【世界の記録】殺意と悪意と■■
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同族とはただただコロし合わなくても問題ないということだけを知っていた。
獲物を狩れば、それらは砕け散ると同時に充足感に満たされた。
強い獲物は狙わない。
勝てる相手に勝つべくして勝つ。
特に好きなのは二足歩行の生き物だ。
あいつらは強い個体から弱い個体までたくさんいる。
見極めるのは大変だが、あの生き物を仕留めた時にはとても満たされる。
特に匂いが重要だ。
強い個体は死の匂いがする。
弱い個体は甘い匂いがする。
そして弱い個体を見極めコロすことで満たされるのだ。
自分が強者なのだと、実感できる。
バレないように狩る。
はぐれた個体をさらに追い詰め、奥に誘い込みコロす。
そうすれば、強い個体も寄ってこない。
同族がコロされたときは、同族と共にしつこく対象を追いかけた。
そうすれば、他の生物に狙われづらくなると知っていたからだ。
経験で知っていた。
ある時、気が付いた。
どうやら自分は他の同族よりも優れているということに。
鼻が利き、体も大きい。
そして同族は勝てない相手にも無謀にも喧嘩を売っている。
腹を満たすために自らの命をなげうつのだ。
バカな連中だ。
優越感に満たされた。
自分は勝てる相手に勝つべくして勝つ。
今日も二足歩行の生き物をコロした。
とても満たされた。
「タスケテ」と鳴いていたがどういう意味なのだろうか?
別にいいか。
あぁ、またコロしたいな……
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。
あれはダメだ。
戦ってはいけない存在だ。
見なくてもわかる。
死ぬ。
特に先頭にいるやつはまずい。
群れを率いているやつはまずい。
化け物だ。
何千とコロしている。
何万とコロしている。
見つかった瞬間に自分は死ぬ。
死ぬ。
見える。
その赤い何かに入ったが最後、見つかって自分は死ぬ。
逃げる。
二足歩行の生き物の中でも圧倒的に強い個体だ。
とてつもない死の匂いがする。
それなのに同族は無謀にも喧嘩を売っていく。
美味しいにニオイがするだの、腹がヘッタだの言いながら死にに行く。
バカな連中だ。
そんなバカな連中が稼いだ時間で生かされた自分はなんなんだ?
生き延びた。
逃げて逃げて逃げてとにかく逃げて生き延びた。
死にたくない。
死にたくない。
シニタクナイ。
でももうだめだ。
見つかった。
死の匂いがするやつがすぐそばにいる。
自分のことを見つめている。
二足歩行の生き物だ。
昨日の化け物以上に死の匂いがする。
シヌ……
「へぇ~、これは……めずらしいな。知覚系の固有スキル持ちか、久しぶりに見たスキル名だなぁ」
……なぜ、生きている。
「ん? 下級モンスターの癖に潜在スキルをもってる。ステータスも<ナイトウルフ>の平均より優秀だ。才能値は……高い。もしかして当たりか? ちょいと失礼。ふんふん、『シニタクナイ』のか可哀そうに。どれどれ記憶を拝見……ああ、【死神】の気に当てられたんだな。しかも下手な上級モンスターよりも話せるし見やすい。記憶も鮮明だな。知能が高く、残虐性に優れ、才能に恵まれたがゆえに、死を感じ取ってしまったと」
コロさないのか。
「いやいや。今更<ナイトウルフ>を狩って経験値集めするなんて浅ましいことはしませんとも。既にカンスト済みですし。それよりも……そろそろ星天の日か。特異種の研究したかったんだよなぁ。才能値以外にも何か要因があるのか。契約の神は基本動かねえからやっぱ何かしらの条件が必要なんだろうねぇ」
……。
「それにしても……固有スキルに潜在スキル、圧倒的な才能値に加えて、本能を制し上級モンスター並みの知能を有している個体。<ナイトウルフ>のイレギュラー、か。初めて見たな。なのに、雑魚狩り特化の臆病者ねぇ。同族をバカにしながらも、そいつらに稼がれた時間で生き残って悔しいんだな? 挑戦への憧れ、渇望ってやつか。わかる、わかるぜぇ……」
……。
「ま、とりあえずレベルだけは上がりやすくしといてやるよ」
……。
「一応お前のことは目にかけておいてやろう。あー、たしか商売先が星天の日になにかやりたがってたなぁ。旅人増加で、なんだっけ。……ま、いいか。お前の頑張り次第だな。場合によっちゃ支援もしてやろう」
……。
「その才能値なら特異種は余裕だと思うんだよなぁ。俺が今まで見てきた【マグガルム】の才能値を全て超えてる。あとは条件か。ま、頑張れよ。<ナイトウルフ>初めての【超越種】に至れるか。契約の神のみぞ知るってね。期待してるぜぇ」
……。
「あらら、無視されちゃった。強がっちゃってぇ。必死な抵抗ってわけだ。弱さは罪だからね。知ってるぜ、噓じゃない。わかるとも……ま、いいか。行くぞ、リュオン」
そして、二足歩行の化け物は、巨大な死の塊に乗り、そのままどこかに飛び去っていった。
また、生き延びた。
ふざけるなッ!!
