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第5話 ともがらとなりて

□バイズ街道 魔車内 クロウ・ホーク


 俺達は魔車に同伴させてもらい、レレイリッヒ達とともにそのまま迷宮都市ネビュラへと移動をしていた。


「すごいわ! ふかふかよ! それに揺れるのかと思ったけれど、とても快適なのね!」


「そうだろうそうだろう、ただのクッションじゃないからね! <アルカナ>の羊毛を素材に生産して生み出した特製クッションだからね。そんじょそこらの物と比べてもらったら困るよ!」


「魔車、というか帆馬車か? こういうの始めて乗ったけど普通に楽しいな」


「そうだろうそうだろう! なかなか乗る機会なんてないものね、何を隠そう私たちがこんな遠くまで遠征してたのも楽しいからなんだよね! この組み立て式キャビンの耐久テストと王都ルセスへの荷物の輸送依頼もついでに受けてもいたんだけどそんなのは些細なことさ!」


 帆馬車というものに始めて乗ったが、思っていたよりも楽しめている。


 というか旅をしている感じがして想像以上にテンションが上がってくるなこれ。


「船とかもいいんじゃないか? たぶんできるよな」


「船か、いいねえ! 技術的にはもうあるんだろうけど、私たちだけのオリジナルの組み立て式船なんてワクワクしてくるじゃあないか! 船の作り方について勉強しておくとしよう!」


 俺が思わずそう零すと、レレイリッヒもそれはいいと賛成してくる。

 思ったよりも彼女との会話は弾む。

 最初のファーストコンタクトがあんな形であったのが残念でならないが、彼女の言葉を借りるなら些細なことだろう。


「国の未来をかけたPKと自警団によるクラン戦なんて起きてたんですね、全く知りませんでした……オレ、自分が恥ずかしいです!」


 今までずっと無言を保っていたゴン太郎は突然そう叫んだ。


「気にするなよー。結構前からネビュラに移動をしてたんだろ? しょうがないって」


「そうだぞ! もしネビュラに来てなかったら私たちとも出会えてなかったんだ! 寂しいことを言わないでくれ!」


 簡単に近況を共有しあっていたのだが、ゴン太郎にとってはクラン戦に参加できなかったのが大変悔しいものであったらしい。


 実態としては、国の未来なんて一切かけていないマッチポンプではあったわけだが……


 ま、知らぬが仏か。


「あの後、すぐにネビュラに移動したのか?」


 クラン戦のことを知らないところを見るに、あの後すぐにゴン太郎は他の街に移動していたのだろう。


 気に病んで欲しくもないので、俺は話題を変えることにする。


「そ、そうですね。クロウさんから頂いた物資で装備を一新したらそのままネビュラに移動しました!」


「思い切りが良いというか、前も思ったが即断即決だな」


 判断が速い。


「……ん?」


「ぐぎゃあお!」


 雑談で時間を潰していると、《気配感知》でモンスターらしき影を捉えた。


 外からもパウルの警戒の声がきこえてくる。


「パウル? おっと、ちょっと失礼しますね」


 ゴン太郎も気づいたようで、御者台の方に移動していく。


「道化騎士さん、ちょっといいですか?」


 そして、ゴン太郎はこの魔車の御者をしているプレイヤーに話しかけた。

 俺も取り付けてある簡易的な窓から外の様子を伺うと、一匹の狼が距離を取りながらも俺達に並走する形で駆けているのが見える。


「ん、モンスターか? あ、ほんとだわ。ゴン太郎は《気配感知》の感覚が鋭いなぁ」


「パウルのおかげですよ。並走してますが……あれは<ナイトウルフ>ですね。《集中(コンセントレーション)》、《ハイチャージ》、《チャージアロー》」


 ゴン太郎は弓を取りそれを構えスキルを発動させ……そのまま放つ。


 スキルによる命中補正に加えて、チャージ系スキルで火力が上昇したその一撃は、<ナイトウルフ>のすぐ側の地面に直撃し狼を簡単に吹き飛ばす。


「グガアアァッ!?」


 それに怯んだのか狼は帆馬車から離れる形で距離を取り、そのまま姿を消していった。


「おお、さすがだな。無視して問題ない感じか?」


「問題ないですよ。偵察の個体だったので追い払っておきました。仕留めると仲間意識が強いので、今度は群れで報復に来るかもしれないですしね。それにしても、昼頃にこんなところで活動してるのは珍しいですね。毛色から考えてネビュラ原産の個体ですよ」


