第5話 初戦闘
□王都ルセス南門 クロウ・ホーク
南門ではそこそこ人が出入りしていた。
俺も流れに逆らわず彼らに倣い門の外を目指して進む。
「買いすぎたなぁ、どうしようこれ」
メニューの一覧に並ぶのは市場で買った食べ物の名前と、いくつかの装備達。
そして所持金はすでに3000スピルになっていた。
いや、言い訳をさせてほしい。
冒険の活力が沸いた俺は、こうしてはいられないと冒険者ギルドは後回しに、まずはレベル上げをするべく武器屋や露店を回っていたのだ。
その中で装備が安く売られているのを見つけた。
それらは呪われた武器といった。
プロパティを見るとマイナス補正やデメリット効果などの問題はあったのだが、最初に渡された初心者用の剣とほぼ変わりなかったので、いざという時のために買ったのである。
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スターターセット<剣>(トレード不可)
装備可能レベル:合計Lv1以上
耐久値:100/100
装備補正:STR+20、討伐時獲得経験値+100%(【戦士】限定)
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呪われた投げ石(5個セット)
装備可能条件:合計Lv1以上
耐久値:10/10
装備補正:STR-3%
装備スキル:《鈍足の呪い》
投擲動作中自身のAGIを-10%。一定期間の間ダメージを与えた対象のAGIを-20(MAX-50)
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呪われた片手剣
装備可能条件:合計Lv1以上
耐久値:40/40
装備補正:STR-30 装備攻撃力-10
装備スキル:《防弱の呪い》
殺傷した対象のENDを-30(MAX-60)
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これらの他にも呪われた装備をいくつか購入している。
装備には耐久値という項目が設定されている。
この耐久値が0になると装備することはできなくなり、鍛冶屋などで修理しないと使えなくなるらしい。
また、何度も耐久値が0になると、ロストしてしまうこともあるようだ。
耐久値が0になる前に、回復させるのが長持ちさせるコツということだな。
そして、呪いの武器は耐久値が全損すると、基本そのままロストする。
が、そのおかげで似たような性能の武器よりも安く買えた。
決して浮かれて衝動買いしたわけではない。
はい、自己正当化完了!
「おっと」
そして、なんの問題もなく、そのまま門から外に出れた。
「マップ移動とかもなかったし、完全に一つの世界として独立してるのか。オープンワールドでいいんだよな」
<モコ平野>は見渡す限りの広大な平原が広がっている。マップではこの<モコ平野>を街道沿いに進みさらに向こうの方へ行くと、他のエリアに加え、小さな村がいくつもあるらしい。
また、南には港町があるため、海鮮の類も運ばれてくるのだろう。
ふと、奥の方を見てみるとちいさな何かと戦う人影が動いているのが見えた。
そちらの方に歩みを進めると何人かのプレイヤーらしき人たちが戦ってるところがはっきり見えてくる。
俺が街を探索してる間にさっさとレベル上げにきていたらしい。
あるものは剣で、あるものは斧で、あるものは拳で、各々おっかなびっくりといった様子でモンスターと戦っている。
戦っているモンスターは<ポップラビット>と表記が出ており、好戦的な兎が最初の相手のようだ。
そこら辺に空いている穴から頻繁に出てきているようなので彼らから少し離れつつ、穴の近くを確保した。
1分もしないうちに兎が穴から飛び出してきたので、早速戦闘を開始してみる。
「よし、まずはどれくらいのダメージか確かめて、ぐっふ!?」
全力疾走をした小学生の頭突きをおなかにされたときぐらいの衝撃だろうか。
痛みはないのに、衝撃だけ襲ってくる変な感じがする。
「おお、お? 今ので10ダメージか、あと20回ぐらい食らうと死亡判定だな」
狙い通りダメージ感覚はなんとなくわかった。
物理演算も働いているようで、兎が着地の衝撃でよろけているのが見える。
「次は攻撃スキルっと《スラッシュ》!」
性懲りもなく兎がまたつっこんできたので、今度はそれに合わせて軽く剣を振るう。
SPを消費し攻撃力をあげる斬撃系基本スキルの《スラッシュ》だ。
クールタイムは10秒と書いてあったので、単純に使い勝手がいいスキルだろう。
兎の首に添えるようにしたことで、きれいに切り裂き、赤いポリゴンが周囲に飛び散る。
どうやらHPを削りきったらしく、そのままポリゴンとなって砕け散っていった。
内臓まで作り込んでいるのだろうか?
「それと、切り付ける角度とか、勢いがないとダメージが減ったりするのかは気になるな」
ここまで現実に即しているのなら角度や当たり方によってダメージは変わってくるだろうな。
カス当たりでも的確に攻撃してもダメージ判定が一定ということはないと思いたい。
【双剣士】というジョブもあったし、武器を二つ装備したから攻撃力が二倍で最強とか言い出すプレイヤーも出てくるんじゃないか?
