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第26話 死亡フラグ×死亡フラグ=生存フラグ

 モンスター。


 魔に生きる者。


 スキルがある。魔法がある。魔道具がある。近代的な武装もある。


 国家最高戦力という超常の戦力もいれば、レイラーのような実力者もいる。


 それなのになぜこの世界の人類が、NPCが覇権を取れていないのか。


 危険なエリアを避けるように街道を引き生存圏を確保しているのか。

 

 ゲームの都合、というものでは当然なく。

 ステータスという制約もあるのだろうが、それは本質とは少しずれている。







 モンスターという天敵を未だに克服できていない。


 ただ、それだけだ。








□ココナ村北東部 クロウ・ホーク


「え! え!? なんで! さっきまで、ついさっきまで!」


 ゴン太郎はパニック状態手前になっている。

 それこそ、本当に彼らが死んでしまったと思っているように。


 気持ちはわからなくもないが。


「落ち着け、デスペナルティになっただけだ」


「は、はい……そうですよね。ふぅ、よし!」


 切り替えたのだろう、すぐに落ち着いたようだ。


「1分ぐらい前に別れたので……すぐ近くにいるかもしれません」


 そう言ってゴン太郎は周囲を警戒しだした。

 追加の情報もありがたい。


「……護衛として恥ずかしいですね」


「いや、迎撃班に参加している時点でゴン太郎と彼らの立場は同等だろう。それよりもこの情報を知れたことの方が大きい」


「はい。絶対に持ち返りましょう」


 道化騎士達とゴン太郎が別れたことで、不幸中の幸いというべきか移動圏内すぐに戦闘職のプレイヤー3人を音もなく殺せる危険なモンスターがいることがわかった。


(叫ぶ暇もなかったってことよね)


(ああ、瞬殺だったんだろうよ)


 叫び声もなければ、なにか大きな音が鳴ったわけでもない。


 下手に動くのは危険か?


 少なくとも下手人の姿を確認しなければ、安全な撤退もままならないだろう。

 このまま離脱して他の撤退中のパーティを襲われても困る。


『こちらブルー。シルバー側で異常事態が発生したのはわかったが俺からも報告がある』


「何があった」


 どうやら俺だけではなかったらしい。


『<ワイルドボア>と遭遇。ただ、大きい、黒い。月光の樹海の影響を受けた特異種だな。距離はあるが、もう睨み合ってる状態だ』


 ブルーからの報告は、すでに遭遇しているというものだった。


『それは【ブラッドホーン】であろうよ。<ワイルドボア>の魔の眷属はそう呼ばれている』


 彗星から補足が入る。

 魔の眷属は特異種と言う意味なのだろう。


「博識だな」


『ふ、ふはは、いるぞ! これは我の下にも来るぞ! 魔の眷属め、魔神の復活を目論んでいるようだ!』


「それは……悪い。いったん切る」


 俺はそのまま周囲を見渡した。








 恐ろしいほど静かだ。








「ユティナ」


(ええ、場合によっては体を借りるわよ)


(頼む)


「パウル」


「ぐぎゃ!」


 思えば、先ほどからモンスターが俺に向かわずにどんどん内側に移動していたのも、これが理由だったのだろう。


 本能で自らの命の危機を察知していたのだ。


「……」


「……」


 これは……いる。


 この感覚を俺は知っている。


 周囲が静寂に包まれ、怖気立つような冷たい殺意が戦場を満たしていく感覚。


 ここは、既に死地だ。


「……ん」


 今、木の奥で何かが動き……









 ──光が走









「しゃがめえええええええええええ!」


「パウルうううううううううううう!」


 俺達はその場にしゃがみ込み……頭上を何かが通り過ぎて行った。


「ゴン太郎、無事か!」


「はい、パウルも問題有りません」


 細い何かが走り、俺とゴン太郎の首筋を貫く軌道を描いていった。


「魔法攻撃か! 正面にいるぞ!」


 いつの間にか《気配感知》にそれはいた。

 先ほどまで気配を隠していたのだろう。 


 少しずつ、少しずつこちらに近づいてくる







 ぞわり、と空気が歪んだ。







「はっ、レイラーの懸念が当たったな」


 そして、それは現れた。


 黒よりもなお黒く染まった肉体。


 肌を焼くような威圧感。


 頭上に表示される<ナイトウルフ>という6文字。


 【マグガルム】。


 そう呼ばれ恐れられている【月光の樹海】の影響を受けた特異種がそこにいた。


(こいつは……<プレデター・ホーネット>クラスか)


 少なくとも、一般モンスターの枠組みに収めていい存在ではないだろう。


 エリアボスモンスター、番外個体、なんでもいい。


 <パラガイザー>とか<ムーンベアー>がかわいく思えてくるな。


 しかし、【マグガルム】はこちらを見据えるだけで動きを見せない。

 何かを警戒しているのか?


