第7話 ダンジョン都市ネビュラ
□バイズ街道 クロウ・ホーク
「おーい、そろそろ着くぞ!」
「お、もうそんな時間かい」
御者をしていたプレイヤーから声をかけられる。
ずっと光になれやら雷のように激しく駆けろと叫んでいたが、言葉とは裏腹に終始安全運転だった。
「いやぁ楽しい時間はあっという間だね! あと、クロウもユティナも本当にありがとう。とても参考になったよ」
お礼を言うのは俺の方だろう。
「こちらこそ助かったよ。ありがとな」
彼女たちのおかげでかなり時間を短縮することができた。
本来であれば、今日はダンジョン都市ネビュラまでフルマラソンの予定だったのだ。
「いやいや、いいんだとも。それで、クロウ達はダンジョンに挑戦するんだよね?」
「ああ、とりあえずどんなものか一度確かめたくてな。レレイリッヒは潜ったことあるのか?」
「そうだねぇ……」
レレイリッヒは少し思案する。
何か気になることでもあるのだろうか?
「いや、すまない。ダンジョンについてだね。率直に私の意見を言うのであれば……あれは、異界だよ」
「異界?」
レレイリッヒはダンジョンは異なる世界であると、そう評した。
「どういう意味かしら?」
「見ればわかるさ。ほら、そろそろ視界に入ってくるよ」
そう言ってレレイリッヒは、御者の方を、進行方向を見るように促した。
俺たちは導かれるように視線を動かし……
「……なんだ、あれ」
それはあった。
「ダンジョン都市ネビュラはね。別にダンジョンがあるから、ダンジョン都市と名乗っているわけではないんだよ。他国にもダンジョンがある町は存在しているけれど、成り立ちが、構造が違う」
大きな木だ。
現実では見たこともないどこまでも、どこまでも大きな木がそこにあった。
かなり距離が離れているのに、目の前にあるのではと錯覚するほどの巨木だ。
「ダンジョンにアクセスするための門があるのはどこも同じさ。ただ、神の創造物とでもいうべきそれは、そこにあるだけで周辺の環境に影響を与えるものらしい。そして、ネビュラにあるダンジョンは特別その色が強いらしくてね。あの木を中心に多くの山々や森、川含めてここら辺はダンジョンの影響を色濃く受けている世界的に見ても珍しい環境らしいよ」
その木を囲むように外壁が建てられていた。
それはつまり、街の中心にあの大樹が存在しているということだ。
「ダンジョン【月光の樹海】。あれはその表層の一部でしかない。あの巨大な木の根元に異界へとつながるダンジョンの門は存在しているんだ。ただ、ダンジョン門があるというだけで、その影響を受けて、あの大樹は生まれたんだってさ」
レレイリッヒがダンジョンを異界といったのも、周辺に与える影響を加味してのことだろう。
ただそこにあるだけで、あれだけの影響を与えるのであれば納得だ。
「そして、ダンジョンのために人や物が集まり一つの文化圏を構築したのがあの街だ。眠らない街、とも言われているね」
ダンジョンがあったから生まれ、ダンジョンの影響によって栄えている街。
故にダンジョン都市。
「ようこそ、ダンジョン都市ネビュラへ。ロマン溢れる街であることは私が保証しよう」
☆
「よーし、みんな解体するよー!」
「ういーす」
ダンジョン都市から少し距離を置き、街道から外れているところで魔車の解体が始まった。
他の商人や冒険者であろうプレイヤー達は少し興味深そうにしながらも止まることなく俺達の横を通り過ぎていく。
門の周辺は人の出入りも激しく、魔車では邪魔になるため徒歩で街の中に入るらしい。
この取り回しの良さも組み立て式の特徴なのだろうが……
「解体したら座席部の木材壊れました、これ以上使えません!」
「1、2回組み立てと解体をしたらもう無理そうだな」
「これが安い木材の限界か。ルセスで解体したときも結構いかれたし。おーい、買い足しのリストに加えといてくれ。あとこれも報告事項に記載しとけよ」
「もう書いてあるー! ほかに気づいたことあったらどんどん言っていってー!」
「費用が嵩むとなるとあんま効果ないかもしれないね。値段を抑えつつ頑強さを確保できるようにしないとだ」
彼らは話をしながら解体を進めていく。
「なんか、色々大変そうだな」
「当然といえば当然だけど組み立てた後に元の素材に戻すのは劣化が激しいみたいでね。品質が下がるっていえばいいのかな? 商業ギルドと連携してる取り組みだから報告用の資料も簡単に準備してるんだよ」
使い捨てキャビンもいいところばかりではないということだ。
「解体すれば100%素材が戻ってくるわけでもないし、買いなおしたりする手間や費用のことも考えると、普通に魔車のサービスを使用したほうが安上がりなんてことにもなりかねないんだよね。だから色々確認しているってわけさ」
レレイリッヒはそう言うやいなやアイテムボックスから机やいすを取り出し作業スペースを確保していく。
「解体に時間はかかるし、私たちは商業ギルドから別の依頼も受けててね。しばらくはここで作業するからクロウとユティナとはお別れかな?」
報告用の資料の準備など含めて、ここで一息つくのだろう。
「ああ、またな。俺としてもいろいろ学ぶことが多かったよ」
特に、生産職が複数集まることによる利点やスキルに対する知見という意味だと彼女達から得たものは多い。
「クロウさん。お疲れ様でしたー!」
「ああ、ゴン太郎も頑張れよ!」
「はい! あ、道化騎士さん、さっきの件なんですけど……」
ゴン太郎とも軽く別れの挨拶を交わして。
「よし、行くか」
「ええ、行きましょう」
レレイリッヒ達を後に俺達は先に進んだ。
ちらりと振りむくと彼女は笑い声をあげ激を飛ばしながら、資料らしきものを取り出しまとめていた。
行動力に満ち溢れた生産職が大半を占める彼女たちはりんご飴のような定住派と異なり、危険を顧みず野を超え山を越え、好奇心が赴くままに進んでいくのだろう。
たった2時間ほどの短い間であったがなかなかに濃い時間を過ごした気がする。
ネビュラで活動するのであれば、彼女達とはまたどこかで会う機会もあるはずだ。
歩みを進めれば新しい土地に来たのだと少しずつ実感が伴ってくる。
……思えば随分と遠回りをしたものだ。
「来たぞ、ダンジョン都市」
ゲームを始めて10日目。
ゲーム内では18日目を迎えた今日。
俺たちはようやく2つ目の街にたどり着いた。




