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子供達

 昨日から乗員が増えた。

 なぜそこにいることになったのかも分からない、4人の子供達。

 この子達はあの家とも言えないひどい場所に寝起きしていた。


 メアリは僕と同い年の少女、ステスは男の子、ミトアは女の子、そして小さなラトル。


 イブちゃんの中は一段と賑やかになった。


 この子たちが押し込められていたゼレンシアの街は、アクトベル王国の西の端にある。

 国境門のある町まではいくつかの村があるだけで、マメやコーン、それにイモが主食の地域だ。


 注文してしまった靴ができるまであと4日。

 注文は早まったかもしれない。だってクゼルとかって奴に探されると面倒そうだよね。

 昨夜は宿に泊まったけど、イブちゃんは目立つからいくつか町を東へ戻ることにした。

 前の町までならイブちゃんの脚でせいぜい1時間、別になんてこともない。


 4人とも宿でたっぷり食べてよく寝たようで、昨日よりは元気。

 小さいラトルも椅子の上で行儀良くしてる。


 メグが運転、クレアが世話焼き、僕は助手席。

 僕が助手席でカーナビを見ると、村の名前が出ていた。

 戻る途中の村はセト村にラトア村、そして目指すアンバーズか。


「地図はなあ、行った場所までイブちゃんが描いてくれよるねん。

 けど、町の名前やらは打ち込みやで?

 イブちゃんの地図は(さら)やから」

 そんなことをメグが言うので、さっきまでいたゼレンシアを見てみた。


「ゼレンシアは入ってないね」


「ああ、まだやったか。

 何やすることが多て、忘れとったんやな」

 そうだね、この子達を食べさせて寝かすだけなのに、僕も色々忙しかったもんなあ。


「地図、の町を()っきくしてな?

 指で押さえられるくらいにしてから、長押しすんねん」


 んーと、このくらい?

 んで、指でギュッと。

「あ。長四角い箱が出て来た」


「せやろ。

 その中をポチッと一つや。

 ペロッと出て来た(じい)をな、一個ずつ拾っていくんやけど、タケオ、イズーラ読めへんやったなあ。

 いっちゃん下に読める言葉あらへん?」


「あるよ。

 これ前にもやった。

 日本語。

 あ。ローマ字だ、これ知ってる」


 ゼレンシアっと。

 ひらがな?どうやってカタカナにするんだ?

 あ、これ選ぶのかな、読みが同じっぽいのが並んでる。


「なんか、できた!」


 メグがカカカと変な笑い方をした。


 後ろではクレアが、ペットボトルのジュースを一つずつ持たせて、開けてあげたり飲み方を教えたりしてる。


 ペットボトルなんてペコペコ頼りない透明のビンは、僕もクレア達と一緒に旅するようになって初めて見たものだ。

 普通はガラス瓶で、栓抜きを使って鉄の蓋を剥ぎ取るようにして開けるはずなんだけど、こっちは色の付いた軽い蓋をピキピキと開ける。

 ビンに紙じゃないラベルが貼ってあるのも違うとこだ。


 僕が見てもそんな感じなんだから、あの子達から見たらなんて思うんだろうか。


 それにおやつの袋菓子。

 小さな袋に分けて入っているので、湿気らない。


 クレアにそんなのを出してもらってキャアキャア、ワアワアやってるうちに1時間なんてすぐで、アンバーズの門の前だ。

 この間はちょっと立ち寄っただけだけど、門番の人が覚えていた。


 イブちゃんは目立つねえ。


 古着屋さんを聞くと2軒あるって教えてくれる。

 通行料はギルドカードがあるので半額。

 それでも人数が多いので、1200ギルもクレアが払っていた。


 古着屋で4人の衣類着替えを買い、それはひと荷物になった。

 座席を3列も出すと荷を置く場所はごく狭い。


「これはアレやなあ、テオドンの商隊がひいとったやろ、連結馬車がええんちゃうか?

 (みじこ)うてもええよって、間にもう1台引くんや」


「そんなに繋いでイブちゃん、重いって言わないかなあ?

 メグのバッグみたいのがあればいいんだけど、きっと高いよね」


「買うたら目の玉飛び出るで。

 すぐは無理や」


 門で聞いてみるが、この町には馬車の出物を扱う店が無い。

 それでメグが今の馬車の床下に、収納を追加すると言い出した。

 ただ、雨雪が降るとそのままでは、下に吊った箱の中身が濡れてしまうのは避けられない。


 水の魔法石を一つ使って「撥水」の付与をメグが掛けると言う。


「しばらくやってへんからなあ。

 確かこの本やったと思うんやけど……」


 そう言って背中のバッグから、何冊も魔導書を出して広げる。


 やり方を記した本を見つけた後も、意に染まない様子で、メグが何度か付与のかけ直しをした。


 そんなこんなでメグが奮闘する間、4人には色々に使えるナイフを持たせようかってことになった。

 武器屋を訪ね、メアリとステスには細身の短剣を買い、訓練するとも決めた。

 徐々に慣らしていけばいいと。


「ちょっと狭いけど、中で全員が寝られないこともないんだよね。

 テオドラ街道の補修、進めちゃわない?」


「せやなあ、宿代もばかにならへんからなあ。

 この辺やったらリペアをかけて、6日目かあ?

