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第31話 マグガルム


 スキルには発動領域なるものが存在している。

 《呪物操作》やユティナの《反転する天秤》を発動する際、わざわざ呪いの武器を近くに寄せているのもこれが理由によるものだ。


 魔法スキルも同様で人によって発動する感覚に合わせて多くの発動パターンが存在する。


 手のひらを前に出し、そこから放つ者。

 手を横に振り、そこから放つ者。

 杖を構え、杖の先から放つ者。

 自らの背後から放つ者。


 それはある種のイメージの世界だ。


 プレイヤーの発動のイメージに合わせるために、その自由度自体は高いらしい。


 その自由度を担保するためによるものか、放出系の魔法やスキルはだいたい自身を中心に最大で2メートルから3メートルが起点として発動するようになっている。


 《呪爆》のように事前準備に発動箇所が依存するものや、魔法によって相手の足元を対象に発動するものもあるが、基本的には変わりない。


 《呪物操作》も例にもれずおよそ自身を中心に2メートルほどの呪物が対象だ。


 【マグガルム】が背中や周囲に雷球を浮かべたあと放ってきたり雷線を放つのは、それが理にかなっているのもあるが、発動領域によるものだ。


 消費MPやスキル、自身のステータス等条件によって広がることもあるが、これについてはいいだろう。


 つまり何を言いたいのかというと……だ。





 俺の仕込みは、すでに済ませてある。





□ココナ村北部 クロウ・ホーク


 睨み合う。

 お互いに魔力を回復しあっている。

 戦意を高めている。


 【マグガルム】も次が最後なのだと悟っているように。


(ユティナ、俺が何も考えずにスキルレベル上げをしていたと思うか?)


(少なくとも、スキルレベル上げを楽しんでいたのは確かよね)


(……あれには3つの狙いがあった)


(否定はしないのね)


 1つ目は《呪物操作》の複数操作、その条件の確認。


 目の前の怪物を狩るための確実性を高めるために、《呪物操作》の対象を2つ以上にしたかった。

 スキルレベルを全て最大にすれば増えるのではないかという期待があったのだ。

 賭けの要素はあったが結果的に功を奏したと言えるだろう。


 2つ目は、【マグガルム】の強化倍率の最終確認と動きの癖の把握。

 雷球も雷線も予備動作と言えばいいのか、発動の時間のラグは確かに存在している。

 飽和攻撃が成立する前であればその隙を突けるため、とにかく観察する時間が欲しかった。


 そして、どちらかというと最後が本命だ。


(今いるここは、俺がスキルレベル上げをしていた一帯だ)


(ええ、そうね)


 ちょうど、今、この周辺は俺がスキルレベル上げをしていた中でも比較的荒れていない地帯だ。


 周囲に散らばっている石の大半は全て。


()()()()だ)


 近接戦闘時における足元からの《呪物操作》による奇襲攻撃。


 これが俺の仕込みにして、《呪縛》の条件達成のための切り札。

 これまで呪われた剣を操作し、上に意識を向けさせていたのもそれが理由だ。

 防御力の確認も済ませてある。


 【マグガルム】はどうやってかレイラーの痕跡を把握し物陰に潜ませた呪いの剣を認識していた。


 そしてこれまでの戦いの中では、俺が作った呪物に対する警戒度が薄い、どころか皆無なのは把握済みだ。


(何かの判断基準があるんだろうな。そして、俺が作った呪いの石はその基準から逃れている)


 一度失敗したら二度と通じないだろう。

 だからこそ今までの戦いでずっと見ていた。

 今であれば確実にダメージは通る。


(……作戦は全て忘れるんじゃなかったの?)


(俺は性格が悪いんだ。宣言したことは大体何でもやる。つまり、忘れると言ったことを忘れないことだって、ある)


(清々しいほどの詭弁ね)


(ああ、それが俺の全力だからな)


(くす……。そうだったわね。これまでも、そしてこれからも)


 そう。

 これが、目の前の強敵に対する最大限の敬意だ。


 不確定要素も多い。

 《呪縛》はあくまで選択肢の一つだ。

 効かないパターンも考慮する必要がある。


(最終目標はマグガルムの討伐。そのためには)


(いくつもプランを用意しておいて、最終的には同じゴールに行きつくようにしておくもの、よね?)


 その通り。

 それ以外のゴールへの道筋もしっかり見据えろ。


 そして……ここからの勝負は一瞬で決まる。


「よし、勝つぞ」


「ええ、勝ちましょう」

 

 俺たちは決着をつけるべく最後の戦いに……


 ……えーと。


「……まぁ、そう、うまい話はないってことで」


 マグガルムの周囲に雷剣が浮かび上がった。




 一つ。




 二つ。




 三つ。




 四つ。




 五つ。




「GUOO……GURURU……」


 おそらくステータスに大きな変化が起きたわけではない。

 STRは俺の方が高いし、ENDはやわらかいままのはずだ。

 雷剣も即死するほどの威力もなければ、マグガルムのMPは依然として低いままのはずである。


 どこまで行ってもあの怪物は<ナイトウルフ>なのだ。

 

 ただ、この戦いの中でやつの狩人としての才能が開花したというだけの話なのだろう。





 そんなありふれた話だ。





「……よし、行くか」


 だからこそ、勝つために前に一歩踏み出した。


 同時に、左手にも呪いの剣を取り出す。


 二刀流はやったことはないが……まぁ、なるようになるか。


 弾けさえすれば、やつの近くにさえいければ、それでいい。






 決着をつけよう。






「うおおおおおおオオオオオオッ!」


「GYUOOOOOOOOOOOOO!」


 駆ける。

 

 襲い掛かるは5つの雷剣。


 それを弾き、迎え撃つ。


 とにかく前へ。


「GYUOOOOOOOO!」


 背後からの攻撃は振り向きざまに弾き、止まることなく前へ!





