番外編 戦場で散りゆく亡者共
□冒険者ギルドネビュラ支部 酒場 クロウ・ホーク
「うおおおおおお!」
「やれ! そこだ!」
ギルドに入ると、備え付けられている酒場の一角が喧騒で満たされていた。
2階席まで大盛り上がりだ。
かなりの人数である。
「……お祭りかしら?」
「そうは見えないけどな」
気になるので近づいてみると、近くの席にブルーが座っていた。
「……シルバー、か。ダンジョン帰りか?」
「まあな。それで、これは何の騒ぎだ」
いくつかあるうちの一つの囲いの中を見てみると、そこは机をどかしスペースが作られており……
「あれは、ゴーレムか?」
膝の高さほどのミニゴーレムが2体、正面から向かい合い戦っていた。
一体は<ムーンベアー>の形を。
もう一体は<マッドクラブ>というレルー湿地帯で見れるモンスターの形をしている。
中級モンスターと下級モンスター同士だが、互角の戦いだ。
「やけに精巧なゴーレムだな」
「土魔法師の《創造土兵》と錬金術師の《創造錬金兵》については知ってるか?」
「その場に土を生成してゴーレムを作るのが【土魔法師】で、あらかじめ魔力を籠めた土や何らかの核を用意しておいて消費して作るのが【錬金術師】だろ」
前者は即効性があるがMPの消費量も多くあくまで土兵しか作れない。
後者は事前準備が必要だが魔力の消費は少なく、種類も豊富。コストパフォーマンスの良さから長時間同時に複数体使役することも可能だ。
「趣味ジョブに【造形師】ってジョブがあるんだが、その中に《造形変化》ってスキルがある。素材やアイテムを消費して造形物に形を付与するスキルだな」
「ああ、あれか。一時期話題になってたっけ」
簡単に言えばアイテムを消費して、その素材のフィギュアを作れるジョブだ。
造形物を指定しモンスターの素材を消費すれば、元のモンスターの形を模したフィギュアが作れるわけである。
木材や粘土に使い簡単に置物が作れる、ある意味夢の機能かもしれない。
「趣味ジョブ開拓ブームの中、あのスキルを使えば《創造土兵》や《創造錬金兵》で作ったゴーレムにも造形を付与できるのが見つかってな」
それで、小さなサイズのモンスターゴーレムを作って戦わせてるってわけか。
「スキルレベル上げにも繋がるし、ある程度自由に動かせるからラジコン感覚で楽しいんだとよ」
「……周りで騒いでる連中は?」
ゴーレムを囲んでいるのは旅人やNPCの冒険者等、人種も様々だ。
「うおおおおお! そうだ! やれ! ぶっ殺せええええ!」
「頑張れ<ムーンベア>! お前に俺の今日の稼ぎをすべて賭けてんだ!」
「いやあああ! やめてええええええ! 頑張って蟹ちゃん! あなたが勝ったらそのお金で蟹鍋を食べてあげるからあああ」
「<マッドクラブ>は食用に適さないだろ、<マッドクラブ>エアプか? 雑魚め」
「食ったのかお前。泥臭くて食えたもんじゃないって有名なのに……ジョブスキルですら食える味にすらならないって言われてるのに……」
……うん。これはあれだな
「当然、賭け事に決まってるだろ」
もう、この街の冒険者は駄目かもしれない。
「ていうかブルー、お前もしかして……」
俺が見たとき、この男は騒ぎから外れ席に座り黄昏ていた。
つまり……
「ふっ、笑えよ。今日の稼ぎ全てギャンブルで擦った哀れな男を……」
ブルーは下を向き、寂しさを感じさせる笑みを浮かべた。
「ははははははははは! どんな気持ち? ダンジョンに長時間潜って稼いだ金がなくなるのってどんな気持ち?」
ウケる。
「本気で笑う奴があるか!?」
「お前が俺の立場なら?」
「大爆笑待ったなしだな。慰めてやるためにジャイアントフロッグの唐揚げを目の前で食べてやったかもしれん」
目の前の男もつくづくいい性格をしてると言えるだろう。
そもそも、今この場には他人の不幸を悦楽とする悪い大人しかいないのだ。
周りを見てみろ。
「ぐはははは! やっべぇ! めっちゃ稼げた! もうダンジョンとか行かなくてよくね? 賭博師として生きていくわ! ジョブチェンジいいいいい! 希望しまあああああっす!」
「くそぉ! くそおおおおお! 俺のスピルが……なんで、あそこで留まれなかったんだ……」
狂喜乱舞。
死屍累々。
全く正反対の光景がこれでもかと繰り広げられていた。
「てかこんなバカ騒ぎしてギルドからは追い出されねえの? 規制とかされてないのか?」
「大丈夫だぞ、ほら」
ブルーが示した方を見ると。
「はい! 次の対戦カードは<マッドスラッグ>VS<ラッドスネーク>VS<ジャイアントフロッグ>の三つ巴対決だよ! ほら、張った張った!」
「この己のプライドを賭けた大勝負! 一体誰が勝つのか! これから各選手にインタビューをしていきたいと思います!」
そこには旅人や冒険者から金を集め交換札を配るギルド職員の姿が……
「【算術士】のジョブ持ちのギルド職員が率先して胴元になってくれてるから実質ギルド公認だ。国のお墨付きだから問題ない」
「たくましいなおい!?」
俺たちから金を巻き上げる気満々じゃねえか。
「シルバーも賭けてみたらどうだ? 」
「あー、確かになかなかこういう機会もないか。んじゃちょっと行ってくる」
俺はギルド職員の方に歩き出す。
(ユティナもやってみるか?)
