第22話 パーティ結成
□ココナ村北東部 クロウ・ホーク
ココナ村の西部の平野に大規模なモンスターの群れが確認されたため、そちらは兵士が中心に対処。
東部の森には、いくつかの小規模な群れが確認されたため、パーティを組んでいる冒険者の一部と、その他兵士が対処。
そして北側のザウグ山脈との間に位置している森や平野に関しては群れは確認出来ず、モンスターが散見していたため、冒険者が広く散らばる形でヘイトを分散しながら対処する。
そういう方向性に決まり、俺たちもその北側を担当することになった。
配置としてはゴン太郎たちと近いらしい。
お互いに警戒網から抜けてきたモンスターを倒すことになる。
そのためにはまず、この現状をどうにかしないとだな。
「とりあえず自己紹介からしないか? 俺のプレイヤーネームはクロウだ」
「私はユティナよ、よろしくね」
さぁ、どうなる。
「我の名はアブソリュートエターナルカタストロフィ・彗星! 世界の破滅を防ぐために、各地を巡り、封印されし魔神の欠片を守護する旅をしている」
「……そうだな。ブルーとでも呼んでくれ。こっちは相棒のサフィだ」
「T&T with J&J」
各々名乗り必要最低限の協力体制を構築することができた。
どうやらちゃんと依頼通り仕事を達成する意思は共有できているらしい。
T&Tと名乗ったプレイヤーは帽子を深くかぶり顔がよく見えないが、コミュニケーション自体はとれそうだ。
J&Jは、おそらく彼の<アルカナ>のニックネームなのだろう、
これで一安心である。
「ならまぁ、一応パーティでも組むか。お互いのHPの状況把握はできるようになるしな」
そうと決まれば急いでパーティを組んでしまおう。
メニューを開いて3人に対しパーティ申請を……
「ん。なんだ、どうした?」
しようと思ったが、なぜか彼らの動きが止まっている。
それも目をこれでもかと開き、俺のことを見ていた。
(なにかやらかしたか?)
(いえ、何もしていないはずよ)
すると、ブルーと名乗った男は小さく震えだし。
「パーティ……俺がパーティを組め、る……」
その目からドバっと滝のように涙が流れ落ち始めた。
「はぁ!?」
どうした急に!?
どこからか攻撃でも受けたのか?
「俺、このままずっとソロなのかと思ってた……パーティ募集してもなんか組めないし、名前とかおもちゃにされるし……でもパーティ組みたくて、だけどなんか巡りあわせっていうのかな? 組めなくて……お前もしかしていい奴なのか? 味方なのか?」
「お、落ち着け! パーティ組むだけだぞ! な、なあ彗星」
ブルーを落ち着かせるために他のメンバーからも。
「ぱーてぃ? ぱ、パーティ!? パーティだ! やった。やった! ……も、もしかしてフ、フレンド登録もできちゃったりするのかな……?」
「は?」
そこには、小さなガッツポーズを何度も何度も繰り返す少女がいた。
「そ、そうだよね! ……ふ、ふはははははは! 我が覇道はここから始まる! 星天の日など我が完全無欠の最強の魔法で打ち破ってくれよう!」
「……」
ま、まだ残りの1人が!
「Fuoooooooo!!」
そこには、ヘッドスピンをしながらひたすら回り続ける男が……!?
タップダンスはどうしたお前!?
いつの間にブレイクダンスに!?
☆
「えーと、俺がホストになるけどいいか」
「あ、ああ……任せる」
「ふはははははー!」
「Fuuuuu! Foooooo!」
─システムメッセージ─
【ちょこちょこドドリアン】がパーティに加入しました。
「……」
─システムメッセージ─
【アブソリュートエターナルカタストロフィ・彗星】がパーティに加入しました。
「……」
─システムメッセージ─
【トゥンクトゥンクトントンタトンチタンT&T】がパーティに加入しました。
(すごく個性的な名前ね)
こ、これがこの世の地獄か。
いや、他人のプレイヤーネームにケチをつける気はないんだけどさ。
自由とはいえなんでチュートリアルで名前の再設定は不可能って言われてるのにこの名前にしているんだというツッコミをどうしてもしたくなってしまう。
(運営に名前の文字数制限もう少し短くしろって要望でも送ろっかなぁ)
30文字は長すぎだって。
「とりあえず晴れてパーティを組めたけど、何て呼べばいい? 一応連絡を取る際の簡単な呼び名を決めておこうか」
「ふっふっふ、銀の姫の主よ。それよりも、もっと大事なことを先に決める必要があるのではないか?」
「大事なこと?」
「そうともさ!」
続きを促すと、彼女はばさりとマントを翻す。
「パーティ名を決めるべきだろう!」
ばばーんという効果音が彼女の後ろに見えた。
固定パーティを組むわけではないので特にいらないのではないか、と言える雰囲気ではない。
「パーティ名か。確かに……重要だな」
ブルー改め、ちょこちょこドドリアンも彗星に同意した。
その顔は、今まで見てきたどの顏よりも真剣だった
「Rising Sun……」
トゥンクトゥンクトントンタトンチタンT&T改め、T&Tも乗り気だ。
……いいぜ、とことん付き合ってやるよ!
「いよっしゃあああああ! 思いっきりかっこいいパーティ名考えようぜぇ!」
(クロウ!? やけくそになってないわよね!?)
