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飯山健夫少年

人物紹介 (本編はこの下にあります)

 飯山健夫 通称タケオ 10歳(68歳)

 身長 145センチ(推定) 黒の短髪

 記憶を無くし子供に戻っている

 元個人タクシー運転手

 僕は飯山健夫、この間まで日本って国の片田舎、中野林村の小学四年生だった。

 親は商店の荷物配達をしてた父さん、農家の手伝いに出ていた母さん、番犬のブチが1匹、僕は村でも珍しい一人っ子だった。


 それがある日、目が覚めたら身体中の痛みの中、いろんな肌色、目の色、髪色の人たちがいて、尖った鼻やら突き出た頬骨、顔中の髭なんて、絵本でも見た事ない、よその国の人が居た。


 生まれ年は昭和32年で僕は小学生だとか、そんなことを言ってもこっちじゃ誰にも通じない。


 何でか言葉だけは通じるんで、今はクレアとメグというお姉さん2人とイブちゃんって名の車で旅をしている。


 クレアは槍使いで土魔法を使う、青い髪、澄んだ青い眼、背の高い日焼けした肌のお姉さん。

 髪は厚手の皮帽子に纏め入れて、厳つい革鎧とゴツい皮の編み上げ靴、長い柄に複雑な模様が刻まれた槍を持って前衛に立つ。

 ゼクレアスタなんとかって長い名前があるけど呼びやすいようにクレアで通している。


 メグは全身紺色の魔法使い。

 ほんとはメグクワイア・ゼーゼルって名前らしい。

 絵本に出てくるお婆さん魔女と似た感じの服だけどずっと若いし、変な関西弁を使う。

 得意なのは水魔法で雷ももの凄い。

 得意じゃないと言いながら風や火の魔法も使う。

 やたら鍔の広い飾りの多い帽子は滅多に取らないけど、オレンジっぽい金髪だったのを僕は何度か見ている。

 眼は澄んだ翆色で煌めく宝石みたいだった。

 背は僕より少し低いくらい、この3人で一番お姉さんだ。


 次はイブちゃん、今移動中のクルマだ。

 速度計を見ると30の数字のやや手前。

 穴が少ないんで直すまでもないとそのまま走ってるけど、本当ならその倍も3倍も出せる。

 本気で道を直せば120の目盛りでも走れるのがイブちゃんだ。

 イブちゃんの力は馬車より早い移動と防御。他にクレーンとかできるし、野営ではそのまま中で寝られたり荷馬車を曳いて物をたくさん運んでくれたり、とても便利な仲間だ。

 ちなみに今はメグが運転席を占領している。


 今はヤーニトードという街に向かって、のんびりとイブちゃんを走らせているところだ。


「タケオ、右の森に赤い点が幾つも出てる。

 寄り道するよ?」


「ええんやない?

