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エピローグ② クエストと報酬

□呪物屋シャテン クロウ・ホーク


「おう、来たか」


「ああ、報告に来たぞ」


 翌日の昼、ネビュラに戻り呪物屋シャテンに訪れると、いつもの場所にレイラーがいた。


「簡単に連絡は受けてる。時間経過でスキルの性能が上がる特異な能力を持った【マグガルム】と遭遇した、であってるかい?」


 どうやら話の方は行っているらしい。

 まぁ、当然言えば当然か。


「合ってるな」


 異常事態の発生であるため、情報を把握したいのだろう。


「わかった。それが確認できればいい、一応討伐証明としてドロップアイテムがあればみせて欲しいんだが……」


「おう、ちょっと待ってくれ」


 俺はアイテムボックスを開いた。


(そういえば確認を後回しにしてたな)


<魔狼犬の毛皮>×2

<魔狼犬の尖牙>×2

<魔狼犬の大牙>×1

<魔狼犬の尖爪>×2

<魔狼犬の雷毛>×5


 ドロップ枠は12枠か。


 モンスターはその強さや希少度に応じてドロップ枠が決まっている。

 珍しいモンスターや俗に言うエリアボスモンスターのような出現数が少なかったりする個体になるほどに多めに枠が設けられているようだ。


 そして、倒し方でドロップアイテムが決まることもある。


 例えば、プレデターホーネットを倒すと<捕食大蜂の鋭針>や<捕食大蜂の甲殻>のようなアイテムが落ちる。


 そして、翅を破壊してたり針を破壊してたりすると該当の部位が落ちやすくなったり確定で落ちたりするなど補正がかかる、というものだ。


 ドロップ枠は大体15から20。

 ホーネット系列の装備を強化していくと上位の強化素材に必要になり、毒のダメージ倍率が上がるため【毒術士】や【弓術士】のような毒付与スキル持ちには重宝する武器や防具を揃えることができるらしい。


 ちなみに<高級蜂蜜>は外れ枠である。

 俺の枠、ほぼ高級蜂蜜だったんですけどそれは……


 まぁ、それはいいか。


 <魔狼犬の毛皮>をオブジェクト化しようと……


(……ん?)


(あら?)




<災厄星狼の光核>

災厄をもたらす狼犬の光核。

ありとあらゆる光を喰らうとされている。




(……なんだ、これ?)


(……なんでしょうね、それ)

 

 そこには、見覚えのないアイテムがあった。

 システムメッセージはすでに電子の海に消えている。

 流れた分だけ過去の記録は消えるし、ログアウトしたら基本消える仕様になっているからだ。


(狼ってことは【マグガルム】のレアドロップ……か?)


(そう考えるのが自然よね)


 機能のプレビューでどんなものか流し見……明らかにキラキラ輝いている。

 漆黒の中に光が浮かんでは消えていく宝石のようなものだ。


「……どうした、もしかしてもう売っぱらっちまったとかか? それとも、おかしなもんでもあったのかい?」


 レイラーは何かを伺うようにこちらを見ている。

 おっと、会話の途中だったな。


「あ、いや。すまん、これでいいか?」


 魔狼犬の毛皮をオブジェクト化……って重!?


「うお、結構ずっしりしてるんだな!」


「……確かに、これは<魔狼犬の毛皮>だな」


 レイラーはそれを隅々まで見ていた。


「これを素材として用いれば防具とか作れるんだよな? 前渡された冊子にはそう書いてあったけど」


「あー、そうだな。牙とか爪は武器や装飾品に活用できる。必要なら鍛冶屋か服飾系のジョブ持ちを紹介するが?」


「ありがたいけど、ルセスの方に生産系の旅人の知り合いがいてな。今度王都に戻る予定があるから、その時にでもいったん確認しようかと」


「……その剣士服を作った旅人かい。確かに通せる義理は通すべきだな」


 正確にはりんご飴経由で作って貰ったので、知り合いというわけではないが。

 まぁ大体あってるのでいいだろう。


「他に何かおかしなことはなかったか? 一応報酬の査定みたいなもんだから、内容によってはさらに上乗せするぜ」


 これは、聞くべきだろうか?


