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第21話 勇士、集う

□ココナ村 クロウ・ホーク


「到着っと」


 星天の日当日、時刻は昼過ぎ。

 案内の通り魔車に乗り、道中何度かモンスターに襲われたが撃退しながらここまで来た。

 そして、運んでくれた御者にお礼をいい俺たちはココナ村に降り立ったのだが。


(大きくないかしら?)


(だな)


 村というには立派な外壁である。

 ただ大きいと言うだけでなく、俗にいう見張り台のようなものも備え付けられていた。

 レイラーは小さな村と言っていたが、あくまでネビュラや王都ルセスに比べたらというだけなのだろう。


 この壁も魔法などによって組み立てたんだろうな。


 村の入口の前には兵士や冒険者が簡単に陣取っていた。


 俺は入口付近にいる兵士に声をかける。


「すみません、依頼を受けて来ました。これをお願いします」


「はい。冒険者の方ですね……え゛!?」


 なんだその「え゛」は。


「レイラー師の推薦、ですか。話には聞いてましたが本当にいたんですね……」


 なんかすごい言われようだな。


「失礼いたしました。偵察班はすでに周囲の探索に向かっています。迎撃班はしばらく待機となっていますが、説明もありますのであちらにどうぞ」


「わかりました」


 俺は兵士の案内で、冒険者らしき人達が集まっている場所に向かうと……


「あ、クロウさん!」


「おやおや、これは運命の再会ってやつかな? クロウ、ユティナ。久しぶりというわけではないが、会えてうれしいよ」


 聞き覚えのある声が聞こえてきた。


(そんな気はしてたんだよなぁ)


 しばらくネビュラで活動していた実績に加え、商業ギルドと協力して取り組むぐらいに密接に連携をしていること。


 そして、レイラーが商業ギルドに信頼できる冒険者を集めるように指示を出していたこと。


 最後に偵察に特化した<アルカナ>がいること。


「よ。二日ぶりか?」


 予想よりも早い、レレイリッヒ達との再会だった。



「顔見知りがいないか見ていたんだけど、まさかクロウが来るなんてね」


 これはびっくりと、レレイリッヒは話しかけてきた。


「レレイリッヒは偵察班か?」


 彼女の<アルカナ>の能力を考えればこれ以上ないほどの適任ではあるだろう。


「そうだね。今頑張ってオプトーの視界と共有しながら両の目で見ているところさ。ほかの都合が合って参加しているメンバーは防衛班だね」


 レレイリッヒは少し疲れた顔をしながらもやる気に満ちていた。

 その手には地図があり、逐一情報を記入している。


「オレは迎撃班です! 道化騎士さん達とパーティを組んでまして……クロウさんも迎撃班ですか?」


「ああ。俺も迎撃班だな」


 ゴン太郎は迎撃班にいるらしい。

 道化騎士は確か、魔車の御者をしていたプレイヤーか。

 従魔の強化系スキルをいくつも使っていたので、割とオーソドックスなテイマー系ビルドだったように思う。


 彼も数少ない戦闘職の一人だったようだ。


 そうだ。


「一応あとで説明があるらしいけど、作戦の概要とかわかるか?」


「ん? ああ、そうだね。概要程度ならわかるよ」


「できればでいいんだが簡単に教えてくれないか?」


 事前に確認できるならしてしまった方がいいだろう。


「任せたまえ。今は偵察班が周囲の状況を確認して情報を収集しているところだね。それをもとに配置を決定。迎撃班が周囲に散らばるって感じかな? 抜けてきたモンスターは防衛班が弾いて、問題が発生したら迎撃班も撤退して籠城戦、専守防衛に切り替えるんだってさ」


「なんか、だいぶアバウトなんだな……」


 思ったよりも大雑把だった。 


「はは、そうだね。ただ一応理由があるらしいんだ。兵士は組織だった動きができるけど、冒険者は個人やパーティ単位での動きしかできないだろう? 変に作戦を考えるよりも現場判断に委ねたほうが結果的に作戦成功率が高いんだってさ」


 確かに、組織での訓練などはしてないからな。

 いきなり集団行動をしろと言われても、すぐに連携するのは難しいだろう。


「実際、防衛する際の指揮や大規模な群れを発見した場合は兵士中心に対処するように配置を決めるみたいだからね。集団戦が必要なところは兵士が押さえてくれるみたいだ」


「大体は分かった。それにしても、結構余裕がありそうな雰囲気があるな」


 俺は周囲を見渡す。

 雑談していたり、プレイヤーではないNPCも気負った様子もなく談笑している。


「今のところ周囲は落ち着いているからね。モンスターも目立った動きは見せていない。いくつか中規模な群れは見つかったけど、戦力を配置すればなんの問題もないんだってさ。あと、共鳴石っていう魔道具で簡単に連絡を取り合うらしいよ。《囁風(ウィスパー・ウィンド)》を魔石に組み込んだものらしいけど……」


