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第6話 検証作業

□モコ平野 クロウ・ホーク


「えっと、情報共有?」


「ああ、もうソロでここまで進めてるってことは、こういうのに結構慣れてるんだろ。よければコツとか教えてもらいたくてな」


 どうやら俺の圧倒的なプレイセンスに惹かれて声をかけてきたらしい……なるほど。


「いいぞ、俺も色々確かめてみたかったんだ」


「俺はガレスっていうんだ。ジョブは見ての通り【槍士】だ」


 そういって彼は簡易ステータスを表示しながら近づいてきた。槍は背負ったままであるし、とりあえず様子見でいいだろう。


「俺はクロウ、ジョブは【戦士】だ。後ろの2人の名前も教えてくれると助かるんだが……」


「そうだな。おーい大丈夫だ、こっちこいよ!」


「……ああ!」


 呼ばれて近づいてくる二人組、彼らも簡易ステータスで名前を表示しながらだ。

 自己紹介の手探りな感じがなんともこそばゆい。

 俺も彼らに習い、遅れながらも簡易ステータスを表示する。


「俺はガラップ、【盗賊】だ。罠を設置したり解除したりできるぜ」


「僕はガーシスだ。ジョブは【剣士】で剣に関連するスキルが使える」


 俺と同じ初期装備を身に纏った盗賊のガラップと騎士風の服を纏ったガーシスとも挨拶を交わす。


 全員名前を「ガ」から始めていることからして、内輪ネタの気配あり。

 おそらくリアルの友人、もしくは他のゲームである程度仲を深めている関係だな。

 雰囲気からして仲の良さを感じられる。


「そんじゃ、色々話すとしようぜ」


 ガレスから発せられた言葉を皮切りに、彼らとの交流が開始した。



「このゲームマジですごいよな。怖いもの見たさでやってみたらいい意味で裏切られたって感じ!」


「僕なんか剣なんて修学旅行で買った木刀しか持ったことないのに、もう人並みに振り回せるようになってますよ」


「なんとかの《心得》ってスキルが関係してるっぽいんだよな。全員ジョブの共通スキルとして覚えてたし、アバターに対して外付けの才能を付与するイメージでよさそうだ。思考と動作の補助ともいうべきか」


「俺はリアルで丸太を振り回したことがあるから、槍も同じように振り回してるんだが、その動きもある程度最適化されている印象を受けた。システムアシストが働いているのかも。違和感がないのは驚きだ」