 ブルーが<スターラビット>の情報を広めなかったように、レアな情報は独占するのも一つの選択肢としてはある。 


 ただ……


(報告義務は果たすべきだな)


 ならばさっさと聞いてしまおう。


「あと、なんか一個見覚えのないドロップアイテムがあってさ。たぶん【マグガルム】のレアドロップだと思うんだがレイラーは何かわかるか?」


「そうだな、ちょっと待て……よし、見せてみろ」


 レイラーはブレスレットを一撫でした後、見せるように促してきた。


「これなんだけど」


 俺は<災厄星狼の光核>をオブジェクト化して……


「って重!?」


(……綺麗ね)


「……っ!?」


 なにこれ、思ってたより大きい。

 というかさっきの毛皮より重いんだが。


「おおお、かっこいいな……」


 漆黒の夜の中、雷が轟くように光が浮かび上がっては消えていく。


「お前さん……それは……」


 レイラーが固まった。

 こんな彼の様子は見たことがない。


(やっぱレアアイテムか! レアアイテムなのか!?)


 このゲームではレア度という指標が存在しないので、アイテムが珍しいかどうかの判別は知識に頼るか《審美眼》や《鑑定眼》、《宝感知》などのスキルが必要だ。


 <プレデター・ホーネット>のドロップアイテムといい、<スターラビット>を逃したり、今までモンスター関連は散々だったが、俺にもついに運が向いてきたのかもしれない。


「……そう、だな、俺はそのアイテムについては知らねえ。もしかしたら【マグガルム】の未確認のレアドロップかもしれん」


「おお! やっぱりか!」


「ただ、俺も冒険者ギルドの職員の端くれで、鍛冶師でもある。その知識をもってしても、そのアイテムは見たことがねぇ。使い道が思い浮かばねえんだ。武器になるかもしれねえし、防具になるかもしれねえ。場合によっては加工すら難しい可能性もある」


 それはそれで困るな。

 俺はあの【マグガルム】の素材は全て自分で使うと決めている。

 それが、あの強敵に対するせめてもの礼儀だと考えているからだ。


「だからこそ、こういう時の対処方があるんだが聞いてくかい?」


 使い道がわからないんじゃ困るからな。


「頼む、教えてくれ」


「わかった、今のお前さんじゃ行けない場所にはなるんだが……竜人国っていう、亜人種の国がある。そこに行けば、そのアイテムを加工する方法も、何に使えるかももしかしたらわかるかもしれねえ」


「行けないって言うのはレベルが低いって意味か?」


「それもあるが……そもそも、その国がある場所が大陸中央の一種の危険区域のど真ん中でな。徒歩で行くしかないんだが、とにかく遠い。どのくらい遠いかというと、魔導王国エルダンを横断する必要があるぐらい遠い」


「あー、そういうことか」


 要は高レベルのモンスターが存在する危険区域。

 それは空路も陸路も強いモンスターがひしめいていて、魔車などの交通手段が一切使えないということなのだろう。


「だから、それまではなんだっけか……キーアイテムボックス? <アルカナ>の核がある場所に保存しておくといいぞ」


「わかった。とりあえずそうさせてもらうよ」


 加工するには特定の場所に行かないといけない系のアイテムということだ。

 すぐに使えないのは残念だが、こういうお使い要素も採用しているということなのだろう。

 