 雷剣が6つに増えた。





「ッつあああああああああああ!」


 ありとあらゆる周囲の情報を集めろ。


 弾け、前へ、進め。


 光が走る……が見えている。


 身体を傾け、最小限の動きで躱した。


 6つの雷剣操作に加えて走りながらの雷線の行使。


 すでに数分前から想像もできない殺傷能力だ。


 わかっていた。


 今もなおこの個体は進化している。


 恐ろしい速度で成長している。


 ステータスという壁を、自らの手で打ち破らんとしている。





 ──だからこそ!





「《呪爆(カース・ボム)》!」


 雷剣を2つ迎撃。


 《武具切替》にて左の剣を切り替える。


「《カースインパクト》!」


 雷剣を1つ迎撃。


 すぐに新たな剣を取り出し、次の雷剣を弾く。





 ──今、ここで。





 左の呪剣を放り、雷剣を弾き飛ばす。


 道が開いた。


 もっとも濃密な10秒にも満たない世界を……抜けた。


 両の腕で《月鳴りの剣》を握りしめる。


「うおおおおおおおおおおおおおッ!」


「GUGAAAAAAAAAAAAAAA!」










 ──衝突。









 すぐ目の前には魔狼犬。

 <月鳴りの剣>を噛み締め、その体躯で踏ん張っている。

 目の前では鼻息が、牙から雷が漏れていた。


 先ほどは、不確定要素も多く、タイミングも嚙み合わなかった。

 しかし、今、条件は……揃った。


「《呪物(カース・オブ・)操作(マリオネット)》!」


 俺の、すぐ足元の呪石を指定。


「逃がさねえぞぉおおおおおおおお!」


「GURURURURU!!」


 前に押す。


 気迫で迫る。


「GUUUUUU!」


 俺を見ろ!


 俺を殺してみろッ!


「GRURURURURU! ……GUA?」


 そして、ごつんと、呪石が【マグガルム】の胴体、腹を捉えた。


「《呪縛(カース・バインド)》!」


「!?」


 通った!


 ならばここでさらに一撃を。







「ぐ、ガッ!?」


(クロウっ!?)







 なに、が。


 体が思うように動かない。


 これは、雷属性による麻痺……?


 警戒していたぞ、一体どこから……


(……っこいつ!)


 俺の身体は開ききり<月鳴りの剣>は遠くに弾き飛ばされていた。


(口の中で雷撃を暴発させやがった!?)


「GU……GUGA……」


 自傷……必至。


 耐久が低い<ナイトウルフ>では自殺行為に近い攻撃。


 対処されるのを理解していた。

 周囲に浮かべるのでは間に合わないと。

 単発では足りないと。


 絶対に攻撃を当てる必要があるのだと。


 だから……口の中で、発動し暴発させた。


 右手と左手には何も握っていない。


 身体も完全に開ききっている。


 魔力回復が終わったのだろう。


 そして、周りには。





 ──モンスターに生物本来の機能として備わっているそれは口頭詠唱を必要としない。






 雷球が……













(ユティナ、すまん)







 《武具切替》。

 指を揺らし……剣を取りだしたが右手で掴めずそれは零れ落ちた。







(別にいいわ。また次の機会に見に行きましょ?)







 《武具切替》。

 指を揺らし……槍を取り出したが左手では掴めずそれもこぼれ落ちていく。







(ああ、そうだな。そうしよう。星空を見に行こう。約束だ)







《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》《武具切替》……


 麻痺した身体でできうるわずかな動きを利用。


 俺の所有する、ありとあらゆる呪物を。


 購入した呪物を。


 スキルレベル上げの過程で生み出した呪物を全て取り出していく……







 そして現在範囲内に存在し認識している周囲全ての呪物を指定。

 MP消費量は……指定した呪物に依存するから、もう考えなくていいのか。







 動け。


 一言だけでいい。


 動け。


 これを唱えさせろ。


 動け、動け、動け! 動けッ! 動けッ!!








(動……い、たああああああああああああッ!)










『GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


「《呪爆(カース・ボム)》ううううううううううッ!!!」











 そして、視界は光に染ま────。





………………


…………


……

































「クロウ!」




 ユティナ?


 なんだ、俺は生きているのか?


 マグガルムはどうなった……。




「起きて! 早く!」




 くそ、体が動かない。


 当たり所が悪かったのか。


 状態異常の【気絶】ってやつか。




「マグガルムが!」




 なんだっけ、60秒とか、120秒とか、衝撃に応じて一時的な肉体操作が不能になって。


 致命的な状態異常の一つで、意識が……一時的に……遠く、なるんだとか。











「クロウ!」












 こうなるなら、一回ぐらい気絶を試しておくんだった、な……




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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 大爆発!
[良い点] お互い決死の自爆攻撃で満身創痍、マグガルムが止めを刺すのが先か、クロウが起きるのが先か……!
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