 彼らとの交流は概ねうまく進んでいた。

 お互いにジョブのスキルの中身やシステム補正について意見を交換し合う。


 ついでに、彼らは全員13レベル前後らしい。

 パーティを組むことで経験値が分割されているようだ。


「そういえば、クロウの<アルカナ>って、もう生まれたのか?」


 ふと、思い出したかのようにガラップは俺に一つの問いかけをしてきた。


「いいやまだだ、結構時間がかかるもんなんかね。3人は生まれたのか?」


「……俺たちも全然だ、俺は虎を選んだんだが」


「僕はドラゴンに乗って剣を振り回す竜騎士をイメージしてるよ。僕が【剣士】を選んだのもそれが理由さ!」


「お、俺は犬を選んだぜ、やっぱ犬は……おっと」


 ガラップが犬について語りだそうとしたところで張っていた穴から何かが飛び出してきた。

 ここ数時間で見慣れた角の生えた兎<ホーンラビット>だ。

 雑談を開始して結構経ったことから、リポップにもある程度時間がかかるのかもしれない。ソロの時はずっと移動していたから気付かなかったな。


「よし、まずは俺の動きを見てもらうとするか。よく見とけよ? 《チャージスピア》!」


 <ホーンラビット>の前に立ちガレスが槍を構えスキルを唱える。

 すると槍が光りだした。


 これは【槍士】の基本スキル《チャージスピア》という。

 基本は《スラッシュ》と同じでSPを消費して威力を増加させる。

 そして、【槍士】は技の出が遅い代わりにSPを多くチャージすることができ、上限こそあるがチャージするほど威力が上がるというものらしい。


 一撃の重さに重点を置いたジョブということだろう。


「おらぁ!」


 突進してきた兎を迎え撃つ形でガレスは槍を突き出す。

 その一撃をもってして、哀れ兎は粉々に崩れ散った。


「どうだ。なかなかのもんだろ」


「実際に見るとすごいな」


「だろ? んじゃ次出てきたらクロウの技を見せてくれ」


「ああ、任せろ」


 ちょうど、遠くの別の穴からホーンラビットが2体飛び出してきた。

 他のプレイヤーも周囲にいないし、貰ってもいいだろう。

 3人組から離れ背を向け、剣を取り出し、兎達と正面から向かい合う。


「か、カッコイイとこ見てみたい!」


「俺の槍裁きを超えられるかな」


 背後からガレスとガラップの煽りの声が聞こえる。




 ガーシスの声は──ない。


「っふ!」


 システムの恩恵を受けながら俺は勢いよく切りかかる。


 3時間の狩りで慣れたものだ。

 1匹はそのまま両断し、もう片方も切り返すように剣を振るい、結果2匹のホーンラビットを倒した。

 ステータスによるゴリ押しとも言う。

 倒したことを知らせるように、ポリゴンが周囲に飛び散った。



 そして。









「《スラッシュ》!」


「《スラッシュ》っな!?」


 背後から襲い掛かってきたガーシスの上段からの攻撃を、振り向きながら放った俺の剣が迎え撃った。


 おいおい、何を驚いているんだ。

 最初から俺をPKする気で近づいてきたのはそっちだろうに。


「な、いつから気づいてやがった!?」


「最初からだよ、バーカ! 人を騙すなら視線の動きとか声の震えとかその他諸々基本的なことぐらいは勉強してから出直してこい筋肉ダルマめ!」


「な、なんだとおお!」


「ガレス落ち着け」


「馬鹿なこと、やってないで、早く……僕だけじゃもたない!」


 対人戦において煽りは基本装備だろうに。

 ましてや背後から襲ってきたPKに遠慮する善性はあいにく持ち合わせてないんだ。


 年上のような余裕を見せていたがガレスは煽り耐性がなさそうだな。おそらく中身の年齢が低い、もしくはメンタルが弱い。

 仕切り癖があり過度な自信家。


 危険度は下方修正でよし!


 【剣士】のガーシスは初撃を防がれた動揺を隠せていない。

 対人戦は慣れていないのか?

 初心者特有の武器に対する恐怖が見えた。


「《スラッシュ》」


「くっ《スラッシ、ぐぁっ!」


 頭の中で《スラッシュ》のクールタイムを計測し、使えるようになった瞬間俺は勢いのまま前のめりに飛び込み剣を振るう。

 ガーシスは防御が間に合わず中途半端に構えた結果、俺の一撃は腕を切り裂く。

 そのまま彼は剣を取りこぼす。


 今更ガレスがこちらに向かってくるのが見えるが、本当に今更だな。

 【槍士】は間に合わない、【盗賊】は前衛じゃない。まずはこのまま【剣士】を落とす!


