降り立つは"銃"
□機械帝国レギスタ ???
「すぅーーーーー。はぁーーーーーー……」
機械帝国レギスタの初期リスポーン地点から少し離れた荒野の中。
1人の男が大きく深呼吸をした。
「五感の完全再現、ね。なるほど悪くねぇな。風が、音が、匂いが、空気の振動が、すべてが体の奥底に響いてきやがる。圧倒的な情報量だ。肉体は……リアルより少しスペックが低いが大した問題じゃねえな。これなら支障なく動けるだろ」
男は自らの性能を確認した後周囲を見渡す、否、一点を見つめた。
「おいレディ! 隠れてねえでさっさとでてこい」
声をかけた岩陰から1人の女が出てくる。
「……相も変わらずの精度ですね。一応隠れていたつもりなのですが。《気配感知》を覚えてたりしませんよね?」
「けはいかんちだぁ? なんだそりゃ。遮蔽物の裏に隠れた程度でごまかせるわけねえだろ。んなことよりも、やっぱこのゲーム遊んでやがったな。やけに詳しいと思ってたんだよ」
「ええ、プライベートの時間を使用して少々。一応保険で機械帝国スタートにしてましたが正解でした。それにしても素顔プレイですか、攻めてますね」
「おいレディ、お前もバカだな。当然だろ? エンターテイナーは顔を売ってこそだぜ。お前もそれは理解してるじゃねえか。もし隠すようなことしていたらお前のことクビにしてるところだった。首の皮一枚つながったな」
「所詮顔ですからね。どちらにせよ配信機能は基本使えないので録画になるかと。投稿のご予定は?」
「とりあえず銃を見てからだ、俺は銃がないゲームに興味はねえ」
「それではこちらをどうぞ」
「あん?」
「魔導銃を見繕っておきました。まずはジョブ用と民間人用、その中でも一番威力が低い2種類です」
「わかってるじゃねえか。ほーん。これが魔導銃ね。兎野郎に魔導銃はこの国で開発された装備の一つだからチュートリアルで渡せないって言われたが、見ためはほとんどリアルと変わんねえな。ただ軽い、薄い、弾丸を込める機構もない……使い方は?」
「いくつかパターンがありますが、民間人用のは装備……手に持てば魔力を消費し自動で魔力弾を生成しすぐに撃つことが可能なものです。その分威力は低いですね」
聞くと同時に男は引き金を引き魔弾が放たれた。
それは周囲に散乱している一つの岩にぶつかり……一切の傷をつけることなく霧散した。
「へぇ、こういう挙動になるのか。実弾を放ってるわけじゃないからだろうが反動がほとんどねえな。速さも落ちねえ。空気抵抗……なるほどねぇ。魔法の弾ってわけだ。いや、それでもこれは確かに銃だ。とりあえず、合格だな」
男は期待通りだと笑う。
「それは威力も低く殺傷能力はほとんどありません。レベルが上がれば威力も上がりますが、同じ民間人同士で誤爆しても当たり所が悪くて死ぬということすら起きづらいものですね。ジョブ用の方はちゃんと火力は出ますしほかにも……」
「あのよぉ、レディ。銃がなによりも優れているのは何だと思う?」
「汎用性ですよね」
「その通り。撃ちかたさえ知っていれば赤子ですらほかの生物を殺せるのが優れているところさ。ただ、逆にいえば撃つための方法を知らなきゃ何も出来ねえのが銃だ。弾は込める必要があり、当然弾を用意する必要もある。その方法を知らないやつらに鈍器と銃で殺しあえと言えば勝つのは当然鈍器側だ。引き金を引いたところで弾が出てこないんだから当然だよな?」
「……」
「その観点でみればこの銃はある意味究極の銃だ。持つだけで弾が生成されるんだから当然だよな。威力は低い? 殺傷能力はほとんどない? ああ、俺はバカではあるが愚かではねえつもりだ。それがこの世界のルールだってことは理解してるさ。そのうえで、だ」
男は魔弾を撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。
その全てが岩の……先ほど撃った位置と寸分違わぬ場所に着弾し。
「どれだけ威力が低かろうと、これは殺しの道具だぜ。だから言ったろ? これは確かに銃だってなぁ」
同じ場所に短時間かつ連続して訪れた衝撃により……小さな傷がついた。
「お見事」
「手慰みにもなりゃしねえよ。一度撃てば大体わかる。ただ、ステータスなるものが低いとそもそも銃じゃダメージが出ないのは問題だな。この肉体スペック的に今は直接殴った方がダメージ出るだろ」
「正解です」
「あと、この勝手に身体が動こうとするやつ気持ち悪いんだがどうやって切ればいい。この段階はもう終わってる、邪魔だ」
「メニューから補正の無効をすれば可能です」
「これか。よし、楽になった……あーあ、もったいねえなぁ」
そして。
「この銃が手元にありゃ、あの兎野郎と楽しめたろうに……」
「……管理AIに喧嘩を売るつもりだったんですか?」
「当たり前だろ? 逆にあんな化け物目の前にして戦意を抑えた俺のことをほめてほしいぐらいだぜ」
「化け物、ですか?」
「そうさ。ありゃ人間じゃありえねえな」
「いえ、管理AIなので人間ではないと思いますが……」
「お前もバカだな。兎野郎は人間だろ。あれほどまでに泥臭い奴が人間じゃなかったらなんだって話だ」
「はぁ……?」
男と女の会話は噛み合わない。
「あー、そうなるか。そりゃそうだよな。俺の言葉が悪かった。ただなぁ……」
それは男の経験と直感から導き出されたものであるため言語で表すには難しく……
「まぁいいや。忘れろ」
「はい。忘れました」
それで全て解決した。
「ここはどこ? 私は誰?」
「誰がそこまで忘れろっつったよ……」
「東洋のジョークです。最近あなたがよく使用している言葉と同じ国ですよ」
「ユーモアの欠片もねえな。0点」
「悲しい」
女は頭垂れ、男は無視した。
「で、まずはレベル上げでいいんだっけか?」
「普通ですね」
「キャラクターを育てないと強くなれないってのはRPGのルールなんだろ? 俺がやってきたゲームとは毛色が違うだけに慣れねえが……ま、ルールには従わねえとな」
男は銃を片手に遊ばせながら獰猛な笑みを浮かべた。
「なんて言うんだっけか? そうそう。郷に入っては郷に従えってやつだ」
 