「モコ平野で遭遇するのとは違うんだっけか?」


「ネビュラの<ナイトウルフ>は山暮らしですからね。というより、ネビュラが基本の生息区域でモコ平野やここら辺に出てくるのは縄張り争いに負けて追いやられた弱い個体、という話です。色が抜けるのでそれで判断できるみたいですよ」


「勉強熱心だなぁ……あ、あー、あれじゃね? 星天の日だっけか。あれが近づいてるからじゃねえか?」


「確かに、そうかもしれませんね。戻ったらレレイさんからそれに関して話があるって言ってましたね」


「そうそう。ま、ありがとよ! そんじゃ行くぞデルタ号! 駆けろ、光より早く! 嘶け! 雷鳴より豪快に!」


「ぶるるるひひぃいいん!」


「スピードの出しすぎは気を付けてくださいね。また何かあれば呼んでください!」


「ひゃっふーーー!」


「聞いてないや……」


 そうして、ゴン太郎は戻ってくる。


「もしかして、ゴン太郎がレレイリッヒ達に協力してるのは報酬というよりも経験が目的か?」


「はい! 将来護衛依頼を受けるかもしれないのでむやみやたらにモンスターを倒さず、どれだけ安全に効率的に依頼主を守り目的を達成するか。レベル上げも大事ですけど、こういう知識や経験の方が後々生きてくると思ったんです!」


 ゴン太郎にとって、報酬を貰いながら護衛の経験も積めるこの場はかなり良い環境なのだろう。


「この人たち相手なら気兼ねなく失敗できるのもありますね。レレイさん、もし俺がやられた時は諦めて死んでください」


 そう言うとゴン太郎はすん、と据わった目になった。

 顔は笑っているのに目が一切笑っていない。


「笑顔でなんてことを言うんだい!」


 レレイリッヒは思わずといったように悲鳴を上げた。

 気持ちはわかる。

 ゴン太郎のように普段快活としているのにいきなりシームレスに目が死んでいくのは普通に恐怖映像だろう。


「はは、冗談ですよ……」


「明らかに本気の声のトーンだったよね!?」


(前よりも少しすれてないかしら?)


(ま、馴染んでるといえるかもしれないな)