「偵察班の情報をもとに配置を決定。活発化を迎える前に迎撃班を村の周囲に配置し逐一情報を共有しあいながらピークの時間をやり過ごすって感じか」


「そういうことさ。おっと、また追加の人員が来たね。あれは……」


「道化騎士さんの魔車ですね」


 レレイリッヒが示す方を見ると確かに魔車から降りる冒険者の姿が……


(うん?)


(あら?)


 何人か降りてきた人員の中に、その男はいた。


 青色の髪を後ろに流し、傍には青い宝石を額に埋め込んだかわいらしいカーバンクルがいる。

 

 俺は彼のことを知っている。


「冒険者ギルドから指名依頼を受けた者だ。今日は迎撃班としてここに来……た……は?」


 彼もあたりを軽く見渡し、そして俺たちに気づいたようで……


(お、おう。まぁレベルで考えればいてもおかしくはないのか)


(そうなるわね)


 そこには、ダンジョンで一緒に<スターラビット>を追いかけた青髪のプレイヤーがいた。


「はい、受領しました。説明がありますので、あちらへどうぞ」


 兵士に案内されて男はこちらの方へと……


「……」


「……」


「きゅあ?」


 なにこれ。


 気まずい。

 俺のコミュニケーション能力が試されているのかもしれない。


「……おっと、私としたことが道化騎士に言っておかなきゃいけないことがあるんだった。ゴン太郎も一緒に来てくれないかい?」


「あ、はい! それじゃクロウさん! また後で!」


 レレイリッヒは俺達の様子を見るや否やそんなことを言い出した。


 ちょっと待て、俺を置いてくな。


 サムズアップすんな!


 そういうのじゃねえから!


 お前空気読めてねえからな!?


 俺の祈りもむなしく、彼女たちは道化騎士の方へと向かってしまった。


「……っ!」


 ついでに、ユティナがすごいソワソワしている。

 これはおそらくサフィと呼ばれているカーバンクルを触りたいのを我慢しているのだろう。

 ダンジョンに潜ってた時もずっと気になってたもんな。


 う、うーん。


「……結局<スターラビット>はあの後倒せたか?」


 とりあえず何も言わないのもあれなので、男に話しかけることにする。


「……いや、そもそも見つからなかった」


 すると、男の纏うオーラがすずーんとさらに暗くなった。


 おーっと、クロウ選手痛恨のミス。

 コミュニケーションコマンド失敗です!


「お、おう。どんまい」


 狙った獲物が倒せなかったときの悲しみはわかるつもりなので、下手な慰めも悪手だろう。


「<スターラビット>は……」


「ん?」


「俺はあの兎と4度遭遇している」


「それは、運がいいと言えばいいのか……」


 そのまま、ぽつぽつと彼は語りだした。


 まずはレベル30ぐらいの時に遭遇し、追いつくこともできずに逃げられた。


 次にレベル50の頃に遭遇し、《疾風斬り》でも《暴風剣》でも攻撃が当たらず逃走を許す。


 今度は75ぐらいの時に遭遇し魔法を覚えていたものの逃がしてしまい。


 そして先日でレベル97、【風魔法師】の《風纏強化》を覚え、万全の状態で挑戦しようやく追い詰めることができたが最後の初見殺しスキルによって逃げられた、と。


 思った以上に悲惨な戦歴だった。


「最後の分裂スキルの存在を知れたのを収穫と思うことにする。あのあと考えたんだが、正解は緑色の個体だったんだろうな」


 すると、彼はどこか遠くを見つめそう零した。

 どうやら俺と同じ結論に至ったらしい。


「俺も同意見だ。最後に踏んだ星形の足場の色になるっていうある種の制約があるスキルなんだろうよ」


「だよな。惜しかったなぁ……次は絶対に仕留めてぇ……」


「<スターラビット>について調べたりしなかったのか?」


「あのモンスターの情報は出回ってないんだ。簡単に話を聞けばわかるが、NPCはそもそも魔石の資源的価値の方が重要みたいでな。プレイヤーは情報を秘匿してるんだろうよ、俺も掲示……知り合いには一切言ってないしな」