ダメージ判定は武器ごとに異なると考えた方が自然だろうな。
アイテムボックスには兎肉が1個増えている。ドロップアイテムは自動でアイテムボックスに入るらしい。
解体の工程を挟んだら面倒だし、規制描写にもなるから当然といえば当然か。
「他のゲームの経験は最低限生かせそうだ、な」
そう、戦闘でまず確認したかったのがこれだ。
<ゲテモノファンタジー>を中心に他のVRゲームで鍛えた完全没入時の身体操作の感覚と戦闘観、いわゆる生物を傷つける恐怖を気にせず戦えるか改めて確認したかったのだ。
やはり、生きている生物を傷つけるとなると相応なストレスになることもある。
実際、過去には精神被害の訴えから、裁判にまで行ったケースもあるほどだ。
規約での同意や各弁護士のサポート、その他前例を取り出すことでなんとか和解したらしいが盛大に炎上したのを覚えている。
著名人が「人を殺すゲームやモンスターを虐殺するゲームも過去にたくさんあった。年齢制限に加えて親の同意まで行い、法令を遵守しているのにも関わらず訴えるのはおかしいんじゃないか」と言い出したときは一種のお祭り状態だったな。
三人称視点のゲームと一人称で実際に目の前で倒すVRゲームを単純比較するものでもないのだが、色々なところに飛び火したものだ。
その点<Eternal Chain>は街の中のクエストクリア報酬でも簡単にレベルが上がったため、戦いが嫌なら街中で過ごしていれば経験値ボーナス期間中なら割と早くカンストまでいけそうな印象を受けた。
チュートリアルで貰えた武器に<討伐時獲得経験値+100%(【戦士】限定)>がついていることからレベル上げの効率だけ見ればモンスターを倒した方が速いのだろうが、これはもうプレイスタイルによるだろう。
「それにしても、こんなにスムーズに動くもんなんだな」
システムアシストによるものだろうが、他のVRゲームよりもよっぽど楽に身体を動かせる。
ただ、少し動きに違和感があるので調整する必要はありそうだ。
周囲のあたふたした様子で狩りをするプレイヤーへのほんのちょっとの優越感に浸りつつ、動きを確認しながら危なげなく俺は狩りを進めた。
☆
3時間ほど経過した現在、俺は狩場をさらに進め、順調にレベルをあげていた。
モコ平野を奥に進むと<ホーンラビット>という角が生えた兎や<シンザンバッタ>というバッタ型の魔物なども出てきたが、基本避けて切るを繰り返すことで問題なく倒すことができていた。
「ふぅ、ステータスオープン」
プレイヤー名:《クロウ・ホーク》
レベル:26(合計レベル26)
メイン職業:戦士(26)
サブ職業:
HP:1020/1450
MP:20/20
SP:89/120
STR:352
END:290
AGI:154
INT:50
DEX:150
CRT:50
所持スキル
《戦士の心得》《スラッシュ》Lv2、《インパクト》Lv1《ディフェンス》Lv1
【戦士】の補正はHPとSTRとENDが高いらしい。
このままカンストするとHP3000のSTR700ぐらいになる計算だ。
ステータスの最終到達点のイメージが掴みづらいな。
また、そこらに転がっていた石を拾うと、それも一応アイテムの扱いだった。
***
石
装備可能条件:合計Lv1以上
耐久値:15/15
装備補正:STR+1
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ちなみに《インパクト》はSPを消費して、攻撃した対象に衝撃を与え弾くスキルだ。
モンスターを弾いたりもでき、<石>を野球のバットのように剣の側面でたたく瞬間に発動すれば、まぁまぁの勢いで飛んで行くのも確認した。
武器の耐久値が露骨に減ったので褒められた攻撃手段ではなさそうだが、できることを知っておくことが大事だ。
野球なんてほとんどやったことないのに、ある程度狙ったところに打つことができたので、おそらく《戦士の心得》のパッシブスキルの恩恵によるものだと考えている。
ただ、発動できるのは手と足、もしくは、それらに装備した武器や防具までらしい。
身体で受け止める際に発動しようとしてもうまくいかず、そのまま<ホーンラビット>の鋭く尖った太い角が俺のお腹に突き刺さったのだ。
《ディフェンス》は文字通り防御力を上昇させるスキルだ。
現状あまり使用する機会はない。
「レベル上げは今後の課題だな」
3時間でレベル5から26に上がっているのは早そうに見えるが、経験値が10倍になっていると考えると、ボーナスがない状態は相応に苦労しそうである。
単純に30時間レベル上げしてようやく同じぐらいになれる計算なのだ。
合計レベルが高いと適性狩場以下での経験値効率は下がるとヘルプに書いてあったため、初心者向けの狩場で無限にレベル上げみたいのは出来ないし、できたとしても効率が悪いのだろう。
「そろそろ、いい時間か」
先ほどまでの戦闘で得た情報の整理は終わった。
チュートリアルや街の散策した時間を含めるともうすでに現実で3時間近くログインしている。
一度ログアウトを試してみてもいいかもしれない。
「おーい、そこの剣を持った人! プレイヤーだよな、今時間あるか!?」
考え事をしてる時に背後から野太い声をかけられた。
今度はすぐに気づくことができたので、そのまま返事を返す。
「ああ、大丈夫だ。何か用か!」
声をかけられた方へ向くと目算およそ100m先に3人の男が立っていた。
木の陰にいたのだろう、気づけないわけだ。
彼らと俺は同時期に始めたプレイヤーだ。アバターの見た目通りの年齢でもないので、変にかしこまりすぎるのもおかしいし、向こうの声掛けもそういうのは気にしない感じであった。
今回はあくまで自然体でいこう。
プレイヤーを示す紋章が彼らの右手や左手についているのを視界に収めながら、そんな風に考えて、口調はいつも通りに返事をする。
「いや、なに。少し情報共有したいと思ってな。よければ話をしないか!」
3人組の中でもガタイのいいアバターをしている槍を背負った男がそう返してきた。
どうやら<Eterna Chain>初のプレイヤーとの交流の時間らしい。
クマの着ぐるみ? あれは交流とは言わない。