「――しっ」


 俺の放った一撃はガーシスの胸部を切り裂き。


「――ゲリューぶちまけろ!」


「おおッ!?」


 ガーシスの騎士服のマント、その影から飛び出してきた、蝶のような生き物の攻撃を至近距離で受けた。


 狙い通り、といったような笑みをガーシスが浮かべているのが見える。


 なるほど、これが<アルカナ>か。


 そして<アルカナ>が生まれていないというブラフに加えて、ドラゴンに憧れているという二重のブラフを重ねていたと。

 そのブラフを利用して俺が避けられないタイミングを的確に突いてきたのだ。


 他の二人と違って演技がうまいな。


 蝶のような生き物がガーシスの<アルカナ>でこれはおそらく鱗粉による攻撃。

 狙いは状態異常で継戦能力を失わせるってところか。


 視線はガーシスから離さないまま即座に身体に意識を移し、自由に動いていることを確認。

 <アルカナ>の見た目と動作の異常の無さからおそらく毒と推定する。

 あるかわからないがこの至近距離、麻痺や睡眠だったら危なかった。

 状態異常対策は必須だな。


 ──問題ない。


「はは! 僕たちの勝……」


「ガーシスッ!」








 ガーシスは笑みを浮かべたまま……俺の斬撃により首が胴体から切り離された。

 そして、ポリゴンとなって砕け散る。


 油断してはダメだろうに。

 こっちはすでに死中なんだぞ。


 人数不利に加えて、<アルカナ>という不確定要素の存在。

 今更状態異常の一つや二つで動きが止まるわけがないだろ。


 俺は既に、デスペナルティを覚悟している。


 なんならこの世界で死ぬ感覚がどういったものか、今のうちに確かめておきたいところもあったのだ。

 ログアウトを予定していたしちょうどよかった。


「なんだ止まって、来ないのか。なに、ガレスちゃんビビってんの? さっさとログアウトして、ミルクでも飲んで来たらどうですかああ!?」


「……くそっ! ガラップ、どうだ!」


「《毒感知》……よし毒にかかっているぞ、このままやれる!」


「わかった、お前は距離を取っておけ、俺が抑える」


「お、おう!」


 ダメージ感覚的にガーシスのHPはおそらく削りきれていなかった、が首を切り離すことでそのまま死亡の判定が行われた。

 つまり、モンスターと同様に重要部位の欠損はそのまま即死判定となる。


 急所を仕留めればちまちまHPを削る必要がないのは楽だな。


 次にガーシスが死亡したことによりゲリューと呼ばれた<アルカナ>も同時に消えた。

 HPは別判定、しかしこの世界で実態を保つにはマスターの存在に依存している。


 PvPにおいて、<アルカナ>を倒すのが難しい場合はマスターを狙うのが有効的ということだ。

 覚えておいて損はないだろう。


「うおおおおおお!」


「えーと、毒でいいんだよな?」


 視界の端には毒を示すドクロマークと172秒という毒が解除されるまでであろう時間がある。

 ステータス画面のHPは、毎秒削れておりこのままのペースだと2分後には0になるな。

 あいにく毒の状態異常回復アイテムやHP回復アイテムの持ち合わせはない。

 散財のツケがここできたか。


 興奮状態のまま高速で思考を飛ばす。

 俺は突っ込んでくるガレスを迎え撃つように半身に構え、そのまま死角でメニューを操作した。


「《チャージスピア》!」


「それは、もう見たぞ」


 突き放たれた槍の攻撃は余裕をもってかわす。


 ──よく見とけって言ったのはお前だもんなぁ。


 そして俺は、取り出しておいた<呪われた投げ石>をひょいっと宙に放った。


「《インパクト》!」


 そのまま《インパクト》を使用して思いっきり剣の側面で打ち出した。

 やはり狙った方向にちゃんと飛んでいくな。


「うおおおっ、あっぶね!」


 近距離で放たれた石が怖かったのかガレスは必至になってそれらを避けた。

 大したダメージになるわけでもないだろうに大げさだな。

 まあいい、狙いは別にある。


「なっにぃ、いっ!?」


 ガレスの直線上にいたガラップだ。

 なにやら罠を仕掛けていそうな動きをしていたので牽制の意味を込めて、直線上に並ぶようタイミングを合わせ攻撃してみたのだ。

 当たったら儲けもん程度の気持ちでやってみたが、案外うまくいくものだ。


 ダメージは期待できないが、ガラップのAGIは一定時間の間これで下がる。

 【盗賊】はおそらくAGIのステータスが高いため少しでも下げておきたかった。

 AGIの減少になんの意味があるかよくわからないがなんらかの効果はあるはずだ。


「っく、そおおおおお!!」


 この近距離に加えて、クールタイムの都合で《チャージスピア》の警戒は必要ない。

 さらに、ガレスは無理やり避けたから体勢は崩れたままだ。

 攻撃手段は限られる。


 そしてガレスが無理やり振り回してきた槍を。

 剣で!

 弾くっ!


