる、と言って頑張って食べていた。


 なので移動中はタケオを含め、皆さんグッスリお昼寝。

 あたしが運転する横でメグまで寝ちゃって。


 ゼレンシアでは子供たち4人の靴を受け取った。

 それほどいい材料を使ってないけど(あつらえ)だからね。少々値は張ったけど、必要経費ってやつでしょう!


 快適なドライブはそう長くは続かない。

 ゼレンシアの前を通り過ぎるとそこはもう終点。

 いや、街道はまだ120クレイル(km)ほどもテオドラ国境の町、ラテラまで続いている。


 あたしたちが直した、平らな街道の終点がここだっていうだけだ。


 この辺りは砂漠地帯。

 砂の平原にポコポコと、砂に荒く削られた岩の塔がいくつも立っている。

 砂は風で飛ばされて街道を大きく覆う。

 この辺りは傷んだ道路の窪みよりも、砂に覆われて馬が進みにくい方が問題になる。


 だからと言うわけでもないけど、砂漠に変わる辺りで前回はゼレンシアに戻ったんだ。


 でも今回はたっぷりの魔石を用意した。


「メグ、タケオ。

 着いたわよ。お仕事の時間!」


 タケオはパッと起きた。

 けど、メグが愚図る。

「ふわぁ〜。

 もう着いたんか。

 まあだ眠いやん、もおちょい寝かしたってえな」


「何言ってるの、ここからテオドラ砂漠だよ」


「あー。せやったなあ。

 んー。橋架けるんやったか、うんと高いの」


 こいつ、まだ寝ぼけてる?


 けれど、そう。

 今のような地面に道を作っても、砂で埋もれてしまえば、もうまともには通れない。

 となると上を行くか下を行くか、はたまた大きく左右に迂回するか。


 遠くなるのは嫌だから迂回はなし。

 下はトンネルって事になる。

 できない事じゃないと思うけど中が暗い。

 距離が短いならありかもだけど、200クレイル(km)は長すぎる。

 まあ、砂漠がどこまで続いてるのか、ここからじゃ分からないんだけど。


 それで川も無いのに大きな橋だ。

 最低でも高さは10メルキ()

 盛り付けて高くしても、風下に砂が集まって風向きが逆になれば、その道も埋もれちゃう。

 柱をたくさん並べてその上の空中廻廊ってのが、あたしたちの結論だった。


 魔石が足りなくなるのは目に見えている。

 アズールで無理をしても集めたのはそんな理由もあった。


 考えている工程はこうだ。


 まず地面から2列の太い柱をずらっと立ち上げる。

 次は橋本体だけど材料がないところに作るのは負担が、特に魔石の減り方が激しい。

 だからあたしの土魔法で大量の砂を持ち上げる。

 そうやって仮に作る砂の橋をメグがリペアで固める。


 考えたのは大体この3つの作業だ。


 イブちゃんからタケオが降りてくる。

 他の子達はまだ寝てるの?


「うわー。砂だー。

 これ全部砂なの?」


 足元の砂を蹴って細かい砂つぶを散らした。

 立ち並ぶ岩の塔を見て目を丸くする。


 裾を砂で削られるのか、スッと立つ姿はひどく不思議な感じがする。


 あんなのが幾つも立ってたらビックリするよね。


「クレア、あそこ。

 なんか動いた」


 周囲に気配は特に感じない。

 何を言い出すんだ?

 まあ、念のため。そう思ってスマホで索敵。


 タケオの指差す辺りに確かに白い点があった。

 20メルキほどの距離がある。


 白か。反応は大き目。何がいるんだ?


 目を凝らす先の砂がサラサラと渦巻く。

 それが丸く集まって、見ているうちに人の顔のように、目が現れギラっと光る。


 うわっ!こいつ!


 急に向けられた敵意にあたしは短剣を引き抜き身構えた。


「なんかおったんか?」


「砂が敵意満々みたい」


「ああん?あれかい。

 何やろアレ」


 目を離さずメグと喋る間にも頭が上へ持ち上がり、下からそれを支えるように砂がさらに集まる。

 それは人の体のように腕を生やし座り込んだ形を取り。

 目だけがそれと分かる砂の坐像、それが立ち上がった。


 腕を振り回す。

 体全体にぐるっと回るが頭はこっちを見たまま。

 その腕から突然拳の部分が飛んでくる。


「あれ、受けたらあかんやつや!」


 目の間に水カーテン。


 砂漠にも水ってあるんだ?


 あたしが場違いなことを考えてるうちに砂弾2個がカーテンに当たる。

 一瞬に2つの塊は水に捕えられてベシャっと地面に落ちた。


「サンドドールかい。

 サンドゴーレムの成り損ないやな」


 メグの周りに氷の槍先が幾つも現れ一斉に飛ぶ。

 ドールの胸の辺りに殺到して行く。


 サンドドールはその辺りの砂を散らして動き、全て躱した。

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