 街道近くの魔物は狩っとくもんやで」


 メグが答えて、聞かれた筈の僕の意見を待たずに、右にイブちゃんを寄せる。

 まあ、いいけど。


 森の湿気は濃いようで、メグが地面からいくつも水玉を作って、以前見たように漏斗型に配置している。

 これで奥の方に大きな水球を落とし、音に驚いてこちらへ逃げ出す魔物を、水カーテンで僕らの待ち構えるこの街道縁まで誘導するんだ。


 要するにいつもの魔石狩り。

 魔石の在庫が減ると寄り道して、付近の魔物を集めて狩るアレだ。


 幾つかイブちゃんの索敵に反応があったなんてのは、狩を始める言い訳なんじゃないかと僕は思ってる。


 正面の遠くでズズンと地響き、水カーテンが2mくらいの高さで展開するのが見えた。

 草木で見えないけど、あれは左右に数百メートルは広がっている筈だ。

 そしてかなり離れた場所にあんな地響きがするような何かを落とす。


 メグが万が一にも街道に魔物を追い散らすはずがない。

 僕らに迫る多数の足音、森の風を乱す魔物の動きが大まかなうねりとして感じられる。


 浜辺に打ち寄せる波のように大きな一団もあれば、数頭あるいは単体の小さな波もある。

 クレアにはもっと細かく見えているだろう。


「来よった!」


 メグが言ってるのは、左右に広げたカーテンに魔物が突っ込んだ衝撃のことだろう。


 すぐに僕の正面にも逃げる魔物が突っ込んでくる。

 足の速いイッカクネズミが3つ、水カーテンを揺らして手のひら一つ分もありそうな鋭いツノを、カーテンのこちら側に突き出す。

 僕は左のイッカクネズミから槍で薙ぐ。

 イッカクネズミはあっさり首を飛ばされ、地面に血を流した。


 僕の槍は細身の5mを超える柄に、二の腕ほどもある両刃の短刀が付いている。

 メグが鍛冶屋で特注したその穂先は、刃筋に気を付ければ斬撃も行える。

 軽く長い柄の方も、メグが狩ったヤナギトレントと、川で拾った白い強化石から作ってくれた、こちらも特製品。

 軽くで丈夫だけどしなりが強いので、突く時はあまり長く持つと狙いがぶれてしまう。

 叩き付けや斬撃では柄がしなる分穂先の速度が上がる。

 上からの斬り付けは、決まれば相当な威力が出る。


 次の奴は水カーテンに呼吸を奪われ、草の上で転がるようにもがいている。

 僕は柄の中ほどを持ち喉元を穂先で突くと次へ向き直る。

 3匹目を突いて止めを刺す辺りで、やや大型のセレスボックが水カーテンに飛び込んで来た。

 オオカミの吠え声がするから、まだまだ獲物は続くようだ。


 僕も槍の練習は朝晩欠かしていない。

 多少は腕も上がったと思ってたんだけど、クレアが右翼10数メートルを駆け回って斬突を放つのを見てしまうと、情けない気持ちでいっぱいになってしまう。


 左翼ではメグが嬉々として氷弾をばら撒いていて、そのほとんどが獲物の喉や胸に突き立つんだ。

 この頃風属性と言う僕の表示がカーナビに出てたそうだけど、あんな風に魔法で魔物を狩れる日が来るんだろうか?


「タケオ、集中しなさい!

 気を抜いてると怪我するわよ!」


 クレアの叱咤が飛んで来て、僕がグレイウルフの2頭の喉元を、ちょっとビビりながら突いた。


 こいつらも音にビビって突っ込んで来ただけ。

 群れで一方向に逃げる餌を喜んで追う捕食者というのは、これまでの魔石狩りでも何度か見ている。

 さっきから重い足音が移動してくるのはそれだろうか?


「タケオ、右、代わって!」


「タケオ、素直に聞いたほうがええで?

 何やさっきからピリピリしよる」


 僕がクレアの位置へ行くと、捌ききれないくらいの魔物が水カーテンに絡まれひしめいていた。

 槍をごく短く持って連続して急所狙いに突いて行く。


 正確に突く練習と思えばありがたいくらいなんだけど……

 僕にも分かる。左寄りの戦場に何やらヤバいのが来てる。

 その証拠にそちらの森の上に高く湧き上がる黒雲。

 無数の氷弾を放ちながら並行して雲を纏めるメグの仕業だ。

 クレアは僕の狩残しを軽く捌いて、いつでも退ける態勢だ。

 バキバキと灌木を蹴散らし、掠めた太い木を削り破片を撒き散らし、鬱蒼とした樹冠を揺らして現れたのは一つ目の巨人、青い肌、元はグレスタイガーの毛皮らしい腰巻きに、巨大な鉄の棍棒を片手で振り回す一本角のサイクロプスだ。