(うん? そうね。面白そうだし、少しやってみようかしら)
ユティナもいつの間にか回収し抱きかかえていたサフィをその場に置き、こちらに向かってきた。
ユティナに500スピルほど渡す。
俺もおなじく500スピルだけ用意し。
「まぁ、こういうのは適当に楽しむぐらいがちょうどいいんだ。最低設定の100スピルからでいいか」
☆
「うおおおおおお! やれえええええ! そこだああああああ!」
勝てる! 勝てるぞ!
狼が兎に負けるとかありえないから!
な、そんな動きを!?
それはまずい!
おかしいだろその兎強すぎる!?
あっ……
「ぐああああああああ! 負けたあああああ!? 俺の8000スピルがああああ!」
せっかくコツコツと増やしてきた軍資金が!?
「よっしゃあああああああ! 兎最強! 兎最強!」
「狼派の皆さんごめんなさいねええええええ! 今夜は兎鍋よおおおおおお! おほほほほほほ!」
「ひゃははははは! ぼろ儲けだぜええええええ!」
兎に賭けていた連中の煽り声が聞こえてくる。
さっきまで俺は向こう側にいたのに!
勝者の立場にいたのに……今は無様にも敗北の味を噛み締めさせられている。
なんたる屈辱っ!?
ぐにゃりと視線が揺らいだ……が、まだだ!
「まだ俺には!」
この、隠されたへそくりがあああああああ!
「やめなさいこのバカぁああああああああ!」
「ぐっほ!?」
チョップ!?
「ゆ、ユティナ!? なぜ止める!」
「なぜも何も、自制心なさすぎでしょ!?」
「追加で5000スピル賭けるだけだ! まだだ、まだ俺は負けてない! 500スピルをコツコツあそこまで増やせたんだ! ここから華麗なる大逆転を!」
「マイナスの時点で負けてるし既に人として負けてるわよ! ほら、バカなこと言ってないで正気に戻りなさい」
頭突き!?
☆
「ブルー、ただいま。ま、こんなもんか、全く、ギャンブルに身をやつす連中の気が知れねえぜ。はー、やだやだ……あんな大人にはなりたくねえな」
やれやれだぜ。
「お、おう……それでごまかせると思ってんのお前? 思いっきり楽しんでただろうが」
「……やっぱ無理かな?」
「当たり前だろ、バカなのか?」
ま、まぁこんなんで崩れるようなガラスのメンタルはしてませんとも。
クロウ・ホークのメンタルは強化ガラスよりも固いって巷で有名なんですから。
「ほら、クロウ。私はちゃんと勝っておいたから安心しなさい。とりあえず20000スピルになったけど……それにしても結構楽しかったわね!」
そう言ってユティナは俺に20000スピルを渡した後、サフィを回収し定位置に着いた。
………………。
「……もしかして、俺、側から見たらすごくダメな男なのでは?」
「もしかしなくてもだな」
「ぐっはっ!?」
俺のハートは砕け散った。
その後、特殊下級職【賭博師】の条件が解明され全員がその条件を知り、その条件達成のためにさらに賭け事が活発化したらしいが……それはまた別のお話。
特殊下級職【賭博師】
条件
①下級職が一つ以上50レベルに到達。
②<賭博行為>にて合計50万スピル以上を自力で稼ぐ。もしくは<賭博行為>にて合計200万スピル以上の損失を抱える。
※②の条件において、意図した結果を知っていた場合条件達成分に計上されない。
②条件達成の抜け穴はいくつか存在するかもしれない……?




