第6話 新たな力
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□バイズ街道 クロウ・ホーク
現在地はルセスとネビュラの間の街道から少し北にずれたところか。
「はははっ! 面白い話が聞けたぞ、礼を言おう!」
「そりゃ良かったな……」
あの後なんとか強引に話を切り替え逃げ切った俺は、疲労を隠しつつ魔車から降りた。
御者含めて魔車は街道沿いで待機するらしい。
「ここからは徒歩で行きます。候補地の一つはこのまま北に進んだ所ですね。このバイズ街道はダンジョン都市ネビュラと直接つながる道ではありますが、いわゆる中継地点のようなものは設けられていません。街道を外れればいくつかの農村こそあるものの大きな街はないのが実情です」
そういってラットは地図を示す。
そこは少しルセス寄りではあるものの、ルセスとネビュラを三角形で繋ぐような位置であった。
「なので、今回の計画を基に一つ拠点を作ってしまえばいいのではないかという観点からの調査が一つになります。クロウさんはネビュラに行ったことは?」
「つい先日までネビュラにいました。あれば確かに嬉しいですね」
魔車を使用しておよそ3時間、相応に距離があるので中継地点を作ってしまおうということは理解した。
そして、それだけではないことも。
「今まで作らなかったのには理由が?」
「どこに拠点を作るにせよ、魔域の浄化が必要になってくるからですね」
魔域の浄化。
それはモンスターが発生する環境を作り替え人類の生存圏にすることだ。
つまり、モンスターの一時的な完全掃討をしなければならない。
「お金も資材も、人材も全てを費やしてようやく取り掛かることができる一大事業です。また、強力なモンスターの出現によって街が亡べば、復興するまもなく様々な怨念が渦巻く危険な魔域になっているなんてこともあります」
そこら辺はかなりシビアな世界だ。
過去の資料を見ると戦争によって大国に飲み込まれ消滅した国もあるのだが、記録無しのままいつのまにか国が滅んでいたケースもあった。
モンスターによって一夜にして国や街が滅んだ、などという話はありえない話ではないらしい。
残った9つの大国はそういった災害を跳ね除ける力を有していたということでもあるのだろう。
「超越種に……臨界個体でしたっけ?」
ネビュラのギルドに備え付けられている資料にそんな記述があったことを思い出す。
超越種はいうなればモンスターとしての異常な進化を、超越を成し遂げた個体をそう呼ぶそうだ。
そして……
「ええ。我らが国家最高戦力の所有する国宝にして臨界装備、その元となったモンスターですね」
臨界個体。
超越のさらにその先。
生物として常に進化し続ける、臨界点と呼ぶべき領域に至ったモンスターはそう呼ばれる。
(ゲーム的に言えばレイドボス……ってところか)
ただ、そんな言葉で片づけられるような存在ではないらしい。
「今からおよそ30年前。ルクレシア王国で臨界に至ったモンスターが出現したという記録が残っていますが……その時には2つの都市と近辺にあった20近くの村が滅んだとされています。また、時間を稼ぐために挑んだレベル250を超えた数百人の精鋭の兵士は誰1人として傷を与えることもできずに死亡。当時の【鋼騎士】が致命傷と引き換えに、どうにか討伐したというのが現実です」
まさしく、生きた災害だ。
「魔域の浄化は急激な環境の変化によってイレギュラーが起きやすくなります。住民の確保。リスクとリターン。周辺への影響。様々なものを加味する必要がありますね」
逆に言えば、旅人の増加による受け皿を作りつつリターンを得られると踏んだから今回ここまでの話になったというわけでもある。
「では、知識の共有も済みましたし、さっそく向かいましょうか」
☆
3匹ほどの群れで襲い掛かってくるのは<フォレストウルフ>と呼ばれる狼型のモンスター。
それに対し、《呪物操作》で2本の剣を操作し倒していく。
正直、星天の日の戦いに比べれば物足りないと言ったところか。
バフの影響もあったのだろうが同じ下級モンスターでも、向こうの方がよっぽど手ごたえがあった。
そういう意味でも、ここら辺は魔域の浄化の労力が低い地域ということなのだろう。
「これはこれは……」
「クロウよ。お主、さては強いな」
ラットは面白いものを見たかのように笑顔を浮かべており、ルーグは呆れたような顔をしていた。
「まぁ、これでも指名されてここにきてるんでな。ルーグは戦えないのか? その剣とか結構な業物に見えるが」
「私か? 剣術を収めてはいるがそれぐらいだな。正直、クロウに勝てる気はしな……いや、妹はやらんぞ! 私に勝ったところで第2第3の私がクロウの前に立ちふさがるであろう!」
「どこのボスモンスターだよ……」
「おっと、そろそろ森を抜けますよ」
バイズ街道から外れたここら辺には小規模の森が散乱しているようだ。
