迷子のタケオ
人物紹介 (本編はこの下にあります)
メグ(メグクワイア-ゼーゼル) 18歳
オレンジブロンドの髪 緑の瞳 身長153cm(推定)
東海岸 リョウシマチ出身 孤児
魔法少女 水魔法使い(他に火と風) 短い木の杖を使用 B級ソロ冒険者
自称叔父に飼われたあと 魔法の師匠の元で数年修行し独り立ち
東海岸方言にコンプレックスを持っている
魔力は強大
ここはゼレンシアの中央広場、その北側にある市場の中だ。
僕はクレアとメグと連れ立って、この街で売ってるものを見ようと宿から歩いて来たんだ。
なんでこうなるかなあ、メグとクレアが迷子だよ。
ちゃんと手も繋いでたのに。
ホントにもう、あいつら年上のくせにどこに行ったんだ?
仕方ないので僕は2人を探しに市場を歩き回る事にした。
背の高いクレア、紺のいかにも魔法使いな衣装を着たメグの2人だ。
目立つからすぐに見つかるだろう。そう高を括って歩き回る。
あれれ?市場を出ちゃった。
ここはどこだ?
石造りの壁の並ぶ路地って見覚えがある。
宿のそばの路地もこんな感じだったよね、戻って来ちゃったのかな。
でも市場って中央広場の北だったような……
案内図の宿に付けた丸印は、広場の西側のはずだから、そんなに遠くない。
市場へは中央広場を見ながら行ったんで、ちょっと遠回りしたんだ。
別に宿に戻ってても不思議じゃあない。
こうなったら、宿の部屋で待ってたほうがいいかな?
えーと、宿は……確かこんな感じの…
あれれ?
おっかしいなあ?
随分歩き回った感じで、木の家が周囲に増えていた。
おかしいおかしいと思いながらウロウロと歩く。
途中広い道を横切ってしまって、変だと思って渡り直したんだけど、ここってどこ?
だいたいあの案内図、地図としちゃいい加減なんだよなあ。
環状通りったって丸く書いてあったけど、実際にクルマで走ったら、曲がりくねってたじゃないか。
門から広場に突き抜ける道だってそうだ。
全然まっすぐなんかじゃなくて、途中に鍵形に曲がったとこもあるんだ、ひどい地図だよなあ!
宿の名前も覚えてないし、誰かに聞くってわけにも行かないじゃないか!
プンプンしながら、ズンズン歩く。
いかにもな裏路地、木でできた一軒の家の前を通る。
前で引き戸がガラガラと急に開いて、中から男が出てくる。
僕はビックリして立ち止まった。
戸が道の端っこギリギリだもの、中から人が出て来たらぶつかっちゃうし。
その男は戸口のところで振り返って、
「いいな?言ったようにできないなら飯は抜きだ!」
強い口調で家の中へ向かって叫んだ。
ビックリのまま見ている僕の前で、男はピシャンと戸を閉めた。
「おい、何見てる!」
僕を睨み付ける男。
肩や膝が薄くなって、あまり見栄えがいいとも言えない地味な服装、痩せて背は高め、赤茶けた不精ヒゲ。
僕は一歩左にズレて大回りして先へ進む。
風の加減で酒の匂いがプンと鼻につく。
男はフンと鼻息を一つ鳴らすとそのまま立ち去った。
その綺麗とは言えない背を見送り、なんなんだ?なんて思っていると、その家の中から数人の子供の泣き声が上がった。
宥めている女の声も混じる。
他所ん家の事は関わっちゃいけないんだよな。
そう思い出して歩き出したら、後ろでギシギシと引き戸を揺する音がして、ガラッと開く音。
歩く僕のお尻に走り出て来てしがみつく奴がいた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「ちょっ!なんだい急に?
そこのうちの子?
どうしたっての」
見ると6、7歳くらいかな、小さな子供が僕の上着を両手で握ってしがみ付いている。
「ステス!
ああ、もう」
そう言って中から飛び出した女…の子?汚れた服は袖や裾が短冊みたいに細く切れて手足に張り付いて……
「すみません、すみません、すみません……」
僕にしがみつく子供を見るなり謝り始めた。
ここん家の人は、なんか変な病気にでも掛かってんのか?
いや、だっておかしいだろ?
