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襲撃

音のする方に近づいていくと馬車が壊れて燃やされている。そこには武装した西洋風の鎧を着た人が数人倒れている。周りには醜悪な人型の生き物が血だらけになって倒れているし、その向こうにはもしかすると御者だったのかもしれないがやはり西洋風の服を着た男も倒れている。どれを見ても明らかに動いておらず、血溜まりもできていてすでに息はないようである。


と、向こうから「キャーッ」という悲鳴が聞こえた。見ると醜悪な人型の奴らが何かを押さえつけようとしている。

(ここは鑑定スキルだろう。でもどうやって使うんだろう)

こう思った瞬間、その醜悪な奴らの肩のあたりに「ゴブリン1」という表示が出る。

(もしかしてこいつらゴブリンかな?横の数字はレベルってことだろうか)

もう少し近づくとその二匹のゴブリンは甲高い悲鳴をあげている人らしきものを抑えつけている。

(やっぱり助けるべきなんだろうか)

多分そうだろう。

せっかく魔法が使えるらしいので魔法を選択してみる。

やっぱり黒魔法かなと思ってウインドウを開けてみたが、MMORPGをやりなれている僕でもあまり見慣れない呪文が並んでいる。「バインド」は使えそうだが直接ダメージを与えられないのでそのあとどうすればいいのかわからない。ブラックホールはみんなまとめてあの世行きにしそうである。デスタッチは触りに行くのが面倒だしクリエイトアンデッドは向こうにある死体をアンデットにした後に処理に困りそうである。

なので、次にスキルの高い風魔法を開けてみた。

すると、その中にライトニングボルトの呪文を見つけた。これなら聞いたことある。

ライトニングボルトを選択して使用する。

僕の周りに風が舞い出し、上空の雲から雷撃が落ちてくる。僕はその先を二匹のゴブリンに調整する。

雷鳴とともにそのゴブリンは電撃を喰らって意識を失うというより命も奪われている。背中から入った雷撃はゴブリンの心臓の鼓動を止めているに違いない。

雷鳴で思わず振り返ったその人はまだあどけない女の子だった。彼女は命を失って倒れ込むゴブリンを見て恐怖に顔を歪め、そのあと僕の方を見て再び「キャーッ」と悲鳴をあげて「助けてー!」と叫びながら一目散にかけ出した。


おいおい、助けたのは僕だぞと思ったけれど、こういうことには慣れている。試験前に女の子にノートを貸したらそのまま帰ってこなかったり、なんだかやけに馴れ馴れしくデートに行こうと誘われると通信販売の売り込みだったり、まあ、女性というのは僕から金や時間をむしり取るためにしか近づいてこなかったのである。そういう女性というものを信じること自体危険である。

会社でもちょっと油断するとセクハラ扱いされる危険があるので会話は事務的なもののみ最小限にして積極的に距離をとって近づかない。会社の飲み会なんて危険すぎるのでみんなお断りしていたわけである。


実家の両親も僕が35歳を過ぎるともうお見合いの話も持ってこなくなってほっとしていたのに。

それで40歳を過ぎたので同じ非モテ男子仲間と「魔法使いの仲間入りおめでとう会」をやったばかりなのに、今度は本当に魔法使いになってしまうとは僕は何か呪われているのかもしれない。


とにかく、今は自分が魔法を使えるということが確認できたことの方が重要だし、下手に女性に関わってまた不幸な事態を引き起こすよりは女性の方が自発的に向こうに行ってくれる方が幸せと言っていいのである。


とりあえず懐も寒いので何か金目のものを探そう。

そう、あの女神は一銭の金も持たせずに僕を地上に蹴り落としたのである。女とはそういうものである。優しさなんてものは見せかけである。


もう馬車は燃え尽きていて火は消えているようである。ちょっと灰をかき分けると燃え残りの中に小さな皮袋を見つけた。中には銀貨と銅貨が入っている。

インデックスで調べると日常生活には銀貨と銅貨がしばしば使われているらしい。日本円で大雑把に言えば銀貨が一万円くらいで銅貨が千円くらいに当たる。

数えて見ると銀貨が12枚と銅貨が20枚くらい入っていた。

よし、これで当座の生活には問題なさそうである。

インデックスで地図を呼び出すと、この近辺の情報しか出てこない。この場所はガザリア大陸にあるらしく、今いるのはザイデン王国の中で、ここから半時間くらい歩いたところにメールス辺境伯の街であるメランという街があるらしい。

半時間で街まで行けるなら今日のうちに辿り着いて宿も見つけられるのではないか。

なんて幸運なんだ。これはやはりあの女の子がどこかに行ってくれたために運命の神様が微笑んでくれたということではないだろうか。多分その神様は断じてあの女神ではないと思うけれど。

残念ながらそれ以外には僕に使えそうなものはないし、全員を埋葬するのも無理そうなので僕もメランの街に出発することにした。

さてバックパックを背負って歩こうとすると裾に抵抗感がある。何か木の枝にでも引っかかったのかな?と脇を見ると枝ではなくて何か白いものが僕の裾を捕まえている。なんだか手のようである。

恐る恐る後ろを見るとさっき逃げて行ったはずの女の子がほっぺたを膨らませてこちらを睨みつけている。

「えっ?えーっ!」と思わず声が出てしまった。

「君、どこかに逃げて行ったんじゃないのかい?」というと女の子はブンブンと首を横に振る。

彼女は僕が馬車から取り出したあのお金の入った皮袋を指さしているようだ。

「そ、そりゃ、確かに馬車からお金の入った皮袋は取り出したけれど、それは当然の報酬じゃない?」と言うと彼女はさらに睨んでくる。

「わ、わかった。じゃあさ、君をメランの街まで送り届けよう。そうしたら君は自分で救援を頼めるだろう?」

そういうと彼女は頷いた。

結局、彼女は僕の服の裾を握りながらニコニコとして歩いている。(はあっ、そりゃ子供を置き去りにするのはさすがになんだから連れてきたけれど子供とはいえなんで僕が女連れで歩かなきゃいけないのか)

まあ、半時間の我慢で解放されると思うしかないかとトボトボ歩いている。

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