「けいじ……?」


「なんでもない、気にしないでくれ」


「ん、そうか」


 そこからは簡単に意見を交換し合う。

 ゲームについての話題だからか、先ほどまでの暗い雰囲気と違い打ち解けてきたように思う。


 冒険者ギルドから推薦を受けたとさっき話していたがなるほど。

 彼はすでに2つ目のジョブが40レベルの大台に乗りカンストまであと一歩という状態らしい。


 早い、とは言うまい。

 おそらくダンジョンという環境に潜り続けた結果だろう。


 モンスターの出現率上昇という限定的な状況になるが、24時間デスマーチをすることで1日で12レベルもアップというゴリ押しができるのがこのダンジョンという環境だ。


 俺たちがPKとの争いで暗躍し、殺し合い、潰しあっていた間、ひたすらモンスターを狩り続けレベル上げをしていたプレイヤーが彼のようなものたちなのだろう。


「そろそろ2つ目のジョブがカンストするのか。早いな」


「ひたすらダンジョンに潜ってたからな……俺以外も似たような連中はそこそこいるぞ。そろそろ2つ目のジョブがカンストできるってことで盛り上がってる感じだ」


 この感じだと、一部のプレイヤーはもう2つ目のジョブがカンストしてるんだろうな。


 目の前の男も、結局のところ<スターラビット>捜索にレベル上げの時間を浪費しているわけだし。


「へー、このクエストにも結構参加してるのかね」


 俺は周囲の冒険者たちを見渡す。

 NPCとプレイヤーが半々といったところだ。

 気持ちNPCの方が多いか。


「いや、大半はそもそも星天の日関連のクエストに参加すらしていないな。俺が少数派だ」


 確信をもって彼は言い切った。


「なにか理由があるのか?」


「ダンジョンはソロでできるコンテンツだからな、他人と煩わしいコミュニケーションをしなくて済む。掲示……じゃなくて、そういうコミュニティで人気なんだよ」


「けい?」


 さっきから何なのだろうか。


「なんでもない、気にしないでくれ。だから、今この街に残っているプレイヤーの中だと俺みたいなやつの方が少数派だ。昨日PKの騒ぎが落ち着いたらしいから、そろそろ他の連中も戻って来るだろうけどな」


 つまり、ソロ志向のプレイヤーが現状この街には多いということなのだろう。


 確かに、PKの騒ぎで他の街にいたプレイヤーも王都ルセスに呼び集めていたからな。

 言い方は悪いが、他プレイヤーと交流が少ないプレイヤーは呼び戻されることなく、この街にいたということか。


 別に他人とコミュニケーションを絶対しなければならないというわけでもないので、これに関してはプレイスタイル次第という話だ。


「あの……サフィちゃんだったわよね。触らせてもらってもいいかしら?」


 しばらく話していると、ユティナが会話に入ってきた。


「へ、うぇ!? な、なな!? はい!」


 我慢できなくなったのだろう。

 彼女の目はサフィを捉えて離さない。


「きゅ?」


「か、かわ~~~~! だ、ダメかしら? サフィちゃんが嫌なら無理にとは言わないわ!」


 ここ最近はずっとククルがいたからなぁ。

 どうやら、彼女の我慢の限界が訪れてしまったらしい。


「お、おお。そ、そうですね。サフィ、どう……だ?」


「きゅい? きゅきゅ!」


 サフィは男の肩から降り、ユティナの足にすり寄った。


「キャー! いいのね、サフィちゃん!」


 ユティナはカーバンクルを両の腕で確保する。

 そして。


「ありがとね!」


 男に笑顔でお礼を言った。

 彼女は木の幹を椅子にサフィと戯れ始める。

 青のカーバンクルはされるがままだ。


「……そういえば、彼女は?」


「ん? いや、俺の<アルカナ>だけど。種族は悪魔、ダンジョンで一緒に戦ってたの見てなかったか?」


 そう答えると男はわなわなと震えだす。


「……や」


 なんだろうか。や?


「やっぱお前は俺の敵だあああああああああああ!」


「いやなんで!?」


 男は結局名乗ることなく門を抜け村の中へ駆けていった。

 どうせすぐ戻ってくるのだろうが……


「……サフィのこと置いていってるぞ」


 思わず零した声は誰にも届くことなく地面に落ちていった。



 一人になってしまったので、暇つぶしに魔車から降りる追加の人員であろう冒険者を眺めている。


 ざっと見た感じパーティが多い、というより9割パーティしかいないのではないだろうか?