さっき出て行って酒臭い親父、謝りながらしがみつく子供。
やっぱり謝り続ける汚れた身なりの女。
さらにはまだ奥に何人も、子供の泣く声が聞こえてるんだから。
僕は見なかったことにして、さっさと立ち去るべきなんだ。
けれどその判断はすでに遅かった。
開いた戸口からわらわらと出て来る、一様にボロを着た子供、子供。
泣きながら僕の周りを囲んでしまった。
1人なんかは僕の服やズボンを掴んで、涙、鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を押し付ける。
人気のないこんな裏路地でも、騒ぎはまずいと考えたんだろう。
女の子が何かの合図を子供達にした。
ありえない事だと思うんだけど、僕はそのまま家の中へと押し流されてしまった。
入ってみてわかったのは、家と思ったその建物が納屋のような場所だって言う事。
幅で10歩、奥へは12歩くらいの一部屋で床が無い。
土が剥き出しの土間だったのでビックリした。
お爺ちゃんの家は郊外の農家で、玄関と、裏口から入った場所が土間の炊事場だったから馴染みがないわけじゃない。
けど、人が暮らす場所が土間ってのはちょっと、ねえ?
真ん中に燃えカスの薪のあとがあって、地面に直に汚れた藁のようなものを敷いて。
地面なりにぺったりしてるとこを見ると、どうやらそこで寝ているらしい。
「一体どう言う暮らしなんだ?
ちゃんと食べてるのか?」
女の子を含め子供達は全部で4人。
年長だからか世話をする役目なのか、女の子が答える。
「食べ物はクゼルが運んでくるの…
時々畑の手伝いとか、連れて行かれて…」
中へ入って落ち着いたのか、子供達は泣き止んだ。
けどすぐに別の騒ぎが始まる。
「お腹すいたよー」
「メアリ、お水飲んでいい?」
女の子はメアリと言う名らしい。
「この剣、かっこいいね、見せて」
僕の腰に差した短剣に触る子供に
「こら、ステス、人のものに勝手に触っちゃダメ!」
「やだ、見たい!」
「ダメったらダメ!
ステス、ご飯抜きになるよ?」
その脅しには弱いのか引き下がる男の子。
「ラトルが寝ちゃったー」
その声に、見ると藁の上に丸くなって寝ている子がいる。
「熱があるのにさっき無理して動いたから…
大丈夫なのかな…」
戸口からコンコンコンとノックが3回、その音にみんながビクッと背筋を立てて反応する。
何をそんなに怯えているんだろうと、訝りながら僕は立ち上がって、戸口に向かう。
子供達の怯えた騒めきが強くなる。
「大丈夫だよ。来たのは僕の連れだから」
そう。この気配は知っている。
薄い板戸越しにもわかる、クレアとメグだ。
でもどうやって、こんな家を見つけたんだろう?
建て付けのよく無い引き戸を開けると
「コラ、迷子。
逸れたんやったらジッとしとらんかい」
「もう!心配したんだよ?」
「怪我やらあらへんやろな?
ここは何や?」
2人は一気に捲し立てる。
その勢いに僕はタジッと一歩退がった。
クレアが僕を手で寄せて、薄暗い奥を覗き込む。
「子供?ここって土の上?
何このひどい環境!
こんなとこで寝起きしてるの?
親は何やってるのよ!」
「多分やけど、この子らは孤児やないか?
それともどっからか攫って来よったか。
どっちにしても親は居らへんなあ」
メグの顔は薄暗い室内、鍔広の魔女帽子のため表情まで窺えないけど、声が震えているようだ。
「え、どう言う事?」とクレアが問う。
「孤児を集めて食わせとる者には、領主から補助金が出るんや。
一人あたま月に銀貨1枚やったか。
その領によって多少はあるやろけど、食うもん着せるもんに使たら無うなる額や。
それ目当てでこないなふうに子供ら集めて、生かさず殺さず飼い殺しや」
後で聞いたけど、メグも事故で両親が死んで、叔父を名乗る男に補助金目当ての飼い殺しの目に遭った事があるそうだ。
「ねえ、メグ、どうにかできないの?」と僕。
「せやなあ。
子らを集めたロクデナシは、居らんようになってまえば補助は当らんようになるからなあ、探しよるやろな。
纏めてどこぞで匿ってまうか?
一緒に連れ回すんにはイブちゃん、ちょっと狭いやろし」
僕は改めて子供達を見回し、寝込んだままの子を見て思い出した。
「クレア、一人熱のある子がいるんだ。
薬持ってない?」
「熱冷まし?あるけどこんな場所だとそうなるわよ。
メグ、後席の椅子をもう1列出せるんだ。荷物寄せればみんなで乗れる」
「さよか。
せやったら……
タケオ、自分、外にイブちゃん来とるさかい、中で待っとき!」
メグが背を押すようにして、僕は戸口から押し出されてしまった。
外へ出ると目の前に白いボディ、イブちゃんが停まっている。
しょうがないので助手席に潜り込む。
カーナビをつついて暇つぶしだ。
できる操作はまだマップを見るくらい。
ゼレンシアの街を見ようと拡大すると、ここまでの車の走ったルートがグネグネ描き込まれている。
えーと、南東門から入って環状通りで商業ギルド、それから食堂に寄ってここが宿かな?
