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第11話 呪物屋シャテンのおもてなし

□呪物屋シャテン クロウ・ホーク


「いらっしゃ……旅人、か」


 店に入ると、そこには多くの商品が並んでいた。

 ポーションのようなものがずらりと棚に並び、他にも鉱物や布など、種類も豊富であった。

 ここにあるものの大半が呪物なのだろう。


「ただいまー! お兄ちゃんダメだよそんな顔しちゃ!」


 ラリーは頬を膨らませながら、その男性に注意をする。

 お兄ちゃん、ということは目の前の人物がレイラーと呼ばれている人物であっているらしい。


 髪色は暗い赤色。

 肌は日焼け色というのか少し黒い。

 年は俺よりも少し上だろうか。

 20代前半から半ばといった印象を受けた。


 ターバンのようなものを頭に巻き、けだるげそうな顔でカウンターの椅子に座っている。

 軽くてだぶだぶした明るい色の衣服を着ており、どちらかというと砂漠でみるような民族衣装というような感じだ。

 首飾りや指輪、腕輪など、これでもかと装飾品を身に纏っている。


 レイラーはラリー、そして俺たちと流れるように見渡す。


「……はぁ、また人様に迷惑かけてんのか」


 そして、勘弁してくれとでもいうようにラリーに話しかけた。


「違いますぅ! ほら、お兄ちゃん最近全然お客さん呼びこんでないでしょ? じゃーん! 私が呼んできてあげました!」


「別に頼んでな……」


「ユティナ、こっちこっち! 私のお気に入りがあるの! そうだ、一緒に作ろ? ね!」


「って聞いてねえし」


 ラリーはレイラーの話を無視しユティナのことを店の奥の方へ手招きしている。

 この会話が彼らにとっての日常なのだろう。


「え、ええ……お邪魔していいのかしら?」


「……問題ない。ラリーの相手をしてやってくれ。頼む」


 ユティナは店の奥に入ってもいいのか家主に確認を取り。


「早く早く!」


「ええ、今行くわ」


 そして、彼女たちは店の奥に消えていった。


「理由はわかった。うちの妹が迷惑をかけたな。まぁなんだ、適当に見てってくれ。商品に関する質問があれば受け付ける。えーと……」


 営業スマイルだろうか、レイラーは少し疲れた顔で頬を引き攣らせながら不恰好な笑みでそう話しかけてきた。


「クロウです」


「……こんな接客態度の店員に敬語を使う必要はないぜ」


 どうやら、敬語はやめてほしいらしい。

 その方が俺としても気兼ねなく話せるので断る理由もない。


「あー、わかった。これでいいか?」


「それでいい。その方が俺としても気が楽だ」


 安心したような顔をしているが、どれだけ敬語が嫌だったんだ?