 追い散らした魔物も戻っとるやろし。

 丁度ええやん、そこの山に入ってこの先の分、魔石を集めてまおやんか」


 メグとクレアがそんな相談をしていた。


 でもそこの山とメグが指した方角には、道らしい道がないんだよね。

 まさか狩場まで歩いていくとか?


「ねえ、行くのは歩きでもいいけど、帰りの荷物は面倒なことになるよ?」


「そんなん、なんとでもなるでえ。

 イブちゃん優秀やさかい」


「あれ、タケオ、フセーチ見たとこなかったっけ?

 荷馬車は置いて行って、まず魔石狩りでしょ?

 狩るだけ狩ったら、血抜き解体から下処理でしょ?

 それから道作って、荷馬車持ち込んで積み込みって段取りになるね」


 何だ、フセーチって?

 僕は首を振るんだけど、構っちゃくれない。


「よっしゃ!行ってみよか」


 荷馬車を空き地まで引き込んで切り離すと、クレアがスマホでタイヤをフセーチに切り替えた。


 ムクムクとした動きがあって、周りの地面が沈み込んでいく。


 あ、これ、シーサウストの砂浜でやったやつだ。


 けど子供達はそのおかしな揺れに、不安そうに窓の外を見回す。

 クレアが宥めてるけど、そのうち外が大きな黒い塊に囲まれて、うわあキャアと、いよいよ騒ぎ出した。


「大丈夫だよ、タイヤが大きくなってるだけだから」


 僕も後ろを振り向いて宥めるんだけど、あんまり効果がない。


 そのうちにフセーチの転換が終わって、揺れが収まる。

 外の大きなタイヤを子供達が不安そうに見ている中、


「タイヤの変形はこれで終わりや。ちょっと揺れるでえ、掴まっとき!」


 メグがなるべく平そうなところをと、選んでハンドルを大きく左右に切るもんだから、却って揺れがひどいような。


 地面で跳ねた車体が途中で向きを変えるから、タイヤの弾力でズレるような動きも加わって、ひどい揺れ方をするんだ。


 これにはクレアもたまらず、

「ハンドル切らないでよ!

 ゆっくりでいいから、真っ直ぐ走んなさいよ!」

 ぜったいキレてたね。


「あー。すんまへん」


 ガタゴトズワンブワン揺れる中で、メグが小声で謝ったらしいけど、後ろには聞こえてないんじゃないかなー?


 ともかく立木を避けるだけになって、揺れはいくらかマシになった。


 道路からは数百メートル入り込んだ木立の濃い山裾まで入ってイブちゃんが停まる。


 メグが外に出て僕も続く。


「あんた達はここから出ちゃダメよ?

 窓は開けてもいいけど寒くないようにね」

 なんてクレアが子供達に言い聞かせていた。

 スライドドアから降りると、僕がついでに外しておいた槍を受け取って、スマホの索敵を始めた。


「雪言うんもええもんやなあ。

 水気に不自由せんで」


 いつもの水カーテンよりも白く、朝日に煌めくように見える。

 それだけ気温が下がったからだろうか。


 クレアが「メグ!」と声をかけたが帽子の向こうは反応がない。


 杖を持ち上げ、直後、ズズンと奥の方で地響きが起きた。


「ちょっと!

 何で始めちゃうのよ、大きいのが群でいるってのに!」


「あー?聞こえんやった、すんまへん。

 でもまあええやんか。

 あんたら、気張って狩りいな!」


 クレアが鼻白んだ。

 その間にも水カーテンは、奥へ延びて行ってるのだろう、ザワザワと森が騒ぎ出すのはもう始まっている印だ。


 気配にクレアが舌打ちを一つ、持ち場の右側に走る。

 僕はいつも中央なので、霜が絡んだようにチカチカ光る水カーテンにそのまま近寄り、メグは少し離れた左へ陣取った。


 カーテンの向こうの圧力が高まる。


「来るよ!」

 クレアの声に遅れること数瞬、小さな影が暗がりから突っ込んで来る。


 陽が昇っても森は薄暗い。

 これだけ鬱蒼としていれば、日中でもこんな感じだろうな。


 そんなことを頭の片隅で考えながら、僕はカーテンに突き当たり、地面に折り重なるように(もが)くイッカクネズミを突き殺していく。

 あのままにしておいたら互いに爪やツノを振るって、せっかくの毛皮をダメにしてしまう。


 次の波はグレイフェレット。

 武器は大きな口にびっしりと並ぶ歯と手足の爪。

 小さいけどこれも凶暴だ。

 けれど毛皮は高値で売れる。


 僕は槍の真ん中を右手で持った。

 的が小さいから、余計な傷をつけずに止めを刺すなら今はこれが最善だ。


 いつもならサルの群れか、オオカミたちが現れる頃だ。

 さっきクレアが大きなやつが群れでと言った。


 大きいやつって何がいるんだ?