 最初にゴン太郎と合ったときはまじめな少年といった印象を受けたが、この短期間に一体何があったのだろうか。


「あー、えーと……ゴン太郎のレベル上げを止めてしまってる部分があるのは申し訳ないと思っているよ!」


「いえ、平日ログイン不定期なオレのことをちゃんと考えてくれますし、なんだかんだ楽しんでるので。報酬も貰っていますしこちらこそって感じです」


 そう言ってゴン太郎とレレイリッヒは軽く笑い合う。

 彼らなりの信頼関係のようなものがあるのだろう。

 心の底から嫌いなのであれば、そもそも一緒に活動していないのだ。


「さてと、そろそろ本題に入ろうかな。ユティナ。今から君にいくつか質問したいことがあるんだ。不快に思ったらすぐに言ってくれ」


 そしてレレイリッヒは、メモ帳を取り出した。


「ええ、どうぞ。遠慮はいらないわ」


 ユティナも準備万端のようだ。


「それでは遠慮なく。えーと……好きな食べ物は?」


「今までで1番美味しいと思ったのは高級蜂蜜で作ったクッキーね。甘いものは好きよ」


「ほうほう、グルメだね。次に戦いは好きかな?」


「面白いわよね。読み合い? っていうのかしら。嫌いではないわ」


 そこからは、レレイリッヒは同じように質問を繰り返していく。


 好きな天気はとレレイリッヒが聞けば、ユティナは晴れと答える。


 好きな数字はなにかと聞かれれば、2と答える。


 好きな色は何かと聞かれれば、黒色とユティナは答えていく。


 俺としてもタメになる情報が多い、というよりここまで彼女について深堀りする機会がなかったというべきか。


 思い返せば《念話》でお互いの考えについて共有しながら行動しているので、落ち着いて話し合うといった機会が少なかったかもしれない。


「いやぁ、こんな質問ばっかでごめんね! でもでも、会話できる<アルカナ>の子とここまで話せるのが初めてだから聞きたいことがたくさんあってね、もう駄目だね!」


「私も新鮮で楽しかったわ。ありがとね」


「ぐは、いい子過ぎる!?」


 そして、レレイリッヒはダメージを受けたようにのけぞった。


「もっと変な質問が飛び出るのかと思ったが、案外普通だな」


「レレイさんもさすがに常時あんな感じではないですからね、7割ぐらいは普通の人ですよ。ほい!」


「ゴン太郎視点3割は普通ではないんだな……」


 ゴン太郎は窓からパウルに向けて餌のようなものを投げ、パウルは器用にもパクりと空中で食べていく。


 なにそれ面白そう。


「そ、それならよかったよ。次で最後の質問だ」


 レレイリッヒは再度質問の態勢に入る、がこれまでとは雰囲気が違う。


 まるで、これから世界の禁忌に触れるかのような面持ちだ。

 

 彼女は覚悟を決めたように、真剣な表情で。

 しかし、プレッシャーを与えないような静かな微笑みを浮かべながら。


 ユティナに向けて最後の質問を投げかけた。


「君たち<アルカナ>は何を思い、何を考え私たちと共にいてくれるんだい?」


「それは……!」


「……」


 ゴン太郎が思わずといったように声を上げる。

 それは、確かに言葉を話せる<アルカナ>がいて始めて確認することができる質問だった。


 しかし、笑顔ながらにどこか険しい顔をしているレレイリッヒとは対照にユティナはきょとんとした顔をしている。


 何を聞かれているのかわからないとでも言いたげな表情だ。


「えーと、確か『よきともがらとなれ』だったかしら?」


「……それだけかな?」


 再度確認するようにユティナに話しかけた。


「それだけよ? ……ああ、そういうことね。無理やり命令されているとか、強引に協力させられてるとか考えていたのかしら?」


 ユティナは質問の意図を理解したのか、思わずと言ったようにそう返した。


「うっ、それは……」


「……ふふ」


 そして。






「レレイリッヒ。あなた、優しい人なのね」






 ユティナは穏やかに、レレイリッヒに微笑みかけ。


「う、ぐ、ぐわあああああ!?」


 レレイリッヒは悲鳴を上げながらその場に崩れ落ちた。


 いや、なんでだよ……


「クロウ! この子は天使か何かなのか!? お姉さんちょっと涙出てきそうなんだけど!」


「むっ。私は悪魔よ。失礼しちゃうわ」


「だとさ」


「ごめんよおおお! でも、聖母のごとき微笑みでそんなこと言われたら浄化されちゃう! 美しすぎる! 私の穢れた心が綺麗になっちゃうよぉ」


 レレイリッヒはくねくね体を揺らしながらそう叫んだ。


 やばいなこの動き……軟体動物かな?


「綺麗になるならいいことじゃないですか……うわぁ、またおかしな動きしてる」


「それ面白いわね。もっと踊ってちょうだい」


「よろこんでぇ!」


 レレイリッヒのダンス? を見てゴン太郎は顔を引きつらせ、ユティナは小悪魔のようにレレイリッヒにもっと躍って欲しいとお願いする。


「ユティナさんや。邪悪な笑みがこぼれてますよ」


「あら、ごめんなさいね」


 思わずそう指摘すると、彼女はイタズラがバレてしまったかのような顔を浮かべ。


「……ふふっ。あはは!」


 小さく笑いを溢した。

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[気になる点] アルカナの意思にそぐわずとも刷り込みの如く誕生するなり共にあるよう設計されているなら、確かに呪いとも取れますか。 会話によるコミュニケーション可能なアルカナが珍しいのは、プレイヤーとペ…
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