つまり、森を切り開き街道を整備することが前提ということである。
「計画では街道を分岐させるところに一つの宿場町を。そして、北門に抜ける形で少し離れた位置に新たな街をつくり、周辺の村含めて流通網を再構築することを考えています。北の方に行けば、ザウグ山脈の一部にも繋がっているので、資源の確保もできますね」
この様子だと、水源の確保もできる場所を選んでそうだな。
そして、森を抜けた。
そこには一面の平野が広がって……いるわけではなく。
「あー。森を抜けたら森があるんですが」
「ええ。森と森が密集している地域なんですよね。ただ、区分上は別の魔域の扱いになっています。あ、モンスターが」
正面から襲いかかってくる<ホーネット>を叩きおとす、が。
(どんどんくるな)
ラットとルーグは戦闘の余波など気にもせず会話を続ける。
「危険なモンスターはいなさそうだな」
「ただ、やはり数は多いですね。街道から外れているので冒険者や兵士の手も入っていない地域ですから。なかなかに大変そうです」
「それにしても……頑張っているな」
「それが、仕事だからな! 《呪爆》!」
剣を操り、武器を爆破させ動きを鈍らせる。
護衛対象には近寄らせない。
下級モンスターの中でも弱い部類のモンスターたちに今更苦戦したりはしないが。
「クロウさん。率直な意見を伺いたいのですが、この森のすぐそばに拠点を仮構築しモンスターの掃討作戦をするとなった時、旅人の皆さんはどのくらいのレベルであれば倒せそうですか」
「参考に、本来であればどのくらいを見積もってました?」
「我々だけでやるのであればレベル100から150近い兵士や冒険者で固めますね。命の危険がありますので」
なるほど。
「ローテーションを組んでおけばレベル50でも問題なく倒していけると思いますよ。レベルの下限を下げて数を確保した方が効率的かと」
前衛職が木々を切り倒し集まってきたモンスターを後衛職が一網打尽にする、というようなことをするのであれば、質よりも量の方が重要だ。
そして、俺が知っている旅人という存在は良くも悪くも命知らずだ。
なんなら死んだらレイナに会えてラッキーとまで考えてるバカも大量にいる。
雑に集めても問題ないだろう。
「あとは現在どれくらいモンスターが存在しているかの調査ですね。接敵する密度である程度は図れますので……ルーグ、こちらに」
「む? この反応は……」
最後の一体を斬り落とし、そして──
「GUGAAAAAAAA!」
「<ムーンベアー>!? はぐれ個体か! クロウ、気を付けろ!」
問題ない、もう終わる。
「GUGAAA!?」
剣を走らせ、腕と脚を薄く裂いた。
ステータス上昇に伴い、《呪物操作》で操った呪いの武器の攻撃力も上昇している。
そして、このモンスターの弱点はすでに知り尽くしている。
ネビュラの周辺で散策をしていると、<ムーンベアー>は運が悪ければ普通に遭遇するぐらいには狩りなれた相手だ。
このモンスターは攻撃性能に優れている。
《暴風剣》のような飛ぶ斬撃を通常攻撃のようにポンポン放ってくるのは脅威だ。
しかし、さすがにこの攻撃パターンも動作も見慣れてしまった。
腕か脚を潰せばスキルの発動に制限をかけられるのだ。
2本の剣を操作する。
腕を思い切り振らせず、目、首、脚を機能停止させるべく責め立てる。
剣は叩きおとさせない。
現在は護衛対象もいるので速さ重視だ。
「GU、GA!? AAAAA!?」
そのまま、死角から首筋に刺さると同時に。
「《呪爆》」
爆発させる。
内部破壊。
「《呪縛》」
駆け……そのまま隙だらけの首を切り落とし戦闘は終了した。
「ちなみに、中級モンスターの討伐にはどれくらいを見積もれば?」
「レベル100前後で3人から4人のパーティですかね。相性にもよりますが、場合によってはソロで討伐できる旅人もいます。ただ、ネビュラで苦も無くそれができるのは現在10人もいなかったかと。俺の知り合いだと……」
ブルー、彗星、T&T、そしてハニーミルクは当然として、ゴーダル、mu-maはできるだろうな。
ガーシス、刃歯、右手にポンはわからない。
メリナはできないな、あの悪女は対人というか不意打ち特化だ。
「それでも10人行かないぐらいですね、把握していない旅人はいますのでもっといるとは思いますが」
合計レベル100近い彗星がほぼ全MPを消費して放った《暗黒衝波》でもHPを純粋に削ろうとした場合一撃で倒せないのがそういったモンスター達だ。
レベルが上がればその限りではないが、現在の環境では少数派のはずだ。
「いえいえ、大変参考になります。それでは、周囲の散策を続けましょうか」
俺たちは周囲の状況を確認すべく、そのまま森の奥に進んでいった……
☆
□王都ルセス クロウ・ホーク
「いやー、助かりました。本日はありがとうございました」
「お役に立てたならよかったです」
しばらく散策を行った後、王都ルセスに戻った。