 ギャン!


 やや奥で濁った悲鳴が上がる。

 ズンズズンと足音が響く。


 2本足か?

 とすればオーク、オーガ。まさか牛頭や一つ目ってことはないだろう。

 数匹のサルが樹冠を突き破って、宙を舞いこちらに飛んで来る。

 手足が不自然に曲がっておかしな動きをしている。


 僕が見たのはそこまでだ。

 とにかく目の前の獲物が濃い。

 持ち場の8mほどをもう何度も往復している。


 宙を飛んだサルが続けて背後の地面に落ちる音は聞こえた。

 それがまた動き出すのか死んだのか、見る余裕もない。


 前方から迫ってくるような、異様な圧力が上がり続けているからだ。

 また何かを叩き飛ばすような鈍い音、枝が弾けるような音。


 ヌッと木立を掻き分け現れたのはオーク。

 身の丈は2メートルを超え、憤怒に歪んだ顔、丸太のような手足。

 大きな手に持つ太い棍棒は木の切り株らしい。

 尖った折れ根が青黒く魔物の血に染まっている。


 前を隠すでもなくこの寒い中、裸で木々を押し除ける様子はまさに化け物だ。

 あれじゃあ生半可な鎧なんか要らないんだろう。


 見えて数歩で水カーテンに突っ込んだ。

 後ろからも青白い肌がゾロゾロと続く。


 槍を突き刺そうと僕が駆け寄る、目の前でオークの顔面が、パパン!と軽い音と共に弾けた。


 氷の欠片がオークの血と一緒に飛び散る。メグの氷弾だった。


 続け様に5、6発の氷弾を受け、たまらず腕で血に染まった顔面を庇って前屈み。

 急所の喉元が近くなる。が、あげた腕が邪魔だ。


 僕は脇に突きを入れた。

 硬い手応えは肋骨か。


 もう一度。腕の付け根を突き上げるとさっきより深く刺さる。


 グオォーー!

 吠えるオーク。

 目は見えていない。

 闇雲に振り回される棍棒を避けて数歩退がる。


 この間合いだと叩き下ろしがいけるか?


 ふと思いついちゃったら、もうやるしかない。


 何度もクレアにダメ出しされてこの頃やっと。

 3回に1回とは言え、たまに自分でもびっくりするくらいに威力が出る5メートル槍の叩き下ろしだ。


 両手で振り上げた槍先が頭上にかかる。

 すぐさま1歩踏み出し柄を前に倒す。


 穂先はまだ止まりきっていない、それを負けじと腕力で前へ倒す。

 穂先は前へと動き出した、ここでもう1歩。

 そして全体重を柄に乗せ、さらに押し伏せる。


 穂先の刃は振り上げた時に大体は見てある。

 けれどそれは大体だ。

 オークが右に揺れるのを見て僕は右手首を軽く捻る。


 ここから切先にかかる風で向きを、多少だけども変えられるんだ。

 僕が狙うのは首筋。


 うまくあそこを捉えられれば、一撃で倒せるかもだ。


 オークが体の揺れを戻す。

 時間の流れが妙に遅い。

 切先が、(たわ)む柄に追いつこうと空を斬る。

 柄の延長線がオークに届く。その瞬間、僕は前に出た左足を踏ん張り柄を止めにかかる。

 けれども穂先はそのまま突っ切ろうと落ちて行く。


 全力で振った槍、その切先を引き留めようなんて無謀な話だ。

 固定された柄から最高速度に達した穂先は柄のしなりに合わせ、角度を変えてオークの肩口に切り込んだ。


 肉を断ち、骨に当たる穂先、だが柄はすでに逆に引かれている。必然、その刃先は踊るんだ。

 当たった硬質な骨を抉るかのように。


 穂先の斬撃を受けたオーク頑丈な鎖骨は、その鋭い刃先の斬り込みに耐えられなかった。

 その下に隠された柔らかな筋肉、その内側を走る血管まで切り裂くには充分。


 上々の戦果を上げて長槍の叩き下ろしは宙へ戻って行く。


 刃の抜けた瞬間、止めるもののない血飛沫がオークの身長を超えて吹き上げた。

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― 新着の感想 ―
いやぁ、慣れてない見知らぬ子達を、勝手が分からない車の中に放置かぁ…。救ったことはともかくそのプレイングはちょっとモヤるなぁ。 いくら面倒を見る年長が居るとは言え、ドアの開け方を見てる上に、外のボン…
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