第24話 星の魔法使い(物理)
<ムーンベアー>討伐後、ブルーに任されたこともありいったん様子を見に行ったのだが。
「ふははははは! 効かぬ! 効かぬぞ! そんな鈍い攻撃が当たるわけがなかろう!」
そこには、二刀流とでもいうべきか2本の杖を振り回し、巧みにモンスターを弾き、捌き、殴り倒す彗星の姿があった。
赤黒い宝石を彩った杖は腰のホルダーに差したままだ。
「ええー……」
「星の魔法使いって言ってたわよね?」
ユティナも困惑しているし、俺も想像とは違う光景に驚いている。
彼女はどうやら【棒術士】だったようだ。
最強の魔法(物理)ということらしい。
「銀の姫よ! その主よ! 我が戦いに魅入られているな? それもいたしかたなかろう!」
「お、おお。余裕はありそうで何よりだ」
「シルバーもやるではないか!」
「ああ、まあな……」
俺も《呪物操作》によって範囲内に入る小型のモンスターを倒しているので、そのことを言っているのだろう。
おっと、この反応<スクリューエイプ>だな。
攻撃される前に倒しておこう。
「ならばこそ負けてはいられぬ! 我が最強最高の一撃をお見せしよう!」
そして、また気配感知に反応が……
──大きい。
「ブラック、サポートは必要か?」
俺は聞いた。
「不要だ。案ずることはない」
星の魔法使い、アブソリュートエターナルカタストロフィ・彗星はそう答えた。
彼女に向けて飛来するは。
「GUSHAAAAAA!!」
ザウグ山脈に出現する中級モンスター。
警戒すべき3種の一体。
<マウンテンビートル>。
体長2メートル、角を加えればその倍ほどになる深緑の甲殻を纏う巨大な甲虫だ。
それに対し星の魔法使いは、笑みを浮かべる。
「ここまですべて《詠唱》だ」
空気が震えた。
彼女は周囲のモンスターを強く弾き飛ばすと同時に双杖を宙に放り、腰に付けていた赤黒い宝石を彩った杖を鋭く抜き、構える。
そして、唱えた。
「貫け《暗黒衝波》!」
放たれるのは暗黒の衝撃波。
【可変詠唱】によって指向性を付与されたそれは……闇の光線というべき魔法は<マウンテンビートル>の頭から胴体にかけて捉え。
「GIGGYAAAAAAA!?」
その身体を大地に沈めた。
「GU……GIIII!」
巨大な甲虫は、まだ戦えると言った様子だが、先ほどの攻撃で大勢は決したと言えるだろう。
《暗黒衝波》の追加効果によりENDのデバフもかかっている。
少女はホルダーに杖を素早く差し直し、宙から落ちてきた杖を両の手で掴む。
そして杖同士を交差させぶつけ合い鳴らした。
「ふはははは! 我が最強の魔法を見たか! 邪竜の封印に力を使っているため全盛期の30%といったところだがな……」
──強い。
ハニーミルクのような異常な"何か"を有しているわけではない。
mu-maのように、ただ純粋にプレイヤースキルが高いプレイヤーだ。
先ほどから隙を見ては杖を回転させたりローブを翻したり決めポーズをしているが、逆に言えばそれだけの余裕があるということでもある。
常に周囲の状況を把握し適切にMPやスキルというリソースを割り当てられるか。
温存と消費。
まだまだレベルもステータスも低い現在の環境において、そのバランス感覚がプレイヤーの強さを評価する際の指標の一つだ。
これまでの戦いから見るに、彼女の基本はあくまで【棒術士】によるバフを交えた近接主体の戦闘スタイル。
《暗黒衝波》は【闇魔法師】がレベル40で覚える攻撃魔法だ。
つまり、【棒術士】50、【闇魔法師】が40以上。そして【魔術師】がおそらくレベル一桁の複合ビルド。
クラン戦の開幕時に【炎魔法師】が放った完全バフの《フレイムスピア》に届かないまでも、相応の威力があったように見える。
彼女の言った通り、時間を掛けて詠唱を行いほぼ全てのMPを消費した最大攻撃。
(……早すぎる)
先ほどブルーから連絡を受けた際にもそれらしき魔法を使っていたようだった。
普通であれば、そんなすぐに連発することはできない。
魔力回復薬のクールタイムでは複数回による回復は間に合わないだろう。
「ぐ、うううう! 魔力が、溢れ出てくる! くっ、封印がっ!? まだ暴れるか!」
依然として彼女の周囲には<アルカナ>が見えない。
そして彼女はまた右目を抑えた。
魔力が溢れ出るという言葉。
封印されし邪竜。
これが、もし本当のことならば?
「いるんだな、そこに」
彼女の右目の中にいるのだろう。
継続MP回復とでも言うべきスキルを持った何かが。
(……常時憑依型の<アルカナ>か)
(封印されし邪竜、てことよね)
(ああ。面白いな)
中途半端なステータスによる魔法の火力不足は《詠唱》によって補う。
消費したMPの回復を待つ間、近接戦闘という魔法使いの弱点は近接ジョブである【棒術士】でカバー。
消費MPに関しては憑依した<アルカナ>の拡張スキルによって通常よりも早く回復。
(たぶん、あの2つの杖もポイントだろうな)
俺の<月鳴りの剣>のように与えた物理ダメージに応じてMPを微量回復するような武器スキルがついていると見ていいだろう。
<アルカナ>の性質ともかみ合っている。
近接と魔法。
弱点を補いながら相反する二つのジョブを適宜切り分けるオールラウンダー。
すでに、一つの戦闘スタイルとして確立していた。
あとは、魔法の火力の底上げを行うのか。
近接戦闘に比重を置くのか。
今後のジョブ構成によって決まっていくのだろう。
「殴り魔術師、か」
杖を持っているからと言って、ただの魔法使いとは限らない。
『こちらブルー、聞こえるか』
ブルーから連絡がきた。
「こちらシルバー、聞こえている」
『片が付いたんでそっちに戻る。助かった』
「お礼ならブラックに言ってくれ、彼女が担当してくれたからな」
『そうか、ブラック。ありがとう』
「なに、気にするな。物足りないところであったわ! ふはーはっはっは!」
彗星は<マウンテンビートル>を殴り倒しながら生き生きとそう答えた。
おーう、バイオレンス。




