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第17話 階層ボス攻略戦

□月光の樹海 共通エリア F4 クロウ・ホーク


 ダンジョンに潜った所感としては、現状詰まるポイントが見当たらないといったところか。


 地図に書かれた内容を簡単に見ると奥に進むにつれ、いわゆる探索領域が広がり次の階層への門が遠くになっていることがわかるし、罠の存在やモンスターハウスのように大量発生するトラップが存在するようだが、共通エリアに限れば未探索領域以外であればある程度安全は担保されているようだ。


 襲いかかってくるモンスターを倒せる限り、しばらくは攻略に詰まることはないだろう……という単純な話ではない。


 5階層に続く門の前に俺たちはいる。

 その門は今までと違いどこか厳かというべきか豪華なものになっていた。


 ダンジョンは5階ごとにボスモンスターの階層が設けられている。


 そして、その門の周辺はセーフティエリアとして、モンスターが襲いかかってこない特別な空間になっているようだ。


 ボスモンスターのエリアに同時に入れるのは最大4人まで。

 つまり1つのパーティだけである。

 共通エリアであっても門を潜ると別のボスフロアに飛ばされるようで他のパーティの攻略を待つ必要がない、というものだ。


 至れり尽くせりだな……

 現状を確認しながら、俺とユティナは門の前に立ち尽くしていた。


「雰囲気があるな……」


「そうね」


 門のすぐそばには、月光の樹海の入口のようにそこそこ大きな樹がある。

 そして、近くには大きな湖がありそこには月明かりが反射していた。


 ここでナイトキャンプとかしたら楽しそうだなぁと思いつつ、幻想的な見た目とは裏腹にどこか緊張感が漂う空間であった。


「……」


 ボスモンスターと言えば<プレデター・ホーネット>を思い出すが、さすがにあの怪物ほどの強敵がこんな最初の方には出てこないだろう。


 いわゆる登竜門的なモンスターになるはずだ。


 このダンジョンという環境はとにかくゲームらしさというものを押し出しているように見える。


 しかし、NPCにとっては魔石のような資源が手に入り、周辺の環境に様々な恩恵を与え、【迷宮装備】のように遺物とでもいうべきお宝が手に入る場所だ。


 まさに、神の創造物ということなのだろう。


 このまま止まっていても、何も始まらないか。


「よし、行くか」


「ええ」


 俺はユティナを纏い、門を潜る。

 そして、視界が光に包まれた。



□月光の樹海 F5 クロウ・ホーク


 視界が開く。


 そこには闘技場とでもいうように開けた空間があった。


 円状で木々に囲まれているため、いかにも決戦の場といった雰囲気だ。


「なにもいないわね」


 いや。


「来た、か」


 およそ30メートル先に大きな魔法陣が浮かび上がる。


 すると、地面から何かがせり上がり始め……それは召喚された。


「Gi……GiGi……」


「粋な演出だなぁ」


 現れたのは3メートルほどの植物の巨兵だ。

 木が、ツタが、花がまるで人の造形を象ったような異形の怪物である。

 ずんぐりむっくりとした植物の肉体から放たれる威圧感は、今までダンジョンで出現してきたモンスターとは格が違った。


「GGIGOGOGOGOOO!!」


 そして、その頭上には<フォレストゴーレム>と表示される。


「ついに来たな。【呪術師】の天敵の一つが」


 ゴーレム種は基本的にはコアを中心に生まれるモンスターだ。


 外装というべきものにはHPの概念はなく、それを作り出すコアが本体であり、HPを保有している。

 

 極端に言ってしまえば、基本的に本体の強さはそれをかたどる素材と密度に依存する。


 【呪術師】の弱点はまず無生物に対しては1番の強みである《呪縛》が通らないことである。

 

 《呪縛》の条件は対象に対する肉体の殺傷。

 この場合の肉体というのは血肉のような生物を象徴するものだ。

 動物型のモンスターであったり人間全般に対してはINT・MP依存ではあるものの有利が取れると言えるだろう。


 しかし、明確に通らない相手には無用の長物に成り下がる。


 例えばゴーレム。

 俗にいうコアの部分とコアを中心に形成される肉体の2つの要素で成り立っているこのモンスターに対し、呪いの武器で体を削った場合どうなるか。


 答えは呪縛は通らない、だ。

 ゴーレムに呪縛を通すのであればゴーレムの本体、コアを殺傷しなければならない。


 体は仮初の体である、という判定なのだろう。

 元々の倒し方が外部から衝撃を与えてコアにダメージを与える、もしくはコアを直接破壊するというような通常とは別方面のアプローチだからな。


 同様にスライムなどの不定型生物にも通らない。

 さらにゴースト系のような非実体生物にも通らないし、呪い耐性を保有しているモンスターには《呪縛》は効かないのだ。


 故に俺は<月鳴りの剣>を構える。


「試し斬りと行こうか」


 俺は前に一歩踏み出し……そのまま<フォレストゴーレム>と戦闘を開始した。



 剣を力強く振り下ろす。

 腕の一撃を躱し、体を削り落としていく。


「GOGOGOG……!?」


 スキルは使わない。

 大きな的で思う存分新たな相棒の切れ味を確かめる。


「耐久値が高いと安定感がちげえなぁ!」


 いちいち《武具切替》で耐久値の管理をしないでいいのはやはりと言うべきか、安定感が違った。


(順調ね)


(本来ならレベル50前後でのパーティ討伐が前提の強さだろうからな)


 <フォレストゴーレム>の攻撃方法は主に殴り、蹴り、ツタを伸ばした前方への範囲振り回し攻撃。


 一撃一撃は重いが、そうそう当たることはない。

 ヒト型であるため正直かなり戦いやすいボスであるといえる。


 初心者用の狩場もそうだがこの世界はレベル50までは割と手厚くサポートしてくれるので、このフォレストゴーレムもある種の登竜門的ポジションなのだろう。


(自分よりも大きい相手に恐怖心を押し殺し立ち向かえるか、ってところか?)