こうなったらおもっくそバチバチな中二病ネームを考えてやるよ!
とにかく時間は限られてるので手短にな!
☆
「よし、そんじゃパーティ【鮮血の罪】の初陣だ! 派手にかますぞ! 頼むぞ、ブルー! ブラック! レッド!」
「ああ、任せろ! シルバーもなにかあればすぐに連絡をくれ!」
「ふはははは! 我が力に慄け世界よ!」
「FUUUUUUU!」
パーティ名は【鮮血の罪】に決まり、各々がパーソナルカラーで呼び合うことに決まった。
いや、悪ノリしすぎた感はあるのだが……
そして、時間も時間なので、俺たちは周囲に散らばり各々迎撃態勢を整えるために散開した。
俺も自分の位置を確認しながら進んでいく。
「この辺りでいいか」
周囲は森の中。
少し戻れば先ほどの開けたスペースに行けるポジションだ。
合流する時はあそこに集まるようになった。
「せっかくパーティを組んだのにバラバラでいいの?」
「ああ、いいんだよ。これが最適解だ」
俺はマップを表示する。
「俺たちが割り当てられたのはここから……ここだ。そして、そうだな。ゴン太郎たちのパーティが割り当てられたのがここだな」
俺たちと近くではあるが。
「あれ、私たちの方が広くないかしら?」
ゴン太郎たちの4人パーティよりも、俺達ソロ4人の担当範囲の方が広いのである。
「そうだ。まずこの場に集まった冒険者は旅人NPC問わず推薦を受けた者たちだけだ」
商業ギルドであったり冒険者ギルドであったり。
それはなぜか。
「信頼できるメンバーで固めたかった。足手まといになりそうな冒険者を弾いた。戦力として使えるという判断を下された。まぁここら辺だろう」
NPCはジョブを選べないのに対し、俺たちは狙った戦闘職でジョブ構成を組める。
考え方によっては俺達はこの世界で生きていくために必要な一線級の戦闘能力をすでに保有しているともいえるのだ。
戦闘系のジョブというものはそれほどまでに重要なのである。
レベル150の兵士がいたとして、しかし、戦闘系のジョブが一つしかなかったとしたら戦闘系のジョブを自由に選べる俺達旅人とどれだけの差があるのだろうか?
(ま、この世界のNPCはステータスとかスキルだけで測れるような強さじゃないみたいだけどな……)
【国家最高戦力】【臨界装備】と来て【恩寵】【加護】【異能】。
【魔力操作】という体系化された技術。
【汎用スキル】という存在。
ジョブがなくとも、魔道具を製作したり、装備を自力で作れるシステム上の制約の緩さ。
なぜプレイヤー1人1人に<アルカナ>という特別な存在を渡しているのか。
それは意外と単純な理由なのかもしれない。
まぁ、これについての考察はまた今度でいいだろう。
話がずれたな。
次に、これは俺が暇つぶしに見ていたから気づけたことだ。
「討伐班として他の冒険者は基本パーティ単位だった。あの場でソロとして依頼を受けていたのはこの場にいる4人だけだ」
他のソロらしき冒険者は偵察班や防衛班に回されていた。
「そもそもなんでパーティを組むんだと思う?」
「役割分担、よね」
その通り。
回復役、支援役、攻撃役、壁役などのロールを明確化することにより多くの場面に柔軟に対応できるようにする、というのが主流だろう。
近接戦闘が苦手でも魔法なら戦えるというプレイヤーも一定数いるしな。
すべてに対応できるオールラウンダーよりも、一つのことを極めたスペシャリストの方が局所的な場面への適合率は高い。
特にNPCは自分ができることが決まっているのでその傾向が強いわけだ。
「あとは、目的を共にしているとかかしら?」
「必要に駆られてってのもあるな」
PKたちがパーティを組んでいたのはどちらかといえば後者寄りの理由だな。
「実際パーティを組むことでソロよりは戦いの幅は広がるからな」
ただ、ソロで推薦を受けて迎撃班にいたのは、迎撃班に配属されたのはあそこにいた冒険者のメンバーだとここにいた4人だけだ。
逆に言えば信頼できて、足手まといにならず、戦力として使えるという判断をソロで下されたのはこの4人だけとも言える。
「まぁ簡単にいえばだ」
そう、理由としては単純明快。
「お前らなら、ソロでも問題なく役割をこなせると判断されたってことだな」
「……っ!」
あの場に集まっていたのは、そういう集まりだ。
アブソリュートエターナルカタストロフィ・彗星も、ちょこちょこドドリアンも、T&Tも、名前こそ長く、行動も人によっては遊んでいるのかと突っ込まれておかしくはないメンバーばかりであったかもしれない、が。
今日、この場にソロで迎撃班に割り当てられている。
参加することができている。
それだけのツテを、実績を、信頼を積み重ねてきたということだ。
実に重たい期待であるが……期待されたのであれば、それに応えるのもやぶさかではない。
「ユティナ、時間だ」
「ええ……」
時刻は17:00になり……それは始まった。
地面から光が浮かび上がる。
空気から薄く霧が立ち上る。
木々から、生命力が溢れ出し始めた。
そして森が、山が、世界がざわめき出した。
変化は一目瞭然だった。
さぁて。
「お祭りの始まりだな」
──星天の日、開演。