「はい! ビンゴぉっ!」


 ダメージ確定時どころか、ほとんど衝撃がない。

 ヘルプに書かれてないからダメージ計算式はマスクデータなんだろうなと思っていたが、効果的に攻撃しないとここまで威力が出ないのか。


 ありがとうガレス、俺の検証作業に付き合ってくれて。


 しいていうなら。


「少しレベルが足りないんじゃないかあ!?」


 槍士がパワー負けしたらダメだろう。

 3人でレベル上げしてた彼らには酷な話か。

 

 ただ、レベル10の差はそこまでなさそうではある。

 《チャージスピア》が直撃してたら俺もかなりのダメージを受けたはずだ。

 ステータスよりもスキルによる補正の方が大きいということだろう。


 弾かれた衝撃で槍の動きが鈍った。

 その遅れはあまりにも致命的だ。

 身体も開ききっている。


「待っ!」


「待たねえよ。《スラッシュ》!」


 そして、ガーシスと同じように、ガレスの首を刈り取ろうとする。

 しかし、その切断は首の途中で止まった。

 【槍士】による高いENDによるものだろうか?


「ぐぅうううっっ!」


「ほい」


 剣を抜くべく抵抗したガレスに対し、俺はどうぞといわんばかりに剣から手を放す。

 すかさず、首に埋まった剣の柄の部分に角度をつけ、思いっきり殴った。

 衝撃の逃げ場はなく剣がのめりこみ、そのままガレスの首を抉る。


「っよいしょおお!」


「ぐえっ!?」


 そのまま追い打ちと言わんばかりにガレスの顔面を強打した。

 スキルも糞もない、ただのパンチだ。


 だが、それで十分だったのだろう。

 ちぎれかけていた首が、ポリゴンの軌跡を描きながら飛んで行った。


 ……うわぁ、ちょっとグロいなぁ。

 ガレスは全ての動き出しが遅かっただけだし、AGIが低いのがどのくらい影響があったかはわからないな。

 

 どちらかというとENDの重要さの方がわかった気がする。

 ガレスが恐怖を押し殺し被弾覚悟で突っ込んできていたら、それだけでダメージレースで不利だっただろう。


 その場に落ちた剣を拾ってと。

 さて。


「ガァラップくぅん! 遊びましょおおおお!」


「いやあああああ!」


 ここまでソロできた俺とのレベルの差もあっただろうし、恐怖でまともに動けていなかった。

 少しの追いかけっこの末、なんとか制限時間内に追いつくことができ、そのままガラップもデスペナルティ送りにした。


「《スラッシュ》! はい、俺の勝ちいいいいいい!」


「――――っ!」


 切り離された首が何かを訴えかけているが、あいにく何も聞こえない。

 パクパク動く口を眺めながら、そのままガラップの身体が消えるのを笑顔で見送った。


 システムメッセージを見てもなにかドロップしたという報告はない。

 経験値も入ってきていないので、プレイヤーを倒してレベリングといった方法もできないみたいだ。


 入手できる戦利品もなく、ラビの言っていた通り最終的に【賞金首】になり街の中にいられなくなるならやる意味は皆無だ。

 【賞金首】を狩れば倒した者にアイテムとスピルの所有権が移るらしいが、【賞金首】ですらないPKは現状狙う方も狙われる方も損しかない。

 揉め事があるなら素直に【決闘システム】で決着をつけろということだろう。


「ただまぁ、悪くなかったんじゃないか。色々確かめることができた」


 有意義な時間だった。

 今後PvPイベントがあった時に使えそうな情報も多い。

 あとは【害意判定システム】なるものがちゃんと機能しているのを期待するとしよう。

 仕掛けられたとはいえ、結局3人とも俺がデスペナルティにしてしまったからな。

 それにしても……


「……なんでPKを仕掛けてきたんだ?」


 1つの疑問を残しつつ毒ダメージで俺のHPは0となり、そのまま視界が暗転した。


─システムメッセージ─

<クロウ・ホーク>のHP残存量が0になったことを確認しました。

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限1h】

デスペナルティ期間中はアバター権限を管理AIに引き継ぎます。

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