今日のクエストはこれで終了だ。
「それでは報酬をお渡ししますね」
そして、3000スピルと紙が一枚渡された。
「これは……?」
「私はこれでもギルド職員ですからね、本日の依頼の内容を顧みて縁を繋いでおこうと思った次第で。……というのは冗談で商業ギルド系列のお店で使用できる割引き券のようなものですよ」
「ああ、なるほど」
「見たところ、そのアイテムボックスは容量が少ない種類であるとお見受けしました。今回を機に容量の大きな物へ買い替えられては、と。ついでに商業ギルドへの登録もよろしければ」
セールスということだろう。
「それでしたら、ありがたく」
「ええ、クロウさんをご紹介いただいてよかったです。メリナさんにも、後日お礼を伝えましょう。それでは……」
そうして、彼らは街の奥へと……
「クロウ、ユティナ」
「ん?」
「なにかしら?」
ルーグから声をかけられる。
「クロウ、お主の妹について話を聞けなかったのは残念だがまた次の機会を楽しみにしておくとしよう。ユティナよ、妹達に会いに来た際は歓迎しよう。そなたなら、良き友となってくれるやもしれん」
「……いや、次もまたはぐらかさせてもらうさ。秘蔵の滑らない話はまだ残ってるんでな」
「ええ、その時を私も楽しみにしているわ」
「ははっ、やはりはぐらかしておったな! 妹への愛が足らんな! ははははははは!」
それだけ言い残し、今度こそ彼らは去っていった。
(気づかれてたな)
彼らは俺が気づいたことに気づいていた。
その上で、お互いに何も知らないふりをしながら最後までやり通した。
俺は何も知らない冒険者だし、彼らは商業ギルドから派遣されてきた調査員だ。
彼らはきっと、明日も同じように調査員としてどこかしらのルートで紹介された旅人と一緒に現地へ向かうのだろう。
(お疲れ様)
(ああ、本当にな。報酬はまぁまぁ美味かったからいいんだけど……)
確かに、アイテムボックスの買い替えにはちょうどいい頃合いだ。
「ふうー」
精神的に疲れたクエストは、無事終わりを告げるのであった。
☆
─システムメッセージ─
【呪術師】のレベルが50になりました。
以下のスキルを習得しました。
《呪光》Lv1:アクティブスキル 消費MP100
呪い・魔法。
呪怨系の状態異常を付与する呪いの光を放つ。
クールタイム:60秒(最短30秒)
クエスト達成の経験値と同時に、どうやら【呪術師】が無事レベル50になったらしい。
呪術師の最後のスキルを覚えた。
呪いを付与するデバフ効果付きの魔法を撃てるようになったらしい。
対象のMPやSPを減少させたり、耐性を下げたりできるようだ。
ランダム要素は強いが単純に使い勝手がよさそうなスキルである。
これで【呪術師】は完成か。
「ん、まだ続きが……」
─システムメッセージ─
以下の汎用スキルを取得しました。
《神秘開放》:アクティブスキル 消費SP0
共に歩んだ経験を糧に<アルカナ>に秘められし力を開放する。
説明:
習得と同時に<アルカナ>のレベルアップが可能になる。
<アルカナ>はモンスターの討伐、食事、その他多くの経験を糧とする。
レベルの成長に伴いスキルの習得やスキルレベルが上昇することがある。
<アルカナ>は最大レベルに到達すると進化が可能になる。
それまでの経験を糧とし複数の可能性が提示される。
5度の進化の先に■■■■■■■■をもってして<アルカナ>は【魔王】に至る。
※進化を保留している間も経験値は蓄積されます。一度進化した場合別の進化先への可能性は消失します。
「うおっ!?」
待て待て待て、情報量が多い。
<アルカナ>の成長要素。
今までうんともすんともなかったそのシステムがどうやら解放された、らしい。
条件はレベル100、いや。二つのジョブがレベル50に到達したからか。
「えーと、つまり……今この瞬間から<アルカナ>をレベル上げできるようになって、最終的には進化できるようになる。進化先はそれまでの経験から可能性がいくつか確定して」
そして。
「一度進化したらその時に所有していた他の進化先への権利は消失する、と……」
「クロウ? どうしたの?」
ユティナを見る。
身長は160センチほど。
白銀の長い髪を背中に流し、黒い布地に白いフリルをあしらったゴスロリ風の服を着ている。
頭の側面からはちょこんと小さな角が生えており、街の中ということでラリーに作ってもらった髪飾りを付けていた。
「進化、かぁ……」
「……うん?」
─システムメッセージ─
<アルカナ>の進化が可能です。
種族名:【天秤の悪魔】ユティナ
マスター:クロウ・ホーク
TYPE:サポーター
レベル:1/1(進化可能)
能力:
HP:666
MP:300
SP:300
STR:100
INT:300
AGI:100
END:50
DEX:50
CRT:50
所持スキル:《スキル拡張》、《念話》、《反転する天秤》Lv1、《限定憑依》Lv1