   ・   ・   ・


 ここからは後で聞いた話だよ。

 僕は山盛りの魔物の急所を突く練習で、そっちは見てなかったから。


   ・   ・   ・


 散らした大量の破片を浴びて、周囲の水カーテンは霧散してしまった。


 左翼には大型捕食者の気に当てられたのか、もう他に魔物が現れる気配はなかった。

 立ち塞がるのは一本の槍を向けるクレア一人。メグはクルマの前に控え、短い杖を翳していた。


 開けた場所に飛び出し、足元には大量の魔物の死骸。そこに槍を向ける人間の女が一人。これはクレアのことだね。


 一つ目の巨人(サイクロプス)は戸惑ったように立ち止まった。


 クレアがツツと迫り牽制の突きを放った。

 それは膝辺りに突き立つけど、擦り傷程度にしかならなかった。


 グルルァ!

 それでも痛みはあったようで、苛立ったように吠える一つ目巨人(サイクロプス)

 クレアはイブちゃんの前へ引き込むようにと、牽制を交えながら引いて行く。

 それを追う一つ目巨人(サイクロプス)は、離れて槍を振る僕とクルマのそばに立つメグに目を走らせた。


 そんな隙をあのクレアが逃すはずがない。

 音を立てないように近寄って脇を穂先で突き上げた。

 動きの大きな関節部分は多少でも皮が薄いだろうと、咄嗟にそこを突いたんだそう。


 グルアッ!!ブブットルルルアァーーー!!


 この妙に巻き舌風の叫びは僕にも聞こえていた。


 それでも重そうな棍棒を手離しもせず、一つ目巨人は痛めた腕一本でクレアにそれを振るう。

 あの時はサッと退くつもりが、革帽子を掠める棍棒に驚いた、何とか躱わせたけど危なかったとクレアが言っていた。


「行くで!(めえ)瞑っとき!」


 メグの高い声は僕のところまで聞こえた。

 クレアが離れた瞬間を狙ったそうだ。


 僕はメグに背を向け、両手で耳を塞ぐ。

 このくらい離れていれば雷の閃光も幾らかマシだろう。

 そう思ってたんだけど、薄目で見ていた草木の緑も横たわる黒の濃い毛皮も、何もかもが一瞬で真っ白になった。


 流石に目の痛みはなかったけど、少しの間どっちを見ても、視界の中央が真っ白の大きな斑点が漂う有様だった。

 メグの言う事は聞いたほうがいいね。


 メグの落とした雷は巨人の脳天を貫き、体全体が白く発光したそうだ。

 あ。他に見てる者なんていない、それを見たのはメグだけ。


 全身に立ち上る白煙を纏って一つ目巨人(サイクロプス)はまだ立っていたそうだ。

 その大きな、一つだけの眼球すら動かす事なく、両腕をダラリと下げ。

 でも手には棍棒を落としもせず握っていたんだって。


 白煙を周囲に漂わせ、棒立ちの巨人を見たら普通、終わったと思うじゃない?


 けれど最初はどこを見ているのか分からなかった眼が、クレアをグリっと見たんだって。


 あの時は慌てたってクレアが言ってたよ。

 ガアアっと然程大声ではなく唸り声を上げ、ズンと足を踏み出し。

 もう一歩を踏み出す頃には棍棒が下からクレアを襲う。

 槍の柄を間に入れるだけで精一杯、そのまま弾き飛ばされて足から着地は何とかなったけど、丈の高い草に絡まれて草地を転がったんだと。


 メグの氷弾で気を逸らしてる隙に起き上がって、突っ込んで来る一つ目巨人をクレアがクルマに誘導した。


 その時のドオンという大きな音は、離れていた僕にも聞こえた。

 白く濁る視界の端に、青い肌の巨体がどこからか落ちてきたみたいに地面を転がるんだもの、ちょっと意味がわからなかった。


 イブちゃんの防御結界。

 今まで幾多の外敵を屠ってきた鉄壁の守りで、大抵は致命傷を奪う。

 その上魔石まで敵の体内から抜いて、それを自らの燃料にしてしまうっていうんだけど、ホントなのかな?

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