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第12話 縛られない道

□呪物屋シャテン クロウ・ホーク


 結局あの後ユティナと《念話》で軽く相談をし、依頼を受けることに決めた。


 そして前報酬として月鳴りの剣を貰うことになったのだが。


「ついてこい、裏に試し斬りができる的がある」


 レイラーに連れられて、俺は店の裏に広がっているスペースに移動した。


「こんな空間があったんだな……」


「ん? ああ、そうか。王都じゃ大結解の宝珠の効力が強すぎてできねえもんな」


 王都の街中では武器やスキルを用いたダメージを減少させてしまう。

 たとえ発生してもダメージ自体はすぐに回復される。

 自傷ダメージなどを除き、基本的に他者を害するほどのダメージを発生させることはできなかった。


 それは物体へのダメージも同様であり、故に試し斬りのようなものはできなかったはずだ。


 王都の兵士に関しては、関節技をキメて相手の動きを封じたりと拘束術に長けているらしい。


「治安の維持担当って言ってたけど、やっぱこの街には大結界の宝珠はないんだな」


「そうだ。赤子のためにダメージ減算を発生させる簡易型の魔道具こそあるが、それぐらいだな。街規模の結界なんて王都ぐらい厳重にする必要があるところ以外ほとんど使われねえよ。コストがかかりすぎる」


 レイラーは人間ほどの大きさの人形を持って来てその場に置いた。


「藁人形?」


「そうだ、呪いの藁人形だ。《呪物(カース・オブ)操作(・マリオネット)》」


 そして、藁人形は動き出す。

 それは自らの動きを確かめるようにストレッチをし始めた。

 レイラーが操っているのだろう。


 《呪物操作》は、【呪術師】で習得できるスキルだ。

 習得レベルは25なので、ちょうど俺が次に覚えることができるスキルである。


「動かねえ的よりもこっちの方がいいだろ? ほれ、適当に斬ってみろ」


 それがスタートの合図だったらしい。

 藁人形はどたどたと走りながらこちらに向かってくるので、俺は剣を構える。

 人形は腕を大きく振り被り、振るってきた。


 余裕をもって躱し、振り切って隙だらけの人形に対して。


「《スラッシュ》」


 一思いに、振り斬る。


 呪いの藁人形はその衝撃で軽く吹き飛び倒れて動かなくなる。

 そこには斜め一線の斬り後が刻まれていた。


「お、おお」


 なんだろう。

 呪いの武器ばかり使っていたからか安定感が違う。

 耐久値が高い武器というのはこういうことなのか。


「使い心地はどうだ」


 レイラーは呪いの藁人形を浮かべながらそう聞いてきた。

 どうやら《呪物操作》は簡単に呪物を浮かせることもできるらしい。

 そして時間経過と共に先ほどの斬撃後が縫い込まれるように修復されていた。

 やけに多機能だな……


「悪くない、というかなんなら良すぎるぐらいだ」


「そりゃよかったな。そんじゃこれがその剣の鞘だ。受け取れ」


 そして、俺は鞘を投げ渡される。


「手入れの方法はわかるか? 見えるもんがすべてじゃねえからな。手入れのされねえ武器は鈍らにさえ劣る、覚えておけよ」


 耐久値に任せて胡坐をかくなとレイラーは言いたいのだろう。

 目に見えて切れ味が変わるようなことはないようだが、事実耐久値の消耗の速さなどに関連してくるらしい。


「この剣は誰が作ったんだ? ハンドメイドだよな」


「俺が打った」


 レイラーはぶっきらぼうにそう答える。


「【鍛冶師】なのか」


 【高位呪術師】に加えて【鍛冶師】のジョブも持っているのだろう。


「いいや、俺は【鍛冶師】なんてジョブにゃついてねえよ」


 そんな俺の予想とは裏腹に、レイラーは【鍛冶師】ではないと答える。


「親父が【鍛冶師】でな。ガキの頃からそれを見て育った。店に鍛冶場があるのも、こんな試し切りのスペースが設けてあるのもそれが理由だ」


 どうやら、レイラーの父親は鍛冶師だったらしい。


「……気になるか?」


「確かに、なんで武器を作ってるのかは気になるな」


「ま、先にお前さんに意見を聞いたのは俺の方だしな。俺が答えるのも道理と言えば道理か。そうだな、俺の考え方にも関係するんだが……」


 そして彼は、レイラーはスキルに対する私見を話していく。


「ジョブや天職は契約の神が俺達に授けた恩恵の一つだ。どんな馬鹿でも、ジョブ一つスキル一本極めりゃ何らかの仕事にゃつける。それが本人が望んだものか、望まざるものか。良いモノか、悪いモノかは置いといてだ。旅人のお前さんなら余計にわかるんじゃねえか?」