許さない。
二足歩行の生き物どもめ。
全てコロス。
自分が強者なのだと証明する。
コロス!!
甘い匂いが、近づいてきた。
「お、<ナイトウルフ>見っけ! でも、なんかモコ平野で会う奴よりも黒くね?」
「一体か。さっさと狩ってレベル上げ続けようぜ」
死の匂いはするが……
あの夜に遭遇した化け物よりも甘い。
先ほどの化け物よりも甘い。
コロスッ!!!!!
「え、急に立ち上がって!? うおおおお!」
「草、お前噛み殺されそうじゃん」
「笑ってないで助けてくれええ! ぐえー! 死ぬンゴ!」
「やっぱレベル30じゃ早かったかもな。<アルカナ>も生まれてねえしダンジョンでちゃんとレベル上げしてから探索するべきだわ。てか臨場感ぱねえ。マジであたりじゃんこのゲーム。スクショしとくよ、あとで画像送る。動画も撮っておこうか?」
「ちょ!? 死ぬ死ぬ! あ、でもレイナちゃんに会え……」
「あ、死んだ。さーて、俺もレイナちゃんに会いに行くとしますか。かかってこいや犬っころ!」
………………
…………
……
コロした。
コロした。
満たされていく。
またコロした。
先ほどから、なにか不思議な力を操れるようになった。
自分が本当の意味で強くなったのだと理解する。
鋭くとがらせるとコロせることを知っている。
今もそうだ。
甘い匂いがする二足歩行の生き物を3匹貫いてコロした。
前の自分ではできなかった。
向こうからも2匹ほど死の匂いがする。
前の自分なら絶対に喧嘩を売らなかった。
でも、今の自分なら、コロせる。
追いかける。
化け物の匂いがする何かを操る二足歩行の生き物だ。
匂いのしないナニかを背中に纏っているが、気にしない。
逃げる獲物を追いかける。
自分が強者なのだと実感する。
化け物の匂いがするものを身に着ける二足歩行の生き物を追い詰めている。
前の自分では勝てなかった死の匂いがする強者を今追い詰めている。
どんどん強くなっていくのがわかる。
ああ、これが…………。
──ゼンノウカン!
……勝てると思っていた。
有利だと思っていた。
しかし、仕留められない。
「GURURU……」
死の匂いがする。
同族の死の匂いがする。
「GURURUAAAAAAA!」
だからこそ、目の前の二足歩行の生き物をコロせば同族よりも優れていると!
証明できる。
証明できる!
……なぜだ?
突然、目の前の二足歩行の生き物が赤くなった。
危険な濃厚な死の匂い。
このまま挑んだら自分は、死ぬ。
自分の方が強いはずなのに、死ぬ。
コロせない。
なら逃げよう。
強くなったのに、また、自分は逃げるのか?
「マタ、ニゲルノカ?」
二足歩行の生き物はなぜか動かなくなった。
何か鳴いている。
なぜだ。
自分を見たまま動かない。
「ナァ、【マグガルム】」
追いかけて……こない。
「戦おうぜ」
目の前の二足歩行の生き物は自分のことを見ていた。
なぜだろうか。
ただ、自分のことを見つめている。
何を考えている。
わからない。
「GUOO……」
勝てば、わかるかもしれない。
「……やっと見たな」
何か変わるかもしれない。
「やっと! 見たなあああああああああああ!」
逃げない。
コロす。
目の前にいる二足歩行の生き物を。
「GUOOOOOOOOOOOOOON!」
コロして……自分は……!
強者に……!