「こちらシルバー、イレギュラーと遭遇した。<ナイトウルフ>の中でも【マグガルム】と呼ばれる個体だ」


『我の前には【キラーブラット】なる蝙蝠の魔の眷属だ。これは……機関か! やつらめ、こんなモノにまで手を出していたのか!』


『NOOOOOO!?』


 なるほど、<ナイトウルフ><ワイルドボア>、あとはおそらく<ムーンバット>の特異種が同時に出現、と。


 T&Tはなんで俺の下には何も来ないのかと嘆いている。


 ただ、それならそれで好都合だ。

 運のいいことに外縁部に位置する俺たちが遭遇したからか、NPCによる被害は抑えられそうではある。


「ここまでタイミングが一緒となると他のイレギュラーもいる可能性があるな。そこら辺の知識はNPCの方が詳しいだろう。レッドはそのまま前線を下げつつ他のパーティを支援しながら後退してくれ。生存重視だ。情報共有最優先で頼む」


『OK』


「ブルーとブラックはそこで時間稼ぎだな。可能なら討伐を。俺も【マグガルム】を抑える」


『わかった、戦闘に入る。サフィ、行くぞ』


『ふはははは! 我が真なる力を開放しようではないか!』


「通信はこれで最後だ。死んだかどうかは各自パーティリストから確認するようにしてくれ。レッドを除いたメンバーの合流は当初の予定通りの場所でいいだろう。死者が出た場合は生存したメンバーが臨機応変に対応しよう。各自まずは目の前の目標を最優先だ」


 これで、パーティのホストとして最低限やるべきことは終わりだな。


「以上、健闘を祈る」


 そして俺は通信を切った。

 下手に連絡を入れてお互いに集中状態を欠くわけにもいかない。


 そして、他人の獲物を奪うのも本意ではない。


 あとは彼らを信じるとしよう。


「ゴン太郎も隙を見て撤退してくれ」


「……オレも戦えますよ」


 ゴン太郎もわかっているのだろう。

 前衛の俺と後衛のゴン太郎、どちらがこの場に適しているか。


 これは一応一つの選択肢として自分も戦えるのだと提案してくれただけだ。


 しかし、この情報を持ち返るメンバーはできるだけ多い方がいい。


 T&Tや向こうのメンバーが予想外に襲われないとは限らないのだ。


 だからこそ、俺は、はっきり言わなければならない。


「ここは俺に任せて先に行け! なーに、こいつを倒してすぐに追いつくさ」


「クロウさん!」


「俺、このクエストが終わったらパーティのみんなで星空を、夜景を見に行くんだ」


「クロウさん……」


「妹に土産話を用意してやんないとな。お兄ちゃん頑張ったんだぞって」


「……クロウさん、実はまだ結構余裕ありますね」


「まあな」


 これで終わりならそれでいい。

 ただ、この裏になにかがまだ潜んでいるなら、一刻も早く情報を共有しなければならない。


「オレ……クロウさんに聞きたいことがあったんです! 生きて帰ってきたら話しますね!」


 おーっと、俺の死亡フラグがさらに積みあがったぞ。

 絶対わざとだな。


(ユティナ、これがフラグだ。死亡フラグってやつだな)


(なんとなく理解したわ。このまま行くとクロウは死んでしまうことになるのだけれど)


(安心してくれ。マイナスとマイナスをかけたらプラスになるからな。死亡フラグと死亡フラグをかけたから生存フラグに変わっている)


(それなら一安心ね!)


 そのまま、ゴン太郎は少しずつ後退し……襲い掛かられることもなく《気配感知》の範囲から抜け離脱していった。


 行ったか。


「……それでお前は何をそんなに警戒しているんだ」


「Guu……」


 【マグガルム】は動きを見せない。

 俺のことを視界に収めながらも周囲を警戒している。


 否、警戒しすぎている。


 それならそれでいい。


「一応これでも、直接頼まれてるんでな」


 レイラーに任されているのだ。

 NPCの被害を減らすならいくらでもやり直しが効く俺が命を張るのは実に理にかなっている。


 俺は《呪物操作》の対象である剣を動かし奇襲を、


「GUUUU!」


「……ほぅ」


 マグガルムが睨みつけたのは、ちょうど今俺が動かそうとした剣の位置だ。


 物陰に潜ませておいた、呪いの武器だ。


(……そういうことか)


 俺は、剣を手元に寄せる。


 マグガルムの視線は、その間剣に固定されていた。


 これは呪物だ。


「お前が警戒してるのはこれだな」


 これは【高位呪術師】が作成した呪物だ。


「この剣を作った誰かを警戒しているんだな」


 レイラーが作った、武器だ。


「今、目の前に敵として立ちふさがっている俺よりもだ。この場にいない、ただ、武器に残った匂いか、魔力か、ようは痕跡の方を警戒していたんだな」


 舐められるのはいいことだ。

 相手の油断を誘えるし、隙も生まれやすくなる。


「安心しろよ、今この場にはこの武器の製作者はいねえ」


 だが、そうだな。


「今この場には、俺達とお前しかいねえ」


 これは、本当につまらない理由で。

 どうしようもないクソみたいな私情であるが。


「だからよ」


 今だけは。


「殺し合おうぜ?」


 俺のことを見てもらおうか。


「GURURUR……」


 魔狼犬は獰猛な笑みを浮かべる。

 それは、警戒に値しない弱者を狩る狩人の笑みか。

 はたまた、純粋な戦闘欲によるものか。


 俺は呪いの長剣を宙に浮かべ、傍に控えさせる。


 あぁ、俺もつられて笑いそうになるな。


「ははっ……」










 ──別に笑っていいのか。


 








「ハハハハハッ! それじゃあ死合い開始だ! テンション上げてこうかああッ!」


「GUGYAAOOOOOO!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 残念ながら、目の前にいるのはその警戒対象が認めた要警戒に値する人物、慢心、ダメ、絶対、ですね。
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