 足を止めず、側面を、背後から仕掛け恐れることなくひたすら攻撃し続ける。

 剣を一振りするたびに手を、足を、体を削り取っていく。


 そろそろコアが見えてきてもいいころ合いだろうが……ん?


「おっと」


 俺は攻撃をいったん止めバックステップによって後方に移動し振り下ろしの一撃を躱した。


 その強烈な一撃は地面を軽くへこませる。

 長期戦になると足場が不安定になりそうであるがそれよりも。


「速くなってるな」


 その身を削ぎ落すごとに、身軽にでもなっているかのように行動速度が増している。


 が。


 プレデター・ホーネットよりも遅い

 mu-maよりも殺意が無い。

 スターラビットよりも的が大きい。


「負ける道理はない、な!」


 そして……足元から襲いかかってきた蛇型のツタを斬り落とした。


「そりゃギミックタイプのボスモンスターだよなぁ!」


 その身を削り落とされることによって身軽になり動作速度が上昇。 

 失った肉体は新たなモンスターとなり相手の後衛や前衛に対して足元や背後から奇襲を仕掛ける。

 この調子だと炎属性の魔法とかにもなんらかの対策ギミックを仕込んでありそうだ。


 パーティで挑んでも油断していたら一気に崩しにかかってくることだろう。

 現に俺の周りにはいつの間にか、斬り落としたツタがモンスターの形になり囲い始めてきていた。


 長期戦になるほど足場が、速さが、不意打ちが、警戒するものが増えていき状況が苦しくなっていくのだろうが。


 ただ、もう終わりだ。


「そんじゃまぁ……」


 おおよそのあたりはついたためフォレストゴーレムに再度攻勢を仕掛ける。


 横に振り回してきた腕をさらに低い体勢で駆け躱す。


 最初の頃よりも貧相になった植物人間の胴をすれ違いざまに切り裂き……剣で何か硬いものを斬り裂いた感触を捉えた。


「あーあ、見つかっちゃったねえ!」


 場所は心臓でも頭でもなく、腰ほど右の位置。


「……!? GOGOGOGO!!」


「試し斬り兼チュートリアル指導、ありがとよ!」


 《気配感知》で空気の振動で、ゴーレムの背中から新たな腕が一本生えてきたのを捉え。


「それが切り札かぁ!」


 腕は俺を捕まえようと振り落とされた。 


 ()()()()()

 《気配感知》が、空気の揺れが、周囲から集まる情報が、最適解の行動を導き出す。


 俺は体をひねり、新たな腕を回避しながら距離を詰め。


「《スラッシュ》」


 振り向きざまに放った一撃はゴーレムのコアを捉え、半分ほどまで切断し。


「《インパクト》!」


 剣先から放った衝撃により、内部から破壊した。




「GO……Go……go……gu…………」




─システムメッセージ─

<フォレストゴーレム>を討伐しました。




 そして、フォレストゴーレムはポリゴンとなって砕け散っていった。 

 普段とはどこか違い、きらきらと細やかな光となっていく。

 少し特殊な演出がされているようだ。


 ……なんだろう。


「お疲れ様。どうしたの?」


「いや、なんか普通にモンスターを攻略して感動してるところ」


 様子を伺い、相手の行動パターンを予測し、予想外のギミックを見破り隙を見て攻略する。


「ここ最近は対人戦ばかりしていたものね」


「そうなんだよなぁ」


 PvPばかりだったので、PvEが新鮮に感じるのだ。

 

「さてさて、試し斬りの結果はっと」


***

月鳴りの剣

装備可能条件:STR600以上、 INT300以上

耐久値:331/332

装備補正:STR+269、INT+53、CRT+98

装備スキル:《月光研磨》

【夜】・【月】の環境において、与ダメ―ジに応じ耐久値が微量回復。

***


「おお。耐久値が一切減ってない!」


「ここまで変わるのね……」


 【月】と【夜】の環境で効果を発揮する武器。

 素材は月光石などらしいが。


「ある種の特攻装備みたいなもんだな……お?」


 そして、再度魔法陣が浮かび上がりそこに少し大きめの宝箱現れた。

 

「少し豪華仕様だが。あー、外れっぽいな」


 宝箱を開けば中くらいの大きさの魔石が入っていた。


 少し茶色味があるため属性石とでもいえばいいのだろうか?


「ボス周回ってできるのか?」


 できそうではある……が。

 俺はちらりとユティナを見る。

 彼女は不思議そうな顔で茶色の魔石をつついていた。


 うん、抑えよう。


 ついさっき俺は自我を失ったばかりだ。


 【呪術師】になった時といい、俺はたまに暴走してしまうことがあるらしい。


 そもそも効率の面でもいいかわからないしな。


 ……あ、レベル上がってる。


「とりあえず、新スキルの確認からか」


 俺たちは、そのまま5階層を後にし先へ進んだ。






 月光の樹海 5F フロアボスモンスター フォレストゴーレム 撃破




4/16は18:00頃に更新します。

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― 新着の感想 ―
階層ボスにビッグコックローチ等が出てきたら一瞬で死ねる自信あるわ 主に精神面 更に開始と同時に飛んでこられたら発狂するかもね
[良い点] これまでの戦闘は実力差のワンサイドゲームか、針に糸を通すような綱渡りばかりでしたし、所定手順を踏んで攻略するという点では確かに新鮮ですね。そのチュートリアルさんは後のギミックの多彩さを体現…
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] おお、順調だぁ
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