 第一印象は掴みづらい人物といった感じだ。


「いや、質問というわけじゃないんだが」


「なんだ、なにか気になるもんでもあったか?」


「最初の呟きがどういう意味か気になってな。あと品揃えも良さそうだし、妹さんが危機感を持つようには到底思えなくて」


 俺は、ポーションと並ぶような形で置いてあった商品を一つ見る。


<狼恨の邪香>

狼系のモンスターの怨念を籠めたお香。

効果適用中一部の狼系モンスターの注意を引き付ける。

効果時間:30分


 王都ルセスでは、呪術師が経営する店が見当たらなかったのもあるが見たこともない効果のアイテムばかりだ。

 この<狼恨の邪香>も2000スピルとなかなかに高額だが使いどころによってはかなり便利なアイテムに見える。

 他にも似たようなヘイトを集めるアイテムであったり、一部の種族のモンスターに一時的に特攻能力を付与する塗り薬であったり。


 とてもお金に困ってそうな店には見えない。

 旅人が買わなくても、兵士やギルドで重宝しそうなアイテムばかりなのだ。


「それはだなぁ……」


 レイラーはばつの悪そうな顔を浮かべる。


「そうだな。隠すのは好きじゃねえし、お前さんは違いそうだから別にいいか。妹は商品が売れないとこの店が潰れるって勘違いしてるんで、それはいいとしてだ」


「いや、誤解は解いておいてやれよ」


 余裕がないと勘違いしたから行動に起こしたんだろうし。


「いいや、これで問題ない」


 それだけ言って、彼は話を続けた。


「旅人のお前さんに聞くのもおかしな話だが、同じ旅人のことをどう思ってる?」


 そしてレイラーは旅人、つまり他のプレイヤーのことを俺はどう思っているか聞いてきた。

 そういわれてもなぁ。


「……よくも悪くも癖が強い連中が多い、かな?」


 少なくとも、俺が関わってきたプレイヤーは一癖も二癖もあった人物ばかりであった。

 比較的まともであるりんご飴もレイナ信者という一面を持っているし、本当の意味で純粋だったのはゴン太郎ぐらいであろうか?


 いや、俺がなかなかに偏った交流をしているだけかもしれないなこれ。

 なんか自信を失ってきた……


「俺と大方同じだな。ま、その旅人の急激な増加に割を食ってるやつもいるってこった」


 レイラーは嫌な物を思い浮かべたような顔をしながら続ける。


「俺からすればはた迷惑な連中も多いって印象だ。必要なことだとはわかるしお偉いさんの意図もわかるが、その結果治安維持のために兵力を割いてるんじゃ世話ねえな」


 それは、旅人の急激な増加による混乱のことを言っているのだろう。

 PKの出現もそうだし、経済的にも、治安の側面でもかなりの影響を与えたのは確かなのだ。

 レイラーは仕方ないと思いつつも、やるせない思いを抱えているのだろう。


「人のこと道具かなにかみたいに高圧的に接しようとする奴らもいてな。そん時は頭にきたんで全員店から追い出しちまった。なんでよりによって星天の日を控えてる時期に来ちまうかね」


 男は頭を搔きむしる。


「何かあるのか?」


「あー、いつも色々調整して、星天の日はいざという時のために遠くの村にいるんだが、今回は治安維持のために兵士を国の各地に使っている都合人手不足でな。俺はネビュラ近辺の作戦に参加することになって、ああ、ダメだ。愚痴ばっかでてきちまう。また妹にどやされる……」


 星天の日によるモンスターの活発化はどうやら思っていた以上に規模が大きいらしい。

 この場合、規模が大きくなる可能性があるとでもいうべきか。

 そのために、戦力に不安がある村の方へサポートに行っていたようだが、今回はネビュラ周辺を担当するため行けないということらしい。


「ネビュラに避難とかできないのか?」


「人が一カ所に集まるとモンスターの大移動が起きる可能性がある。分散的に対処する方が結果的にリスクを減らせるんだ。各地に散らばってるのはそれが理由だし、農作物含めていろんな事情で村を離れられない連中もいるんだよ」


 モンスターの活発化によって群れが巨大化するのが一番恐れる事態ということか。

 混乱が混乱を呼ぶのを避けるために、各地で同時に対処する方がいいということなのだろうが。


「年に一回なら選択肢としてはそれもありだ」


 ということは、年に何度も来るということか。


「ただ、現実は周期があるとはいえ厳密な日時は割り出さないとならん、だいたい4ヶ月に一度は来るんでね。大きい時もあればほとんど変化もない時もあるし、必要なのは柔軟な対応ってわけだな」


「それは大変だな」


 なかなかに大変そうだ。 

 しかし、それをしてでもここに街を維持する理由があるのだろう。


 それほどまでにダンジョンの恩恵は大きく。

 それほどまでにモンスターの活発化を静観するリスクが大きいということか。


「ま、今回は規模としては中の下っていったところだ。商業ギルド経由で信頼できる代わりの人員を用意するように指令をだしてるし問題はない……ちなみにお前さんレベルは幾つだ」


「74、ジョブは【戦士】50の【呪術師】24。お、剣がある」


 俺は壁にかけてあった剣を確認する。

 シンプルながらにカッコイイ見た目をしていたのだ。

 それは剣身は暗い青を基調に、柄にはところどころ星のように黄の宝石がちりばめられていた。


***

月鳴りの剣

装備可能条件:STR600以上、 INT300以上

耐久値:332/332

装備補正:STR+269、INT+53、CRT+98

装備スキル:《月光研磨》

【夜】・【月】の環境において、与ダメ―ジに応じ耐久値が微量回復。

***


 呪いの武器ではないのか?

 プロパティの表記揺れから見るにハンドメイドの武器っぽいな。


「いいな、この剣。値段は? 書いてないけど」


「……なんだ、欲しいのか?」


「あー、今金欠で。剣を新調しようと思ってたから値段感が知りたくてな。冷やかしがダメって言うなら別にいいけど」


「……9000スピルだ」


「それぐらいはするか。優秀だもんな耐久値回復のスキル。なにより見た目がいい」


  夜でなおかつ月明りが差している環境に限るということは、洞窟の中だとうまく効果を発揮しないのだろう。

 森の中や平野、つまり屋外に限った条件発動型のスキルらしい。

 ただ、条件付きとはいえ耐久値を回復するスキルがあるのは非常に使いやすいはずだ。

 普通よりも長持ちするだろう。


「こんな場末な道具屋で売ってる剣なんざよりも、大通りの武器屋に行けば同じ値段でもっと優秀な装備を買えるぜ。月鳴りの剣はここいらじゃ有名な武器の一つだし、その性能で9000スピルはちと高い」


 それは、もっと優秀な鍛冶師が打った武器の方が強い武器を買えるということなのだろうが。


「いや、この剣がいい。一目見てびびっときた。機能美っていえばいいのかな。ちょっくらお金貯めてくるんで取り置きとかできるか?」


「もの好きだなお前さん。そうだなぁ……」


 背後にいるレイラーが椅子から立ち上がったのを《気配感知》で、音で、空気の振動で認識する。


 衣擦れの音、おそらく彼は腕を上げこちらに向けていた。


 そのまま、流れるように。









「《呪弾(カース・バレット)》」









 攻撃が放たれた。


 声が発せられた高さ、こちらに向けられていた視線、先ほどの位置関係からおおよその軌道を予測。


 見てからでは間に合わない可能性が高いため、常に収集し続けていた情報と直観のままに回避行動に移る。


 右足を軸に左足をずらす。

 その過程で視界の端に呪いの弾丸の軌道を捉えた。


 予測通りの軌道のため、そのまま回避を続行。

 次に備える。


 そのまま半歩横に移動し()()()()()()()()()()()()を躱す。






 ──そして、半身の姿勢のままレイラーと向かい合った。






「……おい、追い出すにしても順序とかやり方ってもんがあるだろ」


 レイラーが着けていた指輪の宝石部分が俺の方に向けられている。

 そこから《呪弾》なる攻撃が放たれたであろうことは明白だった。


「別に死にゃしねえよ。現に壁に傷一つついてねえだろ? 加減はしてある」


 ちらりと見れば、確かに《呪弾》が当たった壁には小さな傷一つついていない。


「俺の不意打ちを避けたな? それも、最小の動きでだ。お前さんはただ振り返っただけだ。それだけで、攻撃を避け、姿勢を整えつつ、警戒対象を視界に収めた」


 レイラーの双眸が細まる。


「たまたまじゃねぇ。俺のことを、いや、《気配感知》で認識できる対象も、それ以外も全て警戒していた。その上で自然に振る舞っていたわけだ。演技ってわけでもねえ。息をするように出来ている。常日頃から周囲を警戒している証拠だな」


 レイラーは椅子に座り直す。

 先ほどまでと違い、どこか楽しそうだ。


「攻撃に対する知覚の精度も悪くねえ、なんなら良すぎて気持ち悪いぐらいだ。俺が行動を起こした瞬間にはすでに大したダメージにならないと理解していたな? 第二第三の攻撃を警戒しつつも、それが必要ないことも理解していたな? 現に口では怒っているが、それはただのパフォーマンスだ。冷静さを失わない余裕もある」


「避けれる程度に調整しといてよく言うよ」


「逆だ、ここまできれいに避けられると思ってなかったんだ。もう少し撃つのを早くしてもよかったな。お前さんのことを舐めてた、反省しよう」


 いや、もっと別に反省するところがあるだろ。


「常在戦場。基本中の基本だがこれができてない旅人ばっかでな。昔じじいから聞いてた話と違いすぎてここ数日はずっと困惑してるところだったんだ。安心したぜ」


 俺はこれっぽちも安心できないけどな。


「ネビュラにはいつ来たんだ?」


「今日、というかつい1時間ぐらい前だな」


「ってことは王都の方で騒ぎがあったってあれか。なるほど、戦い慣れしてる連中はそもそもこの街にほとんど来てなかったんだな。道理で物足りねえわけだ」


 いきなり攻撃を仕掛けてきておきながらなんという傲岸不遜な態度なのだろうか。

 接客態度よりもこっちのほうがよっぽど問題だろう。

 たまに突拍子もないことをやるから気をつけろと言っていたがこういうことか。


「相手がモンスターであろうと人であろうと基本は変わらねえ。油断したやつから死んでいく。戦いを生業としておきながら街の中だからって呑気にボケーっとしてるやつに背中を預ける気にはならねえからな……はぁ」


 それは彼にとって納得するための時間だったのだろう。


「これならお偉いさんの意図も理解できる。ま、元から受け入れる以外の選択肢はないわけだが……」


 レイラーはどこか仕方がないとでもいうように、自らに言い聞かせるように話を進める。


「その剣はやるよ。正直武器に関しては全く売れなくてな。売れ残り続けるよりも欲しいって言ってるやつの下に行った方がそいつも武器冥利に尽きるだろ」


 そして、突然そんなことを言ってきた。


「いいのか? 随分と太っ腹だな」


「ああ。ただし、依頼の前報酬って形だがな。妹共々迷惑を掛けちまったから別にそのまま渡しちまってもいいんだが、話だけでも聞いてみないか?」


 依頼だと?


「さっき言ってた星天の日に関連するやつか」


「察しがいいな。話が速くて助かる。星天の日は2日後の夜だから、そうだな。2日後の昼の12時にまたここに来れるか? できればレベル85はあると望ましい。今のままでもいいができればって話だ。旅人のお前さんらならできるんだろ?」


 命を担保にいくらでも命がけのレベル上げができることを言っているのだろう。

 俺たちはどれだけ死のリスクがあろうとも痛みを恐れず、死を恐れず、レベル上げに励むことができる。


「依頼内容は星天の日の夕刻から夜にかけて活性化のピークを迎えるネビュラ周辺のモンスターの討伐および護衛依頼。護衛対象はココナ村っていうところだ。前報酬に月鳴りの剣、無事に依頼達成で一つなんでも質問に答えてやろう。なんなら冒険者ギルドに便宜を図ってやってもいい。これでどうだ? 一応商業ギルド任せだが他の旅人にも声をかける予定だから、合同クエストみたいな形にはなるな」


 そのまま、彼は報酬の話に入るが。


「いや、ギルドに便宜ってなんのことだよ」


 その言葉は、まるでレイラーが冒険者ギルドの重役にいるようで……


「お前さん本当になんも聞いてないのか……そうだな、一応名乗っておこう」


 そして、常にけだるげそうにしていながらも男は自己紹介だと襟を正した。

 それを受けてじゃらりと多くの装飾が音を立てる。


「俺は【高位呪術師】レイラーだ。合計レベルは300。この呪物屋シャテンの店長にして、冒険者ギルド、ダンジョン都市ネビュラ支部の副ギルド長代理筆頭とかいう何の意味もねえ糞めんどくさい肩書を持ってる」


 彼の言葉の節々から、どこかこの街に対する責任感を感じられたのも当然だろう。


「ギルド長も副ギルド長もこの街の領主様も全員いない時に代理で冒険者ギルドを統括するだけの、普段は路地裏の治安維持を担当しているだけの、そんな暇人さ」


 自らを暇人と称する、この街の裏の顔というべき男は。


「んで、受けるかい? この依頼」


 レイラーは俺のことを試すように、そう告げた。





─システムメッセージ─

【共通クエスト】難易度4【ココナ村の防衛依頼】

場所:ココナ村

依頼者:【高位呪術師】レイラー

目的:星天の日にてダンジョン都市ネビュラ北東部に存在するココナ村の防衛。

報酬:月鳴りの剣(確定)+ 経験値(中)+???

備考:環境不安定のため難易度が変化する可能性(高)

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[良い点] 責任もなく遊びに来て好き放題やってる大多数の厚顔無恥と、その世界に生きてはた迷惑な来訪者に煩わされてる統治者では、うんざりするのも致し方なし。まさしく常に危険と隣り合わせとばかりに冒険をす…
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