こんな方だっけ?
実際に走った形と、頭の中に描いた地図が結構違う。
えーと、宿からはここまでほとんど最短距離できてるな?
曲がり角もいっぱいあるのに、どうやってここが分かったたんだろ?
あれ?最短じゃないや。こんなに曲がらなくたって、大通りを選んで来ればもう少し近くないか?
あ、そうか。メグたちがここにくるときは、この大きな通りはまだ書き込んでないんだ。
だから方角だけ見ながら、近づくように何度も曲がってここまで来たのか。
心配したって言ってたもんなあ。
でもあの子達、どうするつもりなんだろ。
話の途中で追い出されちゃったし。
カーナビから目を上げてボーっとしてたら、クレアが戸口から出て来て、バックドアを開く。後ろからメグと子供達4人も抱えられて出てくる。
女の子はクレアと似た青い髪になっていて、部屋着っぽいのに着替えていた。
他の子は茶色髪に赤髪。袖を幾つも捲り折って、裸足の足首がやっと見えるような大きなシャツ、あれって下着だよな? を被っていた。
洗ってもらったと見え、みんな子供らしいプックラした肌が見えている。
でもキレイになると、痩せ方がひどいのがよく分かっちゃう。
「ほら、タケオ、手伝ってよ。
後席に乗り込んでここの紐を引いて欲しいの」
荷物を後ろに寄せたクレアが指差して言う。
スライドドアを開けて後ろに乗り込んで、言われた紐を引くとカチッと音がした。
「ああ、ダメか、両方いっぺんに引かないと動かないみたい」
「えー?手、届かないよ?」
車内の両端と言っても1.5mはあるもんなあ。
見ていた女の子、メアリが乗り込んでくる。
「これを引けばいいのね?」
外からちゃんと見ていたようだ。
「うん、頼んだ。僕はこっちを引くよ」
今度はロックが外れ座席が浮き上がる。
どう言う仕掛けか、浮かせた2列目の下から3列目の椅子が現れた。
クレアの手でカシャカシャと形を変え、背もたれまで立ち上がる。
「そっち、戻していいよ?」
クレアに言われて押さえていた手を放すと、ガシャンと音を立て2列目が固定された。
これで前席が2人、2列目が3人、3列目にも3人の席ができた。
大人サイズだし乗るのは僕ら3人と子供達4人、合計7人だから広さは充分だ。
その分荷物の乗る場所は減っちゃったけど、荷馬車にその分頑張ってもらおう。
「でもこのまま連れてっちゃっていいの?」
「何言うとるん、どうせロクデナシや。
この子らに話聞いたら、貰た金で酒浸りやで。
服も飯もようせんとほっぽらかしや、かめへんかめへん」
女の子はメアリ。
僕と同じ10歳だった。
ステスは7歳の男の子。ミトアは同じく7歳の女の子。熱を出してたラトルは5歳の女の子だった。
メグの運転でクルマは走り出した。
「服は明日でもいいとして、靴をどうにかしないと。
裸足が3人も居るわ」
「せやなあ。
クレア、これに靴屋でとらへん?」
メグが大通りで車を端に寄せ、ポケットから取り出したのは街の案内図。
クレアは少しの間、指でなぞるように地図を見て行く。
「あ、ここがそうかも!
えっとね、あ、後ろだ。
メグ、Uターン!」
カーナビを見比べて方角を一瞬で把握したクレア。
すごいな。僕だったらああは行きそうもない。
靴屋はすぐに見つかって裸足の3人にはサンダルを買った。メアリの靴はメグのを履いていて、少し大きいらしい。
それで4人とも足の大きさを測ってもらい、作ってもらうことになった。
「タケオ、お菓子の大袋があるさかい、持って来てんか?」
腹をすかした子供達に食べさせるつもりらしい。
けど、それってどこにあるんだ?
「ボンネット下の物入れだよ?
あー、あんまり見たことないか。
あたしが一緒に行くよ」
クレアに、ハンドルの下にあるボンネット解除のレバーを教えてもらい、冷蔵庫や物の仕舞い場所を聞いて、喜びそうなお菓子の小袋を10個選んだ。
あの子たち、どんな顔するだろ?




