表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

実話怪談ランドスケープ

【実話怪談】襖からやさしい手(後編)

作者: 高橋志歩

 私が高校2年生の時、同じ文化系クラブだったNさんから聞いた体験談。


 Nさんは、とても頭が良くて学年トップクラスの成績だったけど、おっとりした雰囲気で話しやすい人だった。

 季節や前後の状況は記憶にないけど、放課後の教室で2人で色々話をしているうちに日本人形や和風の古い家は何だか怖いねえという話題になって、Nさんが「そういえば親戚の家で変なものにチョコを貰った事がある」と言い出した。その頃から怖い話が大好きだった私は、チョコレート?なにそれ聞きたい!と思い切り興奮した。そこでNさんが話してくれたのが、以下の体験談。


 Nさんが幼稚園児だった頃、盛大な法事の集まりがあり家族で祖父宅へ泊りがけで出かけた。いわゆる本家で、とても広くて立派な和風の屋敷だったらしい。そこに各地からの親戚一同が大集合した。

 明るいうちはNさんも親戚の子供たちと楽しく遊んでいたけど、賑やかな晩御飯と入浴が終わると早々に屋敷の奥の広い和室に連れていかれ、今夜は子供たちだけで寝るようにと言われた。

 同じ部屋に10人ぐらいいたけども、Nさんは両親と離れてしまって心細くて仕方がない。

 押し入れの襖のすぐ前に敷かれた布団に潜り込んで早く寝ようと思っても、なかなか寝付けない。

 やがて時間がたつと他の皆は疲れて眠ってしまい、目覚めているのはNさんだけになってしまった。


 Nさんは布団の上に起き上がると、豆電球がついているだけの薄暗い見知らぬ部屋が怖くて寂しくて、しくしく泣きだしてしまった。

 そんなNさんの前に、いきなり大きな握り拳が突き出された。


 びっくりしたNさんが涙目で良く見ると、左側の襖から「手」が生えている。


 その時、不思議に思っても全然怖く感じなかったNさんがじっと握り拳を見ていると、それがゆっくり開いて手のひらを見せた。


 そこには10粒ほどの色とりどりのマーブルチョコレートが乗っていた。


 Nさんはマーブルチョコレートが大好きだったので、嬉しくなって「食べていいの?」と小声で「手」に尋ねると、お食べ、というようにゆらゆら揺れた。

 そこでNさんがひとつ摘まんで食べてみると、ちゃんと甘いマーブルチョコレートだった。


 Nさんはひとつずつ摘まんで食べ、その間「手」はじっと動かずにいてくれた。

 やがて全部食べ終わり、どうするのかな、と思っていると「手」はするする、という感じで襖に消えた。けれどNさんはすっかり気分が落ち着き、そのまま布団に横になると朝までぐっすり眠ったのだった。

 目が覚めて、母親などに話してももちろん信じてはもらえなかったし、その後その家で「手」が出てくることもなかった。


「変な話でしょう?」と笑うNさんを前に私は心底驚いていた。私の体験とものすごく似ている!

 そこでNさんに、襖の穴から出てきた「手」が点棒を持って行ってくれた私の体験を話し、2人で「えー!?そっくりー!」と盛り上がったのであった。


 私の時の「手」は襖に開いた穴だったけど、Nさんは「手」が襖から生えていたと話してくれた。この辺はちょっと違う。でも襖という共通点はある。

 もしかしたら、違う世界の「手」がちびっ子のために襖経由でちょっとだけ出現してくれたのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