 迎撃班に割り当てられている周囲を見ても、ソロでこの場にいるのは俺ぐらいしかいなさそうだ。


 さっきの青髪の男でも2人である。


 そして、その魔車からさらにもう一人降りてきて……


「ん?」


 その人物は、黒いローブをはためかせ魔車から飛び降りた。


 右目には眼帯を、左腕には包帯を巻き、腰のホルダーには赤黒い宝石を彩った杖を携えている。


 肩口まで伸ばした黒髪にワンポイントの銀メッシュ。

 

 そして、赤いリボンで髪を簡単にまとめ大胆にも仁王立ちするその姿。


 俺は彼女のことを知っている。


「感じる、感じるぞ。絶大な魔力の高まりが。この災厄! この天災! この窮地!! この絶望を覆すために我が力を欲するか? ならばよかろう。この星の魔法使い、アブソリュートエターナルカタストロフィ・彗星の力、とくと見せてやろうではないか!」


 そこには、路地裏で遭遇した中二病がいた。


 ……いや、さっきからなにこれ。


「ふ、この契約書に隠し記された暗号を我はすでに解き終えている。機関の連中め、まだ邪竜の力を諦めてないと見える」


「はい、受領しました。今度はマカレニア師からの推薦ですか……迎撃班はあちらでお待ちください」


「この封印を解き放ったが最後、この世界は滅びてしまうであろう……故に、我がこの邪竜の力を制御しなければならないのだ!」


 すごい、あの兵士さん全く動じていない。

 慣れてるとでも言いたげな表情だ。


 彼女はそのままこちらに向かって歩きだし。


「……なっ!? そこにいるのは銀の姫。なぜここに!? そしてそれは……青の魔獣か! 終焉の時はまだ先のはず! これはもしや運命が……ねじ曲がっている!?」


 そして、少女は俺のことを視界に収める。


「まだ、真実を話すときではないということか……。ならばこそ、また次の機会に話そう。今はただ、終焉の時を防ぐため、この街に封印された魔神の破片を守り切ろうではないか!」


 それだけ言い残し。


「ふはーっはっはっは!」


 彼女は村の中へと去っていった。


「時間までには戻ってこいよ……」



「…………」


「はい、受領しました。……ギルド長の推薦ですか。迎撃班はあちらになります」


「…………OK」


 その男は帽子を深くかぶっており、顔を伺うことができない。

 ただ無言のまま兵士の目の前でずっとタップダンスを踊り続けていた。


 もう何も言わないぞ。


 俺は、何も見ていない。



 そして、偵察班の情報収集が終わり、とうとう俺達の出番ということで配置が決まったようだ。

 その後説明された内容は先ほどレレイリッヒに教えてもらった通りであり、魔力回復薬や共鳴石などのアイテムが支給され、配置につくことになった。


 あらかじめパーティ編成なども考慮されていたようで、元からパーティを組んでいる冒険者はそのまま配置についていったのだが……


「それでは、皆さんはこちらのエリアの担当をお願いします。共鳴石は基本的に距離制限がありますが、緊急連絡だけはこちらの魔力出力を増やして連絡が行くようになってますので、その際は臨機応変になりますが対応をお願いします」


 それだけ言い残し、兵士は去っていった。

 彼も配置に着くのだろうが……


「……」


 青髪の男は何も話さないまま俺のことを見ている。

 否、人を殺しそうな目で睨んでいる。


「くっ! 魔神の欠片の影響によるものか、邪竜の力が暴走し始めている!?」


 黒髪の少女は自らの力の暴走を抑えるのに必死だ。


「Fuuuuuuu! Exiting!」


 タップダンスを踊っていた男は、いつの間にか彼の<アルカナ>であろう孔雀がそばにおり一緒に踊っていた。





 ココナ村防衛依頼。

 担当エリア、ココナ村北東部。

 ザウグ山脈と呼ばれるエリアとココナ村の間に散らばる冒険者の中でも、ソロが集められた集団であり。


「えーと、よろしく?」


 これから俺と一緒にココナ村の防衛依頼に挑む勇士たちだ。





 大丈夫か、これ?

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― 新着の感想 ―
こ…濃いな…w
[良い点] 駄目そうですね、これ。あくの強すぎる面々が揃っていてコミュニケーション面で致命的な齟齬が生じそうというか、なんならソロで配置した方が暴れそうというか。これじゃソロプレイヤーに不人気なのも頷…
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 控えめに言ってこの世の終わりか?
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