第10話 祝福されし少女
□ダンジョン都市ネビュラ クロウ・ホーク
「それで、お礼と称してお店に客として招き入れるために一芝居うっていた、と……?」
先ほどの犬耳の少女と、ガタイのいい男。
それに加えて何人かの取り巻きらしき男達にそう問いかけた。
「はい、その通りです……ほら、姉さんも説明してください」
ガタイのいい男は犬耳の少女のことを姉さんと呼び、少女はしずしずと話を始める。
「最近冒険者さんが増えて、せっかくの稼ぎ時なのにこないだお兄ちゃんが旅人のお客さんを全員力づくで追い出しちゃってね。ただでさえお店は人が来にくい場所に構えてるのに……」
どうやら少女の兄がこの近辺で店を開いているようだが、客の入りが悪いようだ。
大通りから外れてるとなると確かに来づらい立地ではあるかもな。
「私も何かできることはないかって考えて、でも危ない人には話しかけちゃダメって言われてたから……」
少女は兄のために自分にできることはないかと考えていたのだ。
「それなら、正義感の強い人なら大丈夫なんじゃないかって!」
そして少女はぐっと握りこぶしを前に突きあげる。
これは名案だとでも言いたげな顔だった。
どうしてそうなる。
「俺たちは止めました」
「でも、姉さんがどうしてもっていうから……」
「え、みんな!?」
話を纏めるとこうだ。
まず彼女たちはネビュラの住人で、路地裏の迷路は庭のようなものらしい。
男たちもここら辺に住んでいたり冒険者だったりするようで、犬耳の少女とは顔見知りだというのだ。
そして、犬耳の少女の名前はラリー。
年齢は13歳、兄と2人暮らしをしており将来の夢は服飾系の仕事と元気よく自己紹介をしてくれた。
彼女の兄が経営しているお店があるそうなのだが客の入りが悪いらしく、ならばお客さんを連れてくればいいというのがことの発端と。
……一部余分な情報があった気がするがそれは置いといて。
「なんで姉さんなんだ……」
目の前の少女は明らかに他の男たちより年下だ。
「えーと、それはですね。彼女のお兄さんに逆らえないみたいなところがありまして……」
男の一人が俺の耳元で少女に聞こえないようにそう零す。
「お、おう。そうなのか……って」
話しかけてきた男を見ると、俺が裏路地散策中に露店商で石を売りつけようとしてきた男だった。
なぜいる。
「……あのぼったくり紛いの露店商は?」
「兄貴の人となりを見るためでさぁ。危なそうだったら真っ先に姉さんの計画は中止してました。数々のご無礼、お許しください」
「どさくさに紛れて兄貴って呼ぶな」
違和感の正体はこれか。
闇市のように治安が悪いように見えて、実際にはここにいる住人たちによる実地調査の一部だったわけだ。
「あの三文芝居は?」
「旅人さんはああいう王道の展開が好きというのが最近わかったので、街に来てる劇団や吟遊詩人、過去の英雄譚を参考に考えました。あと姉さんの趣味が入ってないといったら嘘になります。ロマンチストなんです」
あの演技も、ラリーの趣味が多分に入っていたらしい。
「俺以外にも旅人はいただろうに……」
おそらく、旅人を追い出したというところがネックだったのだろう。
だからラリーは旅人に拘った。
「あのタイミングで近辺にいたのが黒マントで全身覆いつくして独り言を零していた怪しい人物と、変な歌を歌いながらタップダンス踊ってる人と兄貴しかいなかったんですよ。そこのユティナさん、もいるので悪いことにはならないと判断しました」
見れば、少女に見えない角度で申し訳なさそうに頭を下げている男たちがいた。
「悪い子じゃないんですよぉ。いつも孤児院に顔をだして子供たちの面倒を見てくれてますし。どうかここはラリーのためと思って!」
慕われている、というよりも大事にされているのだろう。
これも身から出た錆、か。
(ユティナ、すまんが……)
「ユティナの髪の毛さらさらね!」
「そう? 嬉しいわ。それにしてもラリーの耳はどうなっているの? 私も触ってみてもいいかしら?」
「いいよ! そうだ、私の家においでよ。髪飾りとかもあるからつけてみない? きっと似合うと思うんだ!」
ユティナはいつの間にかラリーと仲良く話をしており。
(クロウ、行きましょう?)