 レレイリッヒたちが作った組み立て式キャビンなどが最たるものだろう。

 あの技術をもし現実で使うことができるなら、どれだけ革新的かは言うまでもない。


 スキルを使用することでできることは多義にわたる。

 それを、俺達プレイヤーはこの身をもって知っているのだ。


「が、所詮スキルはスキルだ」


 しかし、NPCは、この世界で生きてきたレイラーはそうではないと言った。


「同じスキルであろうと、似たようなステータスであろうと、使うものの力量が違えばより()()()奴の方が強い。そもそも飯を作るのも服を縫うのも……家族の面倒を見るのもスキルなんてなくたってできる」


 なんならスキルでできないことの方が多いのだと。


「結局は使い方次第さ。スキルに縛られた人生なんてつまんねえ、だろ?」


 レイラーは俺に同意を求めるようにそう続けた。


 視点が違えば価値観も変わる、か。


「だから俺は金槌を振るう。【鍛冶師】のスキルがなきゃ武器の手入れ一つ時間がかかる。なんなら作り出せねえモノだってある。それがどうしたってだけの話さ」


 彼は呪いの藁人形をしまうと同時にそう話を締めくくった。


「いわばただの趣味だな。どうだ、疑問はこれで解決したか?」


「……アフターサービスも完璧だな」


「商品に関する質問があれば受け付けるって最初に言ったろ? 俺は俺の仕事をしたまでさ。そんじゃまぁ期待せずに待ってるぜ。2日後の昼だからな。他の用事があって無理ってんなら早めにキャンセル頼むぞ。慰謝料は取らないでおいてやるよ。その剣はもうお前さんのだ」


 話はこれで終わりらしい。

 なら、追加で確認できそうなことはしておこう。


「ちょっと2つほど質問があるんだがいいか?」


「いいぜ、手短にな。向こうはもう終わりそうだ」


 レイラーは店の2階、ラリーとユティナの気配がある場所を見ながらそう言った。


「レベル上げをするならどこがオススメなんだ。一応確認しときたくてな」


「……ダンジョンだろうな。そのレベルなら7階層当たりがオススメだ」


 やはり、ダンジョンか。

 一度潜るのは確定だな。


「それでもう一つの質問って言うのは?」


 レイラーは次を促してきた。

 どちらかと言えばこっちが本命だな。


「ここら辺に観光スポットってあるか」


「……は?」


「いや、俺達冒険者としての活動もそうだけど、美味しい飯とか絶景を見るのが目的でさ。ネビュラに住んでいるレイラーの意見も聞けたらなぁ、と」


 レレイリッヒ達のプレイヤー視点のおすすめは色々聞いた。

 なら今度は現地の、この街の住人の意見を聞いてみてもいいだろう。


「おま、俺にそれを聞くのか……」


 彼は、正気を疑うような顔で俺のことを見ていた。


「レイラーの意見だから聞きたいんだよ」


 だから、俺は再度はっきりとレイラーの目を見て言った。


 しばし、場が静寂に包まれる。


 これは……ダメか?








「……星天の日」


「ん?」


「星天の日は、夕刻から夜にかけて、ダンジョンの影響で空に特殊な魔力の籠った膜がかかる」


 レイラーはぽつぽつとこぼすように話し始めた。


「それは地上からの光だけを遮る特殊な膜で、夜にかけて特性のピークを迎える。今回は、大体ことが片付いた後になるはずだ。外光のない山の中でそれを通してみる星空は悪い景色ではない、はずだ……」


 それは、彼が毎回僻地にある村を防衛しに行っている話と繋がっていて。

 確かに兵力に不安があるであろう村のサポートに回るという意味もあるのだろうが。


 その景色を毎回楽しみにしていたであろうことはなんとなく、わかった。


「……ぷっ」


「……笑いやがったな?」


「悪い、悪かったって! でもそんな悪態付きながら親切に教えてくれるもんだから」


「ちっ、ほらさっさと出てけ。金のない貧乏人は出禁だ出禁。冷やかしなら帰れ」


「言われなくとも、貧乏人はさっさと去りますよっと」


 俺は逆らうことなく出口へと向かう。


 これ以上は無粋だと思ったからだ。


 せっかく、彼が教えてくれたのだ。

 嫌っている旅人の俺に対して親切にも自分のオススメを教えてくれたのである。


「2日後、楽しみにしとくよ」


 だから、ありがとうとお礼を伝える。


「……はぁ、お前さんに教えるんじゃなかったな」


 レイラーはどこかくたびれた様子で、どういたしましてと、そう答えた。

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― 新着の感想 ―
レイラーかっこいいし、クロウの師匠ポジ的な感じが凄く好きです。この辺からNPCって概念が薄れてきたというか、人間味溢れてていい感じです。 以下妄想なので返信不要です。月鳴りの剣のプロパティが揺らいだ…
[良い点] ジョブはあくまでその道の補助……というには恩恵が大きいけれど、ジョブについていないことが適性なしに繋がるわけではない、スキルがないからできないではなく、スキルではないから効率なりなんなりが…
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