 言われた通りキーアイテムボックスにしまいお気に入り登録しておいた。


 とりあえず、間違えて落とすという心配はこれで一生しなくて済むわけだ。


「……よし、大体わかった。依頼を頼んだのがお前さんでよかった、礼を言う」


 そう言って、レイラーは軽く頭を下げようと……


「いや、いいって。俺も色々得るものが多かったからさ。なにより……」


 そうだ、なにより。


「確かに、あの星空は悪い景色じゃなかった。あの情報だけでも報酬なら十分貰ってるさ」


「……そうかい、そりゃよかったな。最後に手続きをするんで、認識票を出してくれ」


 俺は言われた通り認識票を取り出しレイラーに渡した。

 レイラーは机から棒を一本取り出し認識票に当てる。

 そして、今までほぼ色づいていなかった認識票が銅色になった。


「……よし、とりあえず。これでぐらいでいいだろう」


「ブロンズってことか?」


「ああ。駆け出しは卒業、中堅の一歩手前って感じだな。こんぐらいになれば、護衛依頼とかも受けやすくなってくる。あなたは冒険者ギルドから信用を得られてますよって証明になるわけだ」


 今度詳しく調べておいた方がいいかもしれないな。


「追加報酬についてだが具体的に決めてたわけじゃねえからなぁ……何か要望があれば言ってくれ。一応俺が考えてるものもあるんだが、まずはお前さんが純粋に求めている物を先に聞いておきたい」


 と言われても。


「<月鳴りの剣>の耐久値の回復、とか?」


「耐久値の回復となるとジョブスキルがない俺だと時間がかかる。大通りの鍛冶師に依頼するなりしてくれた方が速い。……その感じだと、あんま思いつかないのか?」


「まあ、な。こういうのを防ぐためにあらかじめ決めておいた方がいいのかもな……」


 いざ何か欲しいものがあれば言ってみろといわれてもなかなか難しいものだ。


「だったらこれはどうだ?」


「それは?」


 レイラーが取り出したのは紙束を紐で纏めたものだ。


「俺が昔書き溜めてた【呪術師】の検証記録みたいなもんだ。お前さん、《呪物操作》の条件とか気になってただろ? ただ、用意しておいてなんだが、お前さんの性格的に自分で調べるのが好きそうなんだよなぁ……」


 そんなわかりやすいだろうか?

 確かに自分で検証するのは好きだが、それはあくまで楽しみと一つというだけだ。


「報酬としてもらえるならありがたく貰うよ。強くなれるための近道をわざわざ断る理由もないんでね」


 なにより、目の前の男は【呪術師】のスペシャリストである。

 下手に自分で調べるよりもよっぽどタメになるだろう。


「そうかい……あとは色々こっちでもまだ確認してることがあるんでな。報酬はこれで確定として、後々また別に査定できる点があったら連絡するぜ」


 そしてレイラーは。


「これでクエスト達成だ。また、機会があれば依頼させてもらうかもな……お疲れさん」



─システムメッセージ─

【共通クエスト】難易度4【ココナ村の防衛依頼】を達成しました。

報酬が確定しました。

報酬: 月鳴りの剣+経験値(中)+【呪術師】の書(レイラー作)

備考:調査内容に応じて追加報酬の可能性有り



 クエスト達成のメッセージと共に、笑みを浮かべそう言った。




 店を出て大通りに向けて歩き出す。


「よーし、報酬の受け取りも完了したし今日は何をするかな」


 新スキルの確認か、装備の補修か、アイテムボックスの整理か。


「まずは、ランチとかどうかしら?」


「そうだな。ついでにアイテムの整理からぱぱっと終わらせますか!」


 まだこの街に来て数日しか経っていないのだ。

 しばらくは街を見て回るのもいいだろう。


「よし! いらなそうなアイテムを売っぱらったら、そのお金で買い食いフルコースだ。俺についてこい!」


「ええ、楽しみね!」


 俺たちはこれからについて話し合いながら、ネビュラの街へ繰り出した。


 次はどこへ行こうか──


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― 新着の感想 ―
[良い点] 【超越種】のドロップの加工は今後の楽しみになりましたか。 呪術の道を進めるのか、魔法にも関心を抱いたのかは分かりませんが強くなる余地もありますし、まだ見ぬ世界も広がっていますし、まだまだこ…
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 超越種討伐の疑い持たれたかな?
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