ちらりと俺のことを見て、ユティナの方から提案してきた。
(……そうだな。隠れた名店かどうかはそのお店とやらに期待するとしようか)
「ええ、楽しみね」
☆
「みんなありがとう!」
ラリーは男たちに笑顔でお礼を言った。
それを受けて、各々が反応を返す。
「へへっ」
「いやいや、いやいやいやいや!」
「レイラーの旦那にはよろしくお伝えくだせえ!」
……嬉しそうだな。
なんか全員すごいにやけている。
さっきラリーを置いて逃げ出そうとしていた連中とは思えない。
あれが日常茶飯事なのだろうか?
そうなんだろうな。
「うん! ユティナ、クロウ、こっちだよ!」
そうしてラリーは先導する形で俺たちの前を歩きだした。
「それで、ラリーの家は近いのかしら?」
「5分ぐらいだよ」
ユティナとラリーの会話を見つつ、俺は少し離れ後ろの方で後を追う。
『……あに……兄貴、聞こえますか』
「聞こえてるよ、それで伝えておきたいことがあるんだっけか」
俺は先ほど別れた露店商をしていた男とラリーやユティナに聞こえないように小さな声で会話を続ける。
《囁風》を使用しているそうで《気配感知》で届かない距離から会話をしているわけだ。
『ええ。まず、ラリーは風精霊の【恩寵】持ちなので……』
「ちょっと待て、いきなりわからない単語がでてきた。【恩寵】?」
『あれ、知らないんですかい?』
簡単に話を聞くと、この世界の住人は【恩寵】や【加護】そして【異能】と呼ばれる、特殊な能力を持つことがあるらしい。
【恩寵】は精霊や信仰を獲得した一部のモンスターからの祝福を。
【加護】は世界からの祝福を。
【異能】は世界の法則から外れた力を。
俺たちの<アルカナ>のようなものだろうか?
「珍しい能力を持っていることはわかったけど……隠しといたほうがいいんじゃないのか?」
『いえ、兄貴なら問題有りません』
「いや、まぁいいけど。それで?」
『ラリーを本気で悲しませて泣かせないように気を付けてください! ほんと、マジやばなんで!』
切羽詰まったような声が聞こえてくる。
「あー、さっきの話からするに精霊の恩寵、だっけか? それが暴発したりするのか?」
『ええ、まぁそんな感じっす』
感情の昂ぶりでコントロールが効かなくなるわけだ。
正直、いきなり言われてもどんな風に「マジやば」なのかわからないし困惑の方が強い。
【恩寵】とか【加護】とか初めて聞いたぞ。
「実際どのくらいがアウトなんだ。さっきの俺の通報ネタはどれぐらいやばかった?」
普通にラリーは泣いていた気がするが……
『あれぐらいなら問題ないですね。誕生日にプレゼントで貰った大事なコップを間違って落として割ってしまったぐらいの悲しみがアウトラインです』
「やけに具体的だな……」
絶対実話だろそれ。
『もう一つは、レイラーの旦那は悪い人じゃないです。察しもいいので何があったかすぐにわかってくれると思います。ただ、たまに突拍子もないことをやるんで気をつけてください』
「レイラーって、これから向かう店の店主の名前か?」
『ええ、はい。あ、そろそろ着きますね、俺も見回りの仕事があるのでこれで失礼します』
そう言って、《囁風》の効果は切れてしまった。
「見回りの仕事はほんとなのかよ……」
そんでめっちゃ便利だなこの魔法。
「【呪術師】のレベル上げが終わったら、次は魔法使い系のジョブをとってみてもいいかもな」
このゲームはちゃんと詠唱すれば誰でも魔法を発動できるらしいからな。
ラグマジとはえらい違いである。
ラグマジと差異はあるのか気になるところではあるが……まあなるようになるだろう。
「着いた! ここが私の家でお店だよ!」
路地裏の中でも比較的開けた場所にその建物はあった。
「呪物屋シャテン、か」
俺はその店名を見て、思わず読み上げる。
図らずも、俺にとって呪いについての先達が経営している店らしい。
「いらっしゃいませ! 呪物屋シャテンへようこそ!」
そしてラリーは振り返り、営業スマイルと共に俺